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第44話 ティナはお仕事がしたい

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「もうすぐ、ネストに着くわよ」
「そこで二泊する予定だっけ?」
「そうよ。いつもこの日程で行っているのよ。帝都まであと半分だし、私の休憩と馬の休憩もかねて二泊よ」

 夜襲があった日から、何事もなく馬車は進み。
 俺たちはスレイロンと帝都の中間であるネストに着こうとしていた。
 
 どうやら、夜襲があったことは周りにはばれていないようだ。
 宿の人あたりが少しグレーにも思えるが、確かめようがないし、否定されたら証拠もない。
 フィリアの話を聞く限り、闇ギルドは大都市にはあるらしく、そこで依頼を受けたマフィアなどが実行犯なのだろう。
 だから、闇ギルドに復讐したとしても、それは意味をなさない。
 冒険者に襲われて、冒険者ギルドに攻撃するようなものだ。
 
 まあ、影世界につれこんだ男が情報を隠したってことだな。
 俺があの時、闇ギルドの存在を知っていたら、そこが単なる仕事の斡旋所だとわかったので、そいつの本当の組織を聞いただろう。
 マフィアの名前や本拠地がわかれば、実行犯の復讐にはなる。

 大本のエルドレート公爵家については、何か探りをいれないとな。
 あの金髪がどこにいるかも知らないし、依頼主が金髪だと確定したわけではない。
 どこか、情報を売っている場所はないだろうか。

「ティナちゃんは冒険者ギルドでもう依頼はこなしたの?」
「んー。フィリアおねえちゃんのだけだよ」
「あら、そうなの?」
「うんっ」

 エルドレート公爵家について考えていると、横でフィリアとティナの話声が聞こえる。

「ソラ。お父様の使命依頼って天使の楽園に依頼してる?」
「あー、そのはずだが。どうした?」
「F、Gランクの人で市民カードをもっていない人は二か月に一回は依頼を受けないと、登録抹消になるのよ」
「初耳だが」
「え?私が作った時は受付の人が教えてくれたけど。身分証目的で作る人は税金もあるし、定期的に依頼を受ける必要があるって」
「ギルマスのおじいさんにしてもらったから、忘れていたんだろうな」
「そうかもね。でも、お父様の依頼がパーティーに対して行われているのなら安心ね」

 大丈夫だよな?
 記憶ではエレナさんにもやってもらったことがある気がする。
 一応確かめるか?

「ティナ、お仕事してみたいっ」

 横でティナの大きな声が聞こえる。
 
「お仕事したいの?」
「うんっ。ソラみたいにズバーってかっこよく魔物倒せないけど、やってみたい」
「きゅうーーー」

 どうやらシロもやる気らしい。
 にゃんわんとテトモコが存在を示しているが、君たちがやったらいつもと変わらないでしょ。
「ティナちゃんが受けれる依頼なら、街中のものだから魔物とは戦わないわ」
「そうなの?」
「きゅう?」
「そうよ、買い物だったり、家のお手伝いだったり、子供でもこなせるものがほとんどよ」

 シロは少し落ち込んでいるが、十歳以下の子供はそんなものでしょ。
 シロみたいな戦える従魔をもっているのはおそらく貴族ぐらいだ。

「じゃー、ネストで依頼を受けてみるか」
「うんっ」

 ご機嫌なティナにしっぽのようなものが見える。
 まあ、シロローブを着ているから実際にあるんだけど、うちの子たちはうれしいと同じような喜び方をする。
 しっぽをぶんぶんと振り、楽しみと目をキラキラさせているティナの姿が連想される。
 天使だ。

 馬車は進み、城壁が見えてくる。
 毎回思うけど、城壁を作るのにどれだけ時間がかかるんだろうな。
 もちろん、魔法は使用しているだろうが、あっという間にできるのだろうか。

 そのまま、身分証を提出し、街中へと入る。
 今回はフィリアと同じ宿で高級宿だ。
 今思えば、前回違う宿になったのも、襲撃に関係するのかもしれない。
 そうなってくるとやはり権力のあるエルドレート公爵家は真っ黒だ。

「ここがあなたたちの部屋よ。私の部屋を隣だから何かあったら来てね」

 そう言ってフィリアは自分に当てられた部屋へと入っていく。

「わぁー。お部屋広いよー。ベットもふかふかだぁー」

 おおー、うちの子たちが部屋を駆け回る。
 確かにテンションが上がるのはわかる。
 部屋は白を基調とした作りで、絵画や陶器などもおかれ上品な仕上がりになっている。
 そして、ベットがとにかくでかい。おそらくクイーンサイズはあるのではないだろうか。
 ティナがモフっと音をたて、ベットに飛びこんでいる。
 うちの子たちもそれに続き、もふっともふもふがベットに飛びつく。
 これはいかねば。

 
「わぁー」

 俺の突撃で先にベットにいたティナが驚く。

「ソラ、あぶないよ」

 いやいや、みんなしてたじゃん。
 喜んでいたじゃん。
 俺も混ぜてよ。
 
 俺の飛び込んだ場所にテトがいたのか、布団の横からテトが顔を見せる。

「にゃんにゃんにゃにゃにゃにゃん」
「ごめん、ごめん。まさか布団の中を探索していると思わなかったよ」

 テトが布団を探索していたようだ。
 テトを踏まなくてよかった。
 それに、見えなくても俺のことを察知するとはさすがだ。

「あっ」
「ん?どうした?」

 ベットの上でうちの子たちとじゃれていると、突然ティナが慌てだした。

「お仕事っ」
「あー、冒険者ギルドね。依頼見に行ってみるか」
「うんっ」

 俺たち全員で冒険者ギルドへと向かう。
 
 冒険者ギルドの中にはいると、見慣れた景色が見える。
 冒険者ギルドの建物は支部によって違いはあまりないのだろう。
 喧騒はかわらず、ギルド内にある食事どころでは何人かの冒険者が昼からお酒を飲んでいる。
 依頼書が張られているところに行き、依頼を確認していく。
 一応ランク分けされており、Cランクからは違う掲示板のようだ。

「うーん。どれがいいかな?」

 掲示板には様々なGランクの依頼がある。
 ・買い物のお願い。
 ・家のお掃除。
 ・従魔の散歩のお手伝い。
 ・依頼主とお話し。
 ・公園の掃除。
 などなど。

 ティナとシロはどれにしようかと話し出した。
 今回の依頼は俺とテトモコは同行するだけだ。
 依頼内容はさすがに口出しするが、ティナのやりたいものをやらさせてあげるつもりだ。
 
 待つこと数分。
 一つの依頼の前でティナは考えごとをしていた。

「これが気になるの?」
「うん。でも……むずかしそう」
「迷子の猫を探してますか」

 確かに難しいかもしれない。
 ネストに来たのも初めてだし、この広い街で猫を探すのもしんどうそうだ。。
 
「にゃっ」
「ん?なんとかなりそうか?」
「にゃにゃにゃんにゃん」

 見つけられなかったら見つけてあげると言っているが、できるのだろうか。
 確かにテトは見た目は猫だがタイガーだろ?
 猫と意思疎通でもできるのだろうか。

「そうなの?テトちゃん」
「にゃー」
「じゃあ、受けてみようかな?」

 ティナも気になるみたいだし、やってみてもいいか。
 ダメならダメで、テトに頑張ってもらおう。

「ソラ、紙とってー」

 手が届かない位置に依頼書があるので、俺が代わりにとる。

「これもって。受け付けに行こうか」

 受付もティナにはすこし高いので、モコに乗って受付に並ぶ。
 いきなり大きくなったモコに周りの冒険者は警戒を見せるが、ティナがご機嫌な様子で上に座っているので次第に視線は少なくなっていった。

「次の方どうぞ」
「ほら、ティナの番だぞ」
「うんっ」

 モコが進み、受付の前にたどり着くティナ。

「これ受けますっ」
「こちらですね。いつから始めますか?依頼主さんとの面会ができますが」
「んー、ソラ?」
「あー、明日の朝面会できますか?今回は俺がティナに同行します」
「わかりました。では、お二人とも冒険者カードを提出してください」

 俺たちはカードを受付嬢へと手渡す。

「ありがとうございます。……Bランク?」
 
 受付嬢が俺のことをじろじろと見てくる。
 嫌な視線ではないが少し恥ずかしい。
 受付嬢はどこでも綺麗どころが務めているのだろうか。

 

「わかりました。それでは受注書にサインしてください」

 受付嬢から魔法ペンを受け取り、ティナはサインをしていく。
 
「あ、ティナ。カゲヤマね」
「うんっ」

 ティナリアと書いて少し手が止まったので口を出した。
 失念していたよ。ティナが賢い子でよかった。
 さらっと、ティナリア・モンフィールと書かれると冒険者カードに記載されている名前との違いで疑問を持たれるかもしれない。
 まあ、偽名もいるだろうし、問題はないかもしれないが、他国の公爵家だ。
 冒険者ギルドの受付嬢だと知っている可能性がある。
 知られない方がいいのは間違いないので、止まって考えてくれたティナは本当に頭がいい。

「ソラのおうちの名前忘れてた」

 違ったみたいだ。てへっと可愛いく微笑むティナがこちらを見て言う。
 家のことを考えていたのではなく、元々カゲヤマを書こうとしたが思い出せなかっただけみたいだな。
 もう、ティナの中でモンフィール公爵家は小さな存在になっているのかもしれない。
 とりあえず、ティナの頭を撫でておく。それに意味はない。
 ただ、可愛いかっただけだ。

 受注書を受け取り、そのままギルドの外に出る。

「明日はがんばるぞっー」
「きゅうきゅう」

 一人と一匹が明日の依頼のやる気を見せている。

「にゃー」
「わふ」
「俺は受けないぞ。明日はティナの付き添いだ。またダンジョンでもいこう」

 テトモコも仕事をしたいのか俺におねだりしてくるが、ティナの依頼もあるし、ネストでできるのはそれぐらいだろう。
 ティナもダンジョンに興味を抱いていたし、適当な依頼を探して、探索することにしよう。

 その日はネストの大通りを歩き、ウィンドウショッピングを楽しむ。    
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