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第70話 ティナは気遣いができる子
しおりを挟む「奥さんは大丈夫だったか?」
病院から帰ってきたウェルネルに社長のカルセドニーは心配そうに声をかけた。
「ええ、おかげさまで大丈夫でした。ヨンキョクさんに助けられて盗られた物も返ってきました。捻挫してしまったんですけど、ヨンキョクさんが家まで送ってくれるというので」
ウェルネルは汚れた軍手をはめながら安心の笑みを浮かべた。
「ヨンキョク? 」
「はい。なんか調査で城から来てるそうです」
「……そうか」
「社長」
社長秘書のロドが作業場に現れた。
「社長、お電話です」
「ああ、今いく。ウェルネル、今日は早く帰れよ」
「はい! ありがとうございます! 」
カルセドニーの背中にウェルネルが頭を下げる。そんなウェルネルをロドは冷めた目で一瞥すると、カルセドニーと共に作業場を後にし、社長室に入った。カルセドニーは簡単な会話を終わらせると電話を切った。
「振り込みの確認だったよ」
「そうですか。それより社長、明日の件ですが延期なされた方が。スキャが言っていた通り城からの四局がうろついているようですし」
「山の工事のことだろう。慎重にすれば大丈夫だ、ロド。明日で終わるのだ。明日で全てが。ウェルネル達には感謝しないとな。申し訳ないが」
カルセドニーの安心したような横顔とウェルネルのさっきの笑みを比べ、ロドは色が違うと思った。どちらの色もロドは目に映したくなかった。
「何するのー? 鬼ごっこ? 」
「駄目だ。鬼は今あれだ、里帰り中だから駄目だ」
シズと手を繋いで歩くシリマは、えーと不満そうに背中をのけ反る。
「お兄さん、鬼やってー」
「お兄さんじゃなくてお姉さんな。それにお姉さん鬼はできないんだ。心が清らか過ぎて」
「冗談は脳みそだけにしてください」
カザンが呆れたため息を吐く。
「子連れで調査できませんよ。どうするんですか? 」
「僕、ちょーさ手伝うよ! 」
シリマはきらきらした顔する。
「お気持ちだけで結構です」
カザンはそれを容赦なく遮った。シズはどうしようかと辺りを見回すと、昨日の絵描きが目に入った。
「よし。あそこに預けよーぜ」
シズはシリマを抱えると絵描きのじいさんの所まで行く。
「あんたまた来たのかい? 」
「今日はこの子描いて。一時間ぐらいたっぷりと。後で迎え来るから」
「えー。嫌だー。ひとりやだー」
シリマはじたばたし出した。
「じゃあ僕ひとりだけ調べに行きます」
「十五分あったら終わるから二人ともおりなさい」
絵描きにそう言われ、結局絵が描き終わるまで昨日みたいに、シズは木箱に座って待つことにした。
「なんですか、この無駄な時間」
預ける作戦が上手くいかず、カザンが不満をシズにぶつける。
「思った通りにいかないことは沢山あんだよ」
「僕のパパはね、カルセドニー工場で凄いお仕事してるのー」
「ほお、それは凄いな」
シズ達の気持ちをよそに、シリマと絵描きは楽しそうに話していた。
「カルセドニー工場は百五十年以上続く歴史がある会社なんじゃ」
絵描きがそう教えるとシリマはその大きな数字に驚いて喜んだ。五歳にしたら百五十年なんて宇宙みたいなモノだろうな、とシズは思った。
「百年以上も鉄道とか車ってあるんだな」
「あるに決まってるじゃないですか。授業で何聞いていたんですか。だから三点なんですよ」
「三点は入学試験の時ですー。だから授業関係ありませんー」
カザンは見下すような嘲笑をした。シズは嫌味より腹立った。
「武器屋じゃよ」
絵描きが呟いた。
「え? 」
「だからカルセドニー工場は最初、武器屋だったと、わしのじいさんが話しておった。戦争が終わって、四ヵ国条約できて武器が製造できなくなったから、鉄道の会社に鞍替えしたらしいぞ」
シズはカザンを見る。カザンは頷いた。
「意外に有効な時間でしたね」
「思いがけないことは沢山あるんだよ」
自分の顔の絵を見て喜んだ。そんなシリマを引き連れて聞き込みを続けた。銃の調査のことは極秘なため、山の工事のことについて来ている風を装い、世間話を織り交ぜてカルセドニー工場のことを聞いた。こういうのはカザンの方がうまかった。顔もまあ良い方だからおばちゃん二人相手に色々引き出していた。
「城人さんの顔タイプだわ」
「そんな」
カザンは可愛らしく微笑んだ。ザ・猫かぶりだ。シズは少し離れ地面に絵を描くシリマのそばにいた。
「やだ、可愛い」
「息子にしたいわ」
おばちゃん達の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。しばらくしてカザンが戻ってきた。シズはシリマから少し離れる。
「カルセドニー工場は数年前に事業を拡大しようとして失敗して多額の借金があったようですが、今は持ち直しているようです」
「どうやって持ち直したかは? 」
「そこまでは分かりませんが、借金返済のために手を出してはいけないものに、手を出したのかもしれませんね」
銃の製造に。カザンが腕時計を見る。
「そろそろシリマ君を送り届けましょう」
「ああ」
シリマはくたびれたようで足取りがおぼつかなかった。しょうがないから、シズがおんぶしてやるとものの数秒で寝た。
「子ども背負ってもあなたから母性を感じませんね」
「ああ? なんだよ、てめぇ。じゃあお前抱っこしてみろよ。父性が感じられるかジャッジしてやるよ」
「遠慮します。制服に涎つくのは嫌なので」
「お前本当に嫌い」
「光栄です」
スキャ家の前に着くと後ろから声をかけられた。
「ヨンキョクさん! 」
ウェルネルだった。
病院から帰ってきたウェルネルに社長のカルセドニーは心配そうに声をかけた。
「ええ、おかげさまで大丈夫でした。ヨンキョクさんに助けられて盗られた物も返ってきました。捻挫してしまったんですけど、ヨンキョクさんが家まで送ってくれるというので」
ウェルネルは汚れた軍手をはめながら安心の笑みを浮かべた。
「ヨンキョク? 」
「はい。なんか調査で城から来てるそうです」
「……そうか」
「社長」
社長秘書のロドが作業場に現れた。
「社長、お電話です」
「ああ、今いく。ウェルネル、今日は早く帰れよ」
「はい! ありがとうございます! 」
カルセドニーの背中にウェルネルが頭を下げる。そんなウェルネルをロドは冷めた目で一瞥すると、カルセドニーと共に作業場を後にし、社長室に入った。カルセドニーは簡単な会話を終わらせると電話を切った。
「振り込みの確認だったよ」
「そうですか。それより社長、明日の件ですが延期なされた方が。スキャが言っていた通り城からの四局がうろついているようですし」
「山の工事のことだろう。慎重にすれば大丈夫だ、ロド。明日で終わるのだ。明日で全てが。ウェルネル達には感謝しないとな。申し訳ないが」
カルセドニーの安心したような横顔とウェルネルのさっきの笑みを比べ、ロドは色が違うと思った。どちらの色もロドは目に映したくなかった。
「何するのー? 鬼ごっこ? 」
「駄目だ。鬼は今あれだ、里帰り中だから駄目だ」
シズと手を繋いで歩くシリマは、えーと不満そうに背中をのけ反る。
「お兄さん、鬼やってー」
「お兄さんじゃなくてお姉さんな。それにお姉さん鬼はできないんだ。心が清らか過ぎて」
「冗談は脳みそだけにしてください」
カザンが呆れたため息を吐く。
「子連れで調査できませんよ。どうするんですか? 」
「僕、ちょーさ手伝うよ! 」
シリマはきらきらした顔する。
「お気持ちだけで結構です」
カザンはそれを容赦なく遮った。シズはどうしようかと辺りを見回すと、昨日の絵描きが目に入った。
「よし。あそこに預けよーぜ」
シズはシリマを抱えると絵描きのじいさんの所まで行く。
「あんたまた来たのかい? 」
「今日はこの子描いて。一時間ぐらいたっぷりと。後で迎え来るから」
「えー。嫌だー。ひとりやだー」
シリマはじたばたし出した。
「じゃあ僕ひとりだけ調べに行きます」
「十五分あったら終わるから二人ともおりなさい」
絵描きにそう言われ、結局絵が描き終わるまで昨日みたいに、シズは木箱に座って待つことにした。
「なんですか、この無駄な時間」
預ける作戦が上手くいかず、カザンが不満をシズにぶつける。
「思った通りにいかないことは沢山あんだよ」
「僕のパパはね、カルセドニー工場で凄いお仕事してるのー」
「ほお、それは凄いな」
シズ達の気持ちをよそに、シリマと絵描きは楽しそうに話していた。
「カルセドニー工場は百五十年以上続く歴史がある会社なんじゃ」
絵描きがそう教えるとシリマはその大きな数字に驚いて喜んだ。五歳にしたら百五十年なんて宇宙みたいなモノだろうな、とシズは思った。
「百年以上も鉄道とか車ってあるんだな」
「あるに決まってるじゃないですか。授業で何聞いていたんですか。だから三点なんですよ」
「三点は入学試験の時ですー。だから授業関係ありませんー」
カザンは見下すような嘲笑をした。シズは嫌味より腹立った。
「武器屋じゃよ」
絵描きが呟いた。
「え? 」
「だからカルセドニー工場は最初、武器屋だったと、わしのじいさんが話しておった。戦争が終わって、四ヵ国条約できて武器が製造できなくなったから、鉄道の会社に鞍替えしたらしいぞ」
シズはカザンを見る。カザンは頷いた。
「意外に有効な時間でしたね」
「思いがけないことは沢山あるんだよ」
自分の顔の絵を見て喜んだ。そんなシリマを引き連れて聞き込みを続けた。銃の調査のことは極秘なため、山の工事のことについて来ている風を装い、世間話を織り交ぜてカルセドニー工場のことを聞いた。こういうのはカザンの方がうまかった。顔もまあ良い方だからおばちゃん二人相手に色々引き出していた。
「城人さんの顔タイプだわ」
「そんな」
カザンは可愛らしく微笑んだ。ザ・猫かぶりだ。シズは少し離れ地面に絵を描くシリマのそばにいた。
「やだ、可愛い」
「息子にしたいわ」
おばちゃん達の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。しばらくしてカザンが戻ってきた。シズはシリマから少し離れる。
「カルセドニー工場は数年前に事業を拡大しようとして失敗して多額の借金があったようですが、今は持ち直しているようです」
「どうやって持ち直したかは? 」
「そこまでは分かりませんが、借金返済のために手を出してはいけないものに、手を出したのかもしれませんね」
銃の製造に。カザンが腕時計を見る。
「そろそろシリマ君を送り届けましょう」
「ああ」
シリマはくたびれたようで足取りがおぼつかなかった。しょうがないから、シズがおんぶしてやるとものの数秒で寝た。
「子ども背負ってもあなたから母性を感じませんね」
「ああ? なんだよ、てめぇ。じゃあお前抱っこしてみろよ。父性が感じられるかジャッジしてやるよ」
「遠慮します。制服に涎つくのは嫌なので」
「お前本当に嫌い」
「光栄です」
スキャ家の前に着くと後ろから声をかけられた。
「ヨンキョクさん! 」
ウェルネルだった。
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