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9 そもそもなんでこんなことになっているのかという自分でも上手く折り合いをつけられていない事情
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子供時代。
両親の愛情を目いっぱい受け、友達と遊び、時には親戚と楽しく交流する、そんな時期。それは他の人と同じように、当然暖雪にも存在している。けれど、その時はまさか自分が将来こんなにも恋愛で苦労することになるなんて思っていなかった。
むしろ暖雪はずっと長い間、恋愛にはむしろポジティブなイメージを抱いていたのだ。
暖雪が自分がゲイだと認識したのは高校生の時である。同時期に部活の先輩から告白され、人生初の彼氏ができた。
穏やかな人だった。人目を盗んでのデートしかできなかったが、当時の記憶はどれもこれも楽しかったものばかりだ。先輩とは、彼が遠方の大学で学業に専念するという理由で別れてしまった。それでも優しい彼は、『暖雪ならきっとまた良い人に巡り会えるよ』と言い残してくれたのだ。
当時の暖雪も、またすぐ次の彼氏ができると楽観的に考えていた。高校生で、こんなにも充実した恋愛ができたからだ。だから、辛い別れでもどうにか受け入れた。
しかし、あの時駄々をこねてでも彼にすがっていればと暖雪はその後何年にも渡って後悔するはめになる。
結論から言うと、大学に進学してから暖雪は恋の良縁に恵まれることはなかった。内気な性格が災いしたのもあるが、そもそも普通に暮らしていてもゲイとしての出会いはそうそう簡単に転がっていないのだ。先輩との出会いはただただ幸運だっただけだったのである。
日常で出会いに期待していても無駄だと思い知った暖雪は、今から一年ほど前に同性愛者向けの出会い系アプリの力を借りるようになった。
だが、結果は燦燦たるものであった。
事前にネットの口コミでアプリの評判を調べるなど、暖雪なりに準備をして恋活に臨んだつもりだ。しかし運が悪いのか暖雪自身に見る目がないのか、ことごとく身体目当ての男としかマッチングしない。一応、ゲイの界隈では、付き合う前や交際開始のその日に肉体関係を持つことのハードルが男女のカップルよりも低いというのはある。だがそれにしたって。
誰も彼も、真剣交際など最初から頭にないと言わんばかりの態度なのだ。
顔合わせをして早々にホテルに連れていかれそうになったことは数知れない。時には断り切れず、誘われるままホテルについて行ってしまい初対面の男と身体を重ねたことも数回ある。
そんな情事の後、暖雪は言葉にできないほどの悲しみと空虚感を覚えた。まるでひどく傷つけられたような気持ちで、去って行く相手の背中を見送る日々。
そこから正式な交際が始まるならまだいいが、簡単に身体を許したことでの関係は、いつもそれっきりで終わってしまう。
何度も傷ついて、打ちひしがれて。
世間の人々は恋人との楽しい時間を謳歌しているというのに。他人を羨んでばかりの、どうしようもない自分にも嫌気がさした。
もう普通の恋愛などできないのだろうか。そう落ち込むたびに、暖雪の中に生まれるある思いがある。
(……俺はなんで、こんなに恋人探しに躍起になってるんだっけ)
元カレの先輩との思い出が素敵なものだったのは確かだ。自分以外の誰かと想い想われ寄り添って、喜びも悲しみも分かち合う恋愛という行為はとても尊いものだ。
何よりそこでしか得られないドキドキや甘いときめきは素晴らしいものだ。思い返しただけでうっとりしてしまう。
その一方で、暖雪は常に恋をしていたいというような性格ではなかった。恋愛が人生の必須項目だなんて全く思っていないし、恋人がいないならいないで、仕事に精を出したり友達と遊んだりするのに楽しみや人生の幸せを見出すことだってできる。
なのにどうして最近の自分は、こんなに必死になって恋人を作ろうなんて思っているのか。
悲しい思いをするくらいなら、すっぱり恋愛を諦めて一人でいた方が良いのではないか。
そう思いつつも暖雪が恋人探しをやめようとしない理由。それは暖雪が常に人の期待に応えねばと、自分に期待された役割を果たさねばと、必要以上に気負ってしまう性格だからだ。
子供時代。
両親の愛情を目いっぱい受け、友達と遊び、時には親戚と楽しく交流する、そんな時期。それは他の人と同じように、当然暖雪にも存在している。けれど、その時はまさか自分が将来こんなにも恋愛で苦労することになるなんて思っていなかった。
むしろ暖雪はずっと長い間、恋愛にはむしろポジティブなイメージを抱いていたのだ。
暖雪が自分がゲイだと認識したのは高校生の時である。同時期に部活の先輩から告白され、人生初の彼氏ができた。
穏やかな人だった。人目を盗んでのデートしかできなかったが、当時の記憶はどれもこれも楽しかったものばかりだ。先輩とは、彼が遠方の大学で学業に専念するという理由で別れてしまった。それでも優しい彼は、『暖雪ならきっとまた良い人に巡り会えるよ』と言い残してくれたのだ。
当時の暖雪も、またすぐ次の彼氏ができると楽観的に考えていた。高校生で、こんなにも充実した恋愛ができたからだ。だから、辛い別れでもどうにか受け入れた。
しかし、あの時駄々をこねてでも彼にすがっていればと暖雪はその後何年にも渡って後悔するはめになる。
結論から言うと、大学に進学してから暖雪は恋の良縁に恵まれることはなかった。内気な性格が災いしたのもあるが、そもそも普通に暮らしていてもゲイとしての出会いはそうそう簡単に転がっていないのだ。先輩との出会いはただただ幸運だっただけだったのである。
日常で出会いに期待していても無駄だと思い知った暖雪は、今から一年ほど前に同性愛者向けの出会い系アプリの力を借りるようになった。
だが、結果は燦燦たるものであった。
事前にネットの口コミでアプリの評判を調べるなど、暖雪なりに準備をして恋活に臨んだつもりだ。しかし運が悪いのか暖雪自身に見る目がないのか、ことごとく身体目当ての男としかマッチングしない。一応、ゲイの界隈では、付き合う前や交際開始のその日に肉体関係を持つことのハードルが男女のカップルよりも低いというのはある。だがそれにしたって。
誰も彼も、真剣交際など最初から頭にないと言わんばかりの態度なのだ。
顔合わせをして早々にホテルに連れていかれそうになったことは数知れない。時には断り切れず、誘われるままホテルについて行ってしまい初対面の男と身体を重ねたことも数回ある。
そんな情事の後、暖雪は言葉にできないほどの悲しみと空虚感を覚えた。まるでひどく傷つけられたような気持ちで、去って行く相手の背中を見送る日々。
そこから正式な交際が始まるならまだいいが、簡単に身体を許したことでの関係は、いつもそれっきりで終わってしまう。
何度も傷ついて、打ちひしがれて。
世間の人々は恋人との楽しい時間を謳歌しているというのに。他人を羨んでばかりの、どうしようもない自分にも嫌気がさした。
もう普通の恋愛などできないのだろうか。そう落ち込むたびに、暖雪の中に生まれるある思いがある。
(……俺はなんで、こんなに恋人探しに躍起になってるんだっけ)
元カレの先輩との思い出が素敵なものだったのは確かだ。自分以外の誰かと想い想われ寄り添って、喜びも悲しみも分かち合う恋愛という行為はとても尊いものだ。
何よりそこでしか得られないドキドキや甘いときめきは素晴らしいものだ。思い返しただけでうっとりしてしまう。
その一方で、暖雪は常に恋をしていたいというような性格ではなかった。恋愛が人生の必須項目だなんて全く思っていないし、恋人がいないならいないで、仕事に精を出したり友達と遊んだりするのに楽しみや人生の幸せを見出すことだってできる。
なのにどうして最近の自分は、こんなに必死になって恋人を作ろうなんて思っているのか。
悲しい思いをするくらいなら、すっぱり恋愛を諦めて一人でいた方が良いのではないか。
そう思いつつも暖雪が恋人探しをやめようとしない理由。それは暖雪が常に人の期待に応えねばと、自分に期待された役割を果たさねばと、必要以上に気負ってしまう性格だからだ。
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