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第25笑『笑いの消えた世界』1/3
しおりを挟むあの日、私があの空間でピエロマスターを消した時から世界はおかしくなった。
正確には『笑い』が消えた世界になった。
朝、お母さんが私を起こしに来る。
いつもは、元気いっぱいに笑顔で起こしに来るのに、声だけは大きく、ただし能面のような顔で「起きなさい」と決まったセリフを吐き出す。
まるでロボットのように。
朝食をとっている間も笑いは一切無い。
能面を被ったロボットが並んで作業的な食事をしている光景だ。
たまらず私はテレビのチャンネルを回す。
だけど、いつも朝やっているバラエティ番組は無く、流れるのは淡々とただ事実を流すだけのニュース番組ばかり。
『笑い』が消えたこの世界、つまりは『感情』も消えてしまった。
感情の起伏の無い世界……そこにいる人々は死人のようだ。
人々はただひたすら淡々と、ロボットのように毎日をこなしていく。
喜びも無ければ悲しみも無い。
ただただ安息だけが支配する世界。
それはある意味、『天国』……理想の世界なのかもしれない。
声がする。
「こんな世界を生きていて楽しいか?」
私は返す。
「いいのよ、私が選んだ世界だもの」
そして続ける。
「『笑い』なんてあの気持ちの悪い感覚に支配されて生きるくらいなら……死んだ方がマシ! いや、笑いの存在そのものが許せなかった。もうそんなモノは必要ないと思ったから、私は『笑いを殺した』の。そしてこの世界を選んだ……後悔は無いわ」
そう、私が望んだ世界。
笑いのない世界。
そこで私はなにも感じず、ひたすらルーチンワークをこなすがごとく生活している。
感情はもちろんない、沸き起こらない。
死んだように生きるとはこう言うことを言うのだろう。
なんの気力も沸かない、ひたすら無気力が続いていく……。
「いいか、笑いのない世界ってのは、感情がない、心がない世界ってことだ。お前はそれを望んだのか?」
謎の声はさらにしつこく続ける。
「それでいいのか?」
重ねて問うて来る。
「いいか、笑いってのは『喜怒哀楽』の『喜』。最も重要な要素だ。なんで人は笑いを求めるのだと思う? 感情があるから……そうしないと安定しないからだ。笑いを求めたくなければ、感情を無くすしかない」
私は既視感を覚えた。そう、どこかお父さんに似た声……。
だが、謎の声はかなり怒っているのか、急に大声でまくし立てた。
「いいか! お前に対して怒ってるんだぞ!」
久しぶりにお父さんに怒られた。
何故かそんな心地よさがあった。
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