上 下
132 / 134

第131話 あの初々しい雰囲気

しおりを挟む
「ただいま」
「おかえりー」
「わふっ」
「にゃー」
「おかえり」
「遅かったな。そんなに買い物したのか」

 ナイトレイ家に到着するとみんなからお出迎えを受ける。しれっとテトはクロエさんにつかまっている。
 モコの上でティナとテトを抱っこしているクロエさん。通常運転だが、いつのまにテトを捕まえたのかは定かではない。

「迷いの森までいってきた」
「……ソラ。意外と行動力あるんだな。ただのめんどくさがり屋かと思ってたわ」
「否定はしないよ。けど、うちの子のためなら俺はなんだってするぞ?」
「あー、そうだったな。お前は残念な子だったわ」
「おい、今良い感じの話しだっただろ。もっと俺をほめろよ」
「はいはい、そうだな。偉い偉い」

 そういいながら頭をポンポンしてくるルイ。
 こいつどこまでも俺をバカにしてきやがる。
 ナイトレイ家の敷地でなかったら、ぶん殴っているところだ。

 その間にも、シロはクロエさんにつかまっており、みんなに今日の報告をしている。
 ティナが通訳しているみたいなんだけど、基本的に楽しかったーと言っているだけ。
 シロの説明では全貌はまったくつかめていないだろう。
 それに急にウルフたちがでてきて、一緒に探索したと言われても疑問でしかないだろうな。

「きゅうきゅう」
「んー、芝生が汚れそうだよな」
「ん?どうしたの?」
「いや、みせたいものがあるんだけど、ここだとナイトレイ家の庭を汚してしまいそうで」
「なら、解体所に案内するわ。ついてきて」

 クロエさんは話の内容を理解し、速攻で最適な場所に誘導してくれる。
 庭を歩き、小さな小屋のようなものに入る。

「ここは汚れても良いところだから、ここにだして」

 クロエさんからの許可を貰い、影収納から迷いの森での戦利品を出していく。
 
「きゅいきゅい」
「わふ」
「にゃ?」
「きゅー。きゅうきゅう」
「わふわふ」
「にゃにゃん」

 出していく傍からシロは必死に説明している。おそらくリーダーウルフが言っていたことをそのまま伝えているんだろう。
 嬉しそうにテトモコに戦利品見せているシロ。
 テトモコも頑張ってきた弟をほめちぎっているみたいだ。
 
「シロ。大事なことを言ってないぞ」
「きゅ?」
「プレゼントなんだろ?」
「きゅっ」

 シロに近寄り、耳打ちすると忘れていたみたいで、しっぽがピンとたつ。
 戦利品をほめられて嬉しいのはわかるけど、これだとただの探索報告になってしまう。
 シロの口からプレゼントですとつたえなくてはな。
 もちろん、俺の言葉はテトモコに聞こえているので、テトモコは静かにシロが話し出すのを待っている。
 しっぽをぶんぶん。顔はへにゃへにゃしているけど。
 あれでも抑えているつもりなんだろう。

「……きゅ」

 シロは珍しくもじもじしながら、テトモコの前に立ち、言葉に詰まっている。
 
 なんだ。この空間は。

 今さっきまでの発表会のような雰囲気ではなく、好きな人に告白するような雰囲気。
 いきなり会話がとぎれ、次の言葉にためらいがあるあの空気感。
 わかるだろうか。初々しい二人が、普段とは違う空気を纏い、同じ気持ちなのに両方がお互いのことを様子見している状況を。

 かぁー。なんか俺も恥ずかしくなってきたぞ。
 テトモコもしっぽをふりふりして緊張しているようだ。
 ティナもなぜか俺の手を握り、静かにシロの話だしを待っている。

「きゅきゅうきゅう」
「にゃ?」
「わふ?」
「きゅきゅいー」

 静かに話し出したシロ。
 テトモコは優しく、僕たちの?全部?と聞き返しているようだ。
 シロが全部―と恥ずかしがりながら少しだけ元気に返事をしている姿が、もう可愛くて可愛くて涙が出そうなんだが。
 
 テトモコはシロに近寄り、体を寄せ、シロを舐めまくっている。
 すこしだけくすぐったそうだが、きゅうきゅう鳴きながら喜んでいるシロ。
 ダメだ。混ざりたい気持ちを抑えなければ。兄弟の仲睦まじい光景を目に焼き付けるという仕事が俺にはある。
 これは俺にしかできない。

 それにこの光景を忘れないように脳内保存しなくては、俺は何のために生きているんだ。
 
 必死に見つめていると、ティナがその輪の中に入り、また幸せ度があがる。

 くそ、脳内記憶がはちきれそうだ。頼む神様。現物でのカメラはすでに諦めた。
 やはり大きな変化。オーバーテクノロジーは世界に与える影響は強いのだろう。
 ならば、俺にカメラというスキルを授けるのはどうだろうか?
 もう、現物写真として残さなくてもいい。
 俺の脳内だけで処理、保管をする。絶対にそのスキルでこの世界に変化をもたらさないと誓う。
 このただ、もふもふを。天使を愛でたい少年のわずかな願いをかなえてはくださらんだろうか。

「おい、なにしてんだ?」

 膝をつき、天を仰ぎながら、祈っていると横からルイに話しかけられる。

「今話しかけないでくれ。俺は今、神様に話しかけているんだ」
「うぇ、すまん。そんな力があるなら先に言えよ」

 ほんと、大事な願いの最中に話しかけてくるんじゃねーよ。
 これで神様から返事がなかったら許さないからな。

 数分待てど暮らせど、神様からの返事が返ってこない。

「くそ、ルイのせいだ」
「すまん。神様がらみとか知らなかったんだ。やばいかな?神様怒ってないか?」

 ただのやつあたりにすぎないのだが、思ったより動揺しているルイが面白い。このままやつあたりを続けてもいいのだが、さすがに、神様を使っていじるのもよろしくないな。

「冗談だよ」
「へ?」
「だから冗談。神様に祈っていたことは本当だけど、神様から返事がきたことなんてないよ」
「じゃー、あれか?今のはただの祈りで、ソラ特有のスキルとか異世界転移者の特権とかではないと?」
「うん。そんなものはない。そんなものがあれば俺は、もっとこの子達を愛でれるのに、いてっ。なにすんだルイ」

 俺の頭を強めにはたいてきたルイ。

「これはお前が悪い。ソラが言うと冗談ぽく聞こえないんだよ。もしかしたら本当にそんな能力があるのかと思うじゃねーか。こっちは神様の邪魔をしてどんな天罰がおこるか肝を冷やしてたんだからな。ちったー反省しろ」
「この暴力男」
「あのー、これって私が聞いてもいい話なのかしら?」
「あ、やべっ」

 突然会話に割り込んできたクロエさん。
 ルイは慌てて、クロエさんに、祈りというのはなと信者が話す内容のような祈り方のスタイルや礼儀作法を語りだした。
 本当にルイは口が堅いし、友達思いなんだろうな。

 ちょっとバカで、ごまかし方がどっかのセールスマンみたいだが。

「ルイ。別にいいよ。クロエさんは身内でしょ。いつまでも黙っておくのもつらいと思うし、俺の中でももうクロエさんは身内判定だよ」
「いいのか?」

真剣なまなざしで見つめてくるが、もうそれが答えのようなものなんだよ。

「うん。俺は異世界転移者。影山空です。よろしくねっ」

 なるべく軽く、動揺を与えないように自己紹介をする。

「……なるほど。だからこんなにも強いのね。それにテトモコシロちゃんも最かわだもんね」
 
 んー。動揺しておらずクロエさんの中では納得できているみたい?
 テトモコシロの最かわは否定しないが、そこはまた別のお話し。

「んー。ルイあとは任せた」
「おい、ソラが説明しろよ」
「俺にはそんな時間はないんだ。見ろ。この可愛いうちの子たちを。俺はすぐにでも、この子達の輪の中に入り愛でなくてはならない。では、俺たちはここで。今日はありがと」

 めんどくさい説明をルイにたくし、すぐさまうちの子たちを回収。ナイトレイ家からの脱出を試みる。
 モコはすぐに俺の意図を察し、合体型モコ号でナイトレイ家を後にする。
 後ろからルイの声が聞こえるが、ながながと説明するのは面倒なのだ。
 それにうちの子を愛でたいのも事実。こんなに仲良くしているうちの子をほおっておくのが耐えれそうになかったんだ。

 今日はシロ主役の祝杯だ。
 盛大に祝ってやろう。
 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...