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第32話 どっちがバカ?
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「さぁーいくわよ。私のもふもふのために」
朝からうるさいフィリアである。
太陽が上がり始めた、早朝、俺たちは宿に襲撃をうけた。
フィリアに、お付きの騎士男性二名。女性一名 メイドさん一名の構成だ。
昨日、明日出発だと言っていたがこんなに朝早くくんなよな。
ティナはもちろん寝ているし。シロも寝ている。
「あら、ティナちゃんまだ起きてないのね」
「フィリア様、私が馬車まで運びましょう」
茶髪のイケメン騎士がフィリアに提案する。
そして、流れるように、ティナが寝ているベットへと向かう。
いや誰だよお前。
「触るな」
こちとら、いきなり起こされて機嫌が悪いんだ。
それに名前も知らない男にうちの天使を触らさせるわけないだろう。
「モコ、こっちきて」
モコは理解しているかのように、体を大きいサイズへと変更し、俺の横にくる。
いい子だ。
俺も十歳の子供サイズなので、ティナを抱っこしたまま、階段を降りるのは身長的にきつい。
ということで、モコにのり、ティナを抱いたまま移動をする。
モコの上で抱き合って座っている状態だが、ティナは起きる様子がない。
「無理しなくても、フールが運ぶわよ?」
「名前も名乗らないやつに俺がティナを触れさせると思っているのですか?」
「平民のくせに生意気だな」
「フール」
生意気ねー。それはそうだけど。了承を得ず人様の子に触れようとしたお前はなんなんだ?
フィリアが怒ってくれているが、なんか残念だ。
フールとよばれた人間はそうゆう人間なんだな。
貴族思考というかなんというか。哀れだ。
爵位が高いほうが偉い?地位が高いやつが何を言ってもいい?
そんなくだらないことを真剣に思っているんだろうな。
じゃー、王様が死ねって言ったら死ねよな。
くそ貴族のせいで、朝からイライラさせられるわ。
なんかあほらしくなってきた。
「フィリア、今回の依頼断るよ。ほら、違約金の金貨一枚だ。出ていってくれ」
敬語すらなくし、フィリアに命令する。
別にフィリアのことは嫌いではない、むしろ、もふもふ愛好家としては好ましく思う。
でも、やっぱり貴族と平民は違うんだよ。
お付きの騎士の態度を気に食わないのが、その家の問題だと拡大解釈しているわけではない。
ただ、貴族の周りには貴族がいるべきなんだ。
価値観の違い、思考の違いを払拭させるのは難しい。
「え、でも……」
珍しくフィリアが動揺している。
いつも凛々しく、うちの子たちが関わらなければ、貴族らしい女性なのに。
動揺している姿を見ていると十三歳年相応な女の子に見える。
「どうかされましたか?フィリア様」
メイドさんに呼ばれたのだろうセバスさんが部屋へと入ってきた。
「フールがバカで……ソラが怒って……」
セバスさんに伝えようとするフィリアだが、途中から泣き出してしまい。うまく話せていない。
「フールなにがあった」
「そこの坊主が生意気だっただけですよ、いきなり依頼を破棄すると言い出したんです」
セバスさんは驚いたように俺に顔向ける。
「あー、それでいいですよ。平民と貴族は関わるべきではないと再確認ができたので」
「なっ、なにがあったんですか?ソラ君」
「俺の口からは何も言えません。不敬にあたりますから。すみませんが、出て行ってもらってもいいですか?」
有無もいわせぬ態度で、退出を促す。
泣きまくっているフィリアには悪く思うが、こっちも気分が悪い。
セバスさんは他の騎士からも話聞いて、すこし怖そうな顔していたが。
そのままフィリアを連れ、扉から出て行った。
ティナをベットにもどし、俺もベットへと入りこむ。
俺に近くにはテトモコが寄ってきて丸くなっている。
もふもふさらさらだ。
俺は、頭の中にあるフィリアの泣き顔を片隅によせ、意識しないように眠りにつく。
「ソーラー。今日は旅行でしょ?早くおきてぇー」
「あー、おはよティナ」
「おはよっソラ」
窓から入る日差しの感じは、おそらくまだ昼前だ。
「ティナ、今日の旅行なくなったんだ」
「えー。なんで?」
なんて言えばいいだろう。
フィリアと喧嘩した?
違うな。喧嘩はしてない。
従者がうざくて切れてしまった?
これだと俺が悪いみたいだ。
……いや、俺が悪いのか?
客観的に考えてみると、ティナに触ろうとした男を止めて。嫌味の言い合いをした。その嫌味に俺がキレて依頼破棄した。
何度もやり取りを思い起こすが……なんか俺が悪い気がしてきた。
まず、ティナに触る人が知っている人ならおそらくそのまま運んでもらっていた。
セバスさんでもそのまま許していたはず。
しかも生意気だなんて、自分でも理解しているし自覚ありありだ。
今更、そんなことで怒る理由もない。
ティナのこともあり、俺は貴族に対して、悪いようにとらえすぎなのだろうか……
「ソラ……?」
「あー、ごめん。考え事してた。旅行は俺たちでいこうか」
「んー、フィリアおねえちゃんは?」
「……ちょっと喧嘩しちゃったんだ」
「あー、いけないんだ。ママが言ってたよ。喧嘩したらすぐにごめんねしたほうがいいんだよ」
「でも……」
「でもじゃないよっ。行こ?」
「にゃー」
「わふ」
なぜかテトモコもティナ側についている。
ティナは俺の手を握って、宿の外に向かっていく。
宿の外に出ると、道の脇に馬車が止められてあった。
そこから、俺たちを見つけたのか、セバスさんが出てくる。
「ソラ君、ティナちゃん。先ほどは申し訳ありませんでした。少し、時間は空いていますか?エド様が呼んでおりますので、屋敷までおこしいただきたいのですが?」
「今から行くところなのっ」
「?ティナちゃん。どこにですか?」
「ごめんねしにいくの」
「それはようございました。私たちも謝罪のためにお呼びしていますので」
馬車の扉が開かれ、手を握られたまま、ティナに連れていかれる。。
馬車の中には、俺とうちの子たち、セバスさんだ。
ティナに文句も言えず、そのままずるずると屋敷に行くことになってしまった。
非常に気まずい。
謝りに行くなんて、いつぶりだろうか。
小学生の時に親同伴で学校に誤りにいった以来だろうか。
石を投げて、窓を割った人が勝ちっていうバカな遊びをしていた。
その時は俺が勝って、誰にもばれていないと思ったのだが、次の日に親同伴でよばれたのだ。
しかも遊んでいた全員。
今思えば、学校には監視カメラもあるし、セキュリティーの人もいるしな。
窓ガラスを割ったら、犯人なんてすぐわかるだろう。
俺は今、その時に似た気持ちでいる。
すべて俺が悪いとは思っていないが、俺にも悪い部分があったとは思っている。
精神年齢で二十三歳。この年になると純粋な謝り方がわからないよ……
「ソラ?大丈夫?」
「にゃー」
「わん」
「きゅう?」
「うん。大丈夫だよ」
浮かない顔でもしているのだろうか。
セバスさんは口を開かず、膝の上にシロを乗せ撫でている。
「つきましたね」
セバスさんは膝の上のシロをティナに渡し、馬車の扉を開く。
見覚えのある屋敷が視界の隅に映る。
はあ、ついてしまった。
どうしよう、まだ謝り方がみつかっていない。
セバスさんはスタスタ屋敷を進んでいく。
歩きが早いと感じるのは俺の気持ちが作用しているのか……
「エド様、天使の楽園様をお連れしました」
「入ってくれ」
この前と同じように奥の机で執務をしているエドさん。
俺たちはソファーに腰かけ、メイドさんから飲み物とお菓子をもらう。
「来てもらって悪いな。今回俺の部下が失礼なことをした。すまん」
こちらにやってきたエドさんは、ソファーに座ることなく俺たちに頭を下げ謝罪の言葉を述べる。
「いえいえ、こっちこそ、大人げなく、小さなことで腹を立ててしまいました。申し訳ありません」
やばい、領主である伯爵家の当主に頭を下げさせてしまった。
これは平謝りしないと。
「わっはっはっは、大人げないか。やはりソラは面白いな。バカな部下にも聞かせてやりたいわ」
なぜか、腹をかかえて笑い出したエドさん。
あのー、こっちは誤っているんですけど。
面白いことなんて言ってませんよ?
どうしたらいいのかと周りを見渡して、セバスさんを見る。
「エド様。ソラ君に失礼ですよ」
「いやなー、セバス。十歳の子供が大人げもなく腹を立ててしまったと真剣な顔でいっておるのだぞ?バカな部下に対する最大級の嫌味だな」
しまった。
今俺は十歳の子供だった。
焦って、大人げないという言葉を使ってしまったが、文字通り、今は大人ではない。
エドさんの目には、子供が見栄を張り大人ぶっているように見えるだろう。
それに加え、大人なくせに、子供に対して嫌味を言った部下に嫌味を言っているともとれる。
「そんなつもりでは……」
「わかっておる。ソラが年相応の思考ではないのは話していてもわかるしの。本音でそう思っているだけだろ」
「……」
「あのね。ソラはごめんねしにきたの」
隣で状況をみていたティナが声を出す。
「うん。わかっているぞ。ちゃんと謝罪は受け取った。もちろん、こちらは許すし、そちらも受け入れてほしいのだが?」
「だってー。ソラよかったね」
「はい、もちろんです。今回は申し訳ありませんでした」
よかった。
伯爵家を怒らせてはいないみたいだ。
「それと、悪いがフィリアにも会っていってもらいたいのだ。帰ってきてから落ち込んでいてな」
「それは……申し訳ありません。フィリアさんの部屋に向かいますね」
セバスさんの後をついて行き、一つの扉の前で止まる。
「フィリア様、天使の楽園様がお見えになりました。入ってもよろしいですか?」
「イヤ」
「フィリアおねえちゃん。ティナだよ?」
小さな声が部屋の中から聞こえ、拒否されてしまった。
そんなことを気にしていないかのようにティナが声をかける。
「ティナちゃん?」
扉が開けられ、ピンクの部屋着をきたフィリアが見える。
すこし疲れたような顔をしている。
部屋はピンクの壁紙で、絨毯、クッション、ソファーなどもふもふの素材で作られたものが取り揃えられている。
非常に女の子らしい部屋だし、趣味全開の部屋だ。
「フィリアおねえちゃんだ。こんにちは」
「ティナちゃんこんにちは」
ティナを見てすこし元気を取り戻したのか笑顔を見せるフィリア。
「フィリアさん。ごめんなさい。失礼なことをしました。」
ここは、素直に謝っておくほうがいい。
エドさんに謝罪され、その方が受け入れる側も気持ちがいいことがわかった。
「フィリア」
「ん?」
「あの時と同じようにフィリアって呼んで」
「でも、フィリアさま「いいから」は」
「フィリア?」
「そうよ。私もごめんなさい。従魔を見つけに行くから、ちょっと浮かれていたのかもしれない。それに、あなたたちにとってフールは知らない人だしね。悪いことをしたわ」
「仲直りした?」
モコの上で聞いていたティアが訪ねてくる。。
「うん。したわよ」
「できたみたいだ」
「よかったぁー」
ティナは花が咲いたように笑顔になる。
心配させていたのだな。ティナにも悪いことをした。
五歳の少女に気を使わせて、謝りに一緒に来てもらうって……
二十三歳の精神が悲鳴をあげている……気がする。
「ティナありがとね」
「ティナなにもしてないよ?」
不思議そうに顔を見つめてくる。
この子は本当に天使だな。
「ティナちゃんありがとね」
「??」
フィリアもお礼を言っている。
ティナは何がなんだかわかっていないようだ。
「きゃー、テトちゃん、モコちゃん舐めすぎ、くすぐったいよー」
テトモコがティナの顔や体を舐め始めた。
それにつづき、シロも参戦する。
テトモコは話を全部聞いていたからな。
俺とフィリアのことを心配してくれたのかもしれない。
ティナはそのままもふもふに埋もれていく。
「テトモコもありがとな」
「にゃー」
「わふ」
気にするな……か。
本当にうちの子はいい子だ。
シロも撫でてやるからなー。
結局、冒険者ギルドでの依頼破棄はされておらず、受注中だったため、明日から気を取り直して出発することにした。
フールと呼ばれた騎士は来ないようで、他の騎士、メイドさん、御者さんを紹介された。
朝からうるさいフィリアである。
太陽が上がり始めた、早朝、俺たちは宿に襲撃をうけた。
フィリアに、お付きの騎士男性二名。女性一名 メイドさん一名の構成だ。
昨日、明日出発だと言っていたがこんなに朝早くくんなよな。
ティナはもちろん寝ているし。シロも寝ている。
「あら、ティナちゃんまだ起きてないのね」
「フィリア様、私が馬車まで運びましょう」
茶髪のイケメン騎士がフィリアに提案する。
そして、流れるように、ティナが寝ているベットへと向かう。
いや誰だよお前。
「触るな」
こちとら、いきなり起こされて機嫌が悪いんだ。
それに名前も知らない男にうちの天使を触らさせるわけないだろう。
「モコ、こっちきて」
モコは理解しているかのように、体を大きいサイズへと変更し、俺の横にくる。
いい子だ。
俺も十歳の子供サイズなので、ティナを抱っこしたまま、階段を降りるのは身長的にきつい。
ということで、モコにのり、ティナを抱いたまま移動をする。
モコの上で抱き合って座っている状態だが、ティナは起きる様子がない。
「無理しなくても、フールが運ぶわよ?」
「名前も名乗らないやつに俺がティナを触れさせると思っているのですか?」
「平民のくせに生意気だな」
「フール」
生意気ねー。それはそうだけど。了承を得ず人様の子に触れようとしたお前はなんなんだ?
フィリアが怒ってくれているが、なんか残念だ。
フールとよばれた人間はそうゆう人間なんだな。
貴族思考というかなんというか。哀れだ。
爵位が高いほうが偉い?地位が高いやつが何を言ってもいい?
そんなくだらないことを真剣に思っているんだろうな。
じゃー、王様が死ねって言ったら死ねよな。
くそ貴族のせいで、朝からイライラさせられるわ。
なんかあほらしくなってきた。
「フィリア、今回の依頼断るよ。ほら、違約金の金貨一枚だ。出ていってくれ」
敬語すらなくし、フィリアに命令する。
別にフィリアのことは嫌いではない、むしろ、もふもふ愛好家としては好ましく思う。
でも、やっぱり貴族と平民は違うんだよ。
お付きの騎士の態度を気に食わないのが、その家の問題だと拡大解釈しているわけではない。
ただ、貴族の周りには貴族がいるべきなんだ。
価値観の違い、思考の違いを払拭させるのは難しい。
「え、でも……」
珍しくフィリアが動揺している。
いつも凛々しく、うちの子たちが関わらなければ、貴族らしい女性なのに。
動揺している姿を見ていると十三歳年相応な女の子に見える。
「どうかされましたか?フィリア様」
メイドさんに呼ばれたのだろうセバスさんが部屋へと入ってきた。
「フールがバカで……ソラが怒って……」
セバスさんに伝えようとするフィリアだが、途中から泣き出してしまい。うまく話せていない。
「フールなにがあった」
「そこの坊主が生意気だっただけですよ、いきなり依頼を破棄すると言い出したんです」
セバスさんは驚いたように俺に顔向ける。
「あー、それでいいですよ。平民と貴族は関わるべきではないと再確認ができたので」
「なっ、なにがあったんですか?ソラ君」
「俺の口からは何も言えません。不敬にあたりますから。すみませんが、出て行ってもらってもいいですか?」
有無もいわせぬ態度で、退出を促す。
泣きまくっているフィリアには悪く思うが、こっちも気分が悪い。
セバスさんは他の騎士からも話聞いて、すこし怖そうな顔していたが。
そのままフィリアを連れ、扉から出て行った。
ティナをベットにもどし、俺もベットへと入りこむ。
俺に近くにはテトモコが寄ってきて丸くなっている。
もふもふさらさらだ。
俺は、頭の中にあるフィリアの泣き顔を片隅によせ、意識しないように眠りにつく。
「ソーラー。今日は旅行でしょ?早くおきてぇー」
「あー、おはよティナ」
「おはよっソラ」
窓から入る日差しの感じは、おそらくまだ昼前だ。
「ティナ、今日の旅行なくなったんだ」
「えー。なんで?」
なんて言えばいいだろう。
フィリアと喧嘩した?
違うな。喧嘩はしてない。
従者がうざくて切れてしまった?
これだと俺が悪いみたいだ。
……いや、俺が悪いのか?
客観的に考えてみると、ティナに触ろうとした男を止めて。嫌味の言い合いをした。その嫌味に俺がキレて依頼破棄した。
何度もやり取りを思い起こすが……なんか俺が悪い気がしてきた。
まず、ティナに触る人が知っている人ならおそらくそのまま運んでもらっていた。
セバスさんでもそのまま許していたはず。
しかも生意気だなんて、自分でも理解しているし自覚ありありだ。
今更、そんなことで怒る理由もない。
ティナのこともあり、俺は貴族に対して、悪いようにとらえすぎなのだろうか……
「ソラ……?」
「あー、ごめん。考え事してた。旅行は俺たちでいこうか」
「んー、フィリアおねえちゃんは?」
「……ちょっと喧嘩しちゃったんだ」
「あー、いけないんだ。ママが言ってたよ。喧嘩したらすぐにごめんねしたほうがいいんだよ」
「でも……」
「でもじゃないよっ。行こ?」
「にゃー」
「わふ」
なぜかテトモコもティナ側についている。
ティナは俺の手を握って、宿の外に向かっていく。
宿の外に出ると、道の脇に馬車が止められてあった。
そこから、俺たちを見つけたのか、セバスさんが出てくる。
「ソラ君、ティナちゃん。先ほどは申し訳ありませんでした。少し、時間は空いていますか?エド様が呼んでおりますので、屋敷までおこしいただきたいのですが?」
「今から行くところなのっ」
「?ティナちゃん。どこにですか?」
「ごめんねしにいくの」
「それはようございました。私たちも謝罪のためにお呼びしていますので」
馬車の扉が開かれ、手を握られたまま、ティナに連れていかれる。。
馬車の中には、俺とうちの子たち、セバスさんだ。
ティナに文句も言えず、そのままずるずると屋敷に行くことになってしまった。
非常に気まずい。
謝りに行くなんて、いつぶりだろうか。
小学生の時に親同伴で学校に誤りにいった以来だろうか。
石を投げて、窓を割った人が勝ちっていうバカな遊びをしていた。
その時は俺が勝って、誰にもばれていないと思ったのだが、次の日に親同伴でよばれたのだ。
しかも遊んでいた全員。
今思えば、学校には監視カメラもあるし、セキュリティーの人もいるしな。
窓ガラスを割ったら、犯人なんてすぐわかるだろう。
俺は今、その時に似た気持ちでいる。
すべて俺が悪いとは思っていないが、俺にも悪い部分があったとは思っている。
精神年齢で二十三歳。この年になると純粋な謝り方がわからないよ……
「ソラ?大丈夫?」
「にゃー」
「わん」
「きゅう?」
「うん。大丈夫だよ」
浮かない顔でもしているのだろうか。
セバスさんは口を開かず、膝の上にシロを乗せ撫でている。
「つきましたね」
セバスさんは膝の上のシロをティナに渡し、馬車の扉を開く。
見覚えのある屋敷が視界の隅に映る。
はあ、ついてしまった。
どうしよう、まだ謝り方がみつかっていない。
セバスさんはスタスタ屋敷を進んでいく。
歩きが早いと感じるのは俺の気持ちが作用しているのか……
「エド様、天使の楽園様をお連れしました」
「入ってくれ」
この前と同じように奥の机で執務をしているエドさん。
俺たちはソファーに腰かけ、メイドさんから飲み物とお菓子をもらう。
「来てもらって悪いな。今回俺の部下が失礼なことをした。すまん」
こちらにやってきたエドさんは、ソファーに座ることなく俺たちに頭を下げ謝罪の言葉を述べる。
「いえいえ、こっちこそ、大人げなく、小さなことで腹を立ててしまいました。申し訳ありません」
やばい、領主である伯爵家の当主に頭を下げさせてしまった。
これは平謝りしないと。
「わっはっはっは、大人げないか。やはりソラは面白いな。バカな部下にも聞かせてやりたいわ」
なぜか、腹をかかえて笑い出したエドさん。
あのー、こっちは誤っているんですけど。
面白いことなんて言ってませんよ?
どうしたらいいのかと周りを見渡して、セバスさんを見る。
「エド様。ソラ君に失礼ですよ」
「いやなー、セバス。十歳の子供が大人げもなく腹を立ててしまったと真剣な顔でいっておるのだぞ?バカな部下に対する最大級の嫌味だな」
しまった。
今俺は十歳の子供だった。
焦って、大人げないという言葉を使ってしまったが、文字通り、今は大人ではない。
エドさんの目には、子供が見栄を張り大人ぶっているように見えるだろう。
それに加え、大人なくせに、子供に対して嫌味を言った部下に嫌味を言っているともとれる。
「そんなつもりでは……」
「わかっておる。ソラが年相応の思考ではないのは話していてもわかるしの。本音でそう思っているだけだろ」
「……」
「あのね。ソラはごめんねしにきたの」
隣で状況をみていたティナが声を出す。
「うん。わかっているぞ。ちゃんと謝罪は受け取った。もちろん、こちらは許すし、そちらも受け入れてほしいのだが?」
「だってー。ソラよかったね」
「はい、もちろんです。今回は申し訳ありませんでした」
よかった。
伯爵家を怒らせてはいないみたいだ。
「それと、悪いがフィリアにも会っていってもらいたいのだ。帰ってきてから落ち込んでいてな」
「それは……申し訳ありません。フィリアさんの部屋に向かいますね」
セバスさんの後をついて行き、一つの扉の前で止まる。
「フィリア様、天使の楽園様がお見えになりました。入ってもよろしいですか?」
「イヤ」
「フィリアおねえちゃん。ティナだよ?」
小さな声が部屋の中から聞こえ、拒否されてしまった。
そんなことを気にしていないかのようにティナが声をかける。
「ティナちゃん?」
扉が開けられ、ピンクの部屋着をきたフィリアが見える。
すこし疲れたような顔をしている。
部屋はピンクの壁紙で、絨毯、クッション、ソファーなどもふもふの素材で作られたものが取り揃えられている。
非常に女の子らしい部屋だし、趣味全開の部屋だ。
「フィリアおねえちゃんだ。こんにちは」
「ティナちゃんこんにちは」
ティナを見てすこし元気を取り戻したのか笑顔を見せるフィリア。
「フィリアさん。ごめんなさい。失礼なことをしました。」
ここは、素直に謝っておくほうがいい。
エドさんに謝罪され、その方が受け入れる側も気持ちがいいことがわかった。
「フィリア」
「ん?」
「あの時と同じようにフィリアって呼んで」
「でも、フィリアさま「いいから」は」
「フィリア?」
「そうよ。私もごめんなさい。従魔を見つけに行くから、ちょっと浮かれていたのかもしれない。それに、あなたたちにとってフールは知らない人だしね。悪いことをしたわ」
「仲直りした?」
モコの上で聞いていたティアが訪ねてくる。。
「うん。したわよ」
「できたみたいだ」
「よかったぁー」
ティナは花が咲いたように笑顔になる。
心配させていたのだな。ティナにも悪いことをした。
五歳の少女に気を使わせて、謝りに一緒に来てもらうって……
二十三歳の精神が悲鳴をあげている……気がする。
「ティナありがとね」
「ティナなにもしてないよ?」
不思議そうに顔を見つめてくる。
この子は本当に天使だな。
「ティナちゃんありがとね」
「??」
フィリアもお礼を言っている。
ティナは何がなんだかわかっていないようだ。
「きゃー、テトちゃん、モコちゃん舐めすぎ、くすぐったいよー」
テトモコがティナの顔や体を舐め始めた。
それにつづき、シロも参戦する。
テトモコは話を全部聞いていたからな。
俺とフィリアのことを心配してくれたのかもしれない。
ティナはそのままもふもふに埋もれていく。
「テトモコもありがとな」
「にゃー」
「わふ」
気にするな……か。
本当にうちの子はいい子だ。
シロも撫でてやるからなー。
結局、冒険者ギルドでの依頼破棄はされておらず、受注中だったため、明日から気を取り直して出発することにした。
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今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
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