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第63話 血の匂い
しおりを挟むモコの華麗な戦闘を終え、そのまま順調に洞窟を進んでいく。
上に上る階段もすぐに見つけることができたのどんどんと上がっていくことにした。
一階層とは違い、他の階層では道中でも魔物に遭遇するようになった。
出てくる魔物は主にゴーレム、スケルトンとあまり変わりがないが、蝙蝠型のごつごつした魔物が飛んでいたり、岩に擬態したトカゲがいたりもした。
テトシロが戦闘したいと俺にすり寄り訴えかけるので。
もちろん俺はその可愛さに陥落し、戦闘を譲ってあげている。
俺も大鎌の切れ味を確かめたいんだけどね……
目の前で嬉しそうに魔法を放っているうちの子たちを見ているとそんなことを言えるわけもなく。
モコの上に乗ったティナの護衛を務めている。
まあ、シロの結界で守られているティナは流れ弾がこようと大丈夫だろうけど……
現在は四階層を進行中だ。
先ほど、広い空間での戦闘を終え、周りに魔物がいないのでここで晩御飯にする。
ダンジョン内の魔物のリポップはわからないが、道端で休憩するよりはいいだろう。
それに、今日は二度寝を草原でかましたので、時間が結構立っており、日帰りするのもめんどくさい。
だからここでテントを出し、野営するつもりだ。
冒険者ギルドの受付嬢の話にはセーフティーゾーンなるものの話はなかった。
いや、単に聞かれていないから答えなかったのかもしれないが。
日帰りか一泊と伝えたので、優しくて優秀な受付嬢なら教えてくれたはずだ。
それに、四階層まで探索してきたがそれっぽいものは見当たらなかった。
階層ごとにすべてを探索していないので、見落としはたくさんあるだろうが、さすがに分かれ道を全通り探索するわけにもいかない。
テントボックスに魔力を込め、ダンジョンの地面に投げていく。
ほんと便利すぎるアイテムだ。
テントの中には絨毯を三枚ぐらい敷いていき、その上に布団などを敷く。
これでごつごつした岩肌の感触を軽減できるはずだ。
それに死の森で野営をしていた俺たちにとって、ここでの野営など甘いものだ。
いきなりリポップされるとすこし戸惑うだろうが、すぐにうちの子たちが対処してくれるはずだ。
こういう時のテトモコは本当に頼りになる。
敵の察知に関してはテトに及ぶものはいないだろう。
うちの黒猫ちゃんは寝ていても敏感なのだ。
テントの準備も終わり、屋台の食事を温めていると、空間の外からコツコツとした足音が聞こえる。
匂いで魔物を引き寄せてしまったか?
音のする方の道を伺っていると、一人の女性がこちらに歩いている姿が見える。
「あら、ごめんなさいね。ここに人がいるとは思わなかったわ」
道から歩いてくる銀髪の女性はダンジョン探索をしているとは思えないほど軽装で、赤いドレスを身に纏い優雅にこちらに話しかけてきた。
人が来るとは思ってなかったのは俺もなんだけど……
「ここで野営するつもりなんです」
「ぐるるるるーー」
「んにゃーーー」
俺がそう答えると、横に来ていたテトモコが威嚇をし始める。
「テトモコどうした?」
「わふわふわふ」
「えっ?」
「なるほど……」
モコの話を聞き、驚いているティナの口を押え、そのまま女性に目を向ける。
しっかりとしたメリハリのあるスタイルで、赤いドレスがそれを際立てている。
貴族令嬢と言われてもおかしくないほど凛々しく美しい女性だ。
では、なぜその人から人間の血の匂いがするのだろうな?
モコから言われたのは人間の血の匂いがすると。
俺やティナには嗅ぎ分けることはできないが、うちの子たちを欺けることはできなかったようだ。
見る限り、ドレスは破けてもおらず、ドレスから覗く白い肌には血が流れている様子がない。
「にゃにゃにゃにゃん」
人間の血がこびりついているか。
最近の物だけではなく、元から血の匂いがすると……
何をしている人なんだろうな。
「あら、私魔物に好かれないのよね。困ったもんねー。ここで野営するのよね?魔物のリポップは六時間ぐらいだったかしら?ゆっくりするといいわー」
おどけた様に話だし、優しく俺たちに情報を与えてくれる。
血の匂いと女性の表情の違いに、不気味さを感じる。
「情報ありがとうございます。では晩御飯の準備をしますので」
「そうね。お邪魔しちゃ悪いから私は行きますわね。ばいばい。可愛い子猫ちゃんたち」
そういうと手をひらひらとさせ、俺たちが来た方の道を進んでいく。
道に入り姿が見えなくなるまで、警戒をし見送る。
「ぷふぁー。もう、ソラ苦しかったよ!」
口元を抑えていたのでティナから文句が飛んでくる。
「ごめんな。ちょっと警戒していたんだ」
「んー。それでもだよ。ティナはちゃんと黙っているもん」
「えらい子だなー」
怒っているティナを撫でながらほめていく。
そうすると、えへへと笑顔になり、俺の手に頭を寄せてくるティナは今日も天使だ。
存分にティナパワーを充電し、テトモコに指示を飛ばす。
「少しの間警戒していてくれ。テントを片付けて、他の場所で野営をしよう」
「にゃ」
「わふ」
人間の血の匂いがこびりついている銀髪のドレス姿の女性。
普通に考えて、怪しすぎるだろう。
今まで血の匂いで反応をしていなかったテトモコが反応するんだ。
絶対に普通の人ではない。それに騎士や冒険者であれば、盗賊討伐などで人間を一度でも殺めているはずだ。
街中や冒険者ギルドでテトモコが反応しないということは、銀髪の女性からする血の匂いが異常だということ。
それらが意味するのは、日常的に人を殺めているということだ。
そんなやつに野営をする場所を知られている現状は非常にまずい。
不意の攻撃はテトモコがいるかぎりされないだろうが、絶対ではないからな……
おそらく殺人のプロでだろうから、どんな手段でくるかわからない。
素早くテントを片付け、出しているものを影収納にいれ、女性が来た道を進んでいく。
「わふーーー」
人間の血の匂いがするか……
「前からか?」
「にゃ」
銀髪の女性が来た道から人間の血の匂いがする……そういうことなんだろうな。
警戒をしながら分かれ道を血の匂いがする方へと進んでいく。
「きゃー」
「これは……」
目の前には広い空間があり、さきほどの洞窟空間と変わりがないのだが。
違うところは体中をナイフのような物でめった刺しにされた死体が転がっていることか……
その数五体。おそらく冒険者パーティーであろう人達の死体だった。
ティナは驚き声を上げてしまっているが、これは俺にもきついものがある。
どこまで恨まれたらこの死に方をするのだろうか。
そう思わせるほどの殺し方だった……
死体の横にはテントがあり、ここで野営するつもりだったのであろう。
荷物も固めておいてあるので、その中を物色し冒険者カードを取り出す。
ジャイアントキリング。そう冒険者カードには記載されており、その名で活躍していたパーティーなのだろう。
俺の好きな言葉だな。スポーツなんかで使われるが弱いものが強いものに勝つという意味だ。。
このパーティーは弱者にジャイアントキリングされたのだろうか、それともただ強者に蹂躙されたのだろうか。
おそらく後者であると俺は思う。
ここにあまり滞在したくないので、テントと死体をそのまま影収納に入れ、空間から出ていく。
この空間には血の匂いが充満していて気持ちが悪い。
特にティナにはこんな匂いのある空間にはいてほしくない。
テトモコシロは俺たちより遥かに嗅覚が発達しているので、そそくさと空間を後にする。
この日の野営をやめて、みんなでモコに乗り洞窟をかけていく。
人殺しが近くにいる可能性がある現状、こんなところでやすやすと眠りにつけるわけがない。
それにありがたいことに今日は睡眠を十分にとっている。夜中に駆け回っても寝落ちすることはないだろう。
ティナを見ると浮かない表情で黙り込んでいるが。それは正常な反応だ。
人の死に慣れることなんて一生ないだろうし、俺はいつまでも慣れたくはない。
必要があれば殺人を躊躇しないが、慣れるのとは大違いだ。その死には意味を持たせるし、絶対に無差別に殺すようなことはしない。
銀髪の女性が殺したとは確定ではないが、血の匂いがついていること、そしてその道を通ったはずなのに平然とした態度で俺たちに話しかけたこと。この二点が銀髪の女性を黒く見せる。
それに今思えば、リポップの時間を伝え、野営をできることを教えたのは俺たちにあの場で留まっていて欲しかったのだろう。
ゆっくりするといいわー。この言葉がそこにいてね。と言われているように今の俺には思えた。
ダンジョン内で近づいてくる者には注意しろとコトサカ草原の冒険者ギルド出張所で言われたが、本当の事だったな。
でも、だいたいこうゆう時は男性で不気味な人、Theやんちゃなバカどもと相場が決まっているだろ?
それがドレスを着た女性だなんて誰が思うんだよ。
テトモコが反応を見せなかったら、そのままあそこで野営し、冒険者の死体はダンジョンに飲み込まれていただろう。
誰にもばれない密室殺人の成功だ。
実際目の当たりにするとダンジョンは非常に恐ろしく、暗躍の場所なのだと認識できた。
帰りを急いでいるので、遭遇する魔物で邪魔なものは魔法で蹴散らしてくが、他は無視だ。死骸もそのままにしておく。
一刻も早くこのダンジョンから出たい。
ティナがいる今、俺たちにミスは許されない。
常時シロの結界を施しているが、殺人の仕方がわからない以上、対処の仕方がわからない。
五人もの冒険者を殺害する。冒険者カードを見た限り、その内二人が上位とされるBランクの冒険者だった……
そう、俺と同じランクなんだ。
Bランク二人、Cランク三人のパーティ―を殺害する。俺にはできないことはないだろうが、その女性の強さが未知数すぎる。
純粋な力業では負けるつもりはない。だが、死体の切り傷はナイフのような物しかなかった。それが異質さを感じる。
ナイフで人は何回刺されれば死ぬのだろうか?
しかも同時に五人ものの冒険者を相手にだ。どれだけの手数が必要なのか。
もちろん、五人はダンジョン探査をしているからポーションや回復魔法などはあるだろう。
五人もの冒険者を相手にするのなら、俺には首を一瞬で切断するぐらいしか思いつかない……
銀髪の女性が一瞬で頸動脈を切り、殺した後に刺し続けた?
それだと余計に怖い。関わりたくなさすぎる。
そうでないとは思いたいが、殺し方が違うなら、何かしらのスキルや薬物で冒険者の行動を不能にし殺害したことになる。
動けない者をナイフでめった刺しにする……
どちらにしても女性が異常であることは変わりないか。
ダンジョン内のほのかな明かりをたよりに洞窟を逆走していく。
幸運なことに女性とすれ違うこともなく鋼鉄の塔の入り口にたどり着いた。
おそらく、女性がスピードを出そうとも早くて二層に到達するぐらいだろう。
モコのスピードにはついて来れないはずだ。
扉の近くの出張所に顔をだし、簡単に冒険者の死体の確認と銀髪の女性について説明する。職員さんは動揺し詳しい説明を求めていたが、とりあえず、時間がないため、帝都の冒険者ギルドに伝えることと銀髪の女性に注意するよう伝え、その場を後にした。
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