上 下
91 / 134

第90話 尊敬に値する

しおりを挟む

 冒険者ギルドから出てすぐにモコは帝都の外を目指す。
 もちろん、天使、もふもふ、優勝者の三大特級物の登場に街中の視線は一気に俺らへと向けられる。
 慣れては来ているが、やはり少しうざい。

「テト何人ついてきている?」
「んにゃー」
「六人か。興味ほんいか?俺は敵意を感じないけど」
「にゃ」

 モコに乗って進んでいると、後ろからついてくる気配を感じる。
 まあ、街中をどうどうと歩いている俺らが悪いのかもしれないが。
 ほとんどの人はついてくる様子はなく、ただパレードの見世物を見るかのように見てお話ししているだけだ。
 だからこそ、余計にその行動と視線に敏感になってしまう。
 テトも敵意を感じないようなので、問題ごとではないと思うが。

 とりあえず警戒しつつも無視を貫き、帝都の門にたどり着く。
 そのまま、帝都の冒険者ギルドで受けた依頼の受注書を提示し帝都をでる。

「んー。帝都からでたけど、やっぱりまだついてきてるよな?」
「にゃー」

 このままモコが走れば振り切ることは容易だが、迷いの森で探されるのもめんどうなんだよな。
 敵意も感じないのに、つかず離れずの距離でただ視線だけを感じる。
 んー。帝都を出てまで追いかけてくるのは予想外だな。どうしたもんかね。
 これはこちらから接触してみるか?

 モコに指示を出し、来た道を戻り、視線の主である六人の元へと向かう。
 いきなり反転してきた俺らに少し驚いているようだが、より視線が強くなったような気がする。

「ねー。ついて来ているみたいだけど、俺たちになんか用か?」
「い、いえ。用事というほどの物ではございませんが。そ、その。従魔ちゃんを見ているとそのまま時を忘れ、帝都の外まででてきてしまいました」

 この男性は一体何を言っているんだ?
 おそらく六人組のリーダーであろう五十代ぐらいのおじさんが、従魔ちゃんという単語を発するのは少し怖いぞ?
 不審に思いながらも、いまだ敵意のかけらもなく、ただ俺たちを見つめいる集団。
 いや、正確にはテトモコシロに熱い視線送っているような気がするが。
 目的はなんなんだ?

「はあ。で、なんで俺たちをつけてきたの?」
「それが見ていたら、ついて来ていたとしか」

 だから、なんでそんな状況になるんだよ。
 頭おかしいのか?

「えっと。誰か代わりに状況を説明して欲しいんだけど」
「では、私が。天使の楽園のみなさん申し訳ありません。私は従魔愛好家の会員番号八、ローズと申します。ここにいる他の人も従魔愛好家の会員でして、たまたま最近帝都で話題になっている従魔を見かけたものですから。無意識に体が追いかけていました」

 おじさんに代わり、オレンジ髪の女性が話してくれるが。
 結局わからないんだけど?
 とりあえず、この集団が従魔愛好家の会員なのはわかった。
 そして敵意がなく、問題を起こす雰囲気がないことも。
 ただ、最後の文章が謎なのだ。無意識に体が追いかける?
 
「あなたたちのことはわかりました。では、俺たちには特に用事がないと?」
「いえ、ないことはないのですが、すでにお手紙をラキシエール伯爵家へと送りました。ですが口頭でも伝えさせてもらいます。今度従魔愛好家の集いが王宮で開催されるのですが参加されませんか?」

 従魔愛好家の集い。噂では聞いていたがそんなものは存在するんだな。
 正直俺は行きたい。
 いかにも貴族が来そうなイベントだが他の従魔も来るんだろ?
 さすがに大きい従魔は不参加だろうが、さまざまな魔物に会えるかもしれない。
 そんな機会めったにないんだ。これは参加一択。

「いきたいっ」
「あー、そうだね。俺たちもぜひ参加したいよ。もちろん他の人の従魔もくるんだろ?」

 魔物好きなティナも行きたいようだ。
 それなら行くしかないだろ。天子様がご所望だ。

「それはありがたいお返事です。会員もさぞ喜ぶでしょう。従魔と生活されている方は従魔を連れてくると思います」
「ん?従魔愛好家なのに従魔と生活していない人もいるの?」
「はい。シングルナンバーを与えられた私たちは従魔と生活していません。私たちが従魔と人生を共にすると仕事に手がつくなくなりますしね。それに、従魔は存在自体が愛しく尊いものです。一匹の従魔を愛するのではなく、全従魔に愛を注ぐ。そのために私たちシングルナンバーは日々従魔のために政策を話し合っているのです」

 ローズさんはものすごい熱量で従魔愛を話す。
 これが本物の従魔愛好家なのだろうな。
 俺はモフモフ好きなただの少年なのかもしれない。もちろん他のもふもふも好きだが、やはり一番はテトモコシロになってしまう。
 この人達はあえて一番を作らず、すべての従魔のために日夜活動している。
 ここまでいくと尊敬に値するな。
 
 俺は影収納からすっと財布を取り出し、白金貨三枚をローズさんに手渡す。

「ソラ君。これは……」
「あなたたちの生きざまに感銘を受けました。ぜひこれからも従魔愛好家としての活動に専念して欲しい。それは従魔のために使ってください。武闘大会で手に入れたお金の半分ほどですが、これは従魔を愛するあなたたちに俺は使ってほしい」
「ですが、武闘大会で優勝までされて手にしたお金を……」
「いいのです。俺にはあなたたちの変わりができない。俺はうちの子たちを幸せにするのが精いっぱいなんです。だから俺の代わりにすべての従魔を幸せにしてあげてください」

 手に白金貨を握りしめ涙を流すローズさん。
 よく見ると後ろの男性陣も目に涙を浮かべている。
 
 これでいいんだ。言った通り俺にはうちの子たちしか見えないからね
 従魔のことを思い、すべての従魔のために活動ができる。
 そんなケモナーを俺に推させてくれ。
 金額など問題ではない、ただ推したい。それだけなんだ。

「ありがとうございます。これはすべて従魔のために。愛ある従魔愛好家の活動ありがとうごあいます」

 一斉に頭を下げる愛好家たち。
 うむうむ。感謝したいのはこちらも同じだ。
 従魔屋で楽しく一週間生活させてもらったからね。この人たちがトップにいるのなら従魔愛好家の未来は明るい。
 それがわかっただけでもいいのだ。
 最初は変なやつらに追いかけられたと思っていたがいい出会いだった。
 すべての出会いに感謝を。
 
「すみません。最後に天使の楽園の従魔ちゃんたちに触れることを許していただけませんか?」
「ああー。もちろん。いいよな?」
「にゃっ」
「わふ」
「きゅう」

 テトモコシロも話を聞いていて、ローズさんたちに悪い感情を抱いていないようだ。
 いいよーと元気に鳴いて返事をする。

「いいみたいです」
「ありがとうございます。では皆さん」
「「「「「はい」」」」」

 カバンから瓶を取り出し、その中の液体を手に振りかける。
 そして真っ白なタオルで手をふき、俺たちに視線を向ける。
 いやいや、そこまでしなくても大丈夫なんだけどな。
 手なんか洗わなくても普通に綺麗だろうし。そんぐらい森で数日生活する俺らは気にしないんだけど。

「聖水で手を浄化しました。これで不浄なものは取り払ったと思います」
「聖水……どうぞ」

 ちょっとこの人達の対応にも疲れてきたので、そのままテトモコシロを向かわせる。
 聖水なんて初めて聞いたが、テトモコシロも嫌がってないし、まあいいだろう。

 恐る恐るうちの子たちに手を伸ばす従魔愛好家の皆さん。
 慎重な触り方で、少し気にしすぎなような気もする。

「こうしたら気持ちいいんだよ」
 
 ティナはローズさんたちに触り方を伝授しているようだ。
 まあ、うちの子たちが喜ぶ触り方だけどね。
 他の従魔でも通用するかもしれないし、ぜひ身に着けて帰って欲しい。

 そこから数分ほどもふもふを堪能したローズさんたちは。満面な笑みで帝都に戻っていった。
 門にできている長蛇の列の後ろに並んだので、ここから数時間待つのだろう。
 
 ほんと何も考えず俺たちを追いかけてきたんだな。
 そこまでくると少し怖いが、まあ、尊敬できる人たちだ。
 ちょっとの変人具合は許してあげよう。


作者より。
本日より、第二回次世代ファンタジーカップが始まりました。よくわからず、男性主人公だからいけるんじゃね?っと安易にエントリーしてみました。
最新話まで読んでくださっている皆様には感謝しかありません。
これからもうちの天使の応援、愛読をよろしくお願いします。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...