天狐様のお袋の味

立花立花

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1章:思い出の筑前煮

9話:思い出の筑前煮

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数十分後汁気が飛びいい香りがあたりを包み込む。

「で、できた!」
「ん~!うまそうな匂いじゃ!」

落とし蓋にしていたアルミホイルをとるとそこにはホカホカの美味しそうな筑前煮が出来上がっていた。

「あとは~」

鼻歌を奏でながら冷蔵庫を開ける天狐様。

「え?もう完成なんじゃないの?」
「敬一郎は凝り性じゃからな。 最後にひと手間かけるんじゃ」

そういうと冷蔵庫からレモン汁を取り出した。
僕は一度も使ったことがない。
なるべく父さんが使っていた調味料と同じものを買っている。
そうすればいつかは父さんと同じものが作れるんじゃないかと思って…。

「敬一郎はな。最後にこの黄色い入れ物をちょちょっとかけたんじゃ」

そう言いながらレモン汁を少量かける。
少しかき混ぜたあと皿に盛り、机に置かれる。

「これをかけるとの?酸味が加わって上手くなるんじゃよ!まぁ全部敬一郎の教えだがな」

天狐様に背中を押されながらダイニングチェアに座り、目の前に筑前煮が置かれる。

「ほれ食ってみな!」

腕組みした自信満々の天狐様に首で合図されるまま、僕は筑前煮を箸でとり口に入れた。
口に入れた瞬間、目の前に父さんの姿が現れる。
出汁の染みた優しい味、サッパリしたレモンの香りが鼻を通る。
これだ。
これは父さんの筑前煮の味だ。

僕の思い出の味。

「はは!泣くほど美味いか!」

天狐様がどんな表情で言っているか分からない。
涙で歪んで分からないけど、きっと優しい顔しているんだろう。

だってこんなに優しい味を教えてくれたんだから。

次から次へと口に筑前煮を運ぶ。
いろんな感情が押し寄せる。
皿が空っぽになる頃、特徴的な電気音が鳴る。

「丁度ご飯もたけたようだし、おかわりでもどうじゃ?」
「いただぎまず!」
「了解じゃ!」

用意しておいた茶碗にご飯をすくいに行く彼女の後姿は、まるで父さんのようだった。
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