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28 男爵令嬢登場
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「きゃっ!!」
鈴を転がすような可愛い声に教室内の全員が注目した。
その声の主は、ロージー・モーガン男爵令嬢だった。
彼女は明るめの栗色の柔らかい髪に薄い茶色の瞳、全体的にふんわりとした雰囲気で華奢でいかにも守ってあげたいようなタイプでだった。
わたくしはこの状況に既視感を覚えながらも成り行きを見守ることにした。
「ご、ごめんなさいっ! あたしったらついうっかり」
モーガン男爵令嬢は両手を頬に当てちょこんと首を傾げて、困り顔をする。彼女は第一王子に勢いよくぶつかったようだ。王子とその取り巻きたちが興味津々で彼女を囲んだ。
「いや、私のほうこそ余所見をしていた。大丈夫か? 怪我はないか?」と第一王子。
「あたしは大丈夫です! 昔っからそそっかしくて……本当にごめんなさいっ!」
「気にするな……ええと、君は?」
「あたしはロージー・モーガンです! あなたは?」と、男爵令嬢はわざとらしくつぶらな瞳をぱちくりさせた。
「私はエドワード・グレトラントだ。よろしく頼む」
「えぇっ!? グレトラントって、王子様……ですよね? し、失礼しましたぁっ!!」
モーガン男爵令嬢はぺこりと頭を下げた。その様子はとっても白々しく見えたが、令息たちには好評なようで「可愛い……」と声を漏らす者もいた。
あら、ダイアナ様が死んだ魚のような目をして彼女を見ているわ。心中お察ししますわ。
「ははは。そう畏まることはないよ。同じ学び舎で過ごす者仲間なのだ。これからも気軽に話し掛けてくれ」
「はいっ! ありがとうございますっ!」
今度は第一王子の取り巻きたちと彼女との自己紹介が始まった。全員が彼女に好印象を抱いているようだ。ジョージ・ジョンソン伯爵令息なんてうっすらと頬を赤らめている。彼の婚約者であるドロシー様の鋭い視線が痛いわ。
わたくしが彼らを生暖かい目で眺めていると、ふと第一王子と目が合った。
「……っ!!」
彼は蔑んだ目でわたくしを見て、軽く鼻で笑った。
な、なんなのよあの態度は! さっさと男爵令嬢と婚約しなさいよ! 別にあなたたちの関係なんてなんとも思っていないんだからっ!!
わたくしが怒り心頭でいると、
「シャーロット様、気にすることないですわ。あんな非常識な方、第一王子殿下も相手にしないはずですわ」と、ラケル様が慰めるように声を掛けてくれた。
わたくしが二人の関係に嫉妬しているように見えたのかしら? むしろ、さっさとくっついて二人で遠い世界へと行って欲しいのに。
「そうですわ! 貴族として最低限のマナーもなっていない方は王子様に相応しくないわ!」と、ドロシー様。彼女は婚約者が既に男爵令嬢に鼻の下を伸ばしていることもあって、声に怒気が含まれていた。
「お二人ともありがとうございます。わたくしは全く気にしておりませんので大丈夫ですわ」
「まぁっ! シャーロット様は王子殿下のことを信じていらっしゃるのね!」
「さすが婚約者だわ!」
「いえ、わたくしは……」
「シャーロット嬢はまだ王子殿下の婚約者じゃないよ」
二人の令嬢を諌めるようにアーサー様が言った。今日は彼には助けられっぱなしね。感謝しなくちゃ。
「しかしあれは私も感心しないな。たとえ下位貴族でも礼節は守らないとね。シャーロット嬢もそう思うだろう?」
「これから学べば良いことですわ。一番問題なのは無知を恥じないことだと思います」と、わたくしは無難に答えた。
ここで男爵令嬢を批判するような言葉を放つと巡り巡ってわたくしが彼女の悪口を言っていた、なんてことになるかもしれないので慎重に、ね。
わたくしの返答に満足したのか、アーサー様は「さすがだね」と褒めてくれた。とりあえずは誤魔化せたわね。
丁度そのとき、担任の先生が入って来たので生徒たちは決められた自身の席へ慌ただしく座る。
わたくしは重い足取りで自席へ向かった。割り振られたわたくしの席は最悪なのよねぇ……。
「はぁ……」
覚えずに失意のため息が出た。わたくしの座席は最後方の窓際で隣にエドワード第一王子、更にその隣にはモーガン男爵令嬢なのだ。
「わっ! エドワード様、お隣さんですねぇ!」と、男爵令嬢は満面の笑みで彼を見た。許可もされていないのにもう名前呼びよ。ま、こういう天真爛漫なところを彼らは好きになったのでしょうけど。
「そうだね、よろしく」と、彼も優しく微笑む。
前回の人生では第一王子は同じ隣の席でも男爵令嬢のほうしか見なくて物凄く悔しかったわ。でも今回はそれくらいで丁度いいわね。
……と、思ったら、出し抜けに彼がこちらを向いた。
「やれやれ。左隣はシャーロットか」
彼は残念そうにため息をつく。
「はぁっ!? 既にご存知でしょう!?」と、向っ腹を立てたわたくしは噛みつく。
「そうだったな」と、彼はくつくつと笑って、
「よろしくな」
わたくしの頭をポンと軽く叩いた。
「……………………っつつっ!?!?!?」
わたくしは、あまりの不意のことに声にならない悲鳴を上げてから、ぐったりと魂の抜けたように突っ伏した。
ぞわぞわと鳥肌が立って、嫌な汗が出た。
本当に今日は一体なんなのよっ!? 彼の意図が全然見えなくて、怖い……。
鈴を転がすような可愛い声に教室内の全員が注目した。
その声の主は、ロージー・モーガン男爵令嬢だった。
彼女は明るめの栗色の柔らかい髪に薄い茶色の瞳、全体的にふんわりとした雰囲気で華奢でいかにも守ってあげたいようなタイプでだった。
わたくしはこの状況に既視感を覚えながらも成り行きを見守ることにした。
「ご、ごめんなさいっ! あたしったらついうっかり」
モーガン男爵令嬢は両手を頬に当てちょこんと首を傾げて、困り顔をする。彼女は第一王子に勢いよくぶつかったようだ。王子とその取り巻きたちが興味津々で彼女を囲んだ。
「いや、私のほうこそ余所見をしていた。大丈夫か? 怪我はないか?」と第一王子。
「あたしは大丈夫です! 昔っからそそっかしくて……本当にごめんなさいっ!」
「気にするな……ええと、君は?」
「あたしはロージー・モーガンです! あなたは?」と、男爵令嬢はわざとらしくつぶらな瞳をぱちくりさせた。
「私はエドワード・グレトラントだ。よろしく頼む」
「えぇっ!? グレトラントって、王子様……ですよね? し、失礼しましたぁっ!!」
モーガン男爵令嬢はぺこりと頭を下げた。その様子はとっても白々しく見えたが、令息たちには好評なようで「可愛い……」と声を漏らす者もいた。
あら、ダイアナ様が死んだ魚のような目をして彼女を見ているわ。心中お察ししますわ。
「ははは。そう畏まることはないよ。同じ学び舎で過ごす者仲間なのだ。これからも気軽に話し掛けてくれ」
「はいっ! ありがとうございますっ!」
今度は第一王子の取り巻きたちと彼女との自己紹介が始まった。全員が彼女に好印象を抱いているようだ。ジョージ・ジョンソン伯爵令息なんてうっすらと頬を赤らめている。彼の婚約者であるドロシー様の鋭い視線が痛いわ。
わたくしが彼らを生暖かい目で眺めていると、ふと第一王子と目が合った。
「……っ!!」
彼は蔑んだ目でわたくしを見て、軽く鼻で笑った。
な、なんなのよあの態度は! さっさと男爵令嬢と婚約しなさいよ! 別にあなたたちの関係なんてなんとも思っていないんだからっ!!
わたくしが怒り心頭でいると、
「シャーロット様、気にすることないですわ。あんな非常識な方、第一王子殿下も相手にしないはずですわ」と、ラケル様が慰めるように声を掛けてくれた。
わたくしが二人の関係に嫉妬しているように見えたのかしら? むしろ、さっさとくっついて二人で遠い世界へと行って欲しいのに。
「そうですわ! 貴族として最低限のマナーもなっていない方は王子様に相応しくないわ!」と、ドロシー様。彼女は婚約者が既に男爵令嬢に鼻の下を伸ばしていることもあって、声に怒気が含まれていた。
「お二人ともありがとうございます。わたくしは全く気にしておりませんので大丈夫ですわ」
「まぁっ! シャーロット様は王子殿下のことを信じていらっしゃるのね!」
「さすが婚約者だわ!」
「いえ、わたくしは……」
「シャーロット嬢はまだ王子殿下の婚約者じゃないよ」
二人の令嬢を諌めるようにアーサー様が言った。今日は彼には助けられっぱなしね。感謝しなくちゃ。
「しかしあれは私も感心しないな。たとえ下位貴族でも礼節は守らないとね。シャーロット嬢もそう思うだろう?」
「これから学べば良いことですわ。一番問題なのは無知を恥じないことだと思います」と、わたくしは無難に答えた。
ここで男爵令嬢を批判するような言葉を放つと巡り巡ってわたくしが彼女の悪口を言っていた、なんてことになるかもしれないので慎重に、ね。
わたくしの返答に満足したのか、アーサー様は「さすがだね」と褒めてくれた。とりあえずは誤魔化せたわね。
丁度そのとき、担任の先生が入って来たので生徒たちは決められた自身の席へ慌ただしく座る。
わたくしは重い足取りで自席へ向かった。割り振られたわたくしの席は最悪なのよねぇ……。
「はぁ……」
覚えずに失意のため息が出た。わたくしの座席は最後方の窓際で隣にエドワード第一王子、更にその隣にはモーガン男爵令嬢なのだ。
「わっ! エドワード様、お隣さんですねぇ!」と、男爵令嬢は満面の笑みで彼を見た。許可もされていないのにもう名前呼びよ。ま、こういう天真爛漫なところを彼らは好きになったのでしょうけど。
「そうだね、よろしく」と、彼も優しく微笑む。
前回の人生では第一王子は同じ隣の席でも男爵令嬢のほうしか見なくて物凄く悔しかったわ。でも今回はそれくらいで丁度いいわね。
……と、思ったら、出し抜けに彼がこちらを向いた。
「やれやれ。左隣はシャーロットか」
彼は残念そうにため息をつく。
「はぁっ!? 既にご存知でしょう!?」と、向っ腹を立てたわたくしは噛みつく。
「そうだったな」と、彼はくつくつと笑って、
「よろしくな」
わたくしの頭をポンと軽く叩いた。
「……………………っつつっ!?!?!?」
わたくしは、あまりの不意のことに声にならない悲鳴を上げてから、ぐったりと魂の抜けたように突っ伏した。
ぞわぞわと鳥肌が立って、嫌な汗が出た。
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