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15 軍隊生活① 〜続・潜入捜査〜
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相変わらずレイモンド王太子殿下に謁見できないし、またぞろ諜報活動が停滞してしまったので、わたしは再び潜入捜査をすることにした。
スカイヨン伯爵からは「もっと時間を置いたほうがいい」と言われたけど、わたしには時間がない。
先日、アンドレイ様から調査報告のお返事が来た。
それによると、大臣の一部から「無能な令嬢とは早く婚約破棄を」と声が上がり始めているらしい。彼らを黙らせるためにも早急の結果を求む……って、おっしゃっていたわ。もっと頑張らなくちゃ!
ヴェルを通して大使館の方々から褒められたわたしは、俄然やる気に満ち溢れているのだ。
そこで、例によってわたしは平民のオディオとなって、ローラント王国の軍隊に潜入することになった。一番下っ端の見習い兵士としてである。
本当は多くの情報を得るためにもっと上の階級のほうが良かったのだけれど、さすがに軍隊経験は皆無なので無理があるだろう――と、スカイヨン伯爵に止められてしまった。
諜報員は目立ってはいけない。
だから、一番自身のスペックに馴染むような場所に潜り込むのが無難なのだそうだ。……ま、兵士として実際に訓練を受けること自体が情報収集になるから、伯爵に従うことにしたわ。
「オディオ! 遅れているぞ!」
「すっ、すみませんっ……!」
ぜぃぜぃと息が乱れる。目の前を走っている同僚の兵士たちがどんどん小さくなっていった。
「も……もう駄目」
わたしは体力の限界が来てバタリとその場に倒れ込んだ。もうこれ以上は動けないわ……。
「こらーっ! オディオ! 休むなぁっ!!」
頭上から怒声が聞こえた。厳しい鬼教官の声だ。
わたしは入隊して以来、彼のもとで基礎訓練に従事していた。
「たっ……隊長っ……もっ、もう無理です……」
「馬鹿者! 気合がたりんのだ! さぁっ、立て!」と、隊長はわたしの腕を掴んで持ち上げようとする。
「もう無理ですってばあぁぁぁぁぁっ!!」
考えなしに軍隊の潜入捜査を決行したわたしが馬鹿だった……。女性と男性ではそもそもの体力が違いすぎる。こんなの、訓練に付いて行くだけでも精一杯……いえ、既にもう付いて行っていないけど…………。
結局あのあと、自分のペースで構わないから最後までやり遂げるように命令されて、ノロノロと歩くより遅いペースで走り込みを終えたのだった。
軍隊に潜入して一週間、わたしはもう限界を感じていた……。
「お疲れ様、侯爵令嬢」
「ガブリエラさん! ありがとうございます!」
わたしは受け取った冷たい水をゴクゴクと一気に喉に流した。枯れ果てた身体に水分がグングンと染み込んでいく。
ガブリエラさんは現在、兵士たちの寮でメイドとして働いていた。今回もわたしのサポートを――と、スカイヨン伯爵が手配してくれたのだ。
「はぁ~っ、生き返った」
「あんまり無理をしちゃ駄目よ。あなたは未来の王妃なる高貴な方なんですからね」
「……そうでしたね、ありがとうございます」
わたしは思わず目を伏せた。
そう言えば、そうだったわね。ここにいると、王妃なんてなんだか遠い存在に思えてしまう。
でも、こうしている間にも、わたしを廃しようとする勢力はアングラレス王国で着々と動いているんだわ……。
「侯爵令嬢?」
気が付くと、ガブリエラさんが心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。
「はっ、はい!」と、慌てて返事をする。
「どうしたの? なにか悩みでも?」
「いえ……その、大丈夫です。本当になんでもありません。心配を掛けてごめんなさい」
「ならいいけど……。ねぇ、侯爵令嬢。なにか困っていることがあればいつでもあたしに言ってね? 伯爵も心配していらっしゃるわ」
「はい……ありがとうございます……!」
スカイヨン伯爵もガブリエラさんも大使館の方たちも、いつもわたしに良くしてくださっている。
それは身分に由来するものかもしれないけど、わたしは彼らにとても感謝をしていた。
だからアンドレイ様のご命令とはいえ、ここに来た本当の目的を打ち明けないのは……胸が少し傷んだ。
ガブリエラさんと相談して、鉱山潜入のときと同じように訓練生活に慣れるまでは諜報の仕事はお休みすることにした。
このままでは軍人として不合格の烙印を押されて、いつ隊から放り出されるか分からない。
だからまずは目の前のことに集中。訓練を通じてローラント国軍がどのように戦っているのかも知ることができるしね。
そんな厳しい生活が続く中、
「よう、親友!」
出し抜けに想定外の人物から声を掛けられたのだ。
スカイヨン伯爵からは「もっと時間を置いたほうがいい」と言われたけど、わたしには時間がない。
先日、アンドレイ様から調査報告のお返事が来た。
それによると、大臣の一部から「無能な令嬢とは早く婚約破棄を」と声が上がり始めているらしい。彼らを黙らせるためにも早急の結果を求む……って、おっしゃっていたわ。もっと頑張らなくちゃ!
ヴェルを通して大使館の方々から褒められたわたしは、俄然やる気に満ち溢れているのだ。
そこで、例によってわたしは平民のオディオとなって、ローラント王国の軍隊に潜入することになった。一番下っ端の見習い兵士としてである。
本当は多くの情報を得るためにもっと上の階級のほうが良かったのだけれど、さすがに軍隊経験は皆無なので無理があるだろう――と、スカイヨン伯爵に止められてしまった。
諜報員は目立ってはいけない。
だから、一番自身のスペックに馴染むような場所に潜り込むのが無難なのだそうだ。……ま、兵士として実際に訓練を受けること自体が情報収集になるから、伯爵に従うことにしたわ。
「オディオ! 遅れているぞ!」
「すっ、すみませんっ……!」
ぜぃぜぃと息が乱れる。目の前を走っている同僚の兵士たちがどんどん小さくなっていった。
「も……もう駄目」
わたしは体力の限界が来てバタリとその場に倒れ込んだ。もうこれ以上は動けないわ……。
「こらーっ! オディオ! 休むなぁっ!!」
頭上から怒声が聞こえた。厳しい鬼教官の声だ。
わたしは入隊して以来、彼のもとで基礎訓練に従事していた。
「たっ……隊長っ……もっ、もう無理です……」
「馬鹿者! 気合がたりんのだ! さぁっ、立て!」と、隊長はわたしの腕を掴んで持ち上げようとする。
「もう無理ですってばあぁぁぁぁぁっ!!」
考えなしに軍隊の潜入捜査を決行したわたしが馬鹿だった……。女性と男性ではそもそもの体力が違いすぎる。こんなの、訓練に付いて行くだけでも精一杯……いえ、既にもう付いて行っていないけど…………。
結局あのあと、自分のペースで構わないから最後までやり遂げるように命令されて、ノロノロと歩くより遅いペースで走り込みを終えたのだった。
軍隊に潜入して一週間、わたしはもう限界を感じていた……。
「お疲れ様、侯爵令嬢」
「ガブリエラさん! ありがとうございます!」
わたしは受け取った冷たい水をゴクゴクと一気に喉に流した。枯れ果てた身体に水分がグングンと染み込んでいく。
ガブリエラさんは現在、兵士たちの寮でメイドとして働いていた。今回もわたしのサポートを――と、スカイヨン伯爵が手配してくれたのだ。
「はぁ~っ、生き返った」
「あんまり無理をしちゃ駄目よ。あなたは未来の王妃なる高貴な方なんですからね」
「……そうでしたね、ありがとうございます」
わたしは思わず目を伏せた。
そう言えば、そうだったわね。ここにいると、王妃なんてなんだか遠い存在に思えてしまう。
でも、こうしている間にも、わたしを廃しようとする勢力はアングラレス王国で着々と動いているんだわ……。
「侯爵令嬢?」
気が付くと、ガブリエラさんが心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。
「はっ、はい!」と、慌てて返事をする。
「どうしたの? なにか悩みでも?」
「いえ……その、大丈夫です。本当になんでもありません。心配を掛けてごめんなさい」
「ならいいけど……。ねぇ、侯爵令嬢。なにか困っていることがあればいつでもあたしに言ってね? 伯爵も心配していらっしゃるわ」
「はい……ありがとうございます……!」
スカイヨン伯爵もガブリエラさんも大使館の方たちも、いつもわたしに良くしてくださっている。
それは身分に由来するものかもしれないけど、わたしは彼らにとても感謝をしていた。
だからアンドレイ様のご命令とはいえ、ここに来た本当の目的を打ち明けないのは……胸が少し傷んだ。
ガブリエラさんと相談して、鉱山潜入のときと同じように訓練生活に慣れるまでは諜報の仕事はお休みすることにした。
このままでは軍人として不合格の烙印を押されて、いつ隊から放り出されるか分からない。
だからまずは目の前のことに集中。訓練を通じてローラント国軍がどのように戦っているのかも知ることができるしね。
そんな厳しい生活が続く中、
「よう、親友!」
出し抜けに想定外の人物から声を掛けられたのだ。
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