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第47話 セバスさん?
しおりを挟む街道を馬車は進み、スレイロンより大きな城壁と門に並ぶ長蛇の列が俺たちの目の前に見えている。
「確認だけど、あれに並ぶ気なのか?」
正気の沙汰だとは思えないほどの列だ。
遊園地のアトラクションに並ぶ時よりも待たされる気がするんだけど。
人が並んでいるのではなく、馬車が連なっているので長くはみえるのだろうが、元々並ぶという行動自体が好きではない。
時間をつぶすためのゲームなどがあればいいが、そういうものもないしな。
「並ばないわ。貴族は別の列が前の方にあるはずよ。それに審査が簡単に済むし、そんなに並ばないはずよ」
「それはよかった。あの列に並ぶのはつらいな」
ここにきてフィリアに同行したことを心からよかったと思えるよ。
「ラキシエール伯爵家の馬車ですね。身分証を呈示してください」
門の近くまで行くと、門番であろう騎士から声がかけられる。
指示に従い市民カード、冒険者カードを提出する。
「同行されている冒険者は護衛でしょうか」
「そんなものよ。今回は友達として同行してもらっているわ」
「わかりました。これで以上になります。お通りください」
さらっとした審査で門を通過することができた。
同じ馬車の中に冒険者がいたことを疑問に思ったようだが、すんなりとフィリアが答えてくれて助かった。
近くの馬車を見てみると、冒険者のような風貌の者は馬に騎乗している。
護衛依頼では騎乗するのが当たり前なのだろうか。
まあ、俺たりの場合だとモコに乗っての護衛になりそうだ。
そのまま馬車は街中を進んでいるが、やはり帝都は活気にあふれている。
人の山だ。通りには大きな建物が並んでおり店を営業している姿が見られる。
また、ここでも屋台がちらほらと設置されており、商売を行っているようだ。
昼時に到着したこともあり、街中に漂うおいしそうな匂いに腹がなる。
「屋敷についたら、昼食にしましょうか。今日つくとは知っているはずだから用意はされているはずよ」
「それはありがたい。いい匂いがしていてな」
「おなかすいたぁー」
「わふ」
うちの子たちも匂いにつられ、空腹を感じたようだ。
「うちの料理はおいしいわよ。お母様が料理には厳しいからね」
「たのしみぃー」
「きゅきゅう」
あー、腹が減ってきたな。
食事の話をしていると空腹になる現象を解明してくれないかな。
いや、知らないだけで解明されているのかもしれないが、対処法を知りたい。
街中を歩き、貴族街であろう門の入り口についた。
そこでも、先ほどのようなやり取りを行い。これまたスムーズに貴族街へと入ることができた。
俺たちがスレイロンでラキシエール伯爵家に行くときに行った対応と雲泥の差だ。
まあ、貴族街は貴族がいるところだからそれほど警備が行き届いているのかな?
「この通りを進んでいくと王宮の門に行けるわ」
「王宮に入るためには、貴族街を通らないといけない感じか?」
「そうよ。外から入ることは不可能ね」
おい、ルイ。
王宮に手紙を渡せばいけると言っていたが、思ったより関門が多いぞ。
俺たちだけなら、貴族街の門でまず止められていたじゃないか。
それに冒険者の俺が王宮の宮廷魔法士に手紙を渡したいといってすんなりいけるとは思えない。
ほんと言葉が足らないんだよ。
相手の立場になって考えてくれ、貴族のルイとはそもそもの地位が違いすぎる。
そんなルイへの愚痴を頭のなかで思っていると、スレイロンで見たラキシエール伯爵家の屋敷のような建物が見えてくる。
「もしかしてあれ?」
「そうよ。スレイロンの屋敷と瓜二つでしょ?違った作りにすると落ち着かないってお父様が言ってね。似たような作りにしてもらったの。外見もそのままにしたみたいよ」
へー。庶民にはわからない思考だ。
俺がもし別荘を持つなら全然違った趣の建築にするだろう。
建物が一緒なら、違いがなく面白味がないじゃないか。
「フィリア様、お待ちしておりました。それに天使の楽園様。同行ありがとうございます。昼食の準備はできていますので、奥様との面会はその場で行わせていただきます」
「えっと……セバスさん?」
「いえ、兄をご存じでしたね。私はセバスの弟のサバスと申します。兄からは大変お世話になったと聞いておりますので、私のことも気軽にサバスとお呼びください」
屋敷の前で話しているセバスさんそっくりな執事はどうやろ弟さんみたいだ。
双子なら似ているのもわかるが、よく見るとセバスさんより少し若く見える。
兄弟でこんなに似ることがあるのか?
仲良し兄弟かよ。
心なしか、話し方や雰囲気もセバスさんを思わせる。
「そっくりだねっ」
「ティナリア様そうでございますか?少し複雑ですが兄のように腹黒ではないと思うのですが」
「??」
「セバスさんは腹黒なのか?そんな印象をもったことがないけど」
「そうですね。あまりお客様の前で申すことではないのですが、泣かせた女性は数知れず」
ええー。あんなしっかり者のイメージのセバスさんが?
いや、確かに渋い感じのカッコいい男性だけど……
女性を泣かせているセバスさんを想像できない。
「サバス。兄だからと言って言い方が悪いわ。それだとソラが勘違いするでしょ」
「ん?」
「セバスには多くの貴族からの婚約やお付き合いの申し入れがあるのよ。それをまだお父様の執事でいたいと断っているの」
「その申し入れを受けると執事は続けられないものなのか?」
「そんなことはないけど、申し入れしてくる貴族はセバスの優秀な能力を自分の領地で発揮してほしいのよ。そのため、申し入れしてくる貴族の大半は後継ぎがいない時期領主をさがしている家なの」
なるほど、それなら納得がいく。
泣かせた女性って申し入れを断れた家の貴族令嬢ね。
セバスさんが夜な夜な街にくりだして市民に……。
危うく俺のセバスさん像が総崩れするところだった。
「セバスさん。にんきものっ?」
「そうよ。セバスはモテモテなの」
「かっこいいねー」
ティナはセバスさんがほめられたと思っているのか嬉しそうに笑顔を向けている。
セバスさんはよくこっそりとティナに餌付けしているからな。
ちゃっかりとティナの心を射止めている。
そんな会話をしながら歩いていると食堂へとついたようだ。
サバスさんは食堂の扉をあけ、俺たちを誘導する。
部屋の中にはフィリアによく似た金髪の女性が座っていた。
あれが、フィリアのお母さんだろうな。
髪型はドリルではないが、金髪がきれいにウェーブされており、光の反射で輝くように見えている。
そしてフィリアがそのまま年を重ねたような面持ちだ。
フィリアはもともと可愛いと思っていたが、これは成長すると驚くほどの美人さんになるようだな。
「お母様、お久しぶりです。お会いしたかったですわ」
フィリアはお母さんをみつけるすぐに駆け寄り、抱き着いていく。
「もう、フィリア。お客様の前でしょう?」
「ソラ達はいいのよ。二か月近く一緒にいるからわかっているわ」
「そうなのね。それよりチロちゃんは?それに天使の楽園の従魔の紹介をしてほしいのだけど」
俺たちの紹介は必要ないのか?
フィリアのお母さんはうちの子たちに目を向けている。
「ほら、チロ。お母様よ」
「きゅい?きゅうきゅうう」
フィリアに抱えられたチロはそのままお母さんのところへと運ばれる。
「あら。小さくて可愛いらしいおててね。茶色の毛の動物はよくみかけるけどやはり落ち着きがあっていいわね。お鼻のところは少し黒い毛なのね。そんなところもキュートよ。ほらこっちにいらっしゃい。あー。モフモフだわ。ん?わたしの匂いが気になるの?フィリアと似ているから気になるのかな?いっぱ嗅いでいいわよ。手紙の内容と同じでほんとにチロチロと動くのね。短い手足をこんなに動かして。癒されるわ」
フィリアと違い、狂気じみていないがまったりとした空間を生み出し、俺たちの存在を消しているようだ。
俺たちが見ているのにも関わらず、今も気にせずチロに木の実を与えている。
鼻先に木の実を持っていき、すこし匂わせてから口元に運ぶ。
その所作がゆったりとしており、貴族らしさはわからないが、優雅な所作であることはわかる。
「お母様。チロに構いすぎよ。まずソラ達に挨拶しないと」
「あら、ごめんなさいね。可愛い子たちが沢山いるから夢中になってしまったわ」
「いえ、大丈夫です」
「挨拶が遅れましたわね。カトレア・ラキシエールです。フィリアがいつもお世話になっているようでありがとうね」
「いえ、こちらこそお世話になっております。天使の楽園のソラ・カゲヤマです。こちらが妹のティナリア。黒猫のテト、黒犬のモコ、白キツネのシロです」
「ティナですっ」
うちの子たちも名前を呼ぶと順番に挨拶をしていく。
「ソラ君とティナちゃんね。主人とフィリアから手紙で聞いているわ。それに可愛い従魔たちね。こちらにいらっしゃい」
カトレアさんは不思議な感じがする女性だな。
フィリアに外見では似ているが、どこかおっとりとした性格なのだろうか。
今も、挨拶を早急にきりあげ、うちの子たちのもふもふに包まれている。
「フィリアおねえちゃんのお母さんもきれい」
ティナがカトレアさんに近づき声をかける。
「あら?そう。うれしいわ。ティナちゃんも可愛いよ」
えへへと喜んでいるティナ。
カトレアさんはそんなティナを膝の上にのせブラシで髪をとき始めた。
「女の子なんだから髪大切にしなくちゃだめよ?」
「うんっ。いつもソラがしてくれる」
「あら、いいお兄ちゃんね」
「うんっ。好き」
カトレアさんのおっとりとした雰囲気とティナの天使さが合わさり、幸せ空間が広がっている。
そしてうちの子が天使すぎる。
俺も好きだぞ。
「ごめんさいね。お母様はマイペースな人なのよ」
「いや、優しそうなお母さんだな」
「そうなのよ。それにもふもふ愛好家よ」
「見て理解できたよ。フィリアは間違いなくカトレアさんの子供だな」
「なによそれ。でもきれいなお母様に似ていると言われればうれしいわね」
「そろそろお食事の準備ができましたのでお召し上がりください」
サバスさんの言葉で俺たちは椅子に座り、食事につく。
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