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第103話 告白は唐突に
しおりを挟む「──で、あそこがこの村の冒険者ギルドで、あっちが村長の家。それで⋯⋯って、アレン君聞いてる?」
「え?う、うん。聞いてるよ⋯⋯」
⋯どうしてこうなった。
勝手に名前を借りたら、数分後に本人と出会すだなんて⋯⋯。
こんな不運もあるもんなのか?⋯まぁほぼ自爆といっても過言じゃないのもあるが⋯。
くそう。
子どもが相手とはいえ、めっちゃ気まずいぜ。バチってのは、当たるもんだなあ。
「⋯そういえば、君はどこから来たの?」
「ゑッ!?あ~、クローネ!そう⋯クローネだよ!」
「へぇ!あの王都から!」
「そ、そうそう!アレだよ、お父さんの仕事の都合でさ!」
冷や汗を流しつつ、俺はなんとか誤魔化し続ける。
今の所、素性がバレる心配は無さそうだが、このまま質問を続けられると面倒だ。いつボロを出してしまうか分からないし、ここは手短に切り上げよう。
「じゃあ、僕は用事があるから⋯⋯またね!」
「あ!待って!」
さっさと立ち去ろうとした俺を、少年は呼び止める。
『なにか?』と振り返って見ると、そこにはどこか困った表情を浮かべたアレンの姿があった。
「その⋯さ。突然こんな事を言うのはどうかと思うんだけど、君って僕の友達に似ててね⋯⋯」
「⋯それで?」
「もう少しだけ、その⋯⋯お話したいな~なんて、思っちゃったりして⋯??」
照れる様に、少年は鼻の下を擦る。
あまりに健気なその声色に、俺は思わず黙り込んでしまった。
⋯まぁ確かに、この子のおかげで、本来の目的である村の観光ってのがスピーディに済みつつあるのはある。
何かしらの形で礼をしておかないと、野暮ってモンだろう。
ここは1つ、オトナとしてアレン坊やに付き合ってやるかぁ。
「──いいよ。もう少しだけ、ね」
「やったあ!⋯あ!じゃあ、どうせならさ!──⋯」
「⋯──そうなのよ!この子ったら、昔は好き嫌い激しくてねー!」
「や、やめてよ母さん!僕だって嫌だったワケじゃあ⋯」
ど う し て こ う な っ た ?
いや、まぁ⋯付き合うとは言ったよ?大人として、礼をしとかなきゃ良くないよなって事でな?
⋯でも、同時に『少しだけ』とも言ったハズなんだが?
どうして、ちゃっかり一緒に家族団欒で昼飯を食ってるんだ?
「ほら、アレン君。おかわりはいるかい?」
「あぁ⋯いただきます⋯⋯」
「あ。お父さん、僕にもちょーだい」
温かいオニオンスープを受け取り、俺はスプーンを手に取る。
呆気に取られる状況ではあるが、一つだけ確かな事があった。
このスープが、めちゃくちゃ美味いという点だ。
⋯いや、マジでマジで。
コク深さがありながらも、玉ねぎ本来の甘みと風味も感じる。
クタクタになった玉ねぎも美味いし、付け合せのパンとの相性も最高だ。
⋯⋯そういえば、幼女に拉致られてから、マトモな飯は食っていなかったけな。カーチャンの手料理が染み渡るぜ⋯⋯
(拉致って、言い方よ)
(んん?じゃあ、他になんて?)
(そりゃ、保護とか確保とか⋯⋯)
(1人を気絶させ、1人を脅しておいてか?)
ぐぬぬ⋯と、唸り声を出す幼女。
手荒い真似をしたという自覚はあるのか、反論が聞こえてくる事は無かった。
(──ところで、だけど)
(ん?どうした?)
(タイムリミット、忘れてないよね?)
(分かってるって。あと10分くらい経ったら、頃合いだろ)
脳内で会話を済ませ、俺は食卓へ意識を戻す。
勿論、時間になったら、ちゃんとお暇させてもらう気でいる。
⋯が、こうして美味いものを食いながら団欒に混じっていると、大事な目的すら見失いそうなもだな。
あーあ。
“世界がどうの~”とか、“人々がどうの~”とか、そういうのに縛られないで転生したかったなー。もっと気ままに、自由に世界を旅したいもんだなーあ。
(──そうだね。君なら、きっとできるよ)
(オーガを倒しさえすれば、か?)
(まぁね⋯。全てに片が付いたら、色んな場所に連れて行ってあげるよ)
(⋯ハッ、遠慮しとくぜ。俺は、俺の足で歩きたい)
スープを口に運び、俺は少しだけ俯く。
その時の自分がどんな顔をしているか、俺は気付かなかった。
そんな俺の様子に疑問を持ったのか、アレンが俺の肩を叩く。
そして一言、
「なんで笑ってるの?」
そう言って、俺を見つめた。
⋯⋯どうやら、俺は笑っていたらしい。
と言っても、心当たりはあるんだが。
こう⋯⋯なんというべきか?俺は、転生当時からオーガに『使命』という『役割』を与えられていた。つまり、俺は常に自由を奪われていた状態にあった。
だから、俺の中には、ずっと“自由を求める意思”があった⋯。
何者にも縛られず、どんな物事にも屈しない⋯そんな自分への欲求⋯⋯渇望が。
(──何者にも縛られない、ね⋯。オーガの陰謀には勿論、私に付き合う気もなってワケだ⋯)
(⋯そーゆー意味ではないって。『俺自身の目的』に、手助けとかは要らないって事だ)
ふふふ。
こうして言葉にしてみると、堪らなくワクワクしてくるぜ⋯。
俺を縛っているオーガをブッ飛ばすのもそうだし、その後に、解放されてから何をしようかと考えるのもな⋯!
「⋯⋯ぇ!ねぇ!アレン君!」
「ん、あぁ⋯。なんだ?」
「なんで1人で笑ってるの?」
「いや、少し考え事を⋯⋯ね」
不思議そうに首を傾げるアレンに、俺は微笑んでみせる。
つい、自分の事で熱くなってしまった様だ。大人気ない大人気ない。
「⋯アレン君、大人みたいねー」
「ねー。ホントに僕と同じ6歳なの?」
「いや、貴方も大概だけどね⋯⋯」
「ん?お母さん、何か言った?」
『いいえ』と首を振り、アレンの母は彼の頭を撫でる。
彼女の言う通り、確かにこのアレンという少年は6歳とは思えない節がある。⋯特に、この異様な魔力は興味深い。
下手したら、ツエンの半分程もある魔力量。
そして、魔力の⋯⋯なんというか、『年季』が独特だ。
魔力感知っていうのは便利なモンで、しばらく使っていると、相手の魔力量だけじゃなく『意思』や『感情』も読み取れる様になってくる。
『意思』に関しては、その強さにもよるが、相手が動こうとしている方向へと、先に魔力が向くので、次の行動の予測が出来る。
『感情』については、同じくどれ程まで強いのかにもよるが、“怒り”であれば暴風の様に感じ、“哀しみ”であれば逆に静かに感じる⋯⋯
と、いった具合に、『相手を感じる』事が可能なワケだが。
ここ最近、主にアリアとの出会いが要因で、相手の大体の『年齢』も分かる様に俺はなった。
そして、その上でこの少年だ。
洗練されている⋯という訳では無いが、見た目に似合わない奥深さを感じる魔力を持っているな⋯。
「──アレンは、何か魔法を学んでいるの?」
「うん!明日から『帝都』の学校に行く予定なんだ!」
「テイト⋯?王都みたいな所の事?」
「そう!⋯⋯まぁ、凄く厳しい学校だから、しばらくお母さんとお父さんに会えなくなっちゃうけど。⋯でも僕、学者になりたいからさ。頑張るんだ!」
真っ直ぐな眼差しで、アレンは話す。
彼の笑顔の裏側には、俺では計れない悲しみがあるのだろう。
⋯親を残して遠くに行ってしまう気持ちは、よく分かる。
「それで?どんな学者さんになりたいの?」
「うーん。『魔法の作成』を主軸に、『ゼットエイティー理論』っていうのを扱える様になる⋯⋯つもりっ!」
「へぇ。(よく分かんないけど)凄い学者を目指しているんだ!頑張ってね!」
「⋯⋯まぁ、『学者には、なってからが本番』っていうのはあるけどね⋯。でも、絶対になるんだ!僕!」
うーん、凄い子だな。
俺が同い年くらいの頃は、まだヒーローとか目指していたぞ。
ギリギリ警察とか消防士とかだったかもしれないが⋯それも、『カッコイイから!』って理由だったろうしなぁ。
凄い子だぜ、全く。
「──まぁ、本当なら、学校に出発するのは今日だったんだけどね。昨日、村の周辺に魔物がいる!って騒ぎになってね⋯」
「⋯⋯⋯⋯え?」
ドクンと、心臓が脈打つ。
俺は、即座に幼女へ意識を向けた。
(⋯幼女)
(⋯しまった。不味い事になる)
──莫迦な。
幼女は、オーガ自体の監視や追っ手を避ける為に、俺と自身の周囲に結界を張っていた。周囲からの魔力を含めた『認識』を妨害するソレは、目に見えないが常に展開されていた筈だ。
それなのに、俺の存在に気付かれた?
単に、別の魔物が現れたってだけだろうか⋯⋯
(⋯いや。この子が言っているのは、君の事だ)
(結界が解けたタイミングでもあったのか?)
(まさか。ずっと使っていたよ)
(じゃあ、どうして──)
俺の問いに、幼女が答える間もなく、俺は気付いた。
可能性としては、コレしか考えられない。
(──ある夜、商人の馬車が俺達を追い抜いていった日が⋯)
(うん⋯その馬車はこの村へと向かう途中だったんだろうね。
無論、結界によって『私達の姿』は見えてはいなかった筈だ。
⋯⋯となると⋯)
──足跡、か。
(どこまで話しが広まっているか分からない⋯。急いでこの村を出るよ⋯!!)
(ちッ!スマン、幼女。俺の我儘に付き合わせ──)
匂い。
焼きあがったパンの匂いが、俺の鼻を抜ける。
とっくのとうに、パン屋は開いていた様だ。
「どうしたの、アレン君?急に顔が⋯」
「悪い、アレン!俺もうここを離れ──」
(いや。もう、遅い)
俺の両手が、即座に天井へ掲げられる。
肉体の主導権を、幼女が握ったらしい。つまり、幼女が対処しなければいけない事態が起きるという事実が⋯
──ッッ⋯ドオオォォォォオオオオオォォオ────ンンッッッッ!!!!!
世界が、爆ぜた。
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