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第33笑『眠り王子の黄昏』
しおりを挟む面会謝絶の札が解かれた病室、ピエロ君と病室で無言の対面をする私。
ピエロ君の両親の話では、いまだ意識が戻らず昏睡状態のまま、回復の可能性は薄いのだという。
「なん……でよ」
思わず嗚咽が漏れる。
抑えようとしてもあふれ出てくる。
ピエロ君のいない世界がさびしい。
ピエロ君のいない世界がくやしい。
ピエロ君のいない世界がかなしい。
ピエロ君のいない世界なんて。
「ほろんでしまえばいい……そうだろ? ハニー」
「……っ!!」
振り向くとそこには、夕日を全身に浴びて、まるで血の鎧を纏った地獄の悪鬼の如き裏ピエロ君がイタズラっぽく微笑んでいた。
「あんたっ……どうして、ここに?」
私は戸惑いを隠せなかった。
コイツとは『あの空間』でやり取りをしたっきりだったんだ。
あれから一切姿を見せなかったのになんでここにきて急に出てきた?
いや、出てこれた?
「そう、つれないこと言うなよ。ハニー」
裏ピエロ君はそんな私の疑念を一切無視して、軽々しい口調で話を続けた。
「俺はコイツの影みたいなもんさっ」
ピエロ君を指差して。
「だから基本コイツの周りにしか出現できないの」
「それに今回出てきたのはねえ、ハニーと話そうと思って」
「アイツの本当を見てもコイツのことを、いや『俺達』のことを慕うハニーの本当を知りたいと思ってさあ」
裏ピエロ君はベットで寝ているピエロ君を指差した後、大げさに両手で自分の体とピエロ君の体を何度も指差しながら私の回答を待っている。
「私は……最初はなんか変な子だと思っていたわ」
私はゆっくりと、しかししっかりと言葉を紡いでいく。
これからすることの決意を踏み固めていくように。
「でも途中、嫌悪感もあったわ。ただし、一瞬だけ。『何言ってんのコイツ?』見たいな感じで。丁度最初にピエロ君がスキンシップだと言って先生を引かせていたあたりかな」
「それからもピエロ君は激しいイジりにも、常に笑顔を絶やさずにこなしていて、スゴイ、この人って興味を持ったわ」
「そして昔私を笑わせてくれた男の子がピエロ君だと知って、とてもあったかい気持ちになったわ。もしかしてこの時もう私はピエロ君に恋していたのかもね」
そうだ、小さい頃、父さんを失って泣きはらしていた私の傍に来て常にへんな事をして私を笑わせようとしていた男の子がいた。
でも全然笑いが取れなくて。
そしたらある日、クラスのガキ大将の男の子にいじめられている姿を偶然、私が見てしまったことがあった。
その姿があまりにも情けなくて、おもわず私の笑いの本能とでも言うべき心の奥底を刺激してしまった。
思わず笑う私にその男の子はいじめられている最中だと言うのににっこりと笑うと。
全力でいじられ役を続けた。
一方、私は父さんを無くしたきっかけの『人をいじめて創る笑い』に思わず笑ってしまったことへの罪悪感から、その後一切笑わなくなってしまったのだけれど。
だから、あの時が、父さんが消えてから私が笑った唯一の瞬間だったのだ。
「それでもあなた達の『闇』を知って私は決意したの」
ベットで眠る彼と私の前に立つ彼を両手でそれぞれ指差して。
「この『闇』にとことん付き合ってあげようとね」
これは本当は同情なのかもしれない。
でも誰に何と言われようとも私の想いは変わらない。
「たとえ、世界中の誰もがあなた達のことを忘れたとしても私は覚えているわ」
そして告げる。
「だから私はあなた達の味方よ」
今まで黙って私の話を最後まで聞いていた裏ピエロ君は、私のその言葉を聞いた瞬間、我慢ならんっ! という風体で叫んだ。
「表のアイツは笑いに純粋過ぎんだよっ! ……裏の俺がドン引きするくらいになあっ!」
「お前はそれを知ってもなお、アイツの復讐を実行するのか?」
私は無言で頷く。
答えなど決まっている。
私はピエロ君の復讐を実行する。
決意はとうに固まっている。
そして今日、裏ピエロ君に問いただされてピエロ君の本当を目の当たりにしてもなお決意は揺らがないと改めて感じることが出来た。
もう、ためらう必要も容赦する必要も無い。
復讐を実行するだけだ。
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