うちの天使に近寄るな~影と風に愛された死神はうちの子を守りたいだけなんだ~

朱音 アキ

文字の大きさ
上 下
127 / 134

第126話 世界平和のために

しおりを挟む
「ティナ行ってくるね」
「いってらっしゃーい」
「にゃー」
「きゅう」
 
 俺は用事があるとだけ告げ、ラキシエール伯爵家を出ていく。
 もちろん、モコは俺の横にピッタリとくっついてきているが。
 俺だけの外出なんかは、この世界ではテトモコがいるかぎりありえない。
 
 まあ、毎日もふもふと一緒というだけで、日本に多数いるマンションでペットを飼えない人たちにすれば、うらやましい物だろう。
 ちなみに横にいるモコにも、今回の用事の内容は教えていない。

 これはトップシークレット。
 誰にも話さず、ごく少数でやり遂げなければならない。重要な任務だ。

「わふわふ」

 ラキシエール伯爵家を出て貴族街を帝都の大通りに向け歩いていると、モコからどこに行くのかを聞かれる。

「まだ、その時ではない」
「……わふ?」
「大丈夫だ。危険なところにいこうというのではない。ただこの望みが叶うならこの世から戦争はなくなるかもしれない」
「……」

 もしもだがな。
 叶うとするならば、全人類、全魔物の争いがなくなるかもしれない。
 そんな希望を今、俺は背中で一身にささえている。

 貴族街を抜け、そのまま大通りを歩いていく。

 いつもなら、屋台の食べ物が食べたいと願ってくるモコだが、俺の雰囲気を感じ取ってか、ぴったりと俺に寄り添い、周りを警戒している。
 
 んー。時折あたるモコのしっぽが気持ちいい。そして少しだけ歩行の邪魔なのだが、それもまたいい。

 大通りを無言で歩き続け、はや十分。

「わふわふ?」
「あー。そろそろいいだろう。俺たちの目的地はベクトル商会だ」
「……わふ?」
「ん?もう一回か?俺たちの目的地はベクトル商会だ」
「わふー」

 モコはなぜか警戒を解き、気が抜けたような声を出す。

「わふわふ?」
「し、静かに。誰かに聞かれるかもしれないだろ」

 モコが新商品でも思いついた?と聞いてくるが、ここで話すわけにはいかないのだよ。
 動揺しすぎて、誰もわからないであろうモコの発言を遮ってしまった。

 ベクトル商会に到着し、開かれている扉から店内に入る。
 どうやら今日は店頭にミランダさんはいないらしい。

「すみません。ミランダさんはいますか?」
「えっと。僕君?ミランダさんっていうのは会長のことかな?会長は上にいるんだけど、面会予約しているのかな?」

 あー、忘れかけているが、あの人は大手商会の会長。普通に会いに来たといっても、すぐには会えるような人ではないんだったな。
 
 く、ここは予約だけにしておくか。残念ながら今回のミッションは失敗。無念。

「あら、ソラ君じゃない。どうしたの?会長に会いに来たのかしら?この前の部屋で待っていたら、すぐに会長がきてくれるわよ」

 明日の面会を予約し帰ろうと思っていたが。
 以前、広報活動の際、見かけたことがある職員さんから声がかかる。

「ミミさん?今日は会長は忙しいから、急な面会は断るようにと伺っていますが」
「あー、あなたはソラ君に会ったことはなかったわね。この子は天使の楽園のソラ君。武闘大会優勝者であり、従魔パーカーの生みの親。会長の隠し子ともいわれているわ。だからソラ君がきたら休憩室に案内しておくの」
「なぁ、申し訳ありません。私の把握不足です」

 いやいや、ちょっと待て。
 そんなに俺に頭を下げなくてもいいし、俺に敬意を払う必要もないけど、今はそんなことどうでもいい。
 なんだ。だれがいつミランダさんの隠し子になったんだ?
 そんな素振りもないし、どう見たって俺がミランダさんの子供なわけないだろ。

 そもそもミランダさんはそんな年齢では……。いや。まてよ。ミランダさんは何歳なんだ?そういえば年齢を聞いたことなんかないな。
 美人でごりごりのキャリアウーマン。赤髪で綺麗な社長。
 こういう人は謎に外見が若い可能性がある。
 
 んー。ミランダさんの年齢が気になるが、俺に聞く勇気、そして命の残機は残っていない。
 一回でも死に戻りができるなら聞いてみてもいいが、その時の帝都の状況はわからないだろう。
 女性に年齢を聞くのはそれほど危険。生前おばあちゃんが言ってた。
 影山家の唯一といっていいほどの家訓だ。

「ぜんぜん気にしないでくださいね。予約してなかったのは事実ですから」

 頭を下げている職員さんに一言つげ、ミミさんと呼ばれた女性の後をついて行く。
 そしてそのまま俺とモコは以前、まとわりつく女性たちから逃げるために使用した部屋へと案内される。
 もう、俺がここで何をしていようと職員さんは気にならないらしく、お茶とお菓子を置いて仕事へ戻っていった。

 ビック待遇なのか、隠し子といういじりがつづいているのか。
 まあ、気を使わないのでいいのでこちらも助かる。
 ミランダさんが来るまでここで、モコと遊んでおこう。
 モコもじゃれる気満々のようで、すでにお菓子を食べ終え、俺の膝の上に寝転んでいる。
 いつもお兄ちゃんありがとうな。俺とふたりきりの時ぐらい、弟になってもいいぞ。

「ソラ―またせたわね。っと、仲いいわね」

 モコとじゃれあい、ソファーの上で寝転んでいると、ミランダさんが部屋へと入ってくる。
 
「仲良しだよー。今時間空いているの?」
「ソラからの訪問だからね。つくってきたわよ」
「なるほど。大丈夫?」
「もちろん。後の人らは待たせても大丈夫な人達。そこまでつながりもないしね」

 さらっと、会長の顔を見せるミランダさん。
 商業の事になると結構冷たそうだな。まあ、社長という役職は優しさだけではやっていけないのだろう。

「それで急にどうしたの?」
「あ、そうだ。これはミランダさんにしか相談できないことなんだ」

 ソファーに座りなおし、ミランダさんの目を見つめる。
 
 息を整え、頭の中の文章を整理、そして閉ざされた口を開き音を発していく。

「俺はティナに翼をさずけたい」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

初めて入ったダンジョンに閉じ込められました。死にたくないので死ぬ気で修行したら常識外れの縮地とすべてを砕く正拳突きを覚えました

陽好
ファンタジー
 ダンジョンの発生から50年、今ではダンジョンの難易度は9段階に設定されていて、最も難易度の低いダンジョンは「ノーマーク」と呼ばれ、簡単な試験に合格すれば誰でも入ることが出来るようになっていた。  東京に住む19才の男子学生『熾 火天(おき あぐに)』は大学の授業はそれほどなく、友人もほとんどおらず、趣味と呼べるような物もなく、自分の意思さえほとんどなかった。そんな青年は高校時代の友人からダンジョン探索に誘われ、遺跡探索許可を取得して探索に出ることになった。  青年の探索しに行ったダンジョンは「ノーマーク」の簡単なダンジョンだったが、それでもそこで採取できる鉱物や発掘物は仲介業者にそこそこの値段で買い取ってもらえた。  彼らが順調に探索を進めていると、ほとんどの生物が駆逐されたはずのその遺跡の奥から青年の2倍はあろうかという大きさの真っ白な動物が現れた。  彼を誘った高校時代の友人達は火天をおいて一目散に逃げてしまったが、彼は一足遅れてしまった。火天が扉にたどり着くと、ちょうど火天をおいていった奴らが扉を閉めるところだった。  無情にも扉は火天の目の前で閉じられてしまった。しかしこの時初めて、常に周りに流され、何も持っていなかった男が「生きたい!死にたくない!」と強く自身の意思を持ち、必死に生き延びようと戦いはじめる。白いバケモノから必死に逃げ、隠れては見つかり隠れては見つかるということをひたすら繰り返した。  火天は粘り強く隠れ続けることでなんとか白いバケモノを蒔くことに成功した。  そして火天はダンジョンの中で生き残るため、暇を潰すため、体を鍛え、精神を鍛えた。  瞬発力を鍛え、膂力を鍛え、何事にも動じないような精神力を鍛えた。気づくと火天は一歩で何メートルも進めるようになり、拳で岩を砕けるようになっていた。  力を手にした火天はそのまま外の世界へと飛び出し、いろいろと巻き込まれながら遺跡の謎を解明していく。

処理中です...