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第109話 不思議さんは怖い

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「かーみーさーまーがころんだっ」

 太陽の光で照らされた世界でティナの可愛いらしい声が響き渡る。
 木影の下で寝転び、目を閉じて、天使のここちよい声に耳を傾けている。襲ってきている睡魔に今にも抵抗するのをやめそうだ。

「きゅふっ」
「あっ、シロちゃん動いたー」
「きゅうきゅう」
「だめだよー。頭が動いてたもん。ティナ見たよっ」
「きゅうー」

 穏やかに吹く風により、ごみでも鼻にはいったのだろうか、シロはくしゃみをしてティナに動いた判定をされた。
 シロはティナの話を聞き、すこしだけ残念そうにティナの傍に向かっている。
 とぼとぼと歩き、体に比べると大きなしっぽをしょんぼりとさせながら。

 ティナの傍にはすでにモコがおり、ティナがモコのしっぽを握り、モコがシロのしっぽをくわえる。
 なんともおかしな構図だか、うちではたまに見る光景だ。
 少し離れたところにいるテトは微動だにせず、ティナが再度木に顔を向けるのをひたすら待っている。
 そんなテトを見つめるティナ。むーと、テトを観察しているが、テトは一ミリも体を動かさないだろう。
 
 テトは強いからな。こんな遊びでも全力なのだ。

 ティナは諦めたのか、顔を木へと戻す。

「かーみーさまがころ「にゃっ」んー、とまってー」

 テトはティナが木に顔を向けると、死角から近づき、ティナの背中にタッチ。
 テトのタッチが届くと同時に、テトモコシロはティナから離れ、走り始める。

「なんぽ?」
「にゃにゃ」
「いーち、にー、さーん、よーん、ごー、ろーく、ななっ。シロちゃんタッチ」
「きゅうー」


 すでにわかっていると思うが、うちの子たちはラキシエール伯爵家の庭でだるまさんが転んだをしている。
 まあ、この世界では神様が転んだらしいのだが。
 あまり神様を転ばせるのはよくないと思うのは俺だけなのだろうか?
 日本製の遊びか、この世界製の遊びか知らないが、もう少しいいやすい名前にしてほしかったな。
 神様が転ぶとか世界に異変がおこりそうだろ?怖すぎるわ。

 今度はシロが鬼役みたいだけど、シロはティナにタッチされると喜んで鬼役へ。
 どっちでも遊べれば楽しいみたいだ。可愛いくてよろしい。
 子供はそうあって欲しいな。

 ちなみにモコが一番につかまったのはティナが一人で寂しそうだったから。それに加え、しっぽをにぎにぎしてもらえるからかな?

 今日は、お茶会から数日たった日。
 カトレアさんの怒りの騒動後、俺に興味津々で迷惑をかけていた貴族は息をひそめ、離れた席でお茶会の反省会をしていた。
 数少ないが、俺に標的を定めず、うちの子に近づき、お菓子の話、食べ物の話。遊びについての話をしていた貴族たちはカトレアさんの怒りを買わず、うちの子たちの興味を獲得していた。
 まあ、このことについて評価するなら、勉強してきて偉いなと。

 俺、そしてカトレアさんを攻略するなら、遠回りだろうが、うちの子たちの関心をかうのが一番なんだ。
 誰がなんと言おうと、俺はティナが嫌いな人とは仲良くなれない。
 そんなことなど、少し俺に興味を持ち、調べればわかると思うんだけどな?
 そんな些細な努力、それを怠るようでは貴族としては二流だ。

 まあ、貴族の知識など持ち合わせていないのだがな。

 お茶会から数日たった今日。俺たちは武闘大会後の休息の延長戦に入っていた。
 その理由が、帝都に人がいすぎるから。
 ヴァロン帝国の建国記念祭は終了したと言っても、それにあわせて増えた人口はすぐには減らない。

 この世界には休日だけのために旅行に行く。なんてことはまずないからな。
 なんせ移動に数週間かかる場所から来る人もいるのだ。
 そんな人が数日で帝都から離れるわけがない。
 現代日本の優れた移動手段はドラゴンぐらいしか持ち合わせてないのだよ。

 そんなこともあり、人の視線、話声がうざすぎてな。帝都の屋台にすら行こうと思えない。
 
 暇を持て余している俺たちはおとなしくラキシエール伯爵家の家でまったりしているのだが。
 さすがに飽きてきたな。

「ソラ君。ネネさんが訪ねてきたのですが……」
「きた」

 俺が寝転んでいるところにサバスさんが来ると、俺に要件を伝えてくるが。すでにその要件は俺の傍にいるようだ。
 
「お久しぶりです。ネネさん」
「ん」

 顔を客人に向け、確認すると、そこには顔みしりのネネさん。色白でお人形さんみたいな無表情の顔。
 武闘大会で魔法戦をし、もふもふ愛好家としても仲良くなれそうな人だ。
 無口だけど、もふもふ、魔法への関心は高い。

 挨拶を終えたのだが、ネネさんは黙り込み、ただテトモコシロが遊ぶ姿を見ているだけ。

 なにをしにきたのだろうか?
 正直、友達というわけじゃないし、要件があるなら教えて欲しいのだが。

「えっと。ネネさん?今日はなんできたの?」
「いつでも触っていい。そういった」

 んー。そんなこと言った覚えもないんだがな。
 それに触る?テトモコシロにだよな?
 もしかしなくても要件はそれだけ?
 だとしたら普通にやばい奴なんだけど。おまわりさーん。ストーカーがいます。

「要件はそれだけ?」
「んーん。研究室見学も。でも今日は違う」
「んー。触りに来たの?」
「ん」

 口数が少なく、正直意味を理解できていないが。
 研究室見学。おそらく、研究室にきてほしいということなのだろうか。
 わざわざここに来なくても手紙でもかいてくれたらいいのに。

「ネネさんも遊ぶっ?」
「にゃ?」
「にゃん」

 ん?聞き覚えの無い、猫の鳴き声。
 あたりを見渡すが、他の生物の気配はない。

「にゃん?」

 視線をネネさんに戻すと、そこには、近寄ってきているテトに猫語という名の鳴きまねをしているネネさんの姿。

「わふっ?」
「わふわふ」
「きゅう?」
「きゅうきゅー」

 器用にモコシロのマネをしているみたいだが、やはりそれはマネだけのようで、その鳴き声に言葉としての意味はなさそうだ。

 もう、俺はついていけない。
 というか、初めからこの人にはついていけていない。
 口数が少なく無口な人形のような女性。

 それだけでもとっかかりが難しいのに、さらに奇妙な光景をみせられて、俺にどうしろと?
 ティナはテトモコシロのマネをしているネネさんの行為が面白いのか。ティナもマネをはじめ、よくわからない二人の会話する光景が目に映る。

 いや、天使が可愛いから、ネネさんには感謝するが、遊び方が独特すぎないか?
 せめてもふもふに触れろ。
 じゃないと、ちょっと怖いから。頼むから不思議すぎる行動はやめてくれ。

 お願いだから、わたし、もふもふ好きなんですー。きゃー、可愛いってな感じの反応にして?
 ただ近づいてきて、鳴きまねをする。そんな奇妙な光景を見せられると、いつかネネさんに後ろからナイフで刺されそうで怖くなるよ。

 不思議すぎると怖い。初めて人間に抱いた感情だ。
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