妖怪退治屋のお兄さんが山に出るという妖怪を討ちに行ったらショタコンを見抜かれてしまい、逆に人外ショタから触手責めされる話

松任 来(まっとう らい)

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夏の朝

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 「葉助(ようすけ)、お前、見合いの件どないするつもりでおるんや」

 自宅玄関。
そういえば、ととぼけたような様子で声をかけて来た祖父に、葉助は山岳用の草履を履く手を止めた。
 「・・・・・・爺ちゃん。こんな時にほんな話することないじゃろ」
 葉助は眉をひそめた。さては見送りに来てやったというのは方便で、本当の目的はこれか。
 「こんな時って?」
 「孫が今から世にも恐ろしい、がいな化け物退治に行てこうって時よ」
 祖父は肩をすくめ、ヘン、とうなる。
 「なーにを言うとんのや。『どうせ狐か山猫の類じゃろ、明日のうちに終わらせて明後日は朝から縄編みでも手伝おてやろうわい』と吹いておったのはお前じゃろ」
 「言うたけどね・・・・・・」
 渋い顔で葉助は矢入れの籠を背負う。

 油蝉の声が辺り一帯を埋め尽くす、かんかん照りの朝であった。

 篠田家は代々、妖怪退治を生業としている。本家の親戚の中には大名から直々に雇われている者もいる。分家に生まれた葉助も自分の足で歩き出した頃には武器の訓練を始めさせられ、子守唄代わりに薬草や毒草の知識を授けられながら育った。
 篠田家の人間は農作業や武器の製造などの傍ら“妖が出た”、と報せが入れば現地に赴いて討ち-、収入を得る。脈々と受け継がれたその技術は確かなもので、いくつか隣の国にまでその名が通るほどであった。
 
 篠田の血をしっかり引いた葉助も数々の戦果を上げ、今では一人で妖狩りに出かけることも少なくない。

 今日もこれから、隣国のさる山へ依頼をこなしに出かけるところである。
 年寄りの話になど耳を傾けている時ではないとばかりに、葉助はそっぽを向いて戸に手をかけた。すかさず祖父の声が飛ぶ。
 「葉助、分かっとうやろ、お前は確かに年の割りにしっかりしよるし妖狩りの筋も良い。しかしこの先もこの仕事を続ける気があるならなあ・・・・・・」
 「分かっとるよ!はいはい結婚な、分かった分かった考えとる!ちゃんと考えようけん!じゃあ行ってくるよ!」

 捨て台詞のようになってしまった。
 自分でもそう思ったが、葉助は振り向くことなくさっさと家を後にする。全く、あの爺さんはこの頃ますます口うるさい。いくら育ての親だからって少々過保護すぎやしないかと心の中でため息をつきながら。
 
 丸一日馬を乗り継ぎ、翌朝早く隣国が近づいてきても、葉助の心は晴れなかった。
 「はあ・・・・・・、あんな風に家を出てきてしまっては・・・・・・。この仕事終えて帰ってもまぁたじいちゃんから同じお小言を言われるんやろな」

 葉助がこうして周囲から結婚をせっつかれているのは、何もこの篠田の家系を絶やすことのないようにしなければ・・・・・・、というだけのことではない。

 篠田家では、一人前の退治屋になることのさらに上・・・・・・上級神社の退魔役を仰せつかったり、さらには都に召し仕えられ立身出世の道を歩むことが何よりも誉れ高いことであるとされていた。安定した地位と高収入が約束され、国内外から一目置かれることとなる。
 しかしそこへ行き着くには当然、人並み以上の討伐術や、霊力が不可欠となる。そしてそれは、単純に経験を積めば習得できるというものではなかった。そこいらの低級妖怪を駆除するばかりでは到底なしうることはできない。
例えば強大な妖を討つ、例えば名のある祭祀施設で厳しい修行を何年も重ねる、・・・・・・そして。

 葉助は馬を操りながら悶々と考える。
 ―――“生涯この身を捧げ共に生き、命に変えても守り抜く”・・・・・・、そういう存在と相応しい正式な契約を結び、それに対して相応しい祝福を得る。小難しいけど、まあ要は誰かと婚姻関係に至るいうこと。・・・・・・難儀な風習や、ほんま。

 十分な鍛錬を積んだ上で神前で結婚式を執り行い、然るべき儀を経る。自分以外の者を全霊を込めて愛することを誓い、引き換えに汚れを祓うための大いなる力を与えられることとなる。そして民衆の盾となり矛となるのだ。

 人生を共にする伴侶を見つけることが、そのまま退治屋として誰からも認められる将来へと繋がるのだ。

 ―――独り身のまんまでこれと同等の力を得た者は長い篠田の歴史の中でも片手で数えるほどしかおらんって師範は言いよったな。つまり俺もこのまま退治屋としての仕事を続けるなら・・・・・・。一生添い遂げる誰かを探さないけん。それも、可能な限り早く。

 葉助は今年で十八になる。もう身を固める時期はとっくに来ていた。しかし彼は自身の縁談にほとんど関心がなかった。それどころか、早く結婚しろとせっつく周囲の声に、ひどくうんざりする気持ちになっていた。

 結婚などせずに、自分の決めた修行法で強くなる道を探してはだめなのかと、そう思っていた。思うだけでなく実際に、口うるさい大人たちに向かってはっきり言っていた。しかしその時の彼らの反応は決まっている。

 とんでもない、そんなことができるのは一部の大天才だけだ。―――お前のためを思って言っているのに。―――少しばかり腕が立つからといってもお前にはそこまでの技量はない、現実を見ろ。・・・・・・といった具合で、しまいには、“神に背く気か”などと言い出す者も出る始末。
 自分が退治屋として成長するにつれ、祖父も親類も師範も、そして村の住人たちまでも“結婚”の二文字を繰り返す。その度に葉助は気持ちがどんより沈む。彼らの期待には応えられない。なぜだか昔から、結婚というものはできるだけ自分から遠ざけておきたいものという意識があった。しかし、その理由は葉助自身にも分からなかった。

 ―――どうしてここまで結婚というものに、俺だけ抵抗を覚えるんやろう。

 目的地の村を馬の上から遠く眺めつつ、葉助は考えるものの、・・・・・・心当たりがない。

 ―――ひょっとすると俺、・・・・・・がいに冷酷な人間なんやろか。人いうものに全く関心がないんやろか。

 そんなことを考えていると、決まって葉助の心の中に頭をもたげる正体不明のどろりとした黒い何かがあった。これの正体が何なのか、葉助には掴めないでいた。この、考えても考えても分からない、焦燥感ともやさぐれ感とも違う、居心地の悪くなるような他と比べようのない気持ち。そしてもやもやする頭の中で、こう思う。完全に人と同じ世界に生きることは、もしかしたら自分にはできないのではなかろうか。そういった予感だけはしっかりと感じられる。
 思春期を迎えた頃から、この繰り返しであった。
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