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第45話 クエスト『ねこちゃんを探せ』
しおりを挟む「ソーラー。起きて―。お仕事だよ」
「きゅうきゅう」
朝早く、ティナとシロの大声が広い部屋に響き渡る。
「おはよ。ティナ、シロ」
「おはよっ、ソラ」
「きゅ」
目が覚め、ティナを見るとすでにシロローブを着て、外に出る気満々だ。
「今日は着替えも早いな」
「そうだよっ。お仕事だもん」
そうらしい。仕事の日はいつもより早く起きて準備するらしい。
日本人に聞かせてやりたい。
俺なんかギリギリに起きて、さっと髪をセットし、学校に行く。
バイトだけの日なんか準備という準備すらしない時もある。
早く起きるなんてもってのほかだ。
「じゃーいこうか」
宿で朝食をいただき、いざギルドへ。
受付に並び、ティナの順番がやっていた。
「依頼の人に会いたいの」
「この依頼書の方ですね。依頼人がここにいらっしゃいますので向かってください」
そういうと、街の地図を渡される。
地図を見ると、どうやら依頼人は冒険者ギルドが面している通りの一軒にいるらしい。
「わかったぁー。いってきます」
「はい。いってらっしゃい」
シロを抱いてモコの上にいるティナが受付嬢に愛想を振りまいている。
フィリアなら一撃でHPが全損するな。
「ソラー。場所どこ?」
ティナは地図を見てもよくわからないのか俺に聞いてくる。
「モコ見て」
「わふ」
モコは地図を見ると、ティナを乗せて大通りを進んでいく。
すこしモコを試してみたが、やはりモコは地図を理解することができた。
その証拠として、ギルドから依頼人がいるであろう建物の方に足を進めている。
ほんとうちの子は賢いな。
精神年齢はそんなに高くないはずなのだが、節々に知性を感じる。
「わふ」
大通りを歩き、モコが一軒の店の前で声を上げる。
「ここなの?」
「うん。地図ではここみたいだけど。食品が置いてある店だよな」
そこには、野菜や肉。様々な食品が並ぶ店があった。
店の人が依頼人なのかな?
「ごめんくださーーーい」
「はーい、今行きます」
店の中に入り、ティナが声をかける。
「お待たせしました。えっと……」
「依頼できましたっ」
「あら、そうなのね。えっと、お嬢ちゃんがするの?」
「そうだよー。お仕事っ」
「俺も同行しますので、話を聞かせてもらってもいいですか?」
ティナを見て、不安に思っていた店員だが、俺の言葉を聞き安心したのか説明を始めた。
「私が飼っている猫がいなくなったの。いつもは店が閉まる前に帰ってくるんだけど。五日ほど前から帰ってきてなくて、お腹もすいているだろうし心配で……」
ティナは話を聞きながら、相づちを打ち、心配だと浮かない表情をしている。
「んー。どんな猫っ?」
「茶色の毛のタイガー柄の子なの。目は水色で、その猫ちゃんよりは薄い色をしているわ」
「えっと……茶色と水色。タイガー柄。わかったー」
「何かその猫の匂いがする物を持ってないかな?」
「それだと、このクッションにいつもいたので、匂いがついているかもしれません」
ティナは早速探しに行こうとしているが。
さすがに、猫の容姿だけ教えてもらっても、見つけられる気がしない。
スレイロンの街中で猫や犬を見たことがあるが、日本と変わらないような見た目だった。
タイガー柄はトラ柄だけど、茶トラの猫がこの街にどれだけいるか知らないが、依頼主の猫かどうかの判別が俺たちにつくわけがない。
匂いで探せば最終的にテトが教えてくれるだろう。
「このクッション借りてもいいかな?」
「それで見つかるなら喜んで」
店員の女性はそういうと猫愛用のクッションを手渡す。
「いってきますっ」
「頼むわね」
気をひきしめたのか、いつもより凛々しくみえるティナはシロとともに店を出る。
「シロちゃん。におって」
「きゅ」
ティナの指示でクンクンとクッションに顔よせるシロ。
「覚えた?」
「きゅーー」
どうやら、シロはちゃんと猫の匂いを覚えたらしい。
テトモコも俺の横で頷いている。
君たちは念のためね。そんなにやる気を見せてティナとシロより先行しないでほしい。
「じゃー、さがすよー」
「きゅいー」
確認を終え、大通りを歩きだすティナとシロ。
俺たちは後を追っているが、おそらく途中でモコに乗せないといけないな。
すぐ見つかればいいけど、そんなこともないだろうし。
ふんふふんっと鼻歌を歌いながらどんどん大通りを進んでいく。
へー。この街には川が流れているのか。
目の前には大きな石の橋があり、その下には川が流れている。
川のほとりにはベンチや机が置かれており、休憩スペース、遊びスペースなどのようなものが見える。
やはり、この世界の生活水準は思ったより高い。
公園などの施設を作るのは、国造りで結構後の方なイメージがある。
人々のレクリエーション空間、子供の遊び場、自然を感じるための景観などの意味があった気がする。
もっと、意味があるんだろうが、難しい意図など知らん。
生活に色を加える程度の公園の役割しか思いつかないからね。
「ちょっと疲れた」
「きゅ?」
「ベンチで休もうか、クッキーでも食べよう」
「うんっ」
うちの天使はお疲れらしい。
休憩した後はモコにのって移動だな。
みんなで固まり、しばしの休憩である。
「きゅっ」
休憩していると、川のそばで遊んでいたうちの従魔三匹から声がかかる。
「きゅうきゅうー、きゅい」
「猫ちゃんの匂いがするの?」
「きゅい」
どうやら猫の痕跡を見つけたらしい。
テトがご機嫌に俺の肩に乗り、顔をスリスリしてくる。
あー、テトが見つけて、シロに報告したのね。
無言の目のやり取りだが、そうだよっと胸を張っているので、そうなのだろう。
今日はティナとシロのお仕事だから、ちゃんと花を持たせてあげるのか。
えらいぞー。いつもは妹みたいに甘えん坊なんだが、ティナとシロにはおねえちゃんをちゃんとしているみたいだ。
「シロちゃんいこう」
休憩で疲れがとれたのか、モコにも乗らず、シロの後について行くティナ。
どうやら匂いは川のほとりに続いているようだ。
「きゅうきゅう」
「そうなの?このまま進むよっ」
前を行くティナシロは匂いに近づいているのか、足取りが軽くなっている。
川のほとりを歩いていると、目の前に、先ほどより小さな橋が見えてきた。
「きゅうー」
「どこどこ?」
シロの目にはもう猫が見えているらしい。
俺の目線でも確認できたので、おそらく、あれが探している猫なのだろう。
ティナは歩いて少しすると猫が見えたのか、歩くスピードを上げた。
「にゃぁーーーー」
茶色のタイガー柄に見える猫が大きな声で威嚇している。
その後ろには、全身真っ白な猫と、茶色と白が混じったような毛の色の子猫が一匹。
真っ白な猫は茶色の猫に寄り添ってこちらをうかがっている。
あー、子供が生まれたのね。
だから、飼い主のところに戻らず、一緒にいると。
これは……どうすればいいかな。
飼い主を呼びに戻るべきだろうか。
テトモコも俺と同じように少し動揺しているように見える。
「猫ちゃん。はいっ。これクッション」
猫が威嚇しているのにも関わらず、ティナは猫の近くにクッションを置く。
そして、その近くの地面に腰を降ろし、猫に語り掛けるように話し出した。
「猫ちゃん。おねえちゃん心配していたよ?ちゃんともどらないとダメでしょ」
優しく猫に話しかけるティナ。
初めは警戒を見せていたが、ティナが座ったこともあり、茶色の猫は少しづつクッションへと近づく。
しきりに匂いを嗅いでいるので、自分の匂いと依頼主の女性の匂いを嗅いでいるのだろう。
「にゃんにゃにゃにゃん」
「えっと。わかんないけど、かわいい子だね」
茶色の猫が鳴いているがその言葉は伝わらないみたいだ。
ティナは子猫を触ってみたいのか、近寄ろうとしている。
野生の猫って危ないかな?
止めるべきか?ケガでもしたら大変だ。
俺はティナを止めるため、声をかけようとするが。
「にゃん」
小さな声をあげ、子猫がティナの近くへとよちよち歩いていく。
そして、近づいてきて座っているティナの手をペロリとひと舐めした。
「子猫ちゃんもかわいいねぇー」
ティナはそのままゆっくりと子猫を抱き上げていく。
その間、親猫であろう茶猫と白猫は、一人と一匹をただただ見つめていた。
子猫とティナの戯れている時間が小さな橋の下で流れている。
川に水が流れる音、木々が風により鳴らす葉の音、そして、小さな子猫の鳴き声、ティナの妖精ような安らかな声が小さな橋の下で響いている。
茶猫の警戒がとけたのか、テトモコシロもティナの傍に寄り添う。
俺の目の前には、小さなモフモフと天使が作り出す絵本の世界が広がっている。
言葉が出ない。俺の語彙力で表現できる言葉が見当たらない。
幸せな空間?天国?
そんなありきたりな言葉しか思いつかない自分が腹立たしくなってくる。
猫に言葉が伝わっているのかは定かではないが、ティナには猫の言葉はわからないだろう。
だけど、言葉を返さずとも、ティナにはこれだけの光景を作り出すことができる。
俺は邪魔をしないように、少し距離をとり、ティナたちが話す姿を見つめることしかできなかった。
「ねこちゃんたちついてくるって」
おとぎ話のような安らかな光景に目を奪われているとティナから声がかかる。
「言葉がわかるのか?」
「ううん。テトちゃんが教えてくれた」
なるほど、テトには猫の言っていることがわかるのか。
依頼人はどうするのだろうか。
このまま連れていくことはできそうだが、それからはどうする?
子猫がいる茶猫だけを飼うことなんてできないだろうな。
まあ、俺が心配してもしょうがないし、とりあえず連れて行くだけのことはしよう。
「モコちゃん出発っ」
「わふ」
茶猫たちとティナを乗せたモコが川のほとりを戻っていく。
川のほとりから、大通りに出て、そのまま依頼主のもとを目指す。
にゃんにゃんと行きより増えた鳴き声でにぎやかに大通りを行進している。
「ついたー。おねえさーーーん」
「はーい。あっ、ネロどこ行ってたの。心配したんだから」
依頼人の女性は茶猫のネロを抱き上げ、声をかける。
「にゃーん」
「えっとね。橋の下にいてね。白猫ちゃんと子猫ちゃんも一緒にいたの」
「あー、川沿いを下った小さな橋の下で、この三匹の猫がいたんだ。茶猫が守るように立っていたから、おそらくその子猫は茶猫と白猫の子供だと思う」
ティナの説明ではおそらく状況が伝わらないので、追加説明をしておく。
「そうなのね。ネロったらいつのまに奥さんと子供つくってたのかしら」
「みんな仲良しだよー」
「そうねー。白猫ちゃんも子猫ちゃんも可愛いわね」
「なんか依頼は達成できたけど、さらなる問題を持ってきてしまってごめんなさい」
「そんなの全然いいわ。ネロの家族ならそれはもううちの子よ」
どうやら、依頼人の女性は他の二匹も引き取るようだ
まあ、これが一番幸せな選択だろう。
「白猫ちゃんの捜索願いなどは冒険者ギルドになかった?」
「俺がみるかぎりはなかったよ」
「そう。じゃーうちの子にするわ。依頼がでたら考えることにする」
勢いがいい女性だ。
とんとん拍子で猫たちが家族になっていく。
「白猫ちゃんはミケ、子猫ちゃんはテナ。見つけてくれたティナちゃんから名前借りるけどいいかな」
「いいよっ」
ティナは子猫に自分の名前をつけらるのがうれしいのかキラキラとした目で答える。
白猫と子猫がここで暮らすことを理解しているかはわからないが、クッションが置かれたところで仲良くくつろいでる。
「はい。これ。サインしといたわ」
「ありがとっ」
サインされた受注書を受け取り、女性に挨拶して俺たちは店を出る。
「ねこちゃんたちよかったねー」
「そうだな。ティナのおかげだぞ」
「えへ」
ティナは楽しそうにスキップしながら冒険者ギルドへと向かっていった。
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