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第39話 ルイに突撃だ
しおりを挟む「ルイ、遊びに来たぞ」
「きたよー」
「きゅいー」
今日も元気よく、騎士の詰所に突撃し、ルイを訪問する。
「おい、ソラ。ここは孤児院じゃないからな。子供の面倒はみてねー。回れ右して帰れ。嬢ちゃんはお菓子でも食べるか?」
「おい、なんで俺だけが帰る流れになっているんだ?」
「嬢ちゃんはいい子だからな。ここにいてもいいんだ」
「俺がいい子じゃないっていうのか」
「現実はいつも残酷なんだ」
「子供に言うセリフじゃないぞ?」
「理解しているからお前は子供じゃない」
ほんとくだらない会話だ。
こいつ、俺のこと子供だと本気で思ってないだろ。
泣くぞ、コラ。
テトモコシロは俺とルイの戯れなんか興味ないと、ルイからもらったお菓子に食いついている。
この前より、お菓子の量が多いから、うちの子たちのために買っておいたんだろう?
俺の目は騙せないぞ。
ルイも隠れもふもふ愛好家ということは。
「で、なにしに来たんだ?本気で暇できたなら追い返すぞ?それでなくても、最近おもりのルイとか言われて、バカにされてるんだからな」
「初めて、門であった時も隊長みたいな人にバカにされてたよね?なんでルイってバカにされてるの?優秀じゃん」
「男爵家の問題児が帝都でやらかして、左遷されたとでも思っているのだろう」
「ルイって貴族だったのか」
「一応な」
知らなかったな。
騎士らしくもないのに、全然貴族らしさもない。
まあ、そこがいいんだけど。
「帝都でなにかやらかしたの?」
「四番隊の隊長、副隊長に決闘を挑んでボコボコにしただけ」
「えーと、その時の所属は?」
「四番隊だ」
やっぱりこいつバカだ。
騎士の世界って知らないけど、おそらくゴリゴリの体育系じゃないのかな?
その上司、先輩をボコボコにするって、相当やばいと思う。
「バカだね。なんで決闘なんかしたの?」
「うるさい。……あいつらはオレのじじぃを馬鹿にしやがったんだ」
それなら話が変わってくるよ。
身内を馬鹿にされたならやり返すぐらいはしてもいいだろう。
「おじいさんってなにしているの?」
「じじぃは魔法の研究を俺が生まれた時ぐらいから初めてな。今もその研究に没頭している」
「なんでそれでバカにされるの?研究者なんて他にもいるし、バカにされる職業じゃないと思うけど」
「……死者蘇生」
「ん?」
「じじぃが研究している内容だ」
死者蘇生。
言葉そのままを受け取ると、死んだ者を生き返らせたいってことだよな。
この世界の死の概念がどんなものか知らないが、賛否両論だろう。
「こんな話して悪かったな」
何も言わず死者蘇生について考えていると。
俺に気をつかっているのか、ルイが話を切り替えようとしてくる。
「俺は死者蘇生をバカになんてしないよ。おじいさんが誰を生き返らそうとしているかは知らないけど、その人を愛した証だと思うし、今でも愛しているってことでしょう?人の愛する形なんて誰にもバカにする権利はないよ」
「お前は……。この世界がお前みたいな考えのやつが多かったら、じじぃもバカにされてなかったのかな」
「宗教的にダメなのか?」
「そうだな、どの宗教でも、死者への冒涜ととらえるな。まあ、実際オレもじじぃのことはバカだと思っているよ。自分のすべてを投げ捨て、一人の愛した女のために残りの人生をかけて研究しているんだ。こんなカッコいいバカ、俺はじじぃしか知らない。だから、身内が言う分にはいいが、他人からバカにされるのは許せない」
カッコいいバカか。
ルイはいいことを言うな
バカって言ってもいろんな意味があるだろうしな。
「ルイはそのままそれを貫けばいいよ。どれだけ、バカにされようが譲れないものは誰にでもある。ルイにも、おじいさんにも、俺にも。俺はうちの子のためなら世界を敵に回すつもりだよ」
「お前もバカだな」
「そうだよ。かっこいいでしょう?」
おどけたようにルイに問いかける。
「はいはい」
それを流すように、答えるルイ。
「でも、知らなかったなー。ルイがおじいちゃん子だったなんて」
「うるさいわ。生まれた時から、じじぃがずっと屋敷の研究室にいたから、よくお世話されてただけだよ」
「ふーーん。そうゆうことにしとくね」
このガキがとつぶやきながら、膝の上にいるテトを優しくなでている。
恥ずかしがらなくてもいいじゃないか。
俺はおばあちゃん子だ。
両親共働きで、いつもおばあちゃん家に帰ってから、迎えに来てもらってたからね。
子供の時の記憶はおばあちゃんとの思い出が多いよ。
おばあちゃんが好きで何がわるい。
声を大にして言えるわ。
「そういえば、なにしに来たんだ?」
「そうだ、忘れてたよ」
「もう、ソラだめでしょ?」
お菓子から目を移したティナにも怒られてしまった。
てか、ティナも忘れてたでしょ?
お菓子に夢中だったじゃん。
でも、うちの子には文句いえないので。
「回復魔法教えてくれる人いない?できれば帝都にいる人がいいんだけど……」
「回復魔法?ソラそんなのも使えるのか?」
「俺じゃなくて、ティナね」
「嬢ちゃんか。……回復魔法ね。いるにはいるが少しめんどくさい女だぞ?」
「どんな人なの?」
「目にしたらすぐ攻撃をしかけてくるような獰猛で喧嘩っ早いやつだ」
「えっと……。魔物の情報?」
「そうかもな。あいつは魔物なのかもしれない。俺は影で化け物と呼んでいるよ」
いやいや、女性を化け物なんて呼ぶなよ。
俺がふざけて魔物?とか言ったけど、肯定するなよな。失礼だろう。
それにしても回復魔法が使える人を教えてほしいだけなのに、聞く限りめちゃくちゃ戦闘タイプなんだけど。
「回復魔法を教えてくれそうな人なんだよね?」
「回復魔法の使い手で、帝国内の上位に存在しているのは間違いない。ただ、気に入らないやつには一切の手ほどきはしないけどな」
「どうやって気に入ってもらえばいいの?」
「力を示せばいい」
「……ティナが教えてもらうつもりなんだけど」
「ソラが戦えば、嬢ちゃんも気に入ってもらえるだろ。手紙でも書こうか?気に食わんが」
「そんなものなのか?手紙は書いてほしいな。あと、どこにいるの?」
「帝都にある王宮で宮廷魔法士として働いている、確か今は三席だったかな?」
「三席ってなんだ?」
「あー、簡単にいえば強い順かな。宮廷魔法士は十席までに隊長格としての地位があり、その下に下々の魔法士がいる構成になっていてな。自分の派閥に気に入った魔法士を取り込み、権力を高めていっている」
「宮廷魔法士って、権力の世界なのか」
「王宮で働いているやつらは権力のしがらみだらけだぞ」
「へー。それに合わないルイが左遷されたと」
「ちげーよ。四番隊辞めたら、今の零番隊の隊長にスカウトされたんだ。それで勤務地はどこでもいいって言ってくれてな。世話になったエドさんがいるスレイロンに来たんだ」
「門のところの騎士とルイってどっちが高い地位なの?」
「オレだな。帝都以外にいる騎士は領主の所有物だ。ここでいうと伯爵家の騎士という立場になる。俺は王直属の零番隊だからな。王宮勤めの騎士より、身分だけではえらい。まあ、公には隠されているから威張ることもないけどな」
なんか、難しい世界だな。
権力とかが関わってくると、どっちが上でどっちが下とかよくわからん。
小説読み始めたときは侯爵と公爵を見て、書き間違えかな?って感じたしな。
まあ、王宮で働くことないから、いいんだけどさ。
「俺には縁がない世界だな。関わらないように祈っておこう」
「ソラはこの前、公爵家に喧嘩売ってたけどな」
「あれは俺からじゃない。ギルドも証明してくれるし」
「それでもだ。権力が関わるとそんなこと些細なことなんだよ」
「嫌な世界だ」
「だろ?王宮なんかで生活してたら腐ってしまうぞ」
なるほどな。
ルイはここに来て正解だったのだろう。
「あ、そういえば、宮廷魔法士の名前教えてよ」
「そうだったな。あいつはクロエ・ナイトレイだ」
「クロエさんね。王宮に手紙を持って行けばいいのか?」
「そうすれば、入れてもらえるはずだ」
そういうと、ルイは手紙を書き始めた。
やっぱり、面倒見がいいやつだ。
テトモコシロは退屈そうにしているので、お腹わしゃわしゃの刑だ。
もふもふの毛を無造作にかき混ぜてく。
ここがきもちいいんだろ?
体がとろけてきたぞ。
隣でティナもわしゃわしゃに参加している。
「こちょこちょー」
「にゃん」
「こちょこちょー」
「わふん」
「こちょこちょー」
「きゅいー」
この光景だけでお金が取れるな。
動画投稿サイトで、ペットの動画をあげている人はこんな気分なのだろうか。
うちの子たちの映像を垂れ流しにするだけで、みんなが幸せになるだろう。
地球で戦争がなくなるかもしれない。
そんなことを考えながら、待っているとルイが手紙を渡してくる。
「ありがとう。助かったよ。じゃーこれでいくわ」
「おう、もう来るなよ」
「ばいばいっ」
「にゃー」
「わふ」
「きゅうー」
みんなで挨拶をし、詰所からでる。
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