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第124話 俺もダンスが見たい(切実に}

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「それじゃ―、あとは任せたわよ。ソラ君」
「え?」
「好きにやっちゃって、でも、手加減はしてあげてね」

 そりゃー、手加減はするけど、クロエさんの新人教育のおかげで俺への見方がいきなり変わり、新人たちが混乱しているんですけど?
 ほら、今さっきの人なんか顔真っ青で倒れそうなんだけど?
 このまま俺に進行をゆずるのはよろしくない。

 俺の無言のアイコンタクトもウインクで返され、クロエさんは訓練場のはしへと行く。
 もちろん、モコに乗り、ティナとシロを引き連れて。

「にゃー?」
「テト。お前だけはいてくれ」
「にゃっ」

 テトはどうする?と俺に一声。
 さすがに一人でいるのは寂しいし、先生などしたことないから不安だ。
 テトにいてもらうことにすると、テトは嬉しそうに俺の肩に乗ってきた。

 ごろごろすりすり。さらさらな毛が俺の頬を撫でる。
 ふぅー。落ち着くぜ。

「あのー。ソラさん」
「あ、ごめんなさい。それと俺にさん付けいらないです。ソラとかでいいですよ」
「いえ、でも」
「じゃー、君呼びで。年上にさん呼びされるとなんかむずかゆくて」
「わかりました」

 テトと戯れていると、新人から声がかかる。
 うちの子たちとじゃれていると時間の経過を忘れてしまう。
 それだけ、もふもふは幸せということだ。
 それに、俺より5歳は年上の人たちにさん付けはなんか嫌だ。
 精神的には年下なのだろうが、この見た目だとさんが似合わなさすぎる。
 もう、慣れてきているし、ソラ君でお願いしますっ。

「んと、じゃー、試験するけど、誰からにする?あ、ちなみに俺は大鎌と攻撃魔法は使いません」

 手加減というのも相手に悪いかもしれないが、学生上がりの人に全力を耐えろというのも無理な話だ。
 
「では、私から」
「うん。いいよ。えーと。クロエさーん。新人さんたちは魔法ありですよね?」
「どっちでもいいわよー」

 モコの大きな体に埋まり、ティナと一緒にシロで遊んでいるクロエさんは数秒遅れて返事をしてくる。
 あの人、試験見る気ある?
 見ていませんでしたとかなら怒るよ?

 てか、普通に考えて、今から戦闘十戦?どこの武闘派教室だよ。
 なにか?俺は今から本気でむかってくる新人たちを十人抜きしろということかな?
 できなくはないと思うけど……めんどくせー。
 
「じゃー、審判はテトね。相手が危なそうになったら俺を止めてね」
「にゃー」

 テトは仕事を与えられ嬉しそうに一鳴き。
 右前足を上げ、了解と意思表示をしている。

「黒猫が審判?」
「あー、ごめんね。俺がこういうの初めてだから塩梅がわからなくて。黒猫はテト。俺より強いから審判をしてもらうよ」
「武闘大会優勝者より強い?」

 ぼそぼそと聞こえた声に返答するとさらなる疑問を生んでしまったようだが、もうめんどくさい。
 いちいち説明してたら、日が暮れてしまうよ。
 これから十戦。相手の力を引き出しつつ、いいタイミングでやめる。別に勝つ必要はないな。まあ、攻撃を受けるつもりもないけど。

「じゃー、始めようか。基本なんでもありで。殺す気できていいよ」
「……はい」

 なんか動揺しているな。
 普通に考えたら十歳の子供がいうセリフではなかったかな?
 冒険者していると基本的に命の奪い合いだからな。こういうセリフが馴染んでいるんだが、学生さんには刺激が強かったようだ。

 まあ、冒険あんまりしてないんですけどねー。
 周りの冒険者が冒険者ギルドで言っていることをマネしただけ。というのは内緒。


「にゃにゃ?」
「いいよ」
「……」
「あー、準備はいいかって」
「あ、はい」
「にゃにゃー、にゃん」

 テトはわかりやすく、ジャンプし、着地してから開始の鳴き声を上げる。
 よし、動くか。
 と、思ったが、新人さんはテトを見て、俺を見てを繰り返している。

「あ、開始で」
「はい」
「んにゃー」

 テトは新人さんに伝えるようにわかりやすく開始宣言したのだが、新人さんには伝わらなかったようだ。
 テトは悔しそうに鳴いているが、普通わからないよな。
 大丈夫。次からはみんなわかってくれるはずだよ。これぐらい空気を読んでくれるはず。
 もしわからなくて、テトを悲しませるなら、その時は……

「ひぃー」
「こらー、ソラ君。攻撃魔法を使用しないからってごり押しの魔力での威圧をしていいわけじゃないよー。まだその子たちだと動けなくなるから威圧もなしでー」

 遠くからクロエさんの注意が飛んでくる。
 テトが悲しむ姿を想像したら、魔力が暴走しかけたわ。
 魔力での威圧。あの風が押し寄せてくる感覚の威圧は怖いわな。
 たしか、ゼンさんに威圧された時、一瞬動けなかったからな
 と、自分の威圧について分析している暇はなかったな。

「ごめん。そんなつもりじゃなかったんだよ。ほら、怖くないよー」
「ひぃ」
「にゃー」

 手を広げて、ぴょんぴょんと無害アピールをするも。
 一戦目をかってでた新人は動き出したと思ったら腰が抜け、地面に座ってしまった。
 その光景を見てテトはあきれ顔。
 いや、そもそもテトが可愛いのがいけないんだ。
 可愛いから、そんなうちの子が悲しむ姿を見るのが嫌で……
 
「もう、ソラ君。普通に試験をしてあげてー。その子は後回しでいいから」

 未だモコのもふもふからでてこず、遠くの方から注意をしてくるクロエさん。
 そっくりそのまま返してやろう。
 クロエさん。普通に試験をしてください。
 そもそもが俺の仕事じゃねー。うちの天使がソラ先生と呼ぶから反応して了承しただけだ。
 
「んー、じゃー、あなたは後で。次の方どうぞ」

 受付のように次の方を呼び入れるが、手を挙げる人はいない。
 んー。どうしたもんかね。こんぐらいの魔力の威圧で尻込みしてたら、クロエさんにしごかれるぞ?
 
「にゃー」
「え?俺っすか?」
「にゃにゃ」

 なぜかテトは唯一俺のことを知らなかった男性に近寄り、次はお前だっと足に前足を乗せている。
 その男性もテトの言いたいことが分かったようで、しぶし前に。

「俺らしいので、よろしくお願いします」
「うん。全力でいいよ」
「にゃにゃ?」
「いいよ」
「俺もです」

 男性は空気が読めるらしく、スムーズに進んでいく。

「にゃにゃー、にゃん」

 さきほどと同じようにジャンプ着地からの開始宣言。
 ふわっと降りて楽しそうにしっぽをふりふりしているテトが可愛い。
 もう、うちの子は見ているだけでも幸せを振りまけるんだから。
 あとで、いい子いい子してあげよう。
 おっと。

 テトの事を見つめていると、死角から男性が突撃してくる。
 ナイフと短杖。
 あまり見たことないスタイルだな。

 でも、ちょっと遅いかな。無言で隙をついてこの距離が空いているなら、武闘大会本戦はでれないな。
 予選の乱戦は立ち回りも必要だが、一人一人にかける対処時間も重要だ。遅いと、さらなら相手が乱入してくる。時間をかけずさばいていくのが予選の勝ち方のセオリー。

 っと、今は予選の解説をしている場合でもないし、この人たちもそんな気持ちで臨んでないか。

 俺はひらりと回転し、ナイフをよけ、杖を持っている手を足蹴する。
 
「杖を落とさないのはいいと思う。それに格上との戦闘は初手で決める。そういうのは必要な知識だし間違いではないと思う。ただ、俺からすれば遅いし、近接のみで行く俺相手に近接で向き合うのもどうかと思うよ?」
「……ありがとうございます。これは試験ですので、武闘大会優勝者との近接勝負で自分の力を見せるつもりでした」

 ご高説たれるつもりはないが、これは一応教育だからね。俺もそんなに詳しくないけど、武闘大会で得た知識をフル活用していくつもりだ。
 格上との戦闘の場合、相手に完璧な準備時間をあてると、普通に考えてみるとわかるとおり、負ける確率が高い。持久戦なんかもってのほか。時間をかければかけるほど、弱い人には隙が生まれやすいんだ。だから、この男性がとった行動は100点満点の教科書通りなのだが、今回、俺が近接だけしかしないなら、遠距離攻撃が有効で、近寄らせないのがベストな気がする。命を賭けた死闘なら絶対その方がいい。
 でも男性がいうように、試験として、自分の実力を測ってもらうのもいいかもしれないな。

「じゃー、俺もっと」

 そう宣言し、6割ぐらいのスピードで駆け寄り、男性の足首を狙い、足蹴り。
 反応はできたみたいだが、そのまますくわれ、背中から後ろに倒れこむ男性。
 頭を打つと怖いので、風魔法でゆっくりと地面に降ろす。

「そのスピードで、体術をこなしながら、魔法演唱ですか……」

 いやいや、まだ6割。というか、体術しながらでも魔法を演唱できないと武闘大会では話にならないぞ。
 と思ったが、武闘大会がそもそも帝都の最強を決めるみたいな感じだったな。
 そう考えると予選に出ようと思うだけでもそれなり強者なのか。

 すまんな。対人経験が偏りすぎてて、武闘大会出場者以下のレベルの人の評価ができんのよ。
 
 ちらっと、クロエさんを見ると。
 笑顔でシロを人形のように扱いダンスをさせている。
 それをマネして踊っている天使。
 うっ、俺もそっちに参加したい。

 ようやく気付いたのか、クロエさんは俺の方を見てくれる。

「あ、もういいわよ。合格」
「え?」
「え?」

 男性と俺の声が重なる。

「その子は合格よ。詳細はまた教えるわ。ただ、今言えることは、試験でおびえているようじゃ、私の部下にはいらないわ」

 さらっと、冷たい声で言うクロエさん。
 おおー、こわ。
                
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