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8 魔物襲来
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※魔物との戦闘描写あり※
――カンカンカンカンカンカンッ!!
切迫した金属音が周囲に鳴り渡る。
驚いた鳥たちが勢いよく飛び立って、突風が吹いたみたいに激しく木々が揺れた。
「敵襲か……!」
にわかに、辺境伯の顔付きが変化する。普段のヘラヘラした緩い表情とは打って変わって、それは戦士としての精悍な顔だった。
「マギー、すぐに避難してくれ。悪いが屋敷まで送り届けることはできないが、頑張って向かってくれ」
「わたしは一人で大丈夫よ。あなたは自分の役目だけを考えて」
「済まない。じゃあ、また後で!」
「ご武運を……!」
辺境伯は全速力で駆けて行った。その間も、鐘の音は警告を告げ続けている。
わたしもさっと荷物をまとめて、屋敷へと早足で向かった。
鉛のような重たい不安が、胸に伸し掛かる。なんだか嫌な予感が拭えなかった。
辺境に来た時に、魔物について教えてもらった。
今の鐘は、最大警戒を表す音だ。おそらく、とても手強い魔物が出現したということ。
こちらに来て小さな襲撃は何度か経験したことがあるけど、辺境伯があんなに緊張感で顔を強張らせているのは初めてだった。
どうか、何事も起きませんように……。
◇
「なんだよ、これ……!」
「強すぎるっ!」
辺境の兵士たちは酷く焦っていた。
湖から突如現れた魔物は――巨大なドラゴンだった。ちょっとした屋敷くらいの大きさのそれは、物理攻撃も魔法攻撃も弾いてまるで歯が立たなかったのだ。
彼らはさっきからどうすることも出来ずに、ともかく街を守ろうとひたすら防衛にあたっていた。
「悪い! 遅れた!」
「デニス様!」
「辺境伯様!」
しばらくして、デニスが到着する。すると、萎えた戦場に再び士気が戻った。
「状況は?」とデニス。
「はい。10分ほど前、湖から突如ドラゴンが現れて、刃も魔法も攻撃を通さず、一方的に破壊されております」と、側近のブレイク子爵令息が直ちに答える。彼は主が到着するまで現場を指揮していた。
デニスは眉根を寄せて、
「あちら側からのお客さんか……」
ふぅっと深く息を吐いた。
「そのようで……」と、子爵令息は顔をしかめる。
辺境に現れる魔物には、大きく二種類がある。
現地の魔の瘴気に棲み着く魔物、そして鏡を伝って突如出現する魔物だ。
鏡を司る女神スペクルムの恩恵で、鏡には不思議な力が宿っていた。
それは、「映す」ことの出来る水も同様で、この国では水が神聖なものとされている。
魔の力を蓄えたそれは、時折り集約しすぎて溢れた瘴気が暴走して空間を歪ませ、魔物を出現させるのだ。
その威力は現地に生息する天然の魔物より強大で、討伐するのに困難を要した。
しかも、今回はただでさえ厄介とされるドラゴンだ。膨大な魔の瘴気を蓄えたそれは、並大抵の攻撃には響かなかった。
「とりあえず俺があれの動きを止める。ブレイクは隊列を組んで敵の急所を集中して攻めてくれ」
「御意」
デニスは一歩前へ出る。そして呪文を唱えだした。
ドラゴンはその間も破壊を尽くし、周辺の木々をなぎ倒していく。
彼の肉体がカッと光る。
刹那、ドラゴンの背後の湖が持ち上がった――と思ったら、水が飴の塊のようにぐんと伸びて、獲物の首に巻き付いた。
動きを止めるドラゴン。デニスは掲げた両手に魔力を込めて、後ろへ引っ張る。まるで綱引きでもやっているかのようだった。
水の輪は、じわじわと太い首を締め付ける。血の気が引いたドラゴンは、尾を振って必死で抵抗する。その度に、大地が激しく揺れて土煙が立った。
やがて、
――ズドンッ!
腹の底から突き上げるような鈍い音を立てて、ドラゴンの背中が地に付いた。
「攻撃開始!」
ブレイクの合図で一斉攻撃。ドラゴンの各急所へそれぞれ攻撃を加える。
しかし……、
「駄目です! 皮膚が固すぎて攻撃が通りません!」
「ならば一箇所だけだ! 全員で心臓を狙えっ!」
一点突破の全力の攻撃が始まる。
はじめは見えない鎧を着ているかのように硬かった皮膚が、少しずつ削れていった。
「天然のより強いな……」デニスは独り言つ。「最近、魔の瘴気の磁場が乱れていたからか……? 一体、なぜ……――っつっ!?」
「避けろっ!」
にわかに辺境伯が大音声で叫ぶ。
次の瞬間、ドラゴンの幹みたいな太い尾が兵士たちの頭上に降って来た。
「ぐああぁぁぁっ!!」
数十名の兵士が吹っ飛ばされる。尾はまるで独立した生物かのように、上下左右に暴れて大地をぐちゃぐちゃに乱した。
蹂躙される部下たちに気を取られて、デニスの力が一瞬だけ弱まる。
その隙に、ドラゴンは水の首輪からするりと抜け出した。
「しまっ――」
怒り狂うドラゴンは、デニスを見据える。そして瞬く間に飛び付いた。
デニスは水魔法で防御壁を出す。ドラゴンの体当たり。急ごしらえの壁は簡単に打ち破られた。
しかし、彼も防戦一方ではない。
瞬時に魔法陣を構築させて、渾身の魔力で、無数の水の刃をドラゴンの肉体に打ち込んだ。
雄叫び。
デニスはすかさず高く跳ぶ。
苦痛に呻くドラゴンの心臓に剣を突き立てる。魔力の内包されたそれは深く刺さって、獲物の生命力を奪っていった。
「やったか――……!?」
刹那、砂埃に隠れていたドラゴンの尾が、彼の身体に猛然と向かって来た。
「デニス様っ!!」
その時、マグマのように周囲を焼き尽くす真紅の炎が、ドラゴンに直撃した。
――カンカンカンカンカンカンッ!!
切迫した金属音が周囲に鳴り渡る。
驚いた鳥たちが勢いよく飛び立って、突風が吹いたみたいに激しく木々が揺れた。
「敵襲か……!」
にわかに、辺境伯の顔付きが変化する。普段のヘラヘラした緩い表情とは打って変わって、それは戦士としての精悍な顔だった。
「マギー、すぐに避難してくれ。悪いが屋敷まで送り届けることはできないが、頑張って向かってくれ」
「わたしは一人で大丈夫よ。あなたは自分の役目だけを考えて」
「済まない。じゃあ、また後で!」
「ご武運を……!」
辺境伯は全速力で駆けて行った。その間も、鐘の音は警告を告げ続けている。
わたしもさっと荷物をまとめて、屋敷へと早足で向かった。
鉛のような重たい不安が、胸に伸し掛かる。なんだか嫌な予感が拭えなかった。
辺境に来た時に、魔物について教えてもらった。
今の鐘は、最大警戒を表す音だ。おそらく、とても手強い魔物が出現したということ。
こちらに来て小さな襲撃は何度か経験したことがあるけど、辺境伯があんなに緊張感で顔を強張らせているのは初めてだった。
どうか、何事も起きませんように……。
◇
「なんだよ、これ……!」
「強すぎるっ!」
辺境の兵士たちは酷く焦っていた。
湖から突如現れた魔物は――巨大なドラゴンだった。ちょっとした屋敷くらいの大きさのそれは、物理攻撃も魔法攻撃も弾いてまるで歯が立たなかったのだ。
彼らはさっきからどうすることも出来ずに、ともかく街を守ろうとひたすら防衛にあたっていた。
「悪い! 遅れた!」
「デニス様!」
「辺境伯様!」
しばらくして、デニスが到着する。すると、萎えた戦場に再び士気が戻った。
「状況は?」とデニス。
「はい。10分ほど前、湖から突如ドラゴンが現れて、刃も魔法も攻撃を通さず、一方的に破壊されております」と、側近のブレイク子爵令息が直ちに答える。彼は主が到着するまで現場を指揮していた。
デニスは眉根を寄せて、
「あちら側からのお客さんか……」
ふぅっと深く息を吐いた。
「そのようで……」と、子爵令息は顔をしかめる。
辺境に現れる魔物には、大きく二種類がある。
現地の魔の瘴気に棲み着く魔物、そして鏡を伝って突如出現する魔物だ。
鏡を司る女神スペクルムの恩恵で、鏡には不思議な力が宿っていた。
それは、「映す」ことの出来る水も同様で、この国では水が神聖なものとされている。
魔の力を蓄えたそれは、時折り集約しすぎて溢れた瘴気が暴走して空間を歪ませ、魔物を出現させるのだ。
その威力は現地に生息する天然の魔物より強大で、討伐するのに困難を要した。
しかも、今回はただでさえ厄介とされるドラゴンだ。膨大な魔の瘴気を蓄えたそれは、並大抵の攻撃には響かなかった。
「とりあえず俺があれの動きを止める。ブレイクは隊列を組んで敵の急所を集中して攻めてくれ」
「御意」
デニスは一歩前へ出る。そして呪文を唱えだした。
ドラゴンはその間も破壊を尽くし、周辺の木々をなぎ倒していく。
彼の肉体がカッと光る。
刹那、ドラゴンの背後の湖が持ち上がった――と思ったら、水が飴の塊のようにぐんと伸びて、獲物の首に巻き付いた。
動きを止めるドラゴン。デニスは掲げた両手に魔力を込めて、後ろへ引っ張る。まるで綱引きでもやっているかのようだった。
水の輪は、じわじわと太い首を締め付ける。血の気が引いたドラゴンは、尾を振って必死で抵抗する。その度に、大地が激しく揺れて土煙が立った。
やがて、
――ズドンッ!
腹の底から突き上げるような鈍い音を立てて、ドラゴンの背中が地に付いた。
「攻撃開始!」
ブレイクの合図で一斉攻撃。ドラゴンの各急所へそれぞれ攻撃を加える。
しかし……、
「駄目です! 皮膚が固すぎて攻撃が通りません!」
「ならば一箇所だけだ! 全員で心臓を狙えっ!」
一点突破の全力の攻撃が始まる。
はじめは見えない鎧を着ているかのように硬かった皮膚が、少しずつ削れていった。
「天然のより強いな……」デニスは独り言つ。「最近、魔の瘴気の磁場が乱れていたからか……? 一体、なぜ……――っつっ!?」
「避けろっ!」
にわかに辺境伯が大音声で叫ぶ。
次の瞬間、ドラゴンの幹みたいな太い尾が兵士たちの頭上に降って来た。
「ぐああぁぁぁっ!!」
数十名の兵士が吹っ飛ばされる。尾はまるで独立した生物かのように、上下左右に暴れて大地をぐちゃぐちゃに乱した。
蹂躙される部下たちに気を取られて、デニスの力が一瞬だけ弱まる。
その隙に、ドラゴンは水の首輪からするりと抜け出した。
「しまっ――」
怒り狂うドラゴンは、デニスを見据える。そして瞬く間に飛び付いた。
デニスは水魔法で防御壁を出す。ドラゴンの体当たり。急ごしらえの壁は簡単に打ち破られた。
しかし、彼も防戦一方ではない。
瞬時に魔法陣を構築させて、渾身の魔力で、無数の水の刃をドラゴンの肉体に打ち込んだ。
雄叫び。
デニスはすかさず高く跳ぶ。
苦痛に呻くドラゴンの心臓に剣を突き立てる。魔力の内包されたそれは深く刺さって、獲物の生命力を奪っていった。
「やったか――……!?」
刹那、砂埃に隠れていたドラゴンの尾が、彼の身体に猛然と向かって来た。
「デニス様っ!!」
その時、マグマのように周囲を焼き尽くす真紅の炎が、ドラゴンに直撃した。
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