赤い糸のさきに

アtorica@基本ツイッターにいます

文字の大きさ
上 下
44 / 56

44

しおりを挟む
「なんで無視するんだよ」
「……う」

 相変わらず既読もついていない携帯画面を見せれば、希輝がばつが悪そうに視線を左右に泳がせた。

「俺も、何もない時なら未読でも気にしないけどさ。あんな風に怒って出ていった後にコレはどうかと思うんだけど」
「ぐ」
「せめて理由だけでも教えてくんない?」

 携帯を再びズボンのポケットにいれて、じっと見つめれば、また希輝の視線が左右に泳いだ。
 何を言えばいいのか本人も分からないのか、薄い唇が開いたり閉じたりする。

「……あーっと、君たち。チャイム鳴ったぞ?」

 突然割り込んできた嗄れ声に、希輝と共にハッと視線を横にずらせば、次の授業担当の先生が立っていた。
 気まずそうに眼鏡をくいっと上げて、脂汗を流す先生の姿を見て、何故か少し冷静になった気がする。
 希輝の頬から手を離して距離を開ければ、希輝も戸惑いながらも俺から視線を落とした。

「引き留めてごめん。戻るわ」

 きっと今は何を言っても、希輝の口から怒った理由を聞きだすことはできないだろう。
 ふいっと背中を向けて、俺の教室に向かう先生の後を追うように足を一歩踏み出す。

「……っ、喧嘩の仕方が分からないんだよ!」
「……は?」
「お前の言葉にムカついた! 心底腹が立った! けど、この気持ちを伝える術が俺には分からない……!」

 後ろから意味の分からない言葉を叫ばれて、驚きすぎて先生と一緒に振り返ってしまった。
 去る俺の背中を見て咄嗟に出た言葉だったのか、茹でタコのような顔色で慌てたように俺を見る希輝がいた。
 そばに先生がいた事に今更気づいたとでも言うかのように、益々顔を赤くさせた希輝が逃げるように自分の教室へと駆け込んでいく。

「け、喧嘩がしたいのかね?」
「いや、俺はしたくないです!」

 チャイムが鳴った以上、希輝の教室まで追いかけるわけにも行かず、ただただ先生と一緒に首を傾げていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

処理中です...