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第79話 氷の世界と風

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「ん。ダイヤモンドダスト」

 ネネのその一声で、ステージ上の水分が結晶化され、キラキラした世界が作り出される。
 先ほどまでと違い気温もガクっと下がっている。
 やはり、周りの水はネネが生み出したものだよな。
 風を纏っていてよかったよ。
 じゃないと、肌が凍らされるところだったよ。
 それにしても綺麗な光景だ。
 
 昼間の闘技場に振りそそぐ太陽の光で、キラキラと光り輝く、氷の結晶。
 ダイヤモンドの名前どおり、観客からは守護結界の範囲がデカい宝石のように見えているだろう。
 てか、この世界にダイヤモンドってあるのかな?これも転移してきた日本人のせいか?
 節々に感じる地球感。ほんとみんなやりたい放題しすぎだぞー。

 さて、この気温の中、長時間いるのはまずいな。
 視界も阻害されつつあるし、時間をかければかけるほど、相手の独壇場になる。

 綺麗な魔法も見れたし、俺もお返しに魔法をあげないとな。
 風魔法で場外にするのもテトモコに怒られそうだし、今回はしかたがない。
 久しぶりに切り刻むか。

「ウィンドカッター」

 緑色の風の刃をネネに飛ばす。

「ん?」

 それを横に動き、簡単に避けるネネ。

「これがよく見る風魔法でしょ?」
「ん」
「じゃーこれはどう?カマイタチ」

 数枚の風の刃を生み出し、切り刻むイメージ。
 この世界にきて初めて発動させたカマイタチとは違い、もちろん威力は落としている。
 あの時は全力ぶっぱだったからね。それだと守護結界がどうなるかわからない。

「えっ?」

 ネネは反応すら見せず、縦横無尽に切り刻む風の刃に切り裂かれ、血まみれの姿を見せた瞬間にはステージ上から姿を消していた。

「しゅーりょー。勝者はソラ君です。これで明日の決勝戦は第三皇子レオン・デ・ヴァロン殿下と死神ソラ君のカードとなりました」

 メロディーさんの終了宣言が聞こえる。
 これで後は一試合だけだな。予想通りだが、レオン殿下との試合は楽しみだ。
 今回は魔法だったが、明日は剣と大鎌の近接勝負だ。
 どれだけ近接で戦えるかの指標にもなるし、勉強させていただこう。

 ステージから降り、うちの子たちが待っているところに歩いていく。

「まって」
「ん?あー。ネネさんお疲れ様です」
「最後の魔法なに?」
「風の刃で切り刻んだだけですよ。透明な風の刃でね」
「透明……」

 最後に見せたカマイタチは無色透明な風の刃で攻撃しただけだ。
 俺は風魔法を研究している時に疑問に思ったのだ。
 なぜ、アニメや小説の魔法は色とりどりの魔法が多いのか。なぜ風魔法が緑色で表されることがあるのか。
 普通に考えたらおかしいだろ?
 風なんて目に見えるわけがないんだ。風の刃が見えるのがおかしい。

 実際アニメや漫画小説ではそれを読者に伝えるために、表現されているだけに過ぎない。
 だから俺の使う魔法のほとんどは緑色の風を使用している。
 正直その方がイメージしやすいことも理由に上がるが。
 今まで見てきたアニメの魔法をイメージしているからこそ色がつく。

 じゃー、無色透明な風魔法は使えない?
 答えはNoだ。イメージさえできれば透明な風の刃も作ることができる。
 ただ、操作がしにくいという難点はあるが、無造作に風の刃を動かすだけなら問題はない。
 風魔法を使用し続ければもっと上手に透明な風を操作できるかもしれない。
 だがまだ、魔法を使いだして三年もたってないからね。これはどうしようもない。
 イメージだけでできる範疇じゃなかったんだよ。何ごとも練習あるのみって感じ。

 まあ、元が透明な風だからこそできる技ではあるけどね。
 もし火とかが透明になるなら、それはもうお手上げ、強すぎ問題です。
 そんなことはないと思いたいが、ファンタジー世界だからな。ありえないとは断定はしない。
 ただ、ネネの反応を見る限り、人で透明魔法を使う人はいなそうだが。

「風魔法……透明……面白い」
「そうでしょ?魔法は無限大です」
「ん。もっとがんばろう」

 色白の顔を俺に向け、水色の瞳を輝かせて決意表明をするネネ。
 すこしだけ顔が笑っているように見えるのは気のせいではないかもしれない。
 まあ、がんばろうって言っているけど、武闘大会でここまで勝ち上がれるならそうとう上位の存在だと思うんだけどね。

「ネネさんは普段何をしているの?」
「仕事」
「んー。その内容」
「氷魔法の研究」
 
 俺の質問に的を得ていない回答をするネネだが、どうやら研究者らしい。

「魔法は無限大……君も研究しにきて」

 そういって名刺みたいなものを渡してきた。
 なになに。ネネ 宮廷魔法士第九席 第二研究所。
 ほー。あの人王宮で働いている人なのか。
 それに第九席、なかなか魔法士世界で上位に存在する人なんなんだな。
 権力の巣窟にいるわけだが、権力のけの字も感じなかった。

 ただ、研究者と言われれば、研究者らしくもあったのかもしれない。
 魔法とモフモフ意外に興味を示さす、無口、マイペースな人。
 研究者に対する偏見も入っているかもしれないが。俺のイメージには当てはまる。

「ソラ―おめでとう。キラキラ綺麗だったー」

 うちの天使がモコから飛び込んでくる。
 キラキラは俺の魔法ではないけどね……
 
 ふわりと天使を受け止め、抱きしめていく。この時間が俺の癒しです。

 今回はテトモコも満足しているみたいで、俺に各々の体をすりよせてくる
 俺はこのためだけにこの武闘大会に出たと言っても過言ではない。
 どんな物や勲章よりも、俺にはこの笑顔の方が価値があるように思える。
 
 明日の試合は昼をすぎてからなのでたっぷり休憩はとれる。
 どうせ一試合だけなのだからそのままやってもいいのだが、どうやら皇帝からのお言葉もあるらしく時間がかかるらしい。
 まあ、決勝戦だから盛大にするのかな?
 すぐに終わらさないように頑張らないとな。
 正直、近接の勝負だから時間のかけようもないと思うんだけど……

「わふ」
「にゃー」
「きゅうきゅう」
「お腹すいたっ」

 うちの子たちはみんなお腹がすいたみたいなので、早くラキシエール伯爵家に帰りますか。
 屋台はごめんだけど、行くつもりはない。
 絶対に囲まれる。別に問題はないが、めんどくさいやつに絡まれるとめんどうだからな。
 リスク管理は大事。
 ラキシエール伯爵家の馬車が来ているはずなので、馬車で直帰だ。

 貴族専用の馬車乗り場でラキシエール伯爵家の馬車に即座に乗り込む。
 まだ、多くの貴族の馬車があったので、絡まされる前に退散だ。

 心配も杞憂に終わり、何事もなく、馬車はラキシエール伯爵家についた。
 
「お疲れ様です。ソラ君」
「ただいま。サバスさん」
「今日も全勝したようですね。話はフィリアお嬢様から聞いております」
「なんとか勝てたよ。明日で最後だから優勝してくるね」
「楽しみにしていますね。明日は奥様も観戦に行くので、盛り上がる試合を期待しています」
「カトレアさんが?」
「はい。武闘大会でも貴族席ではお茶会のようなものですからね。情報交換は必要です。それにラキシエール伯爵家の客人が決勝に出るのですから行かないわけにはいきません」

 んー。迷惑かけてないだろうか。そこだけが心配だ。

「伯爵家に迷惑かけてないかな?」
「大丈夫ですよ。なんならソラ君たちは人気で皆さん指名依頼をしたいようですから」
「それは……困るなー」
「でしたら、おそらく奥様がお茶会を開くと思いますので、そこに参加してくれるとありがたいですね」
 
 うげー。お茶会。
 何をするか知らないけど、あまり貴族社会に踏み込みたくないんだけどな。
 でもカトレアさんの顔を立てるべきだろうな。
 お世話になっているし……

「わかりました。カトレアさんに一、二回ならと伝えてください。それ以上は慣れていないので疲れてしまうかと」
「一回だけだと思いますので大丈夫ですよ。一度顔を見せただけでも周りの貴族は落ち着くものなので安心してください」

 一度有名人に会って、次のお茶会で話すだけでいいのだろう。
 まあ、有名人といっても単なる十歳の子供だしね。そんなに興味もないんじゃないかな?。
 ただ見栄をはりたいだけ。 貴族のミーハーには困ったものだ。
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