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5 潜入捜査
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アンドレイ様から託された特命は一番はローラント王国の王太子を籠絡して機密情報を引き出すことだけど、他にも具体的な仕事をいくつか仰せ付かっていた。
その中の一つは、仮にに戦争に突入したときのために、相手国の軍事に関する情報を収集すること。敵国の手の内を知っていたら有利に戦いを進められるからだ。
そしてもう一つは、アングラレス王国とローラント王国の国境付近にあるダイヤモンド鉱山の調査だ。鉱山内の地図や兵士の配置、ダイヤモンドの産出量などである。
なぜなら、ここはローラント王国にとって、対アングラレス王国の最前の防衛拠点になり得る場所だから。だから、ここを抑えれば戦争に勝ったも同然なんですって。
考えたくもないけど、万が一戦争になったら早く終わらせることに越したことはないわよね。両国の被害が少ないほうがいい。だから、わたしはこの二点を優先的に調べることにした。
本来ならアンドレイ様のおっしゃる通りに王太子から直接話を引き出せたらいいのだろうけど、残念ながら就任の挨拶でさえままならない状態だ。
このままでは埒が明かないので、わたしは自らの足で動くことにしたのだ。
オディール・ジャニーヌ侯爵令嬢ではなく、平民の少年坑夫・オディオとして。
この話を提案したら、スカイヨン伯爵は最初は「侯爵令嬢が鉱山労働だなんて危険すぎる」って難色を示したけど、ここは伝家の宝刀「王子殿下のご指示です」で押し通して渋々承諾させたわ。
王子殿下から「王妃になったら諜報員たちに具体的な指示ができるように実際に自身で潜入捜査を体験せよ」と言い付かっている、って。
アンドレイ様のお名前を勝手に使うのはちょっと後ろめたい気分になったけど……でも、わたしに残されている時間は少ない。
だから申し訳ないと思いつつも、王子の威光を利用させていただいたわ。
「……よし。これはどこからどう見ても平民の少年ね」
わたしは鏡の前に立って最終チェックをする。スカイヨン先生から教えてもらった変装術の発揮だ。
ボサボサのくすんだ明るい茶色の髪にツギハギだらけの粗末な服装、そしてところどころ煤で汚れた肌……。
思わず口元が緩んだ。ふふっ、完璧だわ。この姿だと誰もがわたしが侯爵令嬢だなんて思いも寄らないでしょう。ましてや王子の婚約者だなんて。
「オディール オディール」
ヴェルが飛んできて、迷わずわたしの肩に乗る。
「あら、あなたにはわたしが分かるの?」と、わたしは目を丸くした。
動物の本能というものかしら? 簡単に正体を見破られてちょっとショックだけど、嬉しくもある。
やっぱり一番の親友はわたしのことが分かるのね。
「オディール・ジャニーヌ ハ コウシャクレイジョウ ソレダケガトリエサ」
「そうね。でも、今は平民のオディオなのよ。分かる? オ、ディ、オ」
ヴェルはくるんと首を傾げて、
「オディオ……オディオ…… オディール! オディール!」
バタバタと楽しそうに翼を動かした。
「もうっ、ヴェルはわたしのことをなんでもお見通しね。――じゃあ、良い子にしているのよ? くれぐれも大使館から出ないようにね。スカイヨン伯爵は怒ったら怖いんだから。あなたなんてペロリと食べられちゃうわよ?」
「ピャー!」
ヴェルはもう我が物顔で大使館内を飛び回っていた。大使館の方たちも彼を可愛がってくれて、今ではわたしよりもここに馴染んでいるようだ。
でも、最近は目を離した隙に、大使館から出て外に遊びに行こうとするので油断できない。彼は好奇心旺盛だからすぐにどこかに行っちゃうのよね。
念のため彼の足にはジャニーヌ侯爵家の紋章をあしらった足輪を着けているので攫われてしまうなんてことはないと思うけど、他の貴族が飼っている鳥とトラブルを起こさないといいけど……。意外に喧嘩っ早いのよね、この子。
「では、行って参りますわ」
「お気を付けて、侯爵令嬢」
「お気遣いありがとうございます、伯爵」
「絶対に正体が知られることのないように」
「分かっていますわ」
「好奇心に駆られて馬鹿な真似をしないように」
「こっ、子供じゃありませんから!」
「はぁ~~~、不安だ……」
「もうっ、大丈夫ですって」
「無理をしないでくださいね」
「承知しましたわ」
「……本当に分かってます?」
「分かっていますって!」
「駄目だ、心配すぎる……」
「もうっ! いい加減にして!」
スカイヨン伯爵との不毛な攻防のあと、平民の恰好のわたしは大使館を発った。
伯爵が苦笑いを浮かべながら見送ってくれる。彼の腕の中でヴェルも「ピー!」っと、挨拶をしてくれた。
わたしの潜入捜査が決まってから、スカイヨン伯爵からたくさん手解きを受けた。
彼にも大使としての仕事があるので「もう大丈夫よ」って言っているのに「王子殿下の婚約者を危険な目に合わせるわけにはいきませんので」って、毎日付きっきりで教わったわ。
お陰で自信を持って挑むことができる。
目指すは国境付近のダイヤモンド鉱山。
初の任務、必ず成功させてみせるわ!
その中の一つは、仮にに戦争に突入したときのために、相手国の軍事に関する情報を収集すること。敵国の手の内を知っていたら有利に戦いを進められるからだ。
そしてもう一つは、アングラレス王国とローラント王国の国境付近にあるダイヤモンド鉱山の調査だ。鉱山内の地図や兵士の配置、ダイヤモンドの産出量などである。
なぜなら、ここはローラント王国にとって、対アングラレス王国の最前の防衛拠点になり得る場所だから。だから、ここを抑えれば戦争に勝ったも同然なんですって。
考えたくもないけど、万が一戦争になったら早く終わらせることに越したことはないわよね。両国の被害が少ないほうがいい。だから、わたしはこの二点を優先的に調べることにした。
本来ならアンドレイ様のおっしゃる通りに王太子から直接話を引き出せたらいいのだろうけど、残念ながら就任の挨拶でさえままならない状態だ。
このままでは埒が明かないので、わたしは自らの足で動くことにしたのだ。
オディール・ジャニーヌ侯爵令嬢ではなく、平民の少年坑夫・オディオとして。
この話を提案したら、スカイヨン伯爵は最初は「侯爵令嬢が鉱山労働だなんて危険すぎる」って難色を示したけど、ここは伝家の宝刀「王子殿下のご指示です」で押し通して渋々承諾させたわ。
王子殿下から「王妃になったら諜報員たちに具体的な指示ができるように実際に自身で潜入捜査を体験せよ」と言い付かっている、って。
アンドレイ様のお名前を勝手に使うのはちょっと後ろめたい気分になったけど……でも、わたしに残されている時間は少ない。
だから申し訳ないと思いつつも、王子の威光を利用させていただいたわ。
「……よし。これはどこからどう見ても平民の少年ね」
わたしは鏡の前に立って最終チェックをする。スカイヨン先生から教えてもらった変装術の発揮だ。
ボサボサのくすんだ明るい茶色の髪にツギハギだらけの粗末な服装、そしてところどころ煤で汚れた肌……。
思わず口元が緩んだ。ふふっ、完璧だわ。この姿だと誰もがわたしが侯爵令嬢だなんて思いも寄らないでしょう。ましてや王子の婚約者だなんて。
「オディール オディール」
ヴェルが飛んできて、迷わずわたしの肩に乗る。
「あら、あなたにはわたしが分かるの?」と、わたしは目を丸くした。
動物の本能というものかしら? 簡単に正体を見破られてちょっとショックだけど、嬉しくもある。
やっぱり一番の親友はわたしのことが分かるのね。
「オディール・ジャニーヌ ハ コウシャクレイジョウ ソレダケガトリエサ」
「そうね。でも、今は平民のオディオなのよ。分かる? オ、ディ、オ」
ヴェルはくるんと首を傾げて、
「オディオ……オディオ…… オディール! オディール!」
バタバタと楽しそうに翼を動かした。
「もうっ、ヴェルはわたしのことをなんでもお見通しね。――じゃあ、良い子にしているのよ? くれぐれも大使館から出ないようにね。スカイヨン伯爵は怒ったら怖いんだから。あなたなんてペロリと食べられちゃうわよ?」
「ピャー!」
ヴェルはもう我が物顔で大使館内を飛び回っていた。大使館の方たちも彼を可愛がってくれて、今ではわたしよりもここに馴染んでいるようだ。
でも、最近は目を離した隙に、大使館から出て外に遊びに行こうとするので油断できない。彼は好奇心旺盛だからすぐにどこかに行っちゃうのよね。
念のため彼の足にはジャニーヌ侯爵家の紋章をあしらった足輪を着けているので攫われてしまうなんてことはないと思うけど、他の貴族が飼っている鳥とトラブルを起こさないといいけど……。意外に喧嘩っ早いのよね、この子。
「では、行って参りますわ」
「お気を付けて、侯爵令嬢」
「お気遣いありがとうございます、伯爵」
「絶対に正体が知られることのないように」
「分かっていますわ」
「好奇心に駆られて馬鹿な真似をしないように」
「こっ、子供じゃありませんから!」
「はぁ~~~、不安だ……」
「もうっ、大丈夫ですって」
「無理をしないでくださいね」
「承知しましたわ」
「……本当に分かってます?」
「分かっていますって!」
「駄目だ、心配すぎる……」
「もうっ! いい加減にして!」
スカイヨン伯爵との不毛な攻防のあと、平民の恰好のわたしは大使館を発った。
伯爵が苦笑いを浮かべながら見送ってくれる。彼の腕の中でヴェルも「ピー!」っと、挨拶をしてくれた。
わたしの潜入捜査が決まってから、スカイヨン伯爵からたくさん手解きを受けた。
彼にも大使としての仕事があるので「もう大丈夫よ」って言っているのに「王子殿下の婚約者を危険な目に合わせるわけにはいきませんので」って、毎日付きっきりで教わったわ。
お陰で自信を持って挑むことができる。
目指すは国境付近のダイヤモンド鉱山。
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