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第二章 派手に、生まれ変わります!
62 魔法大会です!③
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「きゃあっ! 勝っちゃいましたぁっ!!」
コートニーの甲高い声が聞こえた。
クロエが僅かな時間で勝利を飾ったとき、隣の試合場のコートニーも、ほんの少しの時間だけで相手を打ち負かしたようだった。
異母妹の対戦相手も魔導騎士。逆行しても彼女の魔力の高さは健在らしい。
「クロエ、コートニー、良くやった!」
またぞろ忌々しい父親の声が聞こえた。妹はきゃあきゃあと手を降って、姉は一瞬だけ顔をしかめてから、返事もせずにすたすたと選手控室へと戻る。
「あぁっ、待ってくださいよぅ~、お異母姉様ぁ~っ!」
コートニーはとてとてと子兎みたいに可愛らしくクロエを追いかけて、隣に並んで歩き始めた。
「ねぇねぇ、お異母姉様ぁ!」彼女はわざとらしく首を傾げる。「お異母姉様は対戦相手の自滅でたまたま勝てたんですってぇ~?」
「そうね」
クロエは異母妹のことなど一顧だにせず、真正面を見つめながら答える。
「うわぁ~! 聖女様って運もいいんですね! 良かったですね!」と、笑顔のコートニー。彼女は魔法に目覚めたばかりの自身の力が、魔導騎士団員をも凌駕する実力だったので、とても図に乗っていた。
「そうね」とクロエ。
「でも、そんな偶然はいつまでも続きませんよぉ~。せめて幸運が決勝まで続いて、あたしと対戦できるといいですね!」
「そうね」とクロエ。
「むぅーっ!」
クロエは口を尖らせる異母妹など無視をして、さっさと選手控室へと戻る。
コートニーは異母姉の背中に向かって「べーっ」と舌を出してから、両親とスコットのもとへと一人で向かったのだった。
◆◆◆
二回戦以降も、クロエはカウンター攻撃を主軸にして戦った。
さすがに、一回戦のような奇跡が何度も起きたら、審判や観客から怪しまれるかもしれない。
ある時は聖なるバリアで攻撃を弾いているかのように見せかけ、またある時は、空気の流れを止めてから一気に放出して風魔法のよう偽装した。
更には魔法の弾を装って、相手の魔法の時間軸を加速して消滅させたりもした。
聖女の優雅で神秘的な戦いぶりに、観客は「神の聖なるご加護だ!」と、涙を流しながら感嘆の声を上げていたのだった。
そして、勝利を重ねて準決勝。
相手はレイン伯爵令息だ。彼は水魔法の使い手で有名だった。今日も芸術のように美しい水魔法で勝ち進んでいったようだ。
「聖女様のお相手をつとめるなんて光栄です。どうぞお手柔らかに」
「よろしくお願いいたしますね」
レイン伯爵令息は、クロエに負けないくらいの派手な衣装だった。
それは白地に金糸で豪華な刺繍が施されて、これから舞踏会にでも行くような絢爛さだった。彼自身も見目麗しく、魔法も華麗で、美の権化のような存在だ。
「それにしても美しい……」とレイン。「その美貌を永遠に閉じ込めておきたいほどだ」
「……恐れ入りますわ、伯爵令息様」
クロエは粟立つ。にわかに胸の底から嫌悪感が込み上げて来た。
無性に気持ちが悪くて、息苦しさを覚えた。
(早く終わらせましょう)
これ以上彼の近くにいたくないので、彼女は足早に開始前の定位置へと向かった。なんだか身体が重い。
「準決勝A、始めっ!」
審判の合図で試合が始まる。
クロエは構えのポーズ。レイン伯爵令息はその場で一度くるりと回ってから、彫像のような壮麗なポーズを決めていた。
客席から令嬢たちの黄色い声が上がる。戸惑うクロエ。行動が全く読めなくて、これまでの相手と異なり、戦い辛い。
彼はまるで踊るように、黄金のタクトを振るった。
次の瞬間、無数の水の槍が同時にクロエを襲う。
「っ……!」
彼女は大きく後方に飛んで、攻撃を避ける。
水の槍は地面に着地して消えた。見ると、土がえぐられていて、殺傷能力の高さに目を見張る。
(これは……身体に直撃したら間違いなく貫かれるわね……)
クロエの額にじわりと汗が浮かんだ。やはり、準決勝の相手となると、強い。
自然なカウンター技に見せかけて勝利するのは、これまでよりも骨が折れそうだった。
金のタクトが太陽に照らされキラリと光る。刹那、またもや水の槍が飛翔する。彼女は今度は槍の時間軸を戻して、まるでバリアを貼っているかのように見せかけ、弾いた。
ばらばらと大粒の雨が降るような音。飛び散った水が地面を打ち、土埃を立てた。
しばし、対戦する二人の姿を覆って隠す。
そのときだった。
「っつっ!?」
突如として、クロエの両足首をなにかが掴んだ。水だ。透明な液体の手が彼女を縛るように強く握って、地面の中へ引きずり下ろす。
――ポシャン、と大きな音を立てて、クロエは水の中に落ちた。
さっきまで固い土の上に立っていたのに、今は水中をただ落下している。ほとんど遊泳経験のない彼女は、焦りの色を隠せなかった。
足元は真っ暗闇。吸い込まれそうなその暗黒にぶるりと身体が震えた。
恐ろしくなって、慌てて顔を上げる。すると、そこには光があって、水面の明るさは希望そのものだった。
(上へ行けば……!)
両手足で水を掻いて、地上を目指す。はじめは苦戦したが、だんだん慣れてきた。
ゆっくりと上昇して行く。
光まで、あと少し…………。
「!?」
次の瞬間、またもや足首を捕まえれた。
驚きのあまりちょっと口を開けてしまう。途端に隙間から水が入って来て、ごぼごぼと咳き込んだ。
喉を押さえる。身体は再び闇の底に沈んで行った。
(あれは……闇魔法!?)
銅像にように動かない足を見る。そこには、黒い煙のようなものが複雑に絡まっていた。あれは、前にユリウスが自分の身体から出してくれた黒いもやと同じ魔法だ。
それは深淵から這い出るようにどんどん増加して、クロエのつま先から全身を包んでいった。
逃れようと必死にもがく。しかし、じたばたと動く度にますます絡み付いて、黒い糸が彼女を緊縛した。
(い、息が…………!)
思わぬ攻撃に、クロエの頭の中は真っ白になって、動けなかった。
ふと、時間を止めなければと思い浮かぶ。
しかし、身体は自然と慌てふためいて、上手く魔法に集中できなかった。
◆
(あぁ……もうすぐ私の愛しい人形が手に入る……!)
地上にいるレイン伯爵令息は恍惚な表情を浮かべていた。水溜りの上で、下へ向かって魔法を操作する。
闇魔法は国際的に禁忌とされている。この試合会場でも、魔力は厳重に管理されていた。
しかし、それは「上」だけだ。地面の「下」の魔法の中までは影響は及ばない。そこは混沌とした無法地帯。闇魔法を使おうがなにをしようが、問題はないのだ。
彼はクリス・パリステラ侯爵夫人と密約を交わしていた。
魔法大会でクロエ・パリステラを敗北させた暁には、美しい聖女様を好きにして良いと言われていたのだ。
「美」――それは、彼の価値観の全てだった。
美しきものは尊い、醜いものは罪だ。
彼は特に若くて美しい人間が好きだった。瑞々しさを持つそれは、完全なる芸術品だ。
だから、永遠に閉じ込めておかなければならない。
伯爵家の地下室には、そんな美しい男女の剥製がずらりと並んでいた。
彼は、違法な方法で入手した美しい若者の肉体を存分に堪能してから、剥製にして永久の美を留めておくのが趣味だった。
聖女は、自身のコレクションの中でも、最高の品になりそうだ。美しい彼女の泣き叫ぶ姿を想像すると、ぞくりとする。
処女を痛め付けるのは最高の快感だった。傷が残らないようにギリギリのところを攻めるのが、スリリングで楽しい。
肉体をむさぼり、初めての快楽を与えてやって、最後は自分だけの永遠のお人形に昇華させるのだ。
彼女にとっても、最高の人生だろう。だって、快楽の中で生命活動を停止して、己の美しさがずっと世界に残り続けるのだから。
(あと少しで……最高傑作が…………)
◆
クロエはもがく。
酸欠で意識が朦朧としてきた。さっきから思うように身体が動かない。全身が痺れるような鈍い感覚が襲ってきた。
鉛の塊になったみたいに、ゆっくりと沈んでいく。
(もう駄目……)
瞳が、閉じていく。
そのとき、
ガクンッ――と、突如肉体が静止した。
(ユリ、ウス…………?)
クロエは、銀色の髪がゆらゆらと揺れいているのを、おぼろげな目で見たのだった。
コートニーの甲高い声が聞こえた。
クロエが僅かな時間で勝利を飾ったとき、隣の試合場のコートニーも、ほんの少しの時間だけで相手を打ち負かしたようだった。
異母妹の対戦相手も魔導騎士。逆行しても彼女の魔力の高さは健在らしい。
「クロエ、コートニー、良くやった!」
またぞろ忌々しい父親の声が聞こえた。妹はきゃあきゃあと手を降って、姉は一瞬だけ顔をしかめてから、返事もせずにすたすたと選手控室へと戻る。
「あぁっ、待ってくださいよぅ~、お異母姉様ぁ~っ!」
コートニーはとてとてと子兎みたいに可愛らしくクロエを追いかけて、隣に並んで歩き始めた。
「ねぇねぇ、お異母姉様ぁ!」彼女はわざとらしく首を傾げる。「お異母姉様は対戦相手の自滅でたまたま勝てたんですってぇ~?」
「そうね」
クロエは異母妹のことなど一顧だにせず、真正面を見つめながら答える。
「うわぁ~! 聖女様って運もいいんですね! 良かったですね!」と、笑顔のコートニー。彼女は魔法に目覚めたばかりの自身の力が、魔導騎士団員をも凌駕する実力だったので、とても図に乗っていた。
「そうね」とクロエ。
「でも、そんな偶然はいつまでも続きませんよぉ~。せめて幸運が決勝まで続いて、あたしと対戦できるといいですね!」
「そうね」とクロエ。
「むぅーっ!」
クロエは口を尖らせる異母妹など無視をして、さっさと選手控室へと戻る。
コートニーは異母姉の背中に向かって「べーっ」と舌を出してから、両親とスコットのもとへと一人で向かったのだった。
◆◆◆
二回戦以降も、クロエはカウンター攻撃を主軸にして戦った。
さすがに、一回戦のような奇跡が何度も起きたら、審判や観客から怪しまれるかもしれない。
ある時は聖なるバリアで攻撃を弾いているかのように見せかけ、またある時は、空気の流れを止めてから一気に放出して風魔法のよう偽装した。
更には魔法の弾を装って、相手の魔法の時間軸を加速して消滅させたりもした。
聖女の優雅で神秘的な戦いぶりに、観客は「神の聖なるご加護だ!」と、涙を流しながら感嘆の声を上げていたのだった。
そして、勝利を重ねて準決勝。
相手はレイン伯爵令息だ。彼は水魔法の使い手で有名だった。今日も芸術のように美しい水魔法で勝ち進んでいったようだ。
「聖女様のお相手をつとめるなんて光栄です。どうぞお手柔らかに」
「よろしくお願いいたしますね」
レイン伯爵令息は、クロエに負けないくらいの派手な衣装だった。
それは白地に金糸で豪華な刺繍が施されて、これから舞踏会にでも行くような絢爛さだった。彼自身も見目麗しく、魔法も華麗で、美の権化のような存在だ。
「それにしても美しい……」とレイン。「その美貌を永遠に閉じ込めておきたいほどだ」
「……恐れ入りますわ、伯爵令息様」
クロエは粟立つ。にわかに胸の底から嫌悪感が込み上げて来た。
無性に気持ちが悪くて、息苦しさを覚えた。
(早く終わらせましょう)
これ以上彼の近くにいたくないので、彼女は足早に開始前の定位置へと向かった。なんだか身体が重い。
「準決勝A、始めっ!」
審判の合図で試合が始まる。
クロエは構えのポーズ。レイン伯爵令息はその場で一度くるりと回ってから、彫像のような壮麗なポーズを決めていた。
客席から令嬢たちの黄色い声が上がる。戸惑うクロエ。行動が全く読めなくて、これまでの相手と異なり、戦い辛い。
彼はまるで踊るように、黄金のタクトを振るった。
次の瞬間、無数の水の槍が同時にクロエを襲う。
「っ……!」
彼女は大きく後方に飛んで、攻撃を避ける。
水の槍は地面に着地して消えた。見ると、土がえぐられていて、殺傷能力の高さに目を見張る。
(これは……身体に直撃したら間違いなく貫かれるわね……)
クロエの額にじわりと汗が浮かんだ。やはり、準決勝の相手となると、強い。
自然なカウンター技に見せかけて勝利するのは、これまでよりも骨が折れそうだった。
金のタクトが太陽に照らされキラリと光る。刹那、またもや水の槍が飛翔する。彼女は今度は槍の時間軸を戻して、まるでバリアを貼っているかのように見せかけ、弾いた。
ばらばらと大粒の雨が降るような音。飛び散った水が地面を打ち、土埃を立てた。
しばし、対戦する二人の姿を覆って隠す。
そのときだった。
「っつっ!?」
突如として、クロエの両足首をなにかが掴んだ。水だ。透明な液体の手が彼女を縛るように強く握って、地面の中へ引きずり下ろす。
――ポシャン、と大きな音を立てて、クロエは水の中に落ちた。
さっきまで固い土の上に立っていたのに、今は水中をただ落下している。ほとんど遊泳経験のない彼女は、焦りの色を隠せなかった。
足元は真っ暗闇。吸い込まれそうなその暗黒にぶるりと身体が震えた。
恐ろしくなって、慌てて顔を上げる。すると、そこには光があって、水面の明るさは希望そのものだった。
(上へ行けば……!)
両手足で水を掻いて、地上を目指す。はじめは苦戦したが、だんだん慣れてきた。
ゆっくりと上昇して行く。
光まで、あと少し…………。
「!?」
次の瞬間、またもや足首を捕まえれた。
驚きのあまりちょっと口を開けてしまう。途端に隙間から水が入って来て、ごぼごぼと咳き込んだ。
喉を押さえる。身体は再び闇の底に沈んで行った。
(あれは……闇魔法!?)
銅像にように動かない足を見る。そこには、黒い煙のようなものが複雑に絡まっていた。あれは、前にユリウスが自分の身体から出してくれた黒いもやと同じ魔法だ。
それは深淵から這い出るようにどんどん増加して、クロエのつま先から全身を包んでいった。
逃れようと必死にもがく。しかし、じたばたと動く度にますます絡み付いて、黒い糸が彼女を緊縛した。
(い、息が…………!)
思わぬ攻撃に、クロエの頭の中は真っ白になって、動けなかった。
ふと、時間を止めなければと思い浮かぶ。
しかし、身体は自然と慌てふためいて、上手く魔法に集中できなかった。
◆
(あぁ……もうすぐ私の愛しい人形が手に入る……!)
地上にいるレイン伯爵令息は恍惚な表情を浮かべていた。水溜りの上で、下へ向かって魔法を操作する。
闇魔法は国際的に禁忌とされている。この試合会場でも、魔力は厳重に管理されていた。
しかし、それは「上」だけだ。地面の「下」の魔法の中までは影響は及ばない。そこは混沌とした無法地帯。闇魔法を使おうがなにをしようが、問題はないのだ。
彼はクリス・パリステラ侯爵夫人と密約を交わしていた。
魔法大会でクロエ・パリステラを敗北させた暁には、美しい聖女様を好きにして良いと言われていたのだ。
「美」――それは、彼の価値観の全てだった。
美しきものは尊い、醜いものは罪だ。
彼は特に若くて美しい人間が好きだった。瑞々しさを持つそれは、完全なる芸術品だ。
だから、永遠に閉じ込めておかなければならない。
伯爵家の地下室には、そんな美しい男女の剥製がずらりと並んでいた。
彼は、違法な方法で入手した美しい若者の肉体を存分に堪能してから、剥製にして永久の美を留めておくのが趣味だった。
聖女は、自身のコレクションの中でも、最高の品になりそうだ。美しい彼女の泣き叫ぶ姿を想像すると、ぞくりとする。
処女を痛め付けるのは最高の快感だった。傷が残らないようにギリギリのところを攻めるのが、スリリングで楽しい。
肉体をむさぼり、初めての快楽を与えてやって、最後は自分だけの永遠のお人形に昇華させるのだ。
彼女にとっても、最高の人生だろう。だって、快楽の中で生命活動を停止して、己の美しさがずっと世界に残り続けるのだから。
(あと少しで……最高傑作が…………)
◆
クロエはもがく。
酸欠で意識が朦朧としてきた。さっきから思うように身体が動かない。全身が痺れるような鈍い感覚が襲ってきた。
鉛の塊になったみたいに、ゆっくりと沈んでいく。
(もう駄目……)
瞳が、閉じていく。
そのとき、
ガクンッ――と、突如肉体が静止した。
(ユリ、ウス…………?)
クロエは、銀色の髪がゆらゆらと揺れいているのを、おぼろげな目で見たのだった。
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