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第4笑『私は毒虫』3/4
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翌日、教室に入ると、男子の威勢のいい声が聞こえて来る。いつものやつだ。
『ハンッグリッ! ハンッグリッ!』
この儀式もエスカレートしているなあ。
すでにピエロ君はガムテープでぐるぐる巻きにされて、身動き取れなくなっていた。
「何してるんだっ!」
青い顔で向かってきた先生に対して。
「ちょっとしたスキンシップ、じゃれあいじゃないですかあー」
笑顔で先生に話しかけ、先生を退かせていた。
全く理解できない。
そんな環境においても私は眉一つ動かさず、状況の観察を続ける(相変わらず多少の吐き気は伴うが、我慢する)。
このどうしようもない笑いの構造を理解するには観察を繰り返して研究していくしかないから。
一方でこの笑いの場において私はほとんど巻き込まれない。
私はこのクラスから独立した存在として機能している。
まあ、早い話がハブられ、ほとんどの人間からいない者として無視されている。
だが私は気にしない。
それが何だというの。
笑いの場を俯瞰し、観察するには今の立場が最もベストだと私自身が理解している。
何の問題も無い。
むしろ都合が良いくらい。
それもこれも私が『毒虫』という通り名と共に観察者としての立場をこのクラスで獲得したある事件がきっかけだった。
「ねえ、あなたのお父さんって元芸人だったんでしょう?」
唐突に聞かれた質問に私は何も答えられなかった。
クラス分けして間もない頃、教室でのその子は面倒見の良い子で。
私が何も話さないことを肯定と受け取ったのか、その子は怪しげな笑いを含んで話を続ける。
「ふふふ……大丈夫よ。誰にも言ってないから」
「何言ってんの……あんた」
私は心底理解できない、引くわああ……という表情全開で問い正した。
だが相手は聞いてもいない風で、たたみかけてきた。
「ねえ、私の趣味は人の秘密を握ることなの。この秘密をばらされたくなかったら、私と友達になりましょう」
なんていうえげつないやり方をする人間だ!
分析しよう。
成るほど、面倒見のいい振りして他人の秘密を握り、あまつさえ利用して、かりそめの友人関係を形成してるとは……この人間、ヤバイな。
私はすぐに排除に取り掛かる。
こういった人間にこそ容赦はしてはいけない。
そしてこういった人間にこそ、自ら弱み……ひけらかせない過去を持っているものなのだ。
『クラスでいじめられたらこのサイトを使いなさい』
父さんが失踪する前、私に教えてくれたサイト。
そこではある程度の個人情報さえ入力すれば人の弱みを検索できるという、悪魔のような機能が備わっていた。
そこで私は住所やら生年月日やらあの子の簡単な個人情報を入力した。
そうしたらあの子の秘密が、本人の知らないところまで芋ずる式に出てきた。
父親がギャンブル狂な事、母親がそれの埋め合わせの為に風俗店で働いている事、家に借金取りが押しかけてきていた事……。
良くここまであって学校で隠しきれているなあ……。
私は心底感心した。
多分、私にしたことも自分自身を守る為の防衛行動だろうなあ。
お互いに秘密を共有し、友人関係を築く。
一昔前のロシアとアメリカの冷戦みたいに牽制しあって。
「でも、だからといって容赦しないけどね」
私はそう言ってサイトの閲覧を続ける。
そして、その子本人でも気付いていない秘密がサイト内に表示されているのを見つけた。
「ふーん」
私は特に感慨気も無く呟くと、パソコンの電源を切った。
あくまでこれは自分の身を守るための作業だ。
高揚などしない。
後日、私はあの子に調べた事実を打ち明けた。
優しく、丁寧に、一つ残さず。
「――――っ!」
あの子の顔色がが血の気が無くなったかのように真っ青になり、体の震えが止まらなくなっている。
まさかここまで調べられるとは思っても居なかったんだろう。
「なんで、私の本当のお父さんがこのクラスの先生だって知ってるの?」
私は全てを見透かした神の様にフッと笑い、あの子の耳元でそっと囁く。
「私はあなたの秘密を握っている。あなた以上にね」
残酷な情報、小さな亀裂はあっという間に広がり、心を粉々にしていく。
有名な歌の歌詞ではないけど、相手のココロをコワスにはまず、心のやらかい場所を握ってやればいい。
そして握りつぶす前のギリギリの状態で相手に問うてやればいいのだ。「私はあなたの本体を握っている。いつでも潰せる」己の心の命を握られた相手は精神的に極限まで追い詰められるだろう。
そして崩壊する。
その日その子は私に関わっては来なくなった。
いつも青い顔で私のことを見ていた。
だが私はそれで容赦などしない。
翌日にはあの子の様々なゴシップ情報を、恥ずかしいプライベートから話したくない家庭の事情まで調べ上げ、包み隠さず校内ネットにさらした。
『ハンッグリッ! ハンッグリッ!』
この儀式もエスカレートしているなあ。
すでにピエロ君はガムテープでぐるぐる巻きにされて、身動き取れなくなっていた。
「何してるんだっ!」
青い顔で向かってきた先生に対して。
「ちょっとしたスキンシップ、じゃれあいじゃないですかあー」
笑顔で先生に話しかけ、先生を退かせていた。
全く理解できない。
そんな環境においても私は眉一つ動かさず、状況の観察を続ける(相変わらず多少の吐き気は伴うが、我慢する)。
このどうしようもない笑いの構造を理解するには観察を繰り返して研究していくしかないから。
一方でこの笑いの場において私はほとんど巻き込まれない。
私はこのクラスから独立した存在として機能している。
まあ、早い話がハブられ、ほとんどの人間からいない者として無視されている。
だが私は気にしない。
それが何だというの。
笑いの場を俯瞰し、観察するには今の立場が最もベストだと私自身が理解している。
何の問題も無い。
むしろ都合が良いくらい。
それもこれも私が『毒虫』という通り名と共に観察者としての立場をこのクラスで獲得したある事件がきっかけだった。
「ねえ、あなたのお父さんって元芸人だったんでしょう?」
唐突に聞かれた質問に私は何も答えられなかった。
クラス分けして間もない頃、教室でのその子は面倒見の良い子で。
私が何も話さないことを肯定と受け取ったのか、その子は怪しげな笑いを含んで話を続ける。
「ふふふ……大丈夫よ。誰にも言ってないから」
「何言ってんの……あんた」
私は心底理解できない、引くわああ……という表情全開で問い正した。
だが相手は聞いてもいない風で、たたみかけてきた。
「ねえ、私の趣味は人の秘密を握ることなの。この秘密をばらされたくなかったら、私と友達になりましょう」
なんていうえげつないやり方をする人間だ!
分析しよう。
成るほど、面倒見のいい振りして他人の秘密を握り、あまつさえ利用して、かりそめの友人関係を形成してるとは……この人間、ヤバイな。
私はすぐに排除に取り掛かる。
こういった人間にこそ容赦はしてはいけない。
そしてこういった人間にこそ、自ら弱み……ひけらかせない過去を持っているものなのだ。
『クラスでいじめられたらこのサイトを使いなさい』
父さんが失踪する前、私に教えてくれたサイト。
そこではある程度の個人情報さえ入力すれば人の弱みを検索できるという、悪魔のような機能が備わっていた。
そこで私は住所やら生年月日やらあの子の簡単な個人情報を入力した。
そうしたらあの子の秘密が、本人の知らないところまで芋ずる式に出てきた。
父親がギャンブル狂な事、母親がそれの埋め合わせの為に風俗店で働いている事、家に借金取りが押しかけてきていた事……。
良くここまであって学校で隠しきれているなあ……。
私は心底感心した。
多分、私にしたことも自分自身を守る為の防衛行動だろうなあ。
お互いに秘密を共有し、友人関係を築く。
一昔前のロシアとアメリカの冷戦みたいに牽制しあって。
「でも、だからといって容赦しないけどね」
私はそう言ってサイトの閲覧を続ける。
そして、その子本人でも気付いていない秘密がサイト内に表示されているのを見つけた。
「ふーん」
私は特に感慨気も無く呟くと、パソコンの電源を切った。
あくまでこれは自分の身を守るための作業だ。
高揚などしない。
後日、私はあの子に調べた事実を打ち明けた。
優しく、丁寧に、一つ残さず。
「――――っ!」
あの子の顔色がが血の気が無くなったかのように真っ青になり、体の震えが止まらなくなっている。
まさかここまで調べられるとは思っても居なかったんだろう。
「なんで、私の本当のお父さんがこのクラスの先生だって知ってるの?」
私は全てを見透かした神の様にフッと笑い、あの子の耳元でそっと囁く。
「私はあなたの秘密を握っている。あなた以上にね」
残酷な情報、小さな亀裂はあっという間に広がり、心を粉々にしていく。
有名な歌の歌詞ではないけど、相手のココロをコワスにはまず、心のやらかい場所を握ってやればいい。
そして握りつぶす前のギリギリの状態で相手に問うてやればいいのだ。「私はあなたの本体を握っている。いつでも潰せる」己の心の命を握られた相手は精神的に極限まで追い詰められるだろう。
そして崩壊する。
その日その子は私に関わっては来なくなった。
いつも青い顔で私のことを見ていた。
だが私はそれで容赦などしない。
翌日にはあの子の様々なゴシップ情報を、恥ずかしいプライベートから話したくない家庭の事情まで調べ上げ、包み隠さず校内ネットにさらした。
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