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22 最悪の出会い、あるいは最悪の再会①
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驚きが隠せないわたしは、凍り付いてしばらく瞬き一つできなかった。
視線がレイとぶつかって、爆ぜる。時間が止まったようだ。
な……なんでレイがここにいるの?
えっと、彼は高位貴族の令息じゃなかったの?
彼が国王陛下と王妃殿下と並んでいるということは――………………、
彼がレイモンド・ローラント王太子殿下!?
「侯爵令嬢」
隣にいたスカイヨン伯爵が小声でわたしを呼びかけた。はっと我に返る。いけない。陛下たちに挨拶をしないと。
「国王陛下、王妃殿下、王太子殿下、ご機嫌よう。アングラレス王国ジャニーヌ侯爵家の娘、オディールと申します。本日はお目にかかれて至極光栄に存じます――」
わたしと伯爵の挨拶が終わって陛下たちと会話をしていると、
「ぷっ……ぷぷっ…………」
隣にいたレイが肩を震わせながら小さく吹き出していた。ぎょっとして、彼のほうに目を向ける。
な、なに笑ってるのよ!
今現在、お隣で陛下がお話をされているのに、いくら王太子でも無礼すぎるわ!
それに高貴な身分の者は、人前で表情を崩してはいけないのよ!? それを王太子とあろう者があんなに表情豊かに……。
彼はなにを考えているのかしら?
馬鹿なの? 馬鹿なの? 馬鹿なのよね?
息子の奇怪な様子に気が付いた国王陛下は眉根を寄せてレイを見た。
「レイモンド、なにが可笑しいのだ?」
「いや……申し訳ありません、父上。実はオディール嬢とは面識がありまして。普段は友人として付き合っていますので、このような改まった場所で相見えると常時との差異が可笑しくって……ぷぷっ」
まだ笑っているわ……。
国王陛下は呆れ返った様子で、
「そうだったのか。アングラレス王国の未来の王妃と昵懇の間柄というのは両国にとって喜ばしいことだが、場を弁えるように。お前はローラント王国の王太子なのだぞ。国の代表なのだ」
「申し訳ありません、陛下」と、レイは頭を下げるが口元は緩んだままだった。
全然反省していないわ、この人。
とりあえず無事に王族の方への挨拶が終わってパーティー会場に移ると、開口一番スカイヨン伯爵が驚いた顔でわたしに尋ねた。
「侯爵令嬢、王太子殿下とは既にお知り合いだったのですか?」
彼が驚くのも無理はない。
公式では、わたしは王太子殿下から何度も謁見を拒否されている身なのだ。
わたしはため息をついて、
「……そうよ。わたしがオディオとして鉱山と軍隊に潜入しているときに――」
言いかけて途中で口を噤む。今、とんでもない事実に気付いたのだ。
わたしがレイと会ったのはオディールではなく、オディオとして。
ということは……、
レイは「オディール=オディオ」だと最初から分かっていた!?
にわかに顔が上気した。わたしが間諜気取りで鉱山でレイの正体を見破ったって言い負かしたけど、彼はそのときには既にわたしが侯爵令嬢だって知っていたのだ。
だから初対面からあんなに馴れ馴れしかったのね!
脱力感でその場にへたり込みそうになった。羞恥心が自身の身体を蝕んでいく。
わたしは……最初から彼の掌の上で転がされていたんだわ…………。
不覚……。
「侯爵令嬢、どうされたのですか?」スカイヨン伯爵が心配そうにわたしの顔を覗き込んだ。「どこか具合でも?」
「は、伯爵……どうしましょう!」
わたしは懺悔室で告解するように、これまでのことを洗いざらい伯爵に話した。途端に彼の人形みたいな顔が真っ青になる。
「そっ、それは……王太子殿下にまんまとやられましたね。参ったな……」
「鉱山に入る頃にはこちらの手の内が知られていた可能性があります。わたしが間諜目的でやって来たことも? 王太子殿下はどこまで把握しているのでしょうか?」
嫌な汗が出た。これは不味い。
仮に諜報の勉強のために来たということが露見されたら、両国間に緊張が走ることだろう。
隣国の国家機密を未来の王妃が探りに来たのだ。それはローラントとしては宣戦布告だと捉えられてもおかしくはない。
そして……最悪なことに、わたしがアンドレイ様から「王太子を籠絡せよ」と、特命を授かっていることが知られたら………………、
グラリと景色が揺れた。
「大丈夫ですよ、侯爵令嬢」スカイヨン伯爵がわたしの肩を支えてくれる。「心配は無用です」
「どっ……どこが、ですか?」
「先程の王太子殿下の態度ですと、あなたに対して敵意は微塵も感じませんでした。むしろ状況を楽しんでいるようでしたので、糾弾するような事態には陥らないでしょう」
「そう、でしょうか?」
「はい。私の観察眼を甘く見ないでください」と、伯爵は微笑む。その絵画のような美しい笑顔に少しは楽になった。
「そうですね、伯爵はわたしの間諜の先生ですから。大丈夫、ですよね?」
伯爵は大きく頷く。
「戻ったら王太子殿下がどこまで知っているか調査してみましょう。そして、これからの動向も」
「はいっ、ありがとうございます!」
「今夜の我々の仕事はアングラレス王国の代表として顔を広げることです。さ、私と挨拶周りを行いましょう。少しでも貴族との繋がりを作るのです」
「分かりましたわ」
わたしは伯爵の言う通りに、今やるべき仕事に集中することにした。
それにしてもレイったら……初めから全部知っていてわたしをからかっていたのね。なんて性格が悪いのかしら。
次に会ったら嫌味の一つでも言ってやるんですから!
視線がレイとぶつかって、爆ぜる。時間が止まったようだ。
な……なんでレイがここにいるの?
えっと、彼は高位貴族の令息じゃなかったの?
彼が国王陛下と王妃殿下と並んでいるということは――………………、
彼がレイモンド・ローラント王太子殿下!?
「侯爵令嬢」
隣にいたスカイヨン伯爵が小声でわたしを呼びかけた。はっと我に返る。いけない。陛下たちに挨拶をしないと。
「国王陛下、王妃殿下、王太子殿下、ご機嫌よう。アングラレス王国ジャニーヌ侯爵家の娘、オディールと申します。本日はお目にかかれて至極光栄に存じます――」
わたしと伯爵の挨拶が終わって陛下たちと会話をしていると、
「ぷっ……ぷぷっ…………」
隣にいたレイが肩を震わせながら小さく吹き出していた。ぎょっとして、彼のほうに目を向ける。
な、なに笑ってるのよ!
今現在、お隣で陛下がお話をされているのに、いくら王太子でも無礼すぎるわ!
それに高貴な身分の者は、人前で表情を崩してはいけないのよ!? それを王太子とあろう者があんなに表情豊かに……。
彼はなにを考えているのかしら?
馬鹿なの? 馬鹿なの? 馬鹿なのよね?
息子の奇怪な様子に気が付いた国王陛下は眉根を寄せてレイを見た。
「レイモンド、なにが可笑しいのだ?」
「いや……申し訳ありません、父上。実はオディール嬢とは面識がありまして。普段は友人として付き合っていますので、このような改まった場所で相見えると常時との差異が可笑しくって……ぷぷっ」
まだ笑っているわ……。
国王陛下は呆れ返った様子で、
「そうだったのか。アングラレス王国の未来の王妃と昵懇の間柄というのは両国にとって喜ばしいことだが、場を弁えるように。お前はローラント王国の王太子なのだぞ。国の代表なのだ」
「申し訳ありません、陛下」と、レイは頭を下げるが口元は緩んだままだった。
全然反省していないわ、この人。
とりあえず無事に王族の方への挨拶が終わってパーティー会場に移ると、開口一番スカイヨン伯爵が驚いた顔でわたしに尋ねた。
「侯爵令嬢、王太子殿下とは既にお知り合いだったのですか?」
彼が驚くのも無理はない。
公式では、わたしは王太子殿下から何度も謁見を拒否されている身なのだ。
わたしはため息をついて、
「……そうよ。わたしがオディオとして鉱山と軍隊に潜入しているときに――」
言いかけて途中で口を噤む。今、とんでもない事実に気付いたのだ。
わたしがレイと会ったのはオディールではなく、オディオとして。
ということは……、
レイは「オディール=オディオ」だと最初から分かっていた!?
にわかに顔が上気した。わたしが間諜気取りで鉱山でレイの正体を見破ったって言い負かしたけど、彼はそのときには既にわたしが侯爵令嬢だって知っていたのだ。
だから初対面からあんなに馴れ馴れしかったのね!
脱力感でその場にへたり込みそうになった。羞恥心が自身の身体を蝕んでいく。
わたしは……最初から彼の掌の上で転がされていたんだわ…………。
不覚……。
「侯爵令嬢、どうされたのですか?」スカイヨン伯爵が心配そうにわたしの顔を覗き込んだ。「どこか具合でも?」
「は、伯爵……どうしましょう!」
わたしは懺悔室で告解するように、これまでのことを洗いざらい伯爵に話した。途端に彼の人形みたいな顔が真っ青になる。
「そっ、それは……王太子殿下にまんまとやられましたね。参ったな……」
「鉱山に入る頃にはこちらの手の内が知られていた可能性があります。わたしが間諜目的でやって来たことも? 王太子殿下はどこまで把握しているのでしょうか?」
嫌な汗が出た。これは不味い。
仮に諜報の勉強のために来たということが露見されたら、両国間に緊張が走ることだろう。
隣国の国家機密を未来の王妃が探りに来たのだ。それはローラントとしては宣戦布告だと捉えられてもおかしくはない。
そして……最悪なことに、わたしがアンドレイ様から「王太子を籠絡せよ」と、特命を授かっていることが知られたら………………、
グラリと景色が揺れた。
「大丈夫ですよ、侯爵令嬢」スカイヨン伯爵がわたしの肩を支えてくれる。「心配は無用です」
「どっ……どこが、ですか?」
「先程の王太子殿下の態度ですと、あなたに対して敵意は微塵も感じませんでした。むしろ状況を楽しんでいるようでしたので、糾弾するような事態には陥らないでしょう」
「そう、でしょうか?」
「はい。私の観察眼を甘く見ないでください」と、伯爵は微笑む。その絵画のような美しい笑顔に少しは楽になった。
「そうですね、伯爵はわたしの間諜の先生ですから。大丈夫、ですよね?」
伯爵は大きく頷く。
「戻ったら王太子殿下がどこまで知っているか調査してみましょう。そして、これからの動向も」
「はいっ、ありがとうございます!」
「今夜の我々の仕事はアングラレス王国の代表として顔を広げることです。さ、私と挨拶周りを行いましょう。少しでも貴族との繋がりを作るのです」
「分かりましたわ」
わたしは伯爵の言う通りに、今やるべき仕事に集中することにした。
それにしてもレイったら……初めから全部知っていてわたしをからかっていたのね。なんて性格が悪いのかしら。
次に会ったら嫌味の一つでも言ってやるんですから!
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