天狐様のお袋の味

立花立花

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序章:天狐様の目覚め

1話:一人になった僕

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社新汰やしろあらた、それが僕の名前。
十四歳で天涯孤独になった中学二年生の男。
こう聞くと不幸に思われるかもしれない。
まあ、不幸に変わりないけど。

二ヶ月前病気の父が悪化してそのまま帰らぬ人となり、母親は僕を産むために命を落とした。だから母親の顔は写真でしかしらないし話したことも無い。
そんな僕の世界は信仰深い父親しかいなかった。父は凄く優しくてお人よし。僕が産まれてからは僕との時間を一番に考えてくれた。
仕事だって定時であがれる公務員。本当に出来た父だと思うし、僕も父が大好きだった。

でも父は僕の傍から居なくなってしまった。

大好きだった父の料理は二度と食べられないし、大好きだった父との神社清掃も僕一人で行っている。

父の仕事の中に神社の維持があった。
ほぼボランティアに近い活動。たまたま家から一番近かった父に白羽の矢がたってしまったのだ。
その神社が僕の家の隣にある。
お世辞にも大きいとは言えない小さな神社。父は僕と一緒に掃除して、お供え物を置いていた。
それは僕も大好きな父の手料理の筑前煮。
じじ臭いと言われようと僕は大好物だった。僕のお袋の味。

だけど僕はもう二度と食べれない。

料理は父の担当だった。
だから父がいない今、僕のご飯はスーパーで買えるお惣菜ばかり。偶に近所に住んでいる同級生が作り過ぎた料理を持ってきてくれるけど、それぐらいしか手料理は食べなくなった。

そんな僕でも神社におくお供え物の筑前煮だけは、頑張って作っている。
お世辞にも上手とは言えない料理。
きっといや絶対不味いと思う。1回味見した時は死ぬかと思った。でも何がダメなのか調べてもよく分からないし、僕に出来る精一杯の料理。
きっと神様も許してくれるはず。

「いただきます」

今日も今日とてスーパーのお惣菜。
今日は安売りしてた天ぷらとご飯。あとインスタントのお味噌汁。これが今日の晩御飯。

お惣菜だから不味くはないし、どちらかと言うと美味しい。けど、なんだから虚しいのはなんでだろう。

また明日も作っていおいたお供え用の筑前煮を持っていこう。
そう思って、僕は食事を終えて風呂に入り眠りにつく。

明日もきっと変わらない。

僕の生活は変わらない。

そう思っていた。
明日がくるまでは…。

「…おやすみなさい。父さん、母さん」
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