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第7笑『女子世界ではブスが場に平穏をもたらす』2/2
しおりを挟む「あー! つまんねえなあ」
翌日、クラス内が静かになると、またあの大将のフリのサインがでる。
本当に空気が悪くなるというか、息苦しい感じが消えない。
こういう時、誰かがクラスを笑いで包まなければならなくなる。
そう、あたし『達』しかいないっ!
こういうときのフリは決まって恐ろしいレベルのものを要求されるが、あたしは怯まない。
ピエロ君が見ててくれるから。
その事実があたしを強くしてくれる。
視界の端、教室の隅にピエロマスターの姿が目に入る。
あたしを真っ直ぐ見て笑ってる。
お前がやれ!
とでも言わんばかりに。
それに答えるかのようにあたしは立ち上がり、クラス全員に向って答える。
「あたしが、ブー子がやります!」
正直、冷や汗が止まらなかった。
やるべきことが何も決まっていない。
つまりノープランで手を上げてしまったからだ。
口の中が干上がって口をパクパクさせるしかなくなる。
小劇場にいきなり立たされた若手芸人のようだ。
かなりテンパった。
あたしが救いを求めるように大将のほうを見ると、隣に居るピエロ君がぐっ! と親指を立てて応援してくれている。
負けられない!
そうしている間にもクラスの雰囲気はますます悪くなる。
「早ぅやれよ」
小声で舌打ちと一緒にあたしをあせらせる言葉が出てきだす。
「じゃあ、ブー子! 今日はもっとブー子をかわいくしてあげる♪」
突然の助け舟にあたしが振り向くと、そこにはあたしをいつもいじめる女子グループのリーダーがやたら上ずった声で教室の隅を見ながら、若干冷や汗をかいたような顔で立っている。
もしかしてピエロマスターが見えているのかも知れない。
「っ!」
だがすぐに気を持ちなおして、あたしに向って言い放つ。
「さあ、猛獣使い! アニマルショーの開園でーすっ!」
その手にはいつの間にかロープが握られていて、新人のマジシャンのようなたどたどしい手つきで、あたしを縛っていく。
縛られる間、あたしの耳元でリーダーが呟く。
「あんたも、ヤツのこと見えてんでしょ。なら協力しなさいよ。あいつの目、次はお前だっ! って言ってんだもん、ならあんたなんかでも組んだ方がマシよ!」
震える唇で言葉を出す。
あたしこそごめんだねっ!
言葉に出さなくともあたしは思った。
あたしはリーダーが助かる為の生贄にされたのだと気付いたから。
そしてあたしは完成した。
「……むぐぅ」
口に猿ぐつわをされ、言葉を奪われたあたしは小さな声で叫ぶことしか出来ない。
「……これでよし」
リーダーは一仕事終えた職人のように言い放って宣言する。
「さーーあ、ブタのようにおなきいいーーー!」
縛った時に余ったロープの端であたしの体を執拗にぶち始めた。
「きええええーーー!」
と気合を入れた一振りがあたしの体に打ち込まれる。
あたしがぶたれる度に、クラスが笑いに包まれる。
あたしは一仕事終えた余韻に浸ろうとしたがそれどころじゃない!
苦しい。
どんどん苦しくなっていく。
「ほほほほほほ……」
そんなことお構い無しにリーダーの折檻は続く。
もはやこれはイジメだ。
先生が来たら全力で止めるレベルの。
そんな時、ピエロ君が無言であたしに近づいてくる。
「……っ!」
あたしは待った。
あたしを救ってくれる『王子様』の一言を。
もう、息も絶え絶えなあたしに向ってピエロ君が言った一言は残酷なものだった。
「とってもキレイだよ」
満面の笑みであたしにだけ聞こえるように耳打ちした。
その瞬間、あきらめというか何というか考えることがどうでもよくなったというか……たぶんこれが『絶望』っていうのかなと思えるほどドロッとしたタールのような黒いものがあたしの心の中を多い尽くして……あたしは発狂した。
「ブヒヒヒヒヒイーーー!」
絶叫に続ぐ絶叫、その子は何度も叫び続けた。
全てを忘れ去ろうとただひたすらに。
そしてあたしの意識は笑いの場に落ちていった。
「っ!!」
気付けば私は全力で机を叩いていた。
ブー子の意識で笑いの場に落ちたはずなのに、なぜか放課後の教室に戻ってきていた。
それにしても怒りが収まらない。
こいつらはなんだ?
まるで笑いの場を維持するために捧げられる『供物』そのものじゃないかっ!
その手の痛みで私は理解した。
ピエロマスターが発したであろう周りにあった紫の煙を吸い込んでしまったからか、ブー子の記憶を覗いていたはずなのに、戻って来たと思ったら、もうすでにそこにはピエロマスターはいなかった。
まるでタヌキに化かされたようだった。
激昂が収まらない私はピエロマスターがいた教室の端に向かって叫んだ。
「私達はあんたのオモチャじゃない!」
そこに丁度言いとしかいえないような悪意のあるタイミングで笑い声が重なった。
バカにするんじゃないわよ!
あんたたちなんかに私達は負けないわ!
「覚えてなさい!」
笑い声のするほうへ向って、おそらくいるであろうヤツを見据え、私はケンカを売った。
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