うちの天使に近寄るな~影と風に愛された死神はうちの子を守りたいだけなんだ~

朱音 アキ

文字の大きさ
上 下
50 / 134

第50話 影から見る世界は楽しいですか?

しおりを挟む
キョウはひとり佇んでいた。今し方、哀れな冒険者たちを送り出していた。彼らの力ない後ろ姿が見えなくなるまでだった。
キョウは干し肉を手に持っている。それはつい先ほど冒険者たちから巻き上げたものだった。肉はわずかばかりに塩の味が付いているだけで、固くてあまり美味しいとは言えなかった。
歯でかみしめる音が響く。
湿った迷宮ダンジョンの中で、その乾いた食べ物の音が不思議に耳に響いた。
そんな彼に背後からダミアンは近づいた。
「アニキ、どうしてアニキはこんなところでこんなことをしているんですか?」
それは彼が以前からずっと不思議に思っていたことだった。他の仲間たちも同様のことを考えている者たちは数多くいる。
ダミアンのそんな問いかけに、手にしていた干し肉を一切れ差し出した。
それをダミアンは受け取ると、勢いよくかぶりついた。
「美味いか?」
「いえ、マズいっす…!」
正直な感想をダミアンは述べた。
口に入っているものを咀嚼してキョウが続ける。
「…なんで、こんなにまずいものを食べてでも、こんな危ない場所にみんな来るんだろうな…」
「それはやっぱり名声とかもしかしたら財宝とか…そういったものが目当てなんじゃないですか?」
「じゃあ、お前はどうしてここにいる?」
「それは…」
そこでダミアンは言いよどんだ。
どうして彼がそれを言わなかったのか、キョウは彼が抱える事情を知っていた。彼は地上では追われている立場なのだ。
彼は盗賊だった。
とは言っても、生きていく為にその日必要な食べ物を盗んだりといった程度のものである。
官憲に追われて、この迷宮ダンジョンへと逃げて、それから《深きより忍び寄るものたちディープストーカー》にいつのまにかなっていた。
そして、それは彼だけではないのだ。
ここにいるみながそれぞれ色々な事情を抱えていた。
投げかけられた問いに答えづらいのはキョウにも分かっていた。
「俺は…気づいたらここにいたんだ。ここがどこで今がいつなのかも分からなかった。過去の記憶はないでもなかったが、それも曖昧だ。とりあえず生きていくにはどうしたらいいのかを考えていたら、偶然にも《深きより忍び寄るものたちディープストーカー》が現れた」
そして、それをキョウは襲った。
10人程度だったが、相手の武器を奪い、その武器で全員を倒し、そして、彼らの財産とも言うべきすべてを奪った。
それ以来通りすがる人々を襲っていた。
ただ、それも生きるためだ。
生きる以上のものは、とりあえず、いらなかった。
「…いや、それは何回も聞いているんで分かっています。そういう意味ではなくて、どうしてアニキは地上へ出て行かないのかってことです」
それがダミアン以下には疑問だった。
キョウは頭を抱えると、こう続けた。
「…まあ、なんだろうな。俺もそうしたいが、その機会というのが中々訪れねぇ。その内、そういうときがあればそうするかも知れないな」
なんとも、ハッキリとしない物言いである。
「なんですか、そりゃあ…?」
「まあ、半分はそういうことだ」
「ではもう半分は?」
「俺はなんかこれは勘だけどな」
「はい」
「なんか、この場所でやることがあるような気がするんだよ…」
キョウはそんな台詞を冗談とは思えないほどの真顔で言っていたのだった。
「アニキーっ!」
セバスの声が聞こえた。何かしらの報告かも知れない。
その場にいた二人は向き直る。
「新しい冒険者がやってきました! 人数は三人です!」
やれやれ今日は忙しい日だ。面倒くさいからといって逃してもいいが、生憎と今は休憩よりも、強奪したい気分だったのだ。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

処理中です...