【完結】婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

あまぞらりゅう

文字の大きさ
13 / 47

12 王太子の思惑

しおりを挟む
◆ ◆ ◆





「――で、良かったのかよ。貴重な鉱山の資料を他国に渡したりして」

 ダイヤモンド鉱山から撤退して数日後、レイモンドは溜まっていた仕事を片付けて自室のバルコニーで寛いでいた。今は側近のフランソワも友人として臨席している。

 レイモンドは珈琲を一口飲んでから、

「あぁ、問題ない。オディール嬢に渡したものは全てフェイクだからな。地図もこっそりと擦り替えた」

 しれっと言ってのけた。

「お前……性格悪いねぇ」と言いつつも、フレンソワは愉快そうに笑う。

「そりゃ、国防にも関わる情報をおめおめと他国に漏らす必要はないだろう」

「ガセ情報を掴まされて可哀想に……侯爵令嬢」

 フランソワが呟くと、レイモンドは「うっ」と顔を引きつらせた。

「あ、罪悪感はあったんだ」

「……もし、僕が渡した偽情報のせいでオディール嬢が酷い目に合うようなことがあれば、迅速に彼女の保護に動く。彼女に罪はないからな」

「王子は婚約者を鉱山に送り込むような卑劣な男だぞ。大丈夫なのか?」

「あぁ。王家の諜報員にオディール嬢を常に見張らせている。有事の際はすぐに助けるように、とな」

「へぇ~。王太子殿下は優しいねぇ」と、フランソワはニヤニヤと笑った。

「せっ、責任はあるからな。……僕は彼女を利用した」

 レイモンドの顔が微かに曇った。
 罪悪感で胸が傷んだ。彼はダイヤモンド鉱山で「レイ」として「オディオ」と過ごして以来、すっかりオディールに友誼を感じていた。
 だから彼女を騙すような真似をして、自分は最低な人間だと良心の呵責があったのだ。

 フランソワはそんな彼の様子を興味深く眺めてから、

「それで、アングラレス王国と本当に戦争に発展したらどうするつもりだ?」

「先に仕掛けてきたのは向こうだ。それに、仮に戦が始まっても舞台はダイヤモンド鉱山のみになるだろう」

「ま、そのつもりでアングラレスの王子も鉱山の情報を侯爵令嬢に収集させたんだよな」と、フランソワは眉根を寄せる。彼も婚約者を駒にするようなアンドレイに対して憤りを感じていたのだ。

「そのためのフェイクだよ」レイモンドはしたり顔をする。「ダイヤモンドの産出量などの情報は盛ってある。当然、今後の予測もだ」

 フランソワは一瞬だけ目を剥いたあと、ニヤリと悪い顔をした。

「ほう……。じゃあ、あのことは伏せているんだな?」

「もちろん。あそこのダイヤモンドは枯渇しつつあって、来年には鉱山を閉鎖をすることは一切触れていない。むしろ、これからもっと採集できるだろうと記載しておいたよ。桁外れの金額とともにな」

 フランソワはくつくつと笑って、

「本当、お前っていい性格しているな。じゃあ当然、あの山の奥のこともだんまりか?」

「当たり前だろ。あの情報はまだ国内でも非公開だからな」

 オディールが赴いたダイヤモンド鉱山は年々採掘量が減っていて、これ以上の採掘は赤字を垂れ流すだけだとレイモンドの判断で打ち切ることになっていた。それはまだ鉱山の管理人にしか知らされていなかった。

 同時に、現ダイヤモンド鉱山の奥にそびえ立っている山々に新たな鉱脈を発見していた。それも現鉱山に勝るとも劣らない量の。

「彼女に渡した資料には、ダイヤモンドが今後もどんどん採掘できるから坑道を広げる計画を載せた。地図も、工事の途中の様子に書き換えている」

「芸が細かいねぇ」

 レイモンドは深く頷いて、

「戦が始まったらダイヤモンド鉱山は敢えて取らせる。だからアングラレス軍が攻めてきたら速やかに退避させて、鉱山内も実際にフェイクの地図と同じように作り変えるんだ。あちらさんは大喜びで採掘作業を始めるだろう。開発には金がかかるが、それ以上の利益を得られるとなれば惜しみなく資金を注ぐ」

「なるほど。ただでさえ一番金がかかる戦争で国庫が疲弊しているところに、更に資金投入させるのか」

「そうだ。資料を見る限りでは、投資する価値が大いにあるからな」

「だが、実際は――」

「ダイヤモンドはほとんど取れずに大赤字だ。下手をすれば、財政悪化で国が傾くかもしれないな。王子のせいで、な」

「本当にずる賢いな、お前は。やっぱり性格が悪い」

「……褒め言葉と受け取っておこう」






 そのときだった。

 「ピィーッ!」という甲高い声とともに、一羽の鳥がレイモンドたちのいるバルコニーに飛んできて、柵の上にちょこんと止まったのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

【完結】『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様

恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。 不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、 伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。 感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、 ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。 「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」 足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。 「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」 一度凍りついた心は、二度と溶けない。 後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、 終わりのない贖罪の記録。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

処理中です...