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空波遥の章
最悪の出会い
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昔々、星に憧れつつも手を伸ばすことすら許されなかった男の子がおりました。
~~~
突然だがみんなは、「お前の事を可愛くしてやるからつきあえ」って告白されたことはあるだろうか。
オレはある。
オレが空波遥(からなみ はるか)と出会ったのは、オレがこの養瑛(ようえい)学園に転校してきた初日。学校の裏庭でだった。
朝早く着きすぎてしまい、時間を潰そうとうろうろしていたオレに、校舎の方にいたヤツが声をかけてきたのだ。
「おうい、そこの中学生ー!講堂はそっちじゃないよー!」
最初自分のことを言われているとは思わなかった。理由は至極明快で、オレは中学生ではないからである。
ただ・・・・・・。
その声は、凛と空気を震わせまっすぐオレの耳に届いた。
この5月の空を吹き渡る風みたいに。
(・・・・・・完璧だ)
最初に抱いた感想はそれだった。
この世にこんなにセーラー服が似合う子がいるのか。
最初に心を捉えられたのは声。
そして腰まであるまっすぐの黒髪に、今度は目までもを奪われる。頭のてっぺんにはシンプルなデザインのカチューシャ。丸くて大きな瞳は吸い込まれそうな存在感を放つ。すっと伸びた鼻筋がすんなり顔の真ん中に収まり、その下に細く線を引く唇。
ゆっくりと視線を落とせば、すらりとした肩、腕、腰。それらにぴったり纏う紺の襟と白地の制服。滑らかに布の端までピンと伸ばされ、皺のひとつもない。スカートの裾は軽やかにふんわり。白い両脚をさらに視線で追えば、やがてそれは落ち着いた色合いのソックスとローファーの中へと吸い込まれていくのだった。
(・・・・・・な、・・・・・・なんかいい匂いまでしてくるような)
いつしかオレの心は、ぽーっとする高揚感で溢れていた。こんなに浮かれちゃっていいんですかね、春だからって。
「おーい、・・・・・・おーい!」
そう言ってやつはこちらに歩いて向かってきた。
おーい、おーい・・・・・・。
繰り返す彼女のその声がオレの中に響く。エコーのように幾度もこだまして、うっとりするような旋律へと変わった。その旋律は、オレをただただ酔いしれさせ、頭からまともな思考回路を奪った。
(・・・・・・天使って、もしいたらこんな風なのかな)
思わずそんなたわけた妄想をしてしまうほど、彼女は美しくて。
「そこのちゅうがくせーい!」
続けて放たれたこの言葉が、幻想的なイメージを増幅させる。
(天使が、・・・・・・歌っている)
そこのちゅうがくせーい、そこのちゅうがくせーい・・・・・・。
とうとうそれは勝手にビブラート加工されてオレの中で果てしなく反響する。まるで一流の職人が手がけた楽器のように、甘く優しく。
オレは魂を抜かれたようになってしまっていた。
「もおーう、ちょっと聞いてる?」
微動だにしないオレに向かって眉をひそめ、彼女はスタスタとオレの方へ向かってくる。
まさに光臨という表現がぴったりだった。目も眩むような後光が差し、辺りにはファンファーレを告げるようなラッパの音が高らかに空に向かって・・・・・・。
「ほわぁ・・・・・・、天国ってこんな感じ・・・・・・。えっ?」
怪訝な顔の彼女を視認し、さすがにこの辺からオレもファンタジーな世界観から抜け出し始める。そういえばここは天国ではないし、彼女の声は楽器ではないし、ラッパに至っては完全に幻聴である。時間を持て余して陽の差さない裏庭を徘徊していただけの冴えないオレに、神が御遣い(みつかい)をよこすはずがないのだ。
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突然だがみんなは、「お前の事を可愛くしてやるからつきあえ」って告白されたことはあるだろうか。
オレはある。
オレが空波遥(からなみ はるか)と出会ったのは、オレがこの養瑛(ようえい)学園に転校してきた初日。学校の裏庭でだった。
朝早く着きすぎてしまい、時間を潰そうとうろうろしていたオレに、校舎の方にいたヤツが声をかけてきたのだ。
「おうい、そこの中学生ー!講堂はそっちじゃないよー!」
最初自分のことを言われているとは思わなかった。理由は至極明快で、オレは中学生ではないからである。
ただ・・・・・・。
その声は、凛と空気を震わせまっすぐオレの耳に届いた。
この5月の空を吹き渡る風みたいに。
(・・・・・・完璧だ)
最初に抱いた感想はそれだった。
この世にこんなにセーラー服が似合う子がいるのか。
最初に心を捉えられたのは声。
そして腰まであるまっすぐの黒髪に、今度は目までもを奪われる。頭のてっぺんにはシンプルなデザインのカチューシャ。丸くて大きな瞳は吸い込まれそうな存在感を放つ。すっと伸びた鼻筋がすんなり顔の真ん中に収まり、その下に細く線を引く唇。
ゆっくりと視線を落とせば、すらりとした肩、腕、腰。それらにぴったり纏う紺の襟と白地の制服。滑らかに布の端までピンと伸ばされ、皺のひとつもない。スカートの裾は軽やかにふんわり。白い両脚をさらに視線で追えば、やがてそれは落ち着いた色合いのソックスとローファーの中へと吸い込まれていくのだった。
(・・・・・・な、・・・・・・なんかいい匂いまでしてくるような)
いつしかオレの心は、ぽーっとする高揚感で溢れていた。こんなに浮かれちゃっていいんですかね、春だからって。
「おーい、・・・・・・おーい!」
そう言ってやつはこちらに歩いて向かってきた。
おーい、おーい・・・・・・。
繰り返す彼女のその声がオレの中に響く。エコーのように幾度もこだまして、うっとりするような旋律へと変わった。その旋律は、オレをただただ酔いしれさせ、頭からまともな思考回路を奪った。
(・・・・・・天使って、もしいたらこんな風なのかな)
思わずそんなたわけた妄想をしてしまうほど、彼女は美しくて。
「そこのちゅうがくせーい!」
続けて放たれたこの言葉が、幻想的なイメージを増幅させる。
(天使が、・・・・・・歌っている)
そこのちゅうがくせーい、そこのちゅうがくせーい・・・・・・。
とうとうそれは勝手にビブラート加工されてオレの中で果てしなく反響する。まるで一流の職人が手がけた楽器のように、甘く優しく。
オレは魂を抜かれたようになってしまっていた。
「もおーう、ちょっと聞いてる?」
微動だにしないオレに向かって眉をひそめ、彼女はスタスタとオレの方へ向かってくる。
まさに光臨という表現がぴったりだった。目も眩むような後光が差し、辺りにはファンファーレを告げるようなラッパの音が高らかに空に向かって・・・・・・。
「ほわぁ・・・・・・、天国ってこんな感じ・・・・・・。えっ?」
怪訝な顔の彼女を視認し、さすがにこの辺からオレもファンタジーな世界観から抜け出し始める。そういえばここは天国ではないし、彼女の声は楽器ではないし、ラッパに至っては完全に幻聴である。時間を持て余して陽の差さない裏庭を徘徊していただけの冴えないオレに、神が御遣い(みつかい)をよこすはずがないのだ。
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