天狐様のお袋の味

2章:初恋のおにぎり

18話:涙がでる美味しさ

おにぎりを受け取った牡丹ちゃんはどこか懐かしそうにおにぎりを見つめる。


「た、食べてもいい？」
「勿論だよ！　その為に作ったんだからね！」


僕がそういうと彼女は嬉しそうにそして恐る恐るおにぎりを皿からとり、一口食べた。
そんなに大事そうに食べられると僕までドキドキしてくる。
大したものじゃないのに味が大丈夫か不安だ。
僕の好みの塩加減だけど大丈夫だろうか？
早く感想を聞いて楽になりたい。
その気持ちから「どうかな？」と牡丹ちゃんに問いかける。
すると牡丹ちゃんは「うん…。　うん…！」と頷く。


「え、牡丹ちゃん！？」


その瞳には涙が溜まっていて今にも流れ落ちそうだった。


「美味しい…。　美味しいよ！　あの時と同じ味だぁ…！」


そういいながら涙を隠すように一口、また一口とおにぎりを食べる。
その様子に作ってよかったと心の底から思えた。
僕にとっては大したことなおにぎりでも彼女にとったら思い出の味で、そう考えるとなんだかただのおにぎりに思えないのが不思議だ。
そんな彼女を見つめていると、キッチンの入り口から天狐様の声が聞こえる。


「おにぎり作るのに時間かかりすぎ…じゃって…牡丹泣いとるんか！？　もしかして新汰が泣かせたのか！？」


現状をみて何か勘違いをしているのか酷く驚いている天狐様に僕は思いっきり首を振る。
僕が無実だ！　そう思っていても咄嗟のことで言葉がでない。
だからこそ首を思いっきり振ることで意思表示をした。
そんな僕の様子をみて慌てたように牡丹ちゃんが口を開く。


「ひぃふぁふんふぇす！　あらふぁくんふぁわるくないふぇす！！」
「何言っとるか全然わからん！　牡丹、兎に角飲み込んでから話せ！」


そういうと天狐様は牡丹ちゃんの手からおにぎりの入った皿を奪い、また片方の手で牡丹ちゃんの腕を引っ張りながら元の場所へと移動する。
僕も慌てて後ろからついて行く。