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54 第一王子の独白③
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あの女の断罪は面白いくらいに上手くいった。
最初は必死で抵抗はしていたが、確固たる証拠の前では流石の名門ヨーク家も逃れることはできない。公爵家は断絶、そして一族全員が処刑されることとなった。
笑いが止まらなかった。
俺は、あのヨーク家に打ち勝ったのだ。平民の血が混じっていると揶揄されていたこの俺が……国で一、二を争い、現王家より血筋の良いと言われるヨーク家に。幼い頃から平民の血が混じった俺を常に見下してきたシャーロットに。
肉体が燃えたぎるような激しい興奮を覚えた。万能感のような高揚した気持ちがみるみる俺を支配していった。
行ける。
この勢いで古めかしい腐った考えを持つ国中の貴族たちを粛清していくのだ。そして、残った新しい思想を持つ者たちと国を築き上げていく……ロージーと共に。
……俺はそう決意した。
俺はいつからか従来の保守的な考えを持つ貴族との交流は避けて、自由主義の前衛的な者たちと付き合うようになっていた。ロージーが紹介してくれたのだ。
その中には貴族でない者もいた。事業に成功した商人や才能のある芸術家や文筆家、更には学者たちだ。彼らは「血」を重んじない。あるのは「個」だけだ。それが人間の生きる「正しい道」だと思った。家門や血筋ではなくて、その人物を見るべきなのだ。
そんな俺の進化した姿に何人かの侍従たちが諫言してきたこともあった。俺は古い考えの彼らに酷く失望して悉く閑職に追いやった。
次第に俺の周りは身分など関係ない能力の高い者たちが集うようになり、とても満足した。
全てはロージーのおかげだった。彼女との運命的な出会いで俺は自分で進む道を切り開くことができた。
彼女は文字通り「女神」だった。俺は、暗闇の底から自分を救ってくれた彼女のために、全てを捧げたいと思った。
…………心から彼女を愛していたんだ。
雲行きが怪しくなったのは、シャーロットの処刑前後からだった。
母上が三階のバルコニーから転落して帰らぬ人となった。
父上が食事に毒を盛られて意識不明の状態のまま死亡した。
弟は寝室に暗殺者たちに押し入られて無惨に殺された。
なにが起こっているのか分からなかった。だが、とてつもなく黒い陰謀が渦巻いているのを肌で感じて、戦慄した。
臣下たちには「徹底的に調査せよ」と命じたが、なかなか成果は上がらなかった。犯人は不明、証拠になるような手掛かりも残っていなく……真実は藪の中で、なにも分からなかった。
家族を殺した犯人が近くにいると思うと恐怖で気がおかしくなりそうになる。何処へ向かえばいいか分からずに、まるで真夜中の湖の中にぼしゃりと投げ込まれたみたいだった。
そんな中でも、ロージーだけは唯一の俺の救いだった。
彼女は意気消沈する俺に「国王がそんなことでどうするの!」と、叱咤激励してくれた。
そうだ、俺は次の国王だ。父上が崩御した今、国の未来を背負うのは俺なのだ。戴冠式も間近に迫っている。今や国の頂点である俺がしっかりしなければ。
俺はロージーと正式に婚約を結んでいた。戴冠式が終わったら直ぐに彼女との婚姻式を行う予定だ。
彼女は王太子妃を経験することなく王妃になる。歴史初の下位貴族からの王妃で、しかも経験が皆無なので不慣れなこともあるだろう。国王である自分が導いてあげなければ。
家族を立て続けにまとめて失った悲しみはまだ癒えていないが、将来への希望があった。
国王の俺と王妃のロージーで描く国の未来は眩しいほどに輝いて見えた。
俺たちが、変革をもたらすのだ、と――……。
全てがひっくり返ったのは戴冠式の当日だった。
突如、王宮騎士たちが大挙して俺の部屋に雪崩込んできたと思ったら、耳を疑うような言葉を投げ付けてきたのだ。
「エドワード・グレトラント! これから貴様を処刑する!」
最初は必死で抵抗はしていたが、確固たる証拠の前では流石の名門ヨーク家も逃れることはできない。公爵家は断絶、そして一族全員が処刑されることとなった。
笑いが止まらなかった。
俺は、あのヨーク家に打ち勝ったのだ。平民の血が混じっていると揶揄されていたこの俺が……国で一、二を争い、現王家より血筋の良いと言われるヨーク家に。幼い頃から平民の血が混じった俺を常に見下してきたシャーロットに。
肉体が燃えたぎるような激しい興奮を覚えた。万能感のような高揚した気持ちがみるみる俺を支配していった。
行ける。
この勢いで古めかしい腐った考えを持つ国中の貴族たちを粛清していくのだ。そして、残った新しい思想を持つ者たちと国を築き上げていく……ロージーと共に。
……俺はそう決意した。
俺はいつからか従来の保守的な考えを持つ貴族との交流は避けて、自由主義の前衛的な者たちと付き合うようになっていた。ロージーが紹介してくれたのだ。
その中には貴族でない者もいた。事業に成功した商人や才能のある芸術家や文筆家、更には学者たちだ。彼らは「血」を重んじない。あるのは「個」だけだ。それが人間の生きる「正しい道」だと思った。家門や血筋ではなくて、その人物を見るべきなのだ。
そんな俺の進化した姿に何人かの侍従たちが諫言してきたこともあった。俺は古い考えの彼らに酷く失望して悉く閑職に追いやった。
次第に俺の周りは身分など関係ない能力の高い者たちが集うようになり、とても満足した。
全てはロージーのおかげだった。彼女との運命的な出会いで俺は自分で進む道を切り開くことができた。
彼女は文字通り「女神」だった。俺は、暗闇の底から自分を救ってくれた彼女のために、全てを捧げたいと思った。
…………心から彼女を愛していたんだ。
雲行きが怪しくなったのは、シャーロットの処刑前後からだった。
母上が三階のバルコニーから転落して帰らぬ人となった。
父上が食事に毒を盛られて意識不明の状態のまま死亡した。
弟は寝室に暗殺者たちに押し入られて無惨に殺された。
なにが起こっているのか分からなかった。だが、とてつもなく黒い陰謀が渦巻いているのを肌で感じて、戦慄した。
臣下たちには「徹底的に調査せよ」と命じたが、なかなか成果は上がらなかった。犯人は不明、証拠になるような手掛かりも残っていなく……真実は藪の中で、なにも分からなかった。
家族を殺した犯人が近くにいると思うと恐怖で気がおかしくなりそうになる。何処へ向かえばいいか分からずに、まるで真夜中の湖の中にぼしゃりと投げ込まれたみたいだった。
そんな中でも、ロージーだけは唯一の俺の救いだった。
彼女は意気消沈する俺に「国王がそんなことでどうするの!」と、叱咤激励してくれた。
そうだ、俺は次の国王だ。父上が崩御した今、国の未来を背負うのは俺なのだ。戴冠式も間近に迫っている。今や国の頂点である俺がしっかりしなければ。
俺はロージーと正式に婚約を結んでいた。戴冠式が終わったら直ぐに彼女との婚姻式を行う予定だ。
彼女は王太子妃を経験することなく王妃になる。歴史初の下位貴族からの王妃で、しかも経験が皆無なので不慣れなこともあるだろう。国王である自分が導いてあげなければ。
家族を立て続けにまとめて失った悲しみはまだ癒えていないが、将来への希望があった。
国王の俺と王妃のロージーで描く国の未来は眩しいほどに輝いて見えた。
俺たちが、変革をもたらすのだ、と――……。
全てがひっくり返ったのは戴冠式の当日だった。
突如、王宮騎士たちが大挙して俺の部屋に雪崩込んできたと思ったら、耳を疑うような言葉を投げ付けてきたのだ。
「エドワード・グレトラント! これから貴様を処刑する!」
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