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zakura

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7月17日 金曜日

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森の奥にある一件の家。

今日も三人は集まる。

午後九時。

「いただきます。」

「はい。どうぞー。」

机の上にはパエリア。大きな鍋を三等分して違う具が乗っている。

それぞれのコップにはみんな違うのみもの。

いつも通りだ。

海老とムール貝の乗ったパエリアを頬張る肩までのかみの女、灰(ぐれい)。

きのこ、かつおぶしと和のパエリアを皿に分けてもらっている灰色の髪の男、黒(こく)。

黒にパエリアを取り分けている、黒い髪の男、白(はく)。

三人が夜の時間をいつも通り紡いでいく。

「ねー、俺気になってたんだけど。あれ、なに?」

黒が指差したのは、昨日灰が持ってきた大きな紙袋。

「あれ、誰のにもつなの?」

「あれ?白のじゃないんだ。」

「買い物袋ももってんだぞ?持てないだろ。」

だとすると、あの紙袋の持ち主は一人。

黒と白は、灰の方を見る。

灰はパエリアを頬張りながらいった。

「あげぇふ(あげる)。」

黒が目を輝かせた。

「まじ!!俺に!!?」

「別に黒にって訳じゃないけど。」

「やった!!」

灰の声も聞かず、黒は席から立ち上がると紙袋の元へいき、ガサガサとあさりだした。

その様子をにこにこしながら見る白。

黒は袋の中身を見て固まった。

「……」

「黒?どうした?」

「……いらない!!!」

黒は紙袋から離れて席に戻ってくる。

そして隣に座る灰に文句を言う。

「なに!!俺にくれるって言ったから期待したのに!!あんなのいらないんだけど!」

灰は黒の言葉を聞いてムッとした。

「はぁ!?あげるって言ったものを要らないって?あんたねぇ、要らなくったってくれたものなら我慢してもらいなさいよ。

部屋に引きこもってばっかだからって礼儀もわかんないの?」

「えええ!!俺、男だよ!絶対あげるものじゃないでしょ!!

例えもらうとするじゃん?礼儀的に。

でも、絶対!!いらないよね!!絶対!!」

「私も要らない。」

「あああ!!わかった!!

自分があれもらったんだ!!で、要らないから俺にあげたってこと!!?

自分は人にもらったもの人にあげるのに俺には礼儀がなってないとか言うんだーひどー。」

「うるっさいわね!もちろんもらったときはお礼言ったわよ!礼儀ってそんなもんでしょ!?

もらったときは笑顔でお礼いっとけばそれは礼儀になんの!!そのあとの行方に礼儀は関係ないの!」

「それって押し付けって言うんだよ!さいてー」

「ばか!うるさい!!この家広いんだからおいてていいでしょ!」

「ばか!そんなもの置くとこありませーーん。」

「はぁぁぁ!?お前マジふざけ……」

「ちょっとーちょっと待ってーー。」

今にも黒の胸ぐらをつかもうとしていた灰の前にたちふざがる白。

灰は白を睨む。

「なによ白。」

「喧嘩しないでよー。」

「あっちが悪いんだけど。」

「灰が100%悪いですぅ!」

「お前!!」

「ちょちょ、、黒もあおらないでよ。

で、あの紙袋いったい何が入ってるのさ。」

「化粧道具。」

白は耳を疑った。

「へ?もう一回。」

「だーかーらー!!化粧道具一式だよ!」

灰は化粧道具を黒に押し付けようとしてたのか。

黒はどっからどう見ても男。

これは意味がわからんな。

100%灰が悪い案件に納得する白。

ただ、

「確かに灰もいらないな。」

いまの灰の様子を見ていてわかるように化粧は薄めだ。

むしろしてないときだってある。

それは灰の職業的に化粧はしなくてもよい、むしろしない方がいいと言われるからである。

けれど、化粧をしない灰に化粧道具を渡してくる人物。

「誰からもらってきたの?」

すると、灰はだるそうに言った。

「あのさーーー」









7月16日 午後3時。

「具口(ぐこう)さーん。」

振り向くのは肩までの髪を一括りにした灰である。

化粧濃いめのパートのおばさまが話しかけてきた。

灰の返事も聞かずに話を進める。

「具口さん。職場にはなれましたか?」

「はい。まぁ」

「若いのに経営管理だなんて、ほんとにすごい。」

「ありがとうございます。」

「具口さんっておいくつでしたっけ?」

「……26、ですが……」

「ええええ!26なんですか!!もったいなーい!」

もったいない、、?、

その言葉に引っ掛かる灰。

おばさまは話を続ける。

「まだまだ若いんだからお化粧とかしないと!!せっかく顔も整ってるのにー。ほんとにもったいないですよぉー。」

……

この女はバカか。

化粧なんてしてて、それが落ちて食材にはいったらどうするんだ。

灰はにっこり笑っていった。

「お化粧が落ちて、食材に入ってもいけませんし、、、」

するとおばさまがムッとする。

「やだー。そんなすぐ落ちたりしないってー。しかも今、マスク着用だし、食材に落ちたりしないですよー。」

じゃあ、化粧しなくていいやん。

と思ってしまう灰。

しかし早く帰ってほしい灰はとりあえず合わせることにする。

「……そう、、ですね。確かに。もっと化粧しようかな、、」

するとおばさまが目を輝かせた。

「そうでしょ!!それがいいわよ!実は私が前使ってた化粧品があるんだけどね、、

品質もいいし譲ってあげるわよ!!

実は今日持ってきてて、、」


まじかよ。

このおばさん、私に押し付けようとしてた。

話に乗るんじゃなかった。

後悔も遅く、自分の作業デスクに大きな紙袋がおかれた。

おばさまは嬉しそうに笑う。

「いやー、必要な人が見つかってよかったわぁ。捨てようと思ってたから。

具口さん、頑張ってくださいね。」

そういうとそそくさと帰っていった。

残された紙袋を見てため息をつく。

「……いらねぇ、、」












「ってことなのよ。」

いや嫌そうにいう灰を見て黒は爆笑する。

「あはははは!!押し付けられてるじゃーん!

灰が俺にやったことと一緒!

俺に押し付けるのやめた方がいいんじゃなーい?自分にまた返ってくるよー。」

「うざい!!!」

「まぁまぁ、でも売り付けられなくてよかったね。値段とか請求してきたら怖かったけど。」

優しい白を見て灰はキッと睨む。

「お前みたいないいやつが引っ掛かるのはわかるのよ!

何で私?別に仲良くないし、、ほんとうざい!」

「引っ掛かるって、、詐欺じゃないんだから」

「詐欺よ!詐欺!」

灰と黒による詐欺コールが始まるなか白は考える。

「取っておこうか。」

白の唐突の言葉に同時に振り向く黒と灰。

続けて口を開く。

「灰はいらなくても……、さ。」

察した二人は少し寂しそうに笑った。

「まー、そうね。

将来の買い物したと思えばいいもんよ。」

「灰、少し勉強しとけよ。」

「黒がすればいいじゃん。」

「俺男!」

またもめ出す二人を見て、白は灰の持ってきた化粧道具だらけの紙袋を持って奥の部屋へと入っていった。








7月20日 月曜日

パートのおばさまに会う灰。

おばさまは驚いた。自分があげた化粧道具を使っていないいつも通りの灰だったからだ。

おばさまは灰に詰め寄る。

「お化粧してこなかったのぉー?」

灰はにっこり笑った。

「斎藤さんからもらった化粧道具、すごくいいものだったので、自分が使うのもったいないなって思ってしまって……」

「やだー。そんなことないのにー」

「いや、もったいないです。

なので

妹にあげました。」

「え。」

「すごく喜んでいました。

ありがとうございます。」

最高の笑顔で灰はお礼を言った。

おばさまのポカンとする顔を見ながら、おばさまの横を通りすぎた。



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