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第1話

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「レオ・フォン・パリセクト殿下。あなた様との婚約を破棄したいと考えております」

 王城で開かれている学園卒業のパーティー会場で、女性の声が会場を支配する。
 オーケストラの演奏がバックで流れているのにも関わらず、その声は会場にいる人の耳に届いてしまった。
 会場内で先ほどまでの賑わいは消え去り、演奏の音だけが鳴り響く。
 集まった貴族たちは息をひそめ、話の行き先を見守っている。

 やはりこうなってしまうか。

 声の主は僕の婚約者であるミラ・マスカレード伯爵令嬢だ。
 ピンクの長髪を腰までのばし、赤いドレスに身を包んだ姿はまさに高嶺の花。
 
 その横には僕の親友、クリス・レオンハルトがミラに腕を抱きつかれながらも凛々しく立っている姿が見える。
 
 ミラとは幼き頃からの仲で、父親である王とマスカレード伯爵家当主の意向をくみ取り、僕たちは婚約する流れとなった。
 
 婚約関係の雲行きが怪しくなってきたのは二年前の出来事が原因だ。
 
 王位継承権第二位にいる僕だが、自分の意思と生活態度、学力不足により王位継承権をはく奪された。
 僕は学園卒業と同時に辺境に飛ばされ、そこの領主として王族の役目をこなす。
 そして、次期王には僕の兄であるロスト・フォン・パリセクトがなる。

 そう、ネスト王国の貴族は伝えられた。

 この二年間で大多数の者が僕の周りから姿を消した。
 実際に姿を消したのではないが、取り巻きと言われるものは存在しなくなった。
 僕が王族であるため、あからさまに嫌悪を抱かれることはないが、学校のクラスメイトは対応を変え、少しずつ話す機会も減った。

 そして最終的に僕の周りには親友と呼べる者たち以外は残らなかった。

 こうも一つの出来事で人間は変われるものなのかと。
 人間不信になりそうだった。


 王族で語り継がれている言葉がある。

『国は王だけではなりたたない。友を大切にしろ』

 この言葉の意味を身に染みて感じた。

 王は一人ではなにもできない。
 国民を大切にし、富を与えることでさらに富が生まれる。
 
 王は一人ではなにもできない。
 友を大切にし、支えあうことで国を治めることができる。

 先々代の王を務めた祖父の言葉だ。
 祖父は優秀な家臣とともにネスト王国を繁栄させてきた。
 建国以来の賢王として、今でも国民に語り継がれている。

 僕は祖父からの話を聞き不安になった。

 生まれた時から王位継承権第二位の僕には友と呼べる者はいるのだろうか。
 いつも周りにいる者は僕のために、ネスト国のために手を尽くしてくれるのだろうかと。

 だから僕は王位継承権はく奪という嘘の情報をこの国に流した。
 
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