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27 俺の恋愛事情
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「なっ、なっ、な、なんで!!????」
思わず大声を出してしまった。話題の切り替えが急すぎて一瞬何が起こったのか分からないレベルだった。
「いや、そのー、ほら、気になって……」
破壊力抜群の質問をした本人は、まっすぐな瞳でこちらを見ている。
「小さい頃からあんなに大人だった雪ちゃんが、どんな人を選ぶのかな、とか……」
「べ、別に誰選んだっていいだろ!」
動揺のあまり噛みかけながら暖雪は吠える。返す言葉もない、と言った風に、大海は「そうだね……」と零してまるで叱られた子供のような表情をした。
「ごめん」
そんな風に謝られると、なんだかこちらが悪いことをしているような気がしてしまう。暖雪はぐっと言葉に詰った。
というか、そもそもの疑問として。
(なんでこいつ、俺の恋愛事情をそんなに気にしてくるんだ?)
そういえば、昨晩夕飯を食べながら出会い系アプリについて聞いてきたときもこんな風に偉く唐突だった気がする。
それに、彼らしくないこんなに歯切れの悪い様子。
何なのだろう。一体何が、彼をそうさせているのか。
(やっぱり、気、使われてるのかな……)
でも、そうだったところでどうすることもできない。そのことを考えると暖雪は胸の奥の方がぎゅっと締め付けられたようになる。これは自分にとってかなりデリケートな問題なのだ。
二人黙ったままの時間が続く。先に耐えられなくなったのは、暖雪の方だった。
(……けどこれ以上しゅんとしている様子の大海なんか、見ていたくない)
そう強く感じた暖雪は、何とかこの空気を変えるべくこう提案した。
「な、何か分かんないけど。……分かった。まだ会う予定はこれからだし、どうなるかまだ決まったわけじゃないけどさ。正式に付き合うことになったらちゃんとお前にも紹介するから。それでいいか?」
「……うん」
「どうしたんだよ、ほら暗い顔してんな。明日から仕事だろ。」
どうあがいても大海の顔を晴らすことはできない。内心で白旗を上げてしまう。正攻法は諦めて、暖雪は話題を変えることで対処することにした。
「そうなんだよねえ……。うわあ~、緊張するー!」
「元気出してけ。ほら、初日から笑顔で行けば、きっとみんな気持ちよく受け入れてくれるよ」
「うん……」
このために遥々海を越えて日本に来たのだ。仕事の話を振ったのが功を奏して、どうにか大海は笑顔を見せてくれた……、ものの。
数秒後にはまたため息をついてしまう。
「ああ~、ドキドキするなあ。上手くやれるかなあ、俺」
初出勤前日ということを意識して、やや精神が不安定になってしまったようだ。
「仕事できなくて怒られたらどうしよう……」
「大丈夫だって。新人にはみんな良い意味で期待してないと思うよ」
暖雪はデザイン業界の事情はもちろん知らない。だが以前仕事で税金に関するパンフレットを作成する際、デザイナーと関わったことがある。納税について広く市民に理解を深めたいというコンセプト案を、来所したデザイン事務所の人たちは熱心に聞いてくれた。デザイナーという職業は属人的な仕事だとばかり思っていたが、予想外にチームで連携を取ってプロジェクトを進行している彼らの姿が印象的だった。
「それに、ここに来るまでにメールとかで色々コミュニケーション取ってたんだろ?お前の人となりとかは向こうも分かってくれてるだろ。お前の精いっぱいを思い切りやれば誰もお前を悪く言うやつなんていないよ」
自分が新人だった頃を思い出し、暖雪はできるだけのエールを大海に送る。
「まずは元気に挨拶な。先輩たちも案外緊張してるもんだから、こっちから積極的にコミュニケーションとってくれるやつはそれだけで早く職場に馴染めると思うぞ」
「うんっ」
素直に大きく頷いてみせる大海が、とても可愛らしい。
「まあ、そういうのは得意そうだな」と頷き返しつつ、これから社会に羽ばたいていこうとする大海の姿を、暖雪はとても眩しく感じるのだった。
そして翌日。
初出勤を終えた大海は、やや疲れた面持ちながらも充実した様子で、暖雪の待つ家に帰ってきた。
「お疲れ様。どうだった?」
大海よりもギリギリ先に帰宅していた暖雪は、大海の顔を見るなりそう聞く。初日くらい家に先に帰って出迎えてやろうと、やや強引に仕事を切り上げ家まで飛んで帰ったのだ。
「うん。最初の先輩への挨拶は雪ちゃんに言われてたから頑張ったよ!うまくできたと思う!」
そう言って大海は笑うが、さすがにその顔には疲労の色が見えた。
「ずっと憧れてた師匠も、忙しそうだったけど色々会話してくれてさ。この事務所で頑張ろうって気持ちがすごく湧いたよ!」
「そっか。上出来上出来、よくやったじゃん」
そう語る大海に心からのねぎらいの言葉をかけ、暖雪はこれから本格的に始まる二人の生活に思いを馳せるのだった。
思わず大声を出してしまった。話題の切り替えが急すぎて一瞬何が起こったのか分からないレベルだった。
「いや、そのー、ほら、気になって……」
破壊力抜群の質問をした本人は、まっすぐな瞳でこちらを見ている。
「小さい頃からあんなに大人だった雪ちゃんが、どんな人を選ぶのかな、とか……」
「べ、別に誰選んだっていいだろ!」
動揺のあまり噛みかけながら暖雪は吠える。返す言葉もない、と言った風に、大海は「そうだね……」と零してまるで叱られた子供のような表情をした。
「ごめん」
そんな風に謝られると、なんだかこちらが悪いことをしているような気がしてしまう。暖雪はぐっと言葉に詰った。
というか、そもそもの疑問として。
(なんでこいつ、俺の恋愛事情をそんなに気にしてくるんだ?)
そういえば、昨晩夕飯を食べながら出会い系アプリについて聞いてきたときもこんな風に偉く唐突だった気がする。
それに、彼らしくないこんなに歯切れの悪い様子。
何なのだろう。一体何が、彼をそうさせているのか。
(やっぱり、気、使われてるのかな……)
でも、そうだったところでどうすることもできない。そのことを考えると暖雪は胸の奥の方がぎゅっと締め付けられたようになる。これは自分にとってかなりデリケートな問題なのだ。
二人黙ったままの時間が続く。先に耐えられなくなったのは、暖雪の方だった。
(……けどこれ以上しゅんとしている様子の大海なんか、見ていたくない)
そう強く感じた暖雪は、何とかこの空気を変えるべくこう提案した。
「な、何か分かんないけど。……分かった。まだ会う予定はこれからだし、どうなるかまだ決まったわけじゃないけどさ。正式に付き合うことになったらちゃんとお前にも紹介するから。それでいいか?」
「……うん」
「どうしたんだよ、ほら暗い顔してんな。明日から仕事だろ。」
どうあがいても大海の顔を晴らすことはできない。内心で白旗を上げてしまう。正攻法は諦めて、暖雪は話題を変えることで対処することにした。
「そうなんだよねえ……。うわあ~、緊張するー!」
「元気出してけ。ほら、初日から笑顔で行けば、きっとみんな気持ちよく受け入れてくれるよ」
「うん……」
このために遥々海を越えて日本に来たのだ。仕事の話を振ったのが功を奏して、どうにか大海は笑顔を見せてくれた……、ものの。
数秒後にはまたため息をついてしまう。
「ああ~、ドキドキするなあ。上手くやれるかなあ、俺」
初出勤前日ということを意識して、やや精神が不安定になってしまったようだ。
「仕事できなくて怒られたらどうしよう……」
「大丈夫だって。新人にはみんな良い意味で期待してないと思うよ」
暖雪はデザイン業界の事情はもちろん知らない。だが以前仕事で税金に関するパンフレットを作成する際、デザイナーと関わったことがある。納税について広く市民に理解を深めたいというコンセプト案を、来所したデザイン事務所の人たちは熱心に聞いてくれた。デザイナーという職業は属人的な仕事だとばかり思っていたが、予想外にチームで連携を取ってプロジェクトを進行している彼らの姿が印象的だった。
「それに、ここに来るまでにメールとかで色々コミュニケーション取ってたんだろ?お前の人となりとかは向こうも分かってくれてるだろ。お前の精いっぱいを思い切りやれば誰もお前を悪く言うやつなんていないよ」
自分が新人だった頃を思い出し、暖雪はできるだけのエールを大海に送る。
「まずは元気に挨拶な。先輩たちも案外緊張してるもんだから、こっちから積極的にコミュニケーションとってくれるやつはそれだけで早く職場に馴染めると思うぞ」
「うんっ」
素直に大きく頷いてみせる大海が、とても可愛らしい。
「まあ、そういうのは得意そうだな」と頷き返しつつ、これから社会に羽ばたいていこうとする大海の姿を、暖雪はとても眩しく感じるのだった。
そして翌日。
初出勤を終えた大海は、やや疲れた面持ちながらも充実した様子で、暖雪の待つ家に帰ってきた。
「お疲れ様。どうだった?」
大海よりもギリギリ先に帰宅していた暖雪は、大海の顔を見るなりそう聞く。初日くらい家に先に帰って出迎えてやろうと、やや強引に仕事を切り上げ家まで飛んで帰ったのだ。
「うん。最初の先輩への挨拶は雪ちゃんに言われてたから頑張ったよ!うまくできたと思う!」
そう言って大海は笑うが、さすがにその顔には疲労の色が見えた。
「ずっと憧れてた師匠も、忙しそうだったけど色々会話してくれてさ。この事務所で頑張ろうって気持ちがすごく湧いたよ!」
「そっか。上出来上出来、よくやったじゃん」
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