64 / 134
SS エイプリルフール
しおりを挟む クリスマス前のこの時期、駆け込みのプレゼント目当てのお客様が多いのは毎年のことだ。
彼女はうんざりしていた。
もちろん、お客様には喜んでもらいたいし、嬉しそうな顔を見るのは販売員冥利に尽きる。
だが。
(初手で光り物をプレゼントするような男は滅びろ)
リア充爆発しろ、とまでは言わない。カップルで来るのはまだいい。彼女の意見を聞いて買い物をしている。
問題は、相手の好みも知らないのに光り物をプレゼントしようとする男だ。
そんな男にアドバイスする方の身にもなってくれ、と切実に思う。結局は無難なデザインのものしか提案できないのだ。
彼女はニコニコと営業用のスマイルを装備しながら仕事をこなすしかない。
そんな中である。
(……あれ?)
今日は、様子が違う客が紛れていた。
若い。どう見ても高校生くらいの二人組。しかも男子。
黒髪美人と、茶髪王子さま。
お互いの彼女へのプレゼント選びだろうか。不思議に思って声をかけたら茶髪王子にかわされた。その左手薬指に光る、プラチナの指輪。
(おおっ!?)
俄然興味が出てきて気付かれないようにチラチラ見ていると、黒髪美人が顎に当てた左手薬指にもお揃いに見える指輪が光る。
(もしやこれは……っ!)
いわゆる、禁断の恋、というやつではないだろうか。しかも既に両思い。
チェーンタイプのネックレスコーナーを見ているところから察するに、学校では指輪が出来ないけど肌身離さずいたいからネックレスを探している、といったところか。
(やだ、ぜひ協力したい……!)
そう彼女が思ったことに気付いているのかいないのか。茶髪王子に呼ばれていそいそとそちらへ向かう。
「これって長さどれくらいなんですか?」
そう聞いてきたのは黒髪美人。
「ほぼ45cmです。少し長めがお好きでしたら50cmの方が良いかと」
さり気なく、50cmの方がいいよ、アピール。45cmだと当然女性用の物が多いからだ。
「んー……」
ちょっと考える黒髪美人に、彼女はアドバイスのつもりで続ける。
「お色は、ゴールドとホワイトゴールドがあります」
「ホワイトゴールド?」
「プラチナと同じお色に加工したものです」
「へぇ」
「プラチナの50cmのものも少数ですがございますよ」
「えっ」
ホワイトゴールドに興味を示したのは、指輪はやはりプラチナなのだろう。提案してみたら、思いの外食い付いたから微笑ましくなる。確か、在庫はあったはずだ。
「今お持ちしますね」
そう言って、慌てて在庫を確認にバックヤードに戻った。商談開始と判断した同僚が、彼らにコーヒーを持っていく。
その間に大急ぎで在庫が二本ある50cmのプラチナ素材のネックレスをジュエリートレーに並べた。
やはり定番ばかりで種類は少ないが、これは仕方がない。
「お待たせいたしました」
差し出したジュエリートレー。気に入るものはあるだろうかとドキドキする。そんな中で茶髪王子は彼女のオススメしたかったスクリューチェーンを手に取った。シンプルなのに華やかさがあるので、女性にも人気がある。ひょいと持ち上げて、黒髪美人の首元に当てる。
彼女は手慣れた様子で、すぐに鏡を用意して黒髪美人にもその様子が見えるようにした。
「ちょ、円」
「これくらい良いでしょ。お、これ綺麗」
「良かったら、実際に着けてみますか?」
「え」
「いいんですか?」
「もちろんです。どうぞ」
促せば、茶髪王子は黒髪美人の首にネックレスを着けてやる。
(黒髪美人受け……!)
ネックレスは彼のシャツの隙間から少し覗く程度。長くも短くもない、ちょうどいい長さだった。
(めちゃイイ! 私、グッジョブ!)
「どう、かな?」
「うん、綺麗」
「着け心地もすごくいい」
「じゃあ、それにする?」
「うん」
「すみません。これ、同じものもうひとつありますか?」
もちろんある。確認してから持ってきたのだから。
「ございますよ。そちらでよろしいですか?」
「はい」
「今お持ちしますね。そちら、そのままお着けになって行かれますか?」
「え? あ、これは……」
「いえ。プレゼント用に包んでもらえますか?」
「かしこまりました。ではそちらもお預かりしますね」
黒髪美人が着けていたチェーンを預かり、彼女はそのまま作業台でラッピング作業に入る。
(幸せだなぁー!)
幸せカップルにあんな笑顔を見せられて、ほっこりしないはずがない。
今までにないほど丁寧に、そして迅速にラッピングを済ませて商品を渡す。会計を済ませると、二人ともがこちらに笑顔を向けてくれて、彼女は久しぶりにこの仕事やってて良かったと心から思った。
そしてその日、かつてないほどのやる気を見せた彼女は、今までにないほどの好評価をお客様から得ることになったのはまた別の話だ。
彼女はうんざりしていた。
もちろん、お客様には喜んでもらいたいし、嬉しそうな顔を見るのは販売員冥利に尽きる。
だが。
(初手で光り物をプレゼントするような男は滅びろ)
リア充爆発しろ、とまでは言わない。カップルで来るのはまだいい。彼女の意見を聞いて買い物をしている。
問題は、相手の好みも知らないのに光り物をプレゼントしようとする男だ。
そんな男にアドバイスする方の身にもなってくれ、と切実に思う。結局は無難なデザインのものしか提案できないのだ。
彼女はニコニコと営業用のスマイルを装備しながら仕事をこなすしかない。
そんな中である。
(……あれ?)
今日は、様子が違う客が紛れていた。
若い。どう見ても高校生くらいの二人組。しかも男子。
黒髪美人と、茶髪王子さま。
お互いの彼女へのプレゼント選びだろうか。不思議に思って声をかけたら茶髪王子にかわされた。その左手薬指に光る、プラチナの指輪。
(おおっ!?)
俄然興味が出てきて気付かれないようにチラチラ見ていると、黒髪美人が顎に当てた左手薬指にもお揃いに見える指輪が光る。
(もしやこれは……っ!)
いわゆる、禁断の恋、というやつではないだろうか。しかも既に両思い。
チェーンタイプのネックレスコーナーを見ているところから察するに、学校では指輪が出来ないけど肌身離さずいたいからネックレスを探している、といったところか。
(やだ、ぜひ協力したい……!)
そう彼女が思ったことに気付いているのかいないのか。茶髪王子に呼ばれていそいそとそちらへ向かう。
「これって長さどれくらいなんですか?」
そう聞いてきたのは黒髪美人。
「ほぼ45cmです。少し長めがお好きでしたら50cmの方が良いかと」
さり気なく、50cmの方がいいよ、アピール。45cmだと当然女性用の物が多いからだ。
「んー……」
ちょっと考える黒髪美人に、彼女はアドバイスのつもりで続ける。
「お色は、ゴールドとホワイトゴールドがあります」
「ホワイトゴールド?」
「プラチナと同じお色に加工したものです」
「へぇ」
「プラチナの50cmのものも少数ですがございますよ」
「えっ」
ホワイトゴールドに興味を示したのは、指輪はやはりプラチナなのだろう。提案してみたら、思いの外食い付いたから微笑ましくなる。確か、在庫はあったはずだ。
「今お持ちしますね」
そう言って、慌てて在庫を確認にバックヤードに戻った。商談開始と判断した同僚が、彼らにコーヒーを持っていく。
その間に大急ぎで在庫が二本ある50cmのプラチナ素材のネックレスをジュエリートレーに並べた。
やはり定番ばかりで種類は少ないが、これは仕方がない。
「お待たせいたしました」
差し出したジュエリートレー。気に入るものはあるだろうかとドキドキする。そんな中で茶髪王子は彼女のオススメしたかったスクリューチェーンを手に取った。シンプルなのに華やかさがあるので、女性にも人気がある。ひょいと持ち上げて、黒髪美人の首元に当てる。
彼女は手慣れた様子で、すぐに鏡を用意して黒髪美人にもその様子が見えるようにした。
「ちょ、円」
「これくらい良いでしょ。お、これ綺麗」
「良かったら、実際に着けてみますか?」
「え」
「いいんですか?」
「もちろんです。どうぞ」
促せば、茶髪王子は黒髪美人の首にネックレスを着けてやる。
(黒髪美人受け……!)
ネックレスは彼のシャツの隙間から少し覗く程度。長くも短くもない、ちょうどいい長さだった。
(めちゃイイ! 私、グッジョブ!)
「どう、かな?」
「うん、綺麗」
「着け心地もすごくいい」
「じゃあ、それにする?」
「うん」
「すみません。これ、同じものもうひとつありますか?」
もちろんある。確認してから持ってきたのだから。
「ございますよ。そちらでよろしいですか?」
「はい」
「今お持ちしますね。そちら、そのままお着けになって行かれますか?」
「え? あ、これは……」
「いえ。プレゼント用に包んでもらえますか?」
「かしこまりました。ではそちらもお預かりしますね」
黒髪美人が着けていたチェーンを預かり、彼女はそのまま作業台でラッピング作業に入る。
(幸せだなぁー!)
幸せカップルにあんな笑顔を見せられて、ほっこりしないはずがない。
今までにないほど丁寧に、そして迅速にラッピングを済ませて商品を渡す。会計を済ませると、二人ともがこちらに笑顔を向けてくれて、彼女は久しぶりにこの仕事やってて良かったと心から思った。
そしてその日、かつてないほどのやる気を見せた彼女は、今までにないほどの好評価をお客様から得ることになったのはまた別の話だ。
0
お気に入りに追加
1,727
あなたにおすすめの小説
追い出された万能職に新しい人生が始まりました
東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」
その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。
『万能職』は冒険者の最底辺職だ。
冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。
『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。
口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。
要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。
その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる