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第31話 ソラティナクッキング

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「第一回ソラティナクッキングを始めます」
「はいっ」
「にゃー」
「わん」
「きゅー」
 
 宿に帰り、依頼中のごはんの作り置きを作ることにする。
 道中にティナが料理をしたいというので、急遽、ソラティナクッキングの開催が決まった。
 別に大掛かりなものではないが、こういうのは気持ちが大事だ。
 子供が料理のお手伝いをしたいと言って来たら、大人は全力でその気持ちに応えてあげるべきだ。
 
 それにしても、この世界にホットプレートやたこ焼き機がないのが悔やまれるな。
 たしか、子供と一緒につくるミニお好み焼き、ミニクレープ、たこ焼き、カステラなど広告で見たことがある。
 子供がいない俺には、だれが買うんだよって思っていたのだが、ティナがいる今、その存在のありがたさがわかる。
 一緒にぱぱっと料理ができて、その場でティナが食べる顔を見れる。ティナが作った料理をその場で食べることができる。
 なんたる幸運か。考えるだけでニヤケが止まらないよ。
 
 それにしても、もったいなくて食べれないかもしれないな。
 影収納に永久保存しておくか?
 いや、それだとティナが悲しむかもしれない、
 どうすれば、ティナが作ったものを永久保存し、かつティナの喜ぶ笑顔を見れるのだろう。
 食べてしまえばなくなる。なくなったものは元には戻らない。
 1-1=0のままだ。
 
 んー。これは難問だ。
 
「ソラ?」
「あー。ごめん。四則演算と不可逆性問題について考えていた」
「?」

 待ちきれなくなったティナから声がかかるが、返答によりまた疑問に思わせてしまった。

 そんなティナはおばあちゃんの店で買ったエプロンをつけている。
 これがまた天使力をアップさせているのだよ。
 いつもと違った見た目は新鮮さがあり、俺の目の癒しになる。
 
 テトモコシロはなにもしないが、ティナが巻いたスカーフを身に着けてご機嫌だ。
 念のため厨房と廊下の間のところでみんなをお座りさせておく。
 さすがに、人様の厨房に毛がもふもふのうちの子を入れるのはまずいと感じてしまった。

 ティナが待ちきれないみたいなので、ソラティナクッキングを始めようか。

「では、最初にハンバーグを作ります」
「つくりますっ」

 今日のティナはやる気十分だ。
 腕まくりをして、手伝う気満々のティナは俺の言葉を反復する。

「まずは、この肉ブロックをひき肉にします」
「しますっ」
 
 きれいに洗った箱に肉ブロックを入れ、風魔法を発動し、小さい風の刃を十本生み出し、肉ブロックをひき肉へと変えていく。
 はじめてハンバーグを作った時は、手で時間をかけ刻んでいたのだが、テトモコの食べる量を考えると馬鹿らしくなったのだ。
 しかも、大好評で何回もねだられたため、短時間で効率よくできないかを考えた結果、風魔法の使用だった。
 
 これがまた難しいのよ。
 箱を壊さないように、十本の小さい風の刃を動かす。
 難しさは右手と左手で違うことをするレベルの比じゃない。
 指一本で風の刃一本動かすイメージで、風を動かす必要がある。
 キーボードと一緒じゃないのか?そう思うだろ?
 残念ながら俺は人差し指でしかキーボードを叩けない。

 それにキーボードは決められた位置に指を下ろすだけ。
 こちとら風の刃で肉ブロックをひき肉にしているんだ。決まった動きなどなく、ただひたすらに動かすだけ。

 これも研究の結果、十本が精密操作できる限界だった。
 大雑把にすれば本数は増やせるのだが、それだとキッチンごと切り裂てしまいそうになる。

「次は玉ねぎです」
「ですっ」

 見ているだけでも楽しいのか。手をワキワキさせている。
 ティナがやる作業の復習かな?

 玉ねぎも先ほど同様、風魔法でささっとみじん切りに。
 そして、フライパンにいれて、火を通していく。
 その間に、ひき肉とパンくず、牛乳、塩コショウを箱に入れ。

「ティナの出番です」
「ですっ」
 
 ティナが必死に、手をにぎにぎ、ぐーぐー。ひき肉をこねていく。
 身長の問題もあり、床に箱を置き、ほぼ全身を入れてこねている。
 もう、素足で踏んでもらった方が楽なのかな?
 あまり、ハンバーグを踏むということを気いたことないが、混ざれればいいのではないかと、素人ながら思ってしまった。
 それにティナの素足で……食べてみたい……。
 いや、やめておこう。
 
 ティナが作業している姿をちゃんとお座りして応援しているテトモコシロ。
 しっぽを振り振りしながら、じーっと見ている。
 ティナを見ているよね?
 お肉じゃないよね?

 
 玉ねぎの火をとめて、冷ましてから、後入れだ。

 ティナがこねている間に、スープや、シチューなど鍋ごと影収納に入れれるものを作っていく。
 ここら辺はもう適当に具材を風魔法で刻み、鍋に入れて味付けで終わりだ。
 味の変化があればいいと思う。
 大学生の男なんてそんなもんよ。
 
 結構な大きさの肉ブロックだったので、それなりの重労働なはずなのに、ティナは楽しそうに手を動かしている。
 子供用ナイフとかあればいいんだけど、店にあるのはどれもティナには大きすぎて危険だった。そのため、今回のティナの仕事はこねたり、混ぜたりするだけだ。
  
 次のティナの仕事は、ポテトサラダのつぶしをしてもらう。
 あらかじめ、火にかけてゆでているジャガイモと卵を取りだし、キュウリやニンジンを薄切りに。
 味付けはマヨネーズがないから、塩コショウのみだ。

「ティナ交代しよう。今度はポテトサラダをつぶしてもらいます」
「ますっ」

 そろそろしんどいかな?ってところでティナのもみもみタイムは終了だ。
 ティナは棒をつかってポテトサラダをつぶしていく。
 この作業はもみもみより好きみたいだ。
 リズミカルに木の棒を刺している。

「ハンバーグの形をつくります」
「ますっ」

 ティナは俺のマネをして、小さいハンバーグを量産していく。
 一口ハンバーグの出来上がりだ。
 何個か一緒にハンバーグのたねをつくり、俺は焼きの作業に入る。
 これは魔道具のコンロをつかうので、俺の魔法の使用はなし。
 っていうことはただ量が多いハンバーグを焼いていくだけだ。

 ティナ助手は疲れたみたいなので、焼きあがったハンバーグを、つまみ食いさせてあげる。
 もちろんテトモコシロが許すはずがないので、みんなで共犯になる。
 つまみぐいって不思議なおいしさがあるよな。
 子供ながらに背徳感を感じているのだろうか。

 さて、俺が作ったやつと、屋台で買ったやつで道中の食事は賄えるだろう。
 行きにかかるのも一週間だし。
 それに、ヘンネルまでの道中にある一つの街で一夜を過ごすらしい。

「ティナ、これから、今日のデザート作るから。部屋で遊んでいていいぞ」
「わかったぁー」
「にゃー」

 ティナはテトの出した水で手を洗い、二階へと走って戻る。
 テトモコシロもその後を追う。

 さて、スポンジケーキでも作ろうかな。
 
 卵をかき混ぜ、砂糖を少しずつ入れかき混ぜる。
 バターを溶かした牛乳を入れ。
 生地どろどろになるまでかき混ぜ、あとは小麦粉だ。
 マジックボックスに薄力粉なんてないからね。
 妥協だよ。
 でもうちの子たちはおいしく食べてくれるんだ。
 
 それにしても、この世界に料理魔道具が存在してよかった。
 先代の地球人よ。
 あなたの知識チートに感謝します。
 だけど、少しは残しておいてほしい。
 俺も知識チート全開にして異世界で金儲けしてみたいから。

 まあ、この世界の人がただただ発明したのかもしれないけど。
 それでも、料理チートは絶対に行われている。 
 ファミレスみたいな店、屋台いつもお世話になっています。
 
 芋をふかしたものがあふれる世界でなくて本当に良かった
 そんな世界だと異世界旅行なんてしている余裕なんてないかもしれない。

 さぁー、焼きあがったら、うちの子たちに食べてもらおう。
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