うちの天使に近寄るな~影と風に愛された死神はうちの子を守りたいだけなんだ~

朱音 アキ

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第122話 ポーカーフェイスは諦めろ

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 冒険者ギルドでの用を終え、そのまま屋台巡りがしたいというテトモコシロの願いを聞き、屋台がある通りを練り歩いてる

 ん。あれは。
 シロが食べたいと言った屋台に並んでいると、見覚えがある女性が俺たちに向かって歩いてきている。
 テトモコも気づいているみたいだが、屋台の順番が進むのが優先で、まだかと前の人の背中を見つめている。

「ティナちゃんっ。だーれだ」
「んーん。だれー?」

 ティナの後ろから目を隠し、だーれだをやっている女性。
 いつもよりテンションが高く見えるのは隣にいるあいつのせいなんだろうな。
 
「おう、ソラっ。屋台巡りか?」
「そうだよ。二人はデート?」
「そんなもんかな?昼休みに一緒に屋台へきただけなんだけどな」
「ふーん」

 俺に声をかけてきたやつは少しだけ恥ずかしそうに言う。
 仕事の合間にデートですか。はいはい。幸せなことで。

「あれ?ルイさん?」
「あちゃー。ルイはわかるのね。私は?」
「んー。クロエ先生?」
「だいせーかい」

 ティナはルイの声でルイと判断できたみたいで、その関連性からクロエさんへとつながったようだな。
 答えられたクロエさんは嬉しそうにティナの頭を撫でている。
 
 改めて見ると、ルイとクロエさんは美男美女だよな。
 ルイはしゃべらなければどこかの皇子様のようなイケメンだし、今日はラフな格好とはいえ、いつもの地味な服ではく、ちょっとだけおしゃれさんだ。
 クロエさんは仕事着であろうローブを着ているが、元が良いため、仕事着でも綺麗に着こなしている。
 
 プロポーズ後の二人に会うのは二度目だが、一度目がThe緊急事態みたいな時で二人とも仕事モードだったからな。 
 ちゃんとした二人を見るのはこれがはじめてかもしれない。
 
「ティナちゃん魔法の練習はどうかしら?」
「ティナ上手になったよー。ドーラにほめられたのっ」
「頑張ってるのね。えらいわー」

 ティナが魔法を使うのが上手になったことを手振りあわせて説明している。
 必死に説明している姿が可愛いのか、クロエさんも楽しそうに聞いている。
 まあ、さらっとドーラとか口にしているけど、クロエさんならいっか。
 今更クロエさんに隠すようなことではないしな。
 隠すようなこと……

「あ、そーだ。ルイ。俺にポーカーフェイスを教えてくれ」
「いきなりなんだ?」
「なかなか深刻話なのだが。俺のポーカーフェイスがダメダメすぎてな。情報が筒抜けなんだよ」
「ソラがポーカーフェイスね……たぶん無理だぞ?」
「え?」
「お前は嘘をつくのが病的に下手すぎる」
「なぁっ……」

 うそだろ。俺が嘘をつくのが下手?
 上手いとは思っていないが、下手だとも思っていなかった。
 そもそも、この世界に来てからは嘘つく場面が多々あったからな。
 それを繰り返して上手くなってきたはずなんだけど……

「んー。なんかショックを受けていそうだが。ソラは嘘をつくのが下手。まぁー、だからこそポーカーフェイスを教えてもらおうとしているんだろうが。誰もかれもがポーカーフェイスが上手いとは限らないんだ」
「俺はポーカーフェイスはできないと?」
「今までしていたのがポーカーフェイスなら希望はない」

 無防備なところに抜き身のナイフでザクリと刺された気分だ。
 親友であるルイだから、繕わずそのまま伝えているのだろうが。
 俺もへこむときはへこむぞ?

 俺は帝都の屋台が並ぶ大通りに膝をつけ、顔を伏せる。

「わふわふ」
「にゃにゃ」
「俺はもうだめかもしれない」

 テトモコが俺の顔を舐めながら慰めてくれている。
 うー。さっきたべた肉の匂いがするよー。
 でも、ありがとう。

「助言するとしたら。隠すのをやめたらどうだ?」
「?隠すべきこともあるだろう?」
「別に大ぴらに言えと言っているんじゃなく、どちらでもとれるような反応でごまかせばいいということだ。嘘をつこうとすればするほど、ソラは顔にでる」

 俺は立ち上がり、ルイに向き直る。
 ふむふむ。嘘をつくとばれる。これは専門家のルイが言うならそうなんだろう。
 悔しいが認めるしかない。
 それにしてもどちらにもとれるようにごまかすか。そっちの方が難しい気がするんだが。

「なぁー、やり方がわからないんだが?」
「んー。むかつく相手に質問されたとしよう。そんな時、ソラなら正解を教えてやらないだろう?それに無視もしないはずだ。オレの中のソラなら相手をおちょくるように、どうなんだろうな。自分で考えてみろよとか言うんじゃないか?」

 ルイとはもっとちゃんとお話ししないといけないな。
 ルイの中での俺は一体どんな人間なんだよ。まったく。十歳の子供につける評価ではないぞ。
 ただ、悔しいことにルイの思考はあっている気がする。

 むかつく奴に正解なんて教えるわけもないし、無視もありえない。無視は相手に言語で負けた気分になるからな。
 だから、俺はルイが言ったような反応をするんだろうが……これがごまかす方法か?

「なぁー。なんか悪いイメージ持たれない?」
「そもそも嘘をつこうとしている時点でソラが相手側を好意的に見ていないだろ?それならそうゆう反応をして、相手に判断をゆだねるんだ」

 ほー。一理あるな。
 
「それで質問の内容が正しいと判断された場合は?嘘をつかなかったらそれが正しいことになるぞ?」
「ソラはどちらとも言っていないだろ?それはどこまでいっても相手側が判断しただけ。だから正しいかどうかなんて相手側にはわからないんだ。それに、質問内容がまずいことだとしよう。まぁー、いまだとわかりやすくドラゴンと友達なのかとかにする。それがばれてソラ達が不利になるのか?絶対にばれてはいけない情報は普通に暮らしていると意外に少ないものだぞ?それがどれぐらいソラの中にある?」

 確かに、ドーラ&フールと友達のことがばれてもあまり問題はない。
 ドラゴンとの付き合いについていろいろロゼッタさんとも話したが、俺たちと仲良くしようとする国が出てくるかもしれないし、そうでないかもしれない。
 出てきたとしても拒否すれば問題はない。そういう国はドラゴンを怒らすようなことはしないだろうしな。

 それに、絶対にばれてはいけない情報か。
 言われてみればないのかもしれないな。前にも言ったが。異世界転移者とばれたとしても、俺の生活は変わらないだろう。
 テトモコシロの種族?んー。別に問題ないな。面倒事が増えるかもしれないが消せばいい。
 火が上がりそうになる前に火種をつぶしてやる。

 問題はティナのことなんだけど。正直今更感あるよな。
 ばれないように名前は変えているが。帝都の冒険者ギルドでマクレンさんに会い、その時にギルド内で問題を起こしてる。
 その時、もちろん二階に冒険者ギルドの職員さんはいたし、フロアには上級冒険者が数名いた。それに加え、従魔パーカーでの宣伝。あれで結構ティナを露出させてしまっている。だからモンフィール公爵家が全力を出せばティナの情報ぐらい簡単に拾えるはずなんだ。
 もうすでに手に入れている可能性すらある。

 俺がティナを襲わせた犯人なら、ドラゴンに連れ去られた時点から情報収集に努める。
 そもそもドラゴンが出現して助けること自体がイレギュラーすぎるからな、そのことについても調べあげるだろう。
 他国といっても公爵家という力はすさまじいものがあるはずだ。
 だから、今更隠す必要がないのかもしれない。そんなことを最近思い始めたよ。
 
 モンフィール公爵家が暗殺しにくるなら俺たちが守る。ただそれだけ。
 今の生活となんら変わりがない。

 あと、天使が天使すぎて、もふもふがもふもふすぎて、日常生活でどこにいても目立つからね。
 どうしようもないことなのだよ。
 勝手にスッポトライトがあたり、且つ、全身から神々しさが溢れている。
 隠れながら生きるなんてことは初めから天使には向かなかったんだ。

「確かにないかも」
「だろ?だから基本的に嘘なんかつかなくていいんだ。相手にどちらか選ばせて判断させるだけ。ソラの場合だとそういう場ではおちょくる姿勢でいればいるほど、わかりにくくなるはずだ。お前は人を見下している時が一番楽しそうだしな」

 一発殴ってもいいだろうか?
 俺の相談に親身になって答えてくれるのは嬉しいし、その回答も理解ができるもので、さすがルイとほめたたえたいのだが。
 やはりこいつの中での俺の評価は良いものではない気がする。
 
 でも、否定ができないのがなー。
 やっぱり人を見下すのって楽しいし。
 
 日本でもそうだったよ。
 こいつはこんな考えしかできない。自分という小さな枠組みでしか物事をとらえられない。人の意見を受け入れる頭のスペースがない。
 喧嘩で手を出してくるやつなんかには、自分の怒りを言語化する能力がないんだなーとか思ってたわ。

 これは異世界でのソラ・カゲヤマではなく、影山空の時から受け継がれていることなのかもしれない。

「んー。納得はしてないが、理解した」
「お?ソラにしては意外に素直だな」
「理解できたからな。今度は肉体言語でお話ししようか?」
「やめてくれ。武闘大会優勝者とのお話合いは無事ではすまない」
「いつも思うけど、本気でそれ思ってないよね?」
「ん?」
「ルイ、人のこと化け物とか呼ぶくせに、俺に戦闘で負けるとか思ってないでしょ?」
「さー。どうだろうなー」

 ニヤニヤと人をおちょくるような顔を見せてくるルイ。
 なるほど。こういうことか。確かにどちらとも言い難い……が、むかつく。
 
「いてっ。なんだよクロエ」
「そこまでよ。ソラ君も理解したでしょ?」
「うん。勉強になったよ」
「ルイも十歳の子にどんな態度をとっているのよ」
「そいつは子供なんかじゃねー。俺は認めてない」
「はいはい。ほんと見ているこっちが恥ずかしいわよ」

 そう言いながら、クロエさんはルイの頭を叩いている。
 ははーん。これはしりに敷かれるタイプだな。
 安心しろ。その方が家庭はうまくいくらしいぞ。

「てめー。今絶対俺をバカにしているだろ」
「さー。どうだろうなー」
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