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第35話 従魔屋は楽園だよ
しおりを挟む「見てみてっ、魔物がいっぱいだよー」
ティナの大きな声が草原に響き渡る。
俺たちはあれ以降、問題なく移動をし、目的地であるヘンネルに到着した。
ヘンネルはスレイロンほどの城壁はないが、ただただ、それを囲う面積が広い。
城壁の中には、畑や牧草地帯も含まれており、その中で農業や従魔屋が行われている。
街中は、スレイロンと変わった様子はないが、農民と呼ばれる人の姿が多く見える。
「そうだな。ちっちゃい子もいるみたいだな」
今いる場所は従魔屋が所有している牧草地帯だ。
見渡すかぎり、様々な魔物が生活をしている。
馬に似た魔物。牛に似た魔物。鳥、リス、ウルフ。
どうやら、従魔愛好家という組織があるらしく、国にも認められた組織が運営を行っているらしい。
従魔といっても、冒険者とともにダンジョンに挑むだけの存在ではないとのこと。
動物のようにペットとして、家で飼い、緊急の際では、その武力を当てにすることもあるそうだ。
また、農業で力を発揮する従魔もいるようで、畑に牛のような魔物の存在を見ることができた。
ちなみに、馬車をひいてきた馬は魔物だそうだ。
貴族の馬車を引く馬はだいたい魔物のことが多く、普通の馬より馬力やスピードが高性能らしい。
多くの魔物を目にしたティナは、それはもう興奮して、飛び跳ねるようにあたりを走っている。
それについていくフィリアも興奮しているようで、近くにいる魔物に話しかけている。
テトモコシロは悠々と草原を歩き、魔物とお話ししているみたいだが。
怖がられてはいないようで安心した。
「フィリアはどんな魔物がいいんだ?」
「んー、もふもふは外せないわ。それに大きくても困るから、小さいほうがいいわね」
「どれどれっ」
ティナはどんなことでも楽しいのか、目をキラキラさせている。
「テトモコシロちゃんみたいな子がいいんだけど……」
「見ている限り、猫みたいなやつはいないな。キツネもいなそうだが」
「犬ちゃんは?」
「そうね。ウルフはいるけど、散歩が必要でしょ?」
んー。どうだろう。
犬と同じで散歩は必要なのかな?
俺たちはあんまり家の中で一日過ごすことがないし、街の外にも出るから、そのことについてモコに聞いたことがなかったな。
「モコ、ウルフは散歩が必要なのか?」
近くを歩いているモコに聞いてみる。
「わふ。わふわふわん?」
「だよね」
モコの答えはわからないと。でもお散歩は楽しいよ?だって。
「モコちゃんはなんて言ってるの?」
「わからないってさ。モコは散歩が好きみたいだけど」
「そうですね。ウルフ系の魔物は外に連れ出して、定期的に運動させた方がいいです。ストレスが溜まりますし、散歩することで主人との親密度が高まるみたいです」
そう答えるのは、近づいてきた従魔屋のお兄さん。
「ですよね。基本的に屋敷でのデスクワークですし、これから学校にも行くので、あまり外で歩くことはできないのよね。散歩の必要がないモフモフはいますか?」
お兄さんの話を聞いて、やはりウルフは無理だとフィリアは判断したのだろう。
「それだと、鳥系の魔物か、リスなどの小さい魔物になりますね」
「そうね」
そういってあたりを見渡すフィリア。
んー、どれがいいんだろうな。
魔物との相性もあるみたいだし、結局はフィリアになついた子になるんだろうけど。
俺もあたりを見渡すと、魔物が固まってる場所が目に入る。
魔物の中心にはティナがウルフをブラッシングしている姿がある。
ティナはどこでも人気者だ。
「ティナちゃん……なんかすごいわね」
魔物に群がられているティナを見て、フィリアはつぶやく。
「あー、ティナは子供だからな。魔物も警戒しないんだろう」
魔物に囲まれているティナは楽しそうにブラッシングとお話をしている。
ここにいる魔物は魔物語が話せるのだろうか。
テトモコシロもブラッシングに加わろうとしているが、君たちはやめなさい。
いつでもしてくれるでしょ。
「ティナちゃんがうらやましい」
「フィリアもブラシ持って行ってみれば?囲まれるかもよ?」
「そうだといいんだけどね……やめとくわ。現実はおそらく悲しいものだから」
なに、悟ったようなことを言っているのだ。
まあ、ティナだからなせる業なのかもしれないな。
それに、フィリアはもふもふが関わると狂気じみるからな。
あれは、俺もすこし恐ろしく感じる。
その目を向けられるもふもふ達はさらに恐怖を感じるだろう。
とりあえず、フィリアをなぐさめつつ、さきほどの魔物を探していく。
「にゃー」
「ん?どうした?」
テトによばれ振り返ってみると、テトの後ろにはちっちゃいもんズがついて来ていた。
「可愛い」
思わず声に出てしまったが。
うちの子たち以外でこのように興奮したのは初めてだ。
ちっちゃいもんズと言ったが、テトと同じくらいか、それより小さい子たちが集まっていた。
リスに、ウサギ、モルモット、フェレット、イタチ、ネズミ。
様々な小さな魔物が集まっている。
「……」
フィリアに目を向けると、ちっちゃいもんズを見つめてフリーズしている。
生きているよな?
近くにいるサナさんが揺さぶっているが反応はない。
逝ってしまったか。なむなむ。
「はぁっ」
サナさんの必死の揺さぶりにより、息を吹き返したようだ。
息を吹き返したフィリアはなぜか、服についてる草やほこりを祓うような仕草をしている。
そしてそのまま、テトがつれて来たちっちゃいもんズに向かって黙々と歩きだす。
ちっちゃいもんズの側にたどり着くと、静かに、草原へと寝転び始めた。
「みなさん。どうぞ」
もうあいつはほっといていいか?
どうせ、埋もれてみたい。踏んでほしい。足の匂いを嗅ぎたい。
そんな欲情を抱いているだけだろう。
手伝っている俺たちがあほらしくなってきたよ。
サナさんは慣れているのか、くすくす笑っているだけだし。
ちっちゃいもんズは変なものを見る目をしているが、ゆっくりと匂いを嗅ぎ始めた。
その間、不動をつらぬくフィリア。
もう、尊敬に値するレベルなのかもしれない。
フィリアの願いが叶ったのか、次第にちっちゃいもんズはフィリアの上に乗り、くつろぎ始めた。
恍惚とした顔を隠すことなく、広い大地であお向けている伯爵令嬢。
それで本当にいいのだろうか。
俺はもうフィリアに構うことをやめ、ティナのところに行き、ブラッシングのお手伝いをする。
「ここがいいのかなっ?」
ティナがいつも俺がしているように魔物に話しかけている。
子は親に似るというがその姿は俺そのものだった。
だが、ティナがやると天使のささやきのように聞こえる。
同じ行動でもやはり天使は天使なのだ。
俺はこういうのが見たくて世界を旅している。
そう実感することができた。
「みなさん、お時間ですよ」
従魔屋のお兄さんから声がかかる。
この従魔屋は時間制だ。
購入するだけではなく、一緒に時間を過ごすだけでもお金が必要になるのだ。
まあ、払ってもいいぐらい幸せな時間を過ごせるし、文句はない。
ただお金目当てだけでなく、従魔のストレス軽減も含まれているのだとか。
一人の購入希望者が、ずっと同じ魔物にまとわりつくとストレスにつながるからだそうだ。
よくできたシステムだ。
従魔にするには、その魔物に気に入られなければならない。
そのため、あほが来ると付きまとうやつもいるだろうしな。
従魔愛好家らしい、従魔のためのシステムだ。
フィリアに目を向けると、まだ草原に寝転んでいた。
結構な時間たった気がするのだが。
サナさんがたたき起こし、重い腰をあげるフィリア。
服には草や、魔物の毛がそこら中についている。
あほだな。
渋々と歩き出すフィリアを連れ、従魔屋を出る。
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