上 下
18 / 45

第17笑『ピエロ君のおしおき部屋』

しおりを挟む
「あああああああああ」

 ピエロ君が居なくなった後、教室の隅で頭を抱える私。



 あの様々なビジョンを通して見る度、私はピエロ君がわからなくなってきた。

 最初はなんか気になる存在としてある種の好意を抱いていたのかもしれないが、好意、同情、疑念……告白されてから様々な感情が私の中で渦巻いている。

 なんか病んできた……。





 そんな時、私は一つのビジョンを見た。


 といっても視覚的ビジョンでは無く、ラジオ番組のような音声だけの曖昧なもの……ピエロ君と大将が一緒に会話しているような感じの。


「あれ……誰か来たな……マスターの意識に溶け込んできたのか?」

 ピエロ君の声が聞こえる。

「あれっ……ここは教会の懺悔室か」

 大将の声が聞こえ、ピエロ君が小声で「そう思ってるならまあいいか」呟いた後。

「そうです。真っ暗ですがここは懺悔室、そして僕が牧師です。なんなりと」

 ピエロ君が促し、大将はすぐさま懺悔を始める。

 クラスでのことなんだけど……と話し始め。

「オレだって場を盛り上げるのに苦労しているんだっ!」

 いきなり大声でまくし立てるように話し始める。

「自分でも下手だとは理解している……でも、それでもやるしかないんだよお……」

 大将は恐怖に怯えているみたいに。

「でも、マスターが……ピエロマスターが見てんだよお……」

 震えるような声で話す。

「あの目を見ると、何もいえなくなる。全身の力を抜かれるというか、蛇に睨まれた蛙になるっつーか……場に笑いをもたらし続けるロボットにされてしまう」

「それは大変ですね」

 いたって冷静なピエロ君の声。

 まるでそのことをあらかじめ理解していたかのように淡々と話す。

「そして今日もオレは……ヒトをいじめて笑いを取っていく……」

「でも、これしかないんだ……こうするしかないんだよ。そうしないとオレも、クラスのみんなもアイツに、ピエロマスターに殺されちまう。わかるんだ! ヤツの目を見ていると、そう言ってるようにしかみえないんだよおおおーーー!」

 とうとう大将は泣き崩れ、悲痛な声を上げて叫び続けた。

 ピエロ君はそっと。

「ここでのことは、目が覚めたら忘れてしまいます。そうです、この空間で今は泣いておきなさい。目が覚めたら地獄が待っているんですから……」

 その言葉に反応したのか大将は号泣し続けた。

 そして大将の声が消え(この空間から去った、目が覚めたんだろう)、何も無い空間にピエロ君の独り言が響く。

「大変だと思う。責任感の強いあなたのことだ。このクラスを背負っているかのように思うんだろう」

 でも「ただし」と付け加えて。



「でもあなたを許すつもりは無いよ」



 殺意さえこもった粘着質な呪言を放った。


 そして、本当におかしくなったのだろうか……さも愉快そうに大声で笑い出し。

「まだ気付かないのか……」

 せせら笑いさえ響かせながら大将にうちあける。

「僕だよ………」と。

「あ……」瞬間、呆気にとられたのか間の抜けた小さな声が響いたが、すぐにそれは怒気をはらんだものへと変質する。

「てめえ、なにやってんだよっ!」

 だが、ピエロ君は動じない。それどころかさっきのせせら笑いを引きずってなお有り余る笑い声を必死に抑えながら自信たっぷりの演説を展開。

「いいよ……いつやめてもいいんだよ。あなた一人であの『場』を治め続けられるならね」

 得意気に言ってのける。

「くそう……」

 大将はたいそう悔しそうに歯噛み(正にそんな情景が見えるかのように)するも、どうしようもない問題に直面した政治家のように潔くピエロ君に謝罪する。

「すまなかった……これからもよろしく頼む」

「だよねえー」

 ヒャーッハッハッハッーと闇の中一面にピエロ君の感極まったような壊れた笑い声が響く中、急に視界が開ける。

 そこはまぶしい光に包まれた天国ともいえる場所で、天空に浮いた巨大な十字架を地面にして大将とピエロ君二人が立っている。

 さらにそんな二人をさも愉快な面持ちでさらに上空から神の如く見つめるピエロマスターがいる。

 その中で大将はピエロマスターの姿を認識したのか、立ったままひざをガクガクとゆらし、恐怖を体現していた。





「ふう」

 ビジョンを見終えて、私はため息をつく。

 本当にひどい『夢』だと思う。

 思わず笑っちゃうくらいに。

 それに、このピエロ君は本当にピエロ君なのだろうか?

 私にはそれが信じられない。

「もしかして別のもう一人の人格とかなのかな……」



 呟くように口にした疑問に答える者はいなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少女と虎といつか終わる嘘

阿波野治
ホラー
友人からの借金取り立てを苦にして、遍路を装い四国まで逃亡した沖野真一。竹林に囲まれた小鞠地区に迷い込んだ彼は、人食い虎の噂を聞き、怪物を退治する力を自分は持っていると嘘をつく。なぜか嘘を信用され、虎退治を任されることになり……。

霊道開き

segakiyui
ホラー
私の部屋には「流れ」が通っている………日常の狭間に閃く異常の物語。

そこに、いる

邪神 白猫
ホラー
【そのイタズラな好奇心が、貴方を本当の恐怖へと突き落とす】 心霊配信者としてネット界隈で少し名の知れた慶太は、視聴者から情報提供のあった廃トンネルへと撮影にやって来た。 そのトンネルは噂通りの不気味さだったが、いつも通り特に幽霊に遭遇するなんていうハプニングもなく、無事に撮影を終えた慶太。期待以上の良い動画が撮影できたお陰か、その動画は番組内でも一番の高視聴率を得ることができたのだが……。 ※ リスナーさんから頂いた”本当にあった怖い話し”からインスパイアされて作った作品です。 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://m.youtube.com/channel/UCWypoBYNIICXZdBmfZHNe6Q/playlists

鈴ノ宮恋愛奇譚

麻竹
ホラー
霊感少年と平凡な少女との涙と感動のホラーラブコメディー・・・・かも。 第一章【きっかけ】 容姿端麗、冷静沈着、学校内では人気NO.1の鈴宮 兇。彼がひょんな場所で出会ったのはクラスメートの那々瀬 北斗だった。しかし北斗は・・・・。 -------------------------------------------------------------------------------- 恋愛要素多め、ホラー要素ありますが、作者がチキンなため大して怖くないです(汗) 他サイト様にも投稿されています。 毎週金曜、丑三つ時に更新予定。

人を選ぶ病

崎田毅駿
ホラー
治療法不明の死の病に罹った男の、命を賭した“恩返し”が始まろうとしている。食い止めねばならない。

オーデション〜リリース前

のーまじん
ホラー
50代の池上は、殺虫剤の会社の研究員だった。 早期退職した彼は、昆虫の資料の整理をしながら、日雇いバイトで生計を立てていた。 ある日、派遣先で知り合った元同僚の秋吉に飲みに誘われる。 オーデション 2章 パラサイト  オーデションの主人公 池上は声優秋吉と共に収録のために信州の屋敷に向かう。  そこで、池上はイシスのスカラベを探せと言われるが思案する中、突然やってきた秋吉が100年前の不気味な詩について話し始める  

岬ノ村の因習

めにははを
ホラー
某県某所。 山々に囲われた陸の孤島『岬ノ村』では、五年に一度の豊穣の儀が行われようとしていた。 村人達は全国各地から生贄を集めて『みさかえ様』に捧げる。 それは終わらない惨劇の始まりとなった。

クリア─或る日、或る人─

駄犬
ホラー
全ての事象に愛と後悔と僅かばかりの祝福を。 ▼Twitterとなります。更新情報など諸々呟いております。 https://twitter.com/@pZhmAcmachODbbO

処理中です...