上 下
74 / 134

第73話 煽るのダメ

しおりを挟む
「ソラ、もうすぐだねっ。楽しみ」
「がんばってくるよ」
「おう、ソラの戦いしかと見させてもらう」
「ゼンさんもうちの子たちをよろしくお願いします」
「まかせろ」

 先ほど、Eグループの試合が終わったので、次は俺の出番だ。
 ゼンさんは今日、解説の仕事はないみたいだが、俺の試合を見るために待っていたそうだ。
 予選はどうやらステージ近くにうちの子たちを連れていけないらしいので、試合の鼓舞をしにきたゼンさんに見守ってもらうことにした。
 考えてみると、五十人近い人の家族をステージ近くにいさせられないよな。
 
 俺は観客席から降り、ステージの待機室へと向かう。

「緊張しているっすか?こういうのは楽しんだ奴が勝っす。」
「してないよ。んー、本戦は楽みだな」
「俺っちたちには興味ないと。面白いっすね。俺っちを舐めてると足元すくうっすよ」
「まあ、頑張って三人に残ってよ。本戦で戦おう。予選でヒロさんと戦うつもりはないよ」
「いいっすね。俺っちの右腕がうずきだしたっす」

 そんなやり取りを狭い待機室で行っている。
 案の定、周りからの視線が強くなるが、そんなものは無視だ。
 文句があるなら力を示せ。
 視線を気にせず、案内人が来たので一番乗りでステージへと向かう。

 ステージ上に上り、周りを見渡すと人の多さにすこしびびる。
 アーティストやスポーツ選手は毎日こんな世界を見ているんだろうな。
 うちの子たちと生活し始めて人の視線には慣れたと思ったが、やはりここまでの数になると緊張するもんだな。

 うちの子たちがいるあたりを見ると、ティナが手を振っている姿が見える。
 テトモコシロも大きな鳴き声を上げ、声援してくれている。
 これだけでどれだけ力が身に宿るか。声援の大事さを身に染みて感じるよ。
 天使たちに応え、手を振っておく。

 ステージ上を歩き、ステージのど真ん中に座り込む。
 さぁー、うちの子たちの期待に応えて華麗に予選を終わらしますかね。

「さぁー、これから予選最終グループであるFグループの試合が始まります。長時間になっていますが、皆さんまだ声はだせますか?」
「「「好きだぁー」」」
「皆さんまだまだ元気のようですね。そのまま最終試合も声援よろしくお願いします。あれ?少年が座り込んでいますが、あれは……あー。ありました。ソラ君ですね。十歳にしてBランクの冒険者。死神の二つ名を持ち、天使の楽園の守護者。メロディーが今大会で一番気になっている少年です。ソラ君楽しみにしてるよー」

 司会進行役のメロディーさんが紙を手に取り、俺について話していく。

 個人情報保護はこの世界にないのだろう。
 もう、このことに関しては気にしないことにするが、最後らへんの言葉は余計だったかな……
 ほら、俺の周りに出場者が増えてきたじゃないか。
 あんた人気者なんだからもっと発言に責任を持ってほしい。
 気になっているとか、声援とか、あんたに好意ある男性が聞いたらどうなるか。
 少し考えたらわかるだろ。

「おい、ガキ。メロディーちゃんのお気に入りかどうかしらないが、俺が殺してやる」
「いや、俺にやらせろ。子供だからって容赦はしない」

 ほらー。ゴキブリが寄ってきたじゃん。
 こういうのは何もしなくても増え続けるんだから変に煽って増やしちゃダメだよ。
 俺は周りの声をシャットダウンし、問題発言したピンク髪を睨みつける。

「あら、ソラ君も元気に見つめ返してくれてますね。ソラ君可愛いよー。十歳は武闘大会最年少よ。頑張ってね」

 不満を込めた睨みも効果がなく、さらに男性陣を煽る結果になってしまった。
 メロディーさんはペロリと舌をだす仕草をしているので、おそらく確信犯だ。
 あーいうアイドルは性格が悪いやつが多そうだな
 どーせ。男性陣の反応を楽しんでいるのだろう。
 はあ。見た目と作られた性格などに騙されないようにしないとな。

「では、皆さんのやる気も上がってきたみたいなので開始します。よーい。始め」

 誰がやる気をあげたのか……
 やれやれ、メロディーさんの開始の合図と同時に周りを囲んでいる数人が一斉に近寄ってくる。
 どの顔からも殺気を感じるが、こんなやつらの殺気など死の森の魔物に比べるとそよ風みたいなものだ。
 ただ、そよ風といっても気に食わないのは変わらない。

「サイクロン」
 
 ステージの真ん中で座り込んだまま、風魔法を発動し俺を中心に竜巻を発生させる。
 その渦を大きくさせていき、どんどんとステージを包み込んでいく。
 近寄ってきたやつらは初め、風に耐えていたが、威力を増す風に耐え切れず、徐々に飲み込まれていく。

 どうやら守護結界は半円状らしく、上空にも場外判定があるらしい。
 竜巻に飲み込まれていく出場者は上やステージ横の守護結界の判定に触れ、場外判定となり、ふわりとその横の地面へと落ちていく。
 これは観戦をしている時に知ったのだが、横に吹き飛ばされて退場した人はふわりと地面に落ち、ケガをすることはない。
 勢いよく場外に飛べば、観客席の壁に当たりケガをすると思ったのだが、ちゃんと想定してあったようだ。
 あまり血みどろの死闘をティナに見せたくないからこそ考えた竜巻戦法。
 
 これであれば、風の切り傷は多少あるだろうが、ほとんど血が出ることなく退場により戦闘終了だ。

「これは……Fグループの本戦出場者はソラ君だけですね」

 広範囲の風魔法を見たメロディーさんは動揺しながらも、静まり返った闘技場で試合終了の宣言をする。
 ステージ上は俺が座っているだけ。近寄ってきていたゴキブリや、端の方で戦闘をしていた出場者全員がステージ上から姿を消していた。

「「「おおー」」」

 メロディーさんの宣言から少し間が空き、闘技場は人々の爆音に包まれる。
 声の数が多すぎて聞き取れないが、どれも俺の戦闘に興奮しているみたいだ。

「ソラ―」

 そんな喧噪に包まれている俺だが、ふとティナの声が耳に入る。
 うちの子たちがいる方を向くと、大きく手を振りながら、俺の名前を呼んでいるようだ。
 飛び跳ねているティナの体をモコがしっぽでつかんでいるのが見える。
 
 どうやら、うちの天使を満足させることはできたみたいだ。
 これだけでもこの武闘大会に出た意味があったと言えるよ。
 天使が輝いているように見えるのはティナが笑っているからか?
 あー。目の保養。癒し。
 ありがとうございます。
 
 興奮しているうちの子たちに手を振り、声に答える。

「僕くん。強すぎっすよ。なんもできなかったっす」
「あー。ヒロさんごめんね。最初から予選をまともに戦うつもりなかったからね」
「そりゃー、緊張しないわけっすね。今回は優勝譲るっすよ」
「ありがと」

 ヒロは悔しい表情を見せていたが、そのままステージから離れて行った。
 他の出場者の中には睨んでくる者もいたが、ほとんどの者はそそくさとステージを去っていった。
 
 正直全員を場外にできるとは思っておらず、数人は残ると思ったんだけど……
 ヒロさんも強者感を醸し出してたし、魔法を使える人なら何かしらの対処をしてくると思っていた。
 想定より、Fグループのレベルが低かったのだろう。
 実際やってみないとわからないが、各グループの本選出場者レベルなら対処できたはずだ。
 口だけヒロだったのかな?

 それに試合後に意外と俺につっかかってくるやつはいなかったな。
 まあ、力量差を感じ取れる人が多かったのかな?一応、帝国最強を決めるという謳い文句で開催されているし、それなりにみな強者なのだろう。
 
 今年は俺と同じグループだったことを悔やんでくれ。それか運がなかった自身を恨むんだな。

 さて、うちの天使がお待ちの様子なので俺も戻ろう。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...