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第二章 派手に、生まれ変わります!
47 三人で仲良くお茶会です!①
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会場に到着すると、場内の視線は一気に三人に注がれた。そのほとんどが好奇の眼差しだ。
貴族たちは、まずはクロエの繊細な美しさに目を奪われるが、やがてその聖女様からネックレスを奪ったと噂される異母妹のほうへ目線を動かした。
特に令嬢たちは、平民出身のコートニーに対して敵意の孕んだ侮蔑の目を向けて、優雅な扇の後ろでひそひそと品評会をおこなっていた。
令息たちは、一瞬だけ噂の聖女の妹を見るが、すぐにクロエの美貌に釘付けになって、スコットをはらはらと気を揉ませたのだった。
(今日はクロエの婚約者は自分だということを周囲に知らしめなければ……!)
自然と彼の握った拳が強くなる。周囲が全て敵に見えた。嫌らしい目でクロエを見て、腹立たしい。
自分という婚約者がいるにも関わらず、クロエに求婚をする不届き者たち。
このお茶会で、彼女の伴侶は己だと知らしめてやるのだ。
(うわぁ~っ! イイ男がいっぱ~い。スコット様より素敵な人がいればいいけどなぁ……)
コートニーはちらりとスコットを見やる。端整な顔だち、高い身分、王太子の側近という将来を約束された立場……それは、彼女にとって理想そのものだった。
本音を言うと王太子が良かった。自分にはそれくらいの男が相応しい。
でも、王太子と公爵令嬢の結婚はもう絶対的で、いくらパリステラ家としても動かしようがなかった。
だから、最低でもスコット以上。
少なくとも、あの虫酸が走る異母姉よりも上の男を捕まえないことには、溜飲が下がらない。あんな女狐なんかに、負けたくない。
(……ま、あたしに釣り合うイイ男がいなかったら、スコット様をいただくんだけどね)
(皆が私を見ている……。なんて最高なのかしら!)
そしてクロエは、幾多に重なる視線に興奮して、法悦の笑みを浮かべていた。
見られている。自分の姿、存在が注目されている。なんて素晴らしいことなのだろう。
ここでは、自分の名前を知らない者なんていない。それは、とても贅沢で素晴らしいことだ。
見られるって、本当に快感。
今日のために新しいドレスを用意して良かった。
きっとスコットの準備したドレスを着ていたら、地味過ぎて華やかな場に埋もれるところだった。
自分には、そんなしみったれたドレスなんて必要ない。
ここでも、三人の感情は一方通行で、決して交差することはなかったのだった。
◆◆◆
主催者の公爵令嬢とパートナーの王太子に挨拶を終えて、会場内を回ろうとすると、途端にクロエの周りに人だかりができた。
「クロエ様、ご機嫌よう」
「今日のドレスは星空の妖精のようですわね」
「あちらで一緒にお話しませんか?」
「今度、僕の家門の主催する夜会へ是非いらしてください」
あっという間にクロエの周囲に人の壁ができて、彼女はご満悦。
スコットは令息たちの動きを阻止しようと、護衛騎士のように殺気を発しながら、婚約者にぴたりとくっついていたのだった。
そして、一人ぽつねんと取り残されるコートニー。
(つまんないっ!)
彼女はふくれっ面で異母姉の周りの人の群れを眺める。
面白くない。なぜ、あんな女が人気なのだ。自分のほうが可愛いし華やかだし、うんと魅力的だし。
全く、貴族たちは人を見る目がない。
いつか、あの女の化けの皮を剥がして、地獄へ突き落としてやるんだから。
(……イイ男を探しに行こっと)
今日の目的はまずはイイ男、次にイイ男、叶わなかったらスコット様。お母様から教わった手管手練で、たくさんの殿方を魅了してやるのだ。
コートニーが男を狩ろうと踵を返した折も折、
「あなたがコートニー・パリステラ侯爵令嬢?」
出し抜けに数人の令嬢が彼女を取り囲んだ。誰しもが冷たい視線を彼女に向けて、扇の奥からあからさまな嘲笑の声も聞こえる。
コートニーはぎろりと令嬢たちを睨み付けて、
「そうですけど、なにか?」
「まぁ、怖い。平民は感情を隠さないのね」
「その場違いで悪趣味な恰好……下女かと思ったわ」
「は? なにが? なに言ってるの? 意味分かんないんだけど」
普段の彼女の様子からは信じられないような、どすの利いた低い声が令嬢たちを刺す。お上品な彼女たちは少しだけ怯んだ。
一拍して、リーダー格の令嬢が一歩前へ足を踏み出して、
「あなたみたいな人がクロエ様の異母妹だなんて最悪だわ」
それが合図かのように、再び令嬢たちの攻撃が始まった。
「そうよ。娼婦の娘のくせに」
「早く平民に戻りなさいな。高貴なクロエ様の邪魔をしないでちょうだい」
「ネックレスを盗むなんて乞食みたいね。最低」
「クロエ様、お可哀想。こんな下民に集られて」
「なによ、そのドレス。ぼろ雑巾みたい」
「あなたに相応しい汚い場所へ帰りなさいよ。娼館がお似合いだわ」
コートニーは眉一つ動かさずに、黙って令嬢たちの話を聞いていた。
(これが社交界の洗礼ってやつね。こいつらの顔の形が分からなくなるくらいに、ぶん殴るのもいいけど、今日はイイ男あさりの日だし……)
貴族の世界は非常に厳しいことは母親から聞いていた。少しでも気を抜くと、一気に奪われてしまう。
だから……やられたら、やり返す。逆境も上手いこと波にのせて、乗り切るのだ。
彼女はすっと息を吸って――、
「ふええぇぇぇぇぇぇぇぇええんんっっっ!!」
にわかに、コートニーの大音声の鳴き声が会場中に響き渡った。
貴族たちは、まずはクロエの繊細な美しさに目を奪われるが、やがてその聖女様からネックレスを奪ったと噂される異母妹のほうへ目線を動かした。
特に令嬢たちは、平民出身のコートニーに対して敵意の孕んだ侮蔑の目を向けて、優雅な扇の後ろでひそひそと品評会をおこなっていた。
令息たちは、一瞬だけ噂の聖女の妹を見るが、すぐにクロエの美貌に釘付けになって、スコットをはらはらと気を揉ませたのだった。
(今日はクロエの婚約者は自分だということを周囲に知らしめなければ……!)
自然と彼の握った拳が強くなる。周囲が全て敵に見えた。嫌らしい目でクロエを見て、腹立たしい。
自分という婚約者がいるにも関わらず、クロエに求婚をする不届き者たち。
このお茶会で、彼女の伴侶は己だと知らしめてやるのだ。
(うわぁ~っ! イイ男がいっぱ~い。スコット様より素敵な人がいればいいけどなぁ……)
コートニーはちらりとスコットを見やる。端整な顔だち、高い身分、王太子の側近という将来を約束された立場……それは、彼女にとって理想そのものだった。
本音を言うと王太子が良かった。自分にはそれくらいの男が相応しい。
でも、王太子と公爵令嬢の結婚はもう絶対的で、いくらパリステラ家としても動かしようがなかった。
だから、最低でもスコット以上。
少なくとも、あの虫酸が走る異母姉よりも上の男を捕まえないことには、溜飲が下がらない。あんな女狐なんかに、負けたくない。
(……ま、あたしに釣り合うイイ男がいなかったら、スコット様をいただくんだけどね)
(皆が私を見ている……。なんて最高なのかしら!)
そしてクロエは、幾多に重なる視線に興奮して、法悦の笑みを浮かべていた。
見られている。自分の姿、存在が注目されている。なんて素晴らしいことなのだろう。
ここでは、自分の名前を知らない者なんていない。それは、とても贅沢で素晴らしいことだ。
見られるって、本当に快感。
今日のために新しいドレスを用意して良かった。
きっとスコットの準備したドレスを着ていたら、地味過ぎて華やかな場に埋もれるところだった。
自分には、そんなしみったれたドレスなんて必要ない。
ここでも、三人の感情は一方通行で、決して交差することはなかったのだった。
◆◆◆
主催者の公爵令嬢とパートナーの王太子に挨拶を終えて、会場内を回ろうとすると、途端にクロエの周りに人だかりができた。
「クロエ様、ご機嫌よう」
「今日のドレスは星空の妖精のようですわね」
「あちらで一緒にお話しませんか?」
「今度、僕の家門の主催する夜会へ是非いらしてください」
あっという間にクロエの周囲に人の壁ができて、彼女はご満悦。
スコットは令息たちの動きを阻止しようと、護衛騎士のように殺気を発しながら、婚約者にぴたりとくっついていたのだった。
そして、一人ぽつねんと取り残されるコートニー。
(つまんないっ!)
彼女はふくれっ面で異母姉の周りの人の群れを眺める。
面白くない。なぜ、あんな女が人気なのだ。自分のほうが可愛いし華やかだし、うんと魅力的だし。
全く、貴族たちは人を見る目がない。
いつか、あの女の化けの皮を剥がして、地獄へ突き落としてやるんだから。
(……イイ男を探しに行こっと)
今日の目的はまずはイイ男、次にイイ男、叶わなかったらスコット様。お母様から教わった手管手練で、たくさんの殿方を魅了してやるのだ。
コートニーが男を狩ろうと踵を返した折も折、
「あなたがコートニー・パリステラ侯爵令嬢?」
出し抜けに数人の令嬢が彼女を取り囲んだ。誰しもが冷たい視線を彼女に向けて、扇の奥からあからさまな嘲笑の声も聞こえる。
コートニーはぎろりと令嬢たちを睨み付けて、
「そうですけど、なにか?」
「まぁ、怖い。平民は感情を隠さないのね」
「その場違いで悪趣味な恰好……下女かと思ったわ」
「は? なにが? なに言ってるの? 意味分かんないんだけど」
普段の彼女の様子からは信じられないような、どすの利いた低い声が令嬢たちを刺す。お上品な彼女たちは少しだけ怯んだ。
一拍して、リーダー格の令嬢が一歩前へ足を踏み出して、
「あなたみたいな人がクロエ様の異母妹だなんて最悪だわ」
それが合図かのように、再び令嬢たちの攻撃が始まった。
「そうよ。娼婦の娘のくせに」
「早く平民に戻りなさいな。高貴なクロエ様の邪魔をしないでちょうだい」
「ネックレスを盗むなんて乞食みたいね。最低」
「クロエ様、お可哀想。こんな下民に集られて」
「なによ、そのドレス。ぼろ雑巾みたい」
「あなたに相応しい汚い場所へ帰りなさいよ。娼館がお似合いだわ」
コートニーは眉一つ動かさずに、黙って令嬢たちの話を聞いていた。
(これが社交界の洗礼ってやつね。こいつらの顔の形が分からなくなるくらいに、ぶん殴るのもいいけど、今日はイイ男あさりの日だし……)
貴族の世界は非常に厳しいことは母親から聞いていた。少しでも気を抜くと、一気に奪われてしまう。
だから……やられたら、やり返す。逆境も上手いこと波にのせて、乗り切るのだ。
彼女はすっと息を吸って――、
「ふええぇぇぇぇぇぇぇぇええんんっっっ!!」
にわかに、コートニーの大音声の鳴き声が会場中に響き渡った。
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