38 / 45
第37笑『100%狂喜』2/2
しおりを挟む『人間動物園』
「ねえ、あなた、ここはどこかしら?」
「ここはね、人間動物園。人間の生態が見られるんだよ!」
「あっアレは何かしら?」
「あれはねえ……トイレを奪い合う人間の姿さ。ホント醜いねえ」
「ふふふ……そうねえ。あんな必死になって」
そう、そこにはあの時見た『トイレ争奪戦』の様子が見事に再現されていた。
一昔前のコーヒーのCMで似たようなもんがあったかと思うけど、それとおんなじ。
人間の社会的な生態をサーカスのメンバーが各々演じて、それを『来園者』という形で(芸人が取り憑いた)大将とオツボネ様のカップルが絶妙の掛け合いで紹介していく。
そして、動物園を一通り見終わった大将は急にナレーションを始めた。
『ミュージック、スタートっ!』
指をパチンと鳴らした。
そしてかかってきたのはあの曲……でもアカペラだ……そして歌っているのは……。
「パフォーマーっ!」
驚く私をよそに、パフォーマーは一気に歌い上げ、かつきっちり踊っている。
そこに人間動物園で再現演技をしていたサーカスの面々が踊りに合流、ステージの上で宝塚よろしくミュージカルのクライマックスチックな雰囲気をかもし出す。
『ぬーっすんだ、ばーいっくで、はーしりっだす♪』
そしてここでバライティお決まりの『っぽい』ナレーションが入ってくる。勤めるのはもちろんこの人、大将(取り憑いた芸人)。
『ゆきーさっきも、わかーらぬ、まま♪』
「さーあ、我々は笑いを追い求めたあーその先に破滅が待っていようとも」
観客……笑いの世界の住人達を鼓舞するような、笑いの世界に堕ちた住人達に開き直っていこうぜ! という違う方向の勇気を与えるナレーションだ。
『くらーい、よるのとばりーの、なっかっでえーーーええ♪』
「それでもなくならない……笑いに対するあくなき探求はとどまるところを知らない」
『だーれにも、しばらーれたーくないとっ♪』
「だから我々は探求し続ける。果てしなく、果て無き旅を続ける」
『にげーこんだっ♪』『このよーるに♪』
「今はまだ、旅の途中、果て無き旅の途中なのである」
『じゆうーに、なれーた、きがーしたっ♪』『じゅうごのよーるーー♪』
「それでも我々は歩みを止めない! なぜなら我々はあくなき笑いの求道者だからだっ!」
「……うへえ」
私はげんなりしていた。
それも当然だろう。
だって。
「……なんや、この茶番は?」
すぐさま裏ピエロ君が切れのある突っ込みを入れる。
いかにもと言う感じの王道すぎて王道すぎるがゆえのウソ臭さを全身に浴びて私達は果てしない寒気を覚えた。
もう、ほんと、風引くよっ! レベルの。
ところがすぐさま空気が変わる。
「「さあ、笑いに堕ちた俺達はこのまま行くしかないんだああーー!」」
大将+芸人の威勢のいい掛け声が響く。
なんかもうここまで来ると呆れる。
「これって完全な開き直りよね」
呟く私をよそに唐突に大将+芸人の指がパチンと鳴らされる。
「「ミュージック、スクラアッチっーー!」」
そして流れた曲は有名なあの曲……の替え歌。
ある意味、この場にぴったりの曲。
『そうさっ! 100パーセント狂喜いいーーー♪』
『もうやりきるしーか、なーいさあーー♪』
『はいっ、ハイッ』
そしてすぐさま会場に響く手拍子、大合唱。
踊り狂い出す観客達。
会場を包む一体感。
もはやこの『場』には『観客』は存在しない。
東京ドームほどある会場が一転、ここが室内だということも疑われるような狂喜と熱狂の渦、リオのサンバカーニバルのような情景に変容してしまった。
それを芸人達サーカスの面々は見事にやってのけてしまった。
「「どうだっ! 見ろっ! これが『狂喜』だっ!」」
リオにある両手を広げた巨大なキリスト像よろしく狂喜の中心で勝ち誇ったように両手を広げて宣言する大将+芸人。
「なに……この光景……」
この狂喜の沙汰を舞台袖から見ていた私はあまりの状況のヒドさに思考が追いついていなかった。
「これ……なに? なに、こいつら……サクラ? それとも仕込み? もしかしてわたしたち化かされてるの? ねえ……おしえてよお……わかんないよおお…………いみわかっんなーい! ……わかんないおおおお……」
「エヘへへへ……アヘヘヘへ……」
気が付けば私は口からよだれをだらだらと垂らし、虚ろな目で今にも失禁しそうかというほどの盛大なアへ顔をキメていた。
そして。
「目をさませっ!」
突然私の頬をビンタする音……意識が明瞭になっていく。
「なにやってんだ! しっかりしろ! リーダー!」
怒号が聞こえたと思えば、私の目の前にめずらしく真剣な眼差しで私を見つめる裏ピエロ君の姿があった。
そして彼の吸い込まれるような瞳を凝視していたら、私の意識は果て無き深淵の中へと落ちていった。
そこで見たのは芸人の記憶。
なぜ芸人の精神は歪んだのか?!
……芸人が笑いの場に堕ちたきっかけの事件を私は体験する。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
僕が見た怪物たち1997-2018
サトウ・レン
ホラー
初めて先生と会ったのは、1997年の秋頃のことで、僕は田舎の寂れた村に住む少年だった。
怪物を探す先生と、行動を共にしてきた僕が見てきた世界はどこまでも――。
※作品内の一部エピソードは元々「死を招く写真の話」「或るホラー作家の死」「二流には分からない」として他のサイトに載せていたものを、大幅にリライトしたものになります。
〈参考〉
「廃屋等の取り壊しに係る積極的な行政の関与」
https://www.soumu.go.jp/jitidai/image/pdf/2-160-16hann.pdf
これ友達から聞いた話なんだけど──
家紋武範
ホラー
オムニバスホラー短編集です。ゾッとする話、意味怖、人怖などの詰め合わせ。
読みやすいように千文字以下を目指しておりますが、たまに長いのがあるかもしれません。
(*^^*)
タイトルは雰囲気です。誰かから聞いた話ではありません。私の作ったフィクションとなってます。たまにファンタジーものや、中世ものもあります。
瞼を捲る者
顎(あご)
ホラー
「先生は夜ベッドに入る前の自分と、朝目覚めてベッドから降りる自分が同一人物だと証明出来るのですか?」
クリニックにやって来た彼女は、そう言って頑なに眠ることを拒んでいた。
精神科医の私は、彼女を診察する中で、奇妙な理論を耳にすることになる。
夜通しアンアン
戸影絵麻
ホラー
ある日、僕の前に忽然と姿を現した謎の美少女、アンアン。魔界から家出してきた王女と名乗るその少女は、強引に僕の家に住みついてしまう。アンアンを我が物にせんと、次から次へと現れる悪魔たちに、町は大混乱。僕は、ご先祖様から授かったなけなしの”超能力”で、アンアンとともに魔界の貴族たちからの侵略に立ち向かうのだったが…。
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
Dark Night Princess
べるんご
ホラー
古より、闇の隣人は常に在る
かつての神話、現代の都市伝説、彼らは時に人々へ牙をむき、時には人々によって滅ぶ
突如現れた怪異、鬼によって瀕死の重傷を負わされた少女は、ふらりと現れた美しい吸血鬼によって救われた末に、治癒不能な傷の苦しみから解放され、同じ吸血鬼として蘇生する
ヒトであったころの繋がりを全て失い、怪異の世界で生きることとなった少女は、その未知の世界に何を見るのか
現代を舞台に繰り広げられる、吸血鬼や人狼を始めとする、古今東西様々な怪異と人間の恐ろしく、血生臭くも美しい物語
ホラー大賞エントリー作品です
黒庭 ~閉ざされた真実~
五十嵐 昌人
ホラー
未解決の迷宮入りした”ある事件”に対して異常な執着を示した若い刑事が
担当を願い出たまでは良かったが調べていく内に、とんでもない事実が
発覚して危険に身を投じる事となる。閉ざされた真実とは一体何なのか?
事件は無事に解決できるのか!?
そこも見所となっておりますので完結までお付き合い下さる事を願って
おります。ヒリヒリ感を増していく展開と毒素を含む内容となっており
ますので苦手な方は御遠慮ください。
2022年12月1~31日までTwitterと連動企画します!
詳しくは近況ボードにて確認下さい。
皆様、今年も後1ヶ月と少しですが宜しくお願いします!
お気に入り登録&感想(短くてもOKです)も、お待ちしております♪
*毎年(節目)、読み返してみると好きなキャラが変わったり、感じ方
や受け取り方も違ってくる内容となっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる