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第66話 ティナが第一優先です
しおりを挟む「それに、ソラが戦っているところを見たことないから興味があるわ。風の申し子、死神と呼ばれる強さを闘技場で見せてよ」
く、フィリアにも知られているのか。
死神はいいけど、風の申し子は恥ずかしい。俺より風魔法が得意な人がいそうだし、その人にあげたい。
それにそういえば、まだ俺の戦闘見たことないんだな。
道中言ってくれれば魔物の戦ったのにな。
でも、武闘大会なんて見るのはいいけど、出るのはめんどくさいよ。だからお断りだ。
「出る気はないぞ?めんどくさいじゃん。それに褒美がなにか知らないけど、王宮勤めとか勘弁してくれ」
「勝てる気満々の意見のように聞こえるんだけど」
「出てみないとわからないけど、負けるつもりはないね」
「ソラ。でるの?」
フィリアと俺の会話に横でデザートを食べているティナが食いついてきた。
どこから話を聞いていたかわからないけど、なぜかキラキラとした目で俺を見つめてくる。
口元にクリームをつけて見てくるティナが天使なんだけど……
そのクリームいただけませんか?
ハンカチで口元のクリームをとろうとすると、テトが横から飛んできて、ティナのクリームをなめとる。
俺はハンカチを持ったままその光景を目にしているが。
これもまたいい。すこしテトがうらやましいが。俺はなめとるなんてことできないし、しないからね。こういう時の犬猫は最強だな。キツネもするかもしれないけど、あまり生体を知らないからね。シロはしそうだけど……
嬉しそうにティナはテトを撫で、クリームをとってくれたことの感謝を述べている。
「それでソラ出るの?」
テトと戯れ終わったティナが再度質問してくる。
「武闘大会には出るつもりないよ?」
「えー。残念……ティナはソラがシュシュっと戦っているところ見たかったなー」
「ティナは出てほしいか?」
「うんっ。カッコいいソラ好きー」
「フィリア。武闘大会のエントリーはまだできるか?できなくてもラキシエール伯爵家の権力でどうにかならないか?だめなら皇帝に面会の予約はとれないか?直談判しにいく。もし、この国と敵対することになっても、俺たちのことは無関係で貫いてほしい」
ティナの話を聞き、即座に床に膝をつけ、フィリアにお願いをする。
「ソラ……あなた病気が悪化しているわよ」
「そんなことはどうでもいい。どうだ?できそうか?」
「はあ……エントリーなら今日までのはずよ。日没までのはずだから、昼間に行って来たら?」
「行ってくる。ティナはフィリアといい子に待っておいて」
「はーい。いってらっしゃい」
「いってきます」
フィリアの返答を聞き、食べかけの朝食をかけこみ、食堂を後にする。
肩にはテトが乗っているが、どうやらついてくるみたいだ。
食堂からバカねとフィリアの声が聞こえてくるが、バカじゃないから俺の事ではないだろう。
うちの天使がご所望なんだ。答えてあげるのがお兄ちゃんの勤め。
ラキシエール伯爵家の中を走り、そのまま貴族街をかけていく。
風魔法を使用した高速移動だ。
さすがに上空を飛んでいると怒られそうなので、帝都の石造りの道を飛ぶように走る。
建国記念祭もあり、帝都の人口密度は上がっているだろうが、死の森で駆け抜けた俺には人込みなど、なにもない草原と同じだ。
帝都の大通りを風が吹くように颯爽と駆け抜ける。
馬車が目の前にきたらその時は風を利用し飛び越える。
後ろで怒号のような声が聞こえるが、祭りが近いからみんな高揚しているんだろう。
屋敷から数分かけて冒険者ギルドの扉を開ける。
「よし、自己ベストだ」
ラキシエール伯爵家から冒険者ギルド到達の意味のないタイムをたたき出してしまった。
冒険者ギルドの中もいつも通りの人の多さである。
朝の時間帯なこともあり、掲示板には複数のパーティ―が相談している姿が見える。
そして俺は同じミスを犯さない。
冒険者ギルドの中で走ると怒られる。そう、昨日学んだのだ。
少し早歩きで、二階の階段を上がり、受付につく
「武闘大会のエントリーはここでできますか?」
「は、はい。できますよ」
受付につき、食い入るように質問したので、受付嬢がすこし引いている。
「では、冒険者カードを「ほい」ていしゅ……ありがとうございます」
「ソラ・カゲヤマ様ですね。ルールや日程はお聞きになりますか?」
「お願いします」
「では説明しますね。まず日程は明々後日の建国記念祭二日目から予選が開始されます。予選では集団戦になりましてグループごとで戦闘を行ってもいます」
「ふむふむ。続けてっ?」
「……グループの人数は参加人数によって毎年異なりますが、例年通りだと一グループ五十名でその上位三名が次の本戦に進むことができます。本戦は一対一での戦闘でトーナメント形式になります。本戦は三日間で行われ、最終日が決勝戦とその表彰が行われます」
だいたいは理解することができた。
でも、気になることが一つ。
「武器って普通に使っている物でいいの?魔法も使用制限とかは?人が死んじゃうと思うんだけど……」
そう、絶対に死人がでる。
五十人が乱戦を繰り広げると、殺さないように相手を倒すのが難しい。広範囲の魔法もそうだけど、あたりどころが悪いとコロッと死んでしまうだろう。
建国記念祭で行われるイベントが血にあふれた死闘を繰り広げるものだとは考えにくいけど……
それならそれでこの世界は狂っていると言えるだろう。
「安心してください。戦闘スペースと観客スペースの狭間には結界を施します。それに戦闘スペースにはステージがあり、守護結界が貼られていますので、致死量の攻撃を受けるとステージから出る使用になっています。もちろん、退場すると戦闘での傷は回復した状態になります」
それは……安心できるのか?
観客は安全だろうけど、結局は血にまみれた戦闘のように感じるのだが。
守護結界により死にはしないようだが、ステージ上では死ななければ、ずっと傷を負ったまま。
それに痛みは?傷が治る、死ぬ前にステージから出されるのはわかったけど、死の痛みは感じるのでは?
「あのー、痛みとかはあります?」
「あります。守護結界から出れば治るのですが、それまでは痛みを感じたままの状態です」
やはり、この世界は狂っている。
いや、ただ魔物がいて、戦闘が日常である世界だからしかたがない価値観なのだろうけど。
平和な日本で生まれた俺にはその価値観が合わない。ましてや娯楽としてそれを見世物にするのはどうなのだろうか。
ボクシングや総合格闘技みたいな物なのかもしれないが、死の絶望を味わう可能性があるんだぞ?
腕を飛ばされ、足を飛ばされる光景が見えるかもしれない
そんな娯楽があること自体。おぞましく感じる。
それに出場者は死を感じることになるがいいのだろうか。
まあ、魔物との戦闘もそうではあるんだけどね。
ここは割り切るしかないか。
俺の試合ではあまり血を流さないように頑張ろう。
「わかりました。ありがとうございます」
少し観戦に不安を覚えるが、これが普通の世界なのだろうからな。
ティナも魔物との戦闘は普通に見ているわけだし、人間同士の戦闘も楽しくみてくれるかもしれない。
受付が終わり、俺はそのまま冒険者ギルドを後にする。
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