71 / 76
番外編
9 炎の道を行く
しおりを挟む
セルゲイと想いが通じ合ってからも、リーズでの学園生活は平坦に続いていく。
魔法学園は別名・貴族学園。
貴族たちにとって、婚約者はいても恋人という存在はあってははならないので、私たちが交際していることは秘密にしていた。
……と言っても、グレースとオリヴィアには知られてしまったけど。
二人とも祝福をしてくれて、グレースなんか「結婚式は絶対に呼んでね!!」なんて、気が早いことを言っていたわ。
そう、結婚……。
私たちはそのことで少しばかり意見が衝突していることがある。
それは――、
「リナ、父上に卒業したら貴族籍から外れて平民になるって手紙を送ったから」
「えぇっ!? な、なんでそんな大事なことを勝手に決めるの!?」
「だって、さすがに公爵家だと平民と結婚できないからな。リナの場合、事情が事情だし。それに手続きもあるから、実家には早く伝えておいたほうがいいだろう?」
「そういうことじゃなくて……」
「リーズの魔法騎士団は実力主義だから平民でも問題ない。リナに不自由はさせないから安心しなって! もちろん、父上にはリナがエカチェリーナ皇女殿下だって言ってないから大ごとにはならないよ」
「だからっ、違うってば! ……っていうか、私も働くし」
私たちは相談をして、二人とも卒業してもリーズ国に留まることに決めた。
私は特待生なので、授業料は国家予算から出ている。だから、その恩返しも兼ねて国の機関で働くつもりだった。アレクセイさんからも許可をもらったしね。
セルゲイは、もともと家門に頼らず自分の実力を試したい……という理由からリーズに来たので、彼も最初から卒業後もリーズで暮らす予定だったらしい。
それは志が高くて立派だとは思うけど、私とこんなことになって、彼の人生まで狂わせてしまうんじゃないかって、ちょっと……罪悪感があるのだ。
だって、セルゲイは祖国のことをとても愛しているんですもの。
それに、家族も。
ストロガノフ家な物凄く家族仲が良いことで有名だった。恋愛結婚である公爵と公爵夫人はもちろんのこと、三兄弟も仲良しだ。
そんな家族の絆を、私が断ち切ってしまって本当に良いのだろうか。彼の幸せを奪うことになるのではないのだろうか。
……そんな風に、私の胸はチクリと傷んだのだ。
「ねぇ、セルゲイ。よく考えて?」
「これは熟考に熟考を重ねてからの決断だ」
「私はあなたを不幸にさせたくない」
「リナと一緒にいられるのなら、それは世界一幸せなことだけど」
「まっ……またそんなこと言って! 真面目に考えて!」
「だから、ちゃんと将来のことは考えてるって」
「平民になったら、もう家族とは会えなくなるかもしれないのよ? 身分が違いすぎるわ」
「それも承知の上だから。俺にはリナと、いずれ生まれる予定の子供たちがいる。それが俺の家族だ」
「ばっ……!」
かっと顔が赤くなって、絶句してしまう。
子供って……な、なにを言っているのかしら?
「ねぇ、だったらリナはあたしの家門に養子に入ったらいいんじゃない? そうしたら伯爵令嬢と公爵令息で釣り合いが取れると思うわ」出し抜けにグレースが瞳を輝かせながら割って入る。「リナとあたしは双子の姉妹よ! それで行きましょう!」
「いや、全然似てねぇだろ」
「似てるわっ! あたしたちは仲良し姉妹なの~!」と、グレースは私に抱き付く。全く、今日も鬱陶しいわね。
「なにが姉妹だよ。こんな手のかかる妹はリナには要らねぇよ」
「はあぁぁぁっ!?」
「グレース、気持ちはとっても嬉しいけど、仮に私の正体が露見したら、あなたの家族の命も狙われる可能性があるわ。そんな危険な状況に、あなたを巻き込めない」
「えぇ~っ! せっかくリナと双子になれると思ったのに~!」
「似てねぇっつーの。リナのほうが普通に可愛いだろ」
「ちょっ……セルゲイ!!」
「まぁっ!?」
そんなわけで、私とセルゲイの話し合いはずっと平行線でなにも進展しなかった。
このままだと彼が本当に平民になってしまうと悩んでいたとき、アレクサンドル連邦国からセルゲイに急な来客があったのだ。
「おい、セルゲイ! 一体どういうことだっ!?」
彼の兄であるストロガノフ家の次男――イーゴリ・ミハイロヴィチ・ストロガノフ公爵令息の電撃訪問である。
魔法学園は別名・貴族学園。
貴族たちにとって、婚約者はいても恋人という存在はあってははならないので、私たちが交際していることは秘密にしていた。
……と言っても、グレースとオリヴィアには知られてしまったけど。
二人とも祝福をしてくれて、グレースなんか「結婚式は絶対に呼んでね!!」なんて、気が早いことを言っていたわ。
そう、結婚……。
私たちはそのことで少しばかり意見が衝突していることがある。
それは――、
「リナ、父上に卒業したら貴族籍から外れて平民になるって手紙を送ったから」
「えぇっ!? な、なんでそんな大事なことを勝手に決めるの!?」
「だって、さすがに公爵家だと平民と結婚できないからな。リナの場合、事情が事情だし。それに手続きもあるから、実家には早く伝えておいたほうがいいだろう?」
「そういうことじゃなくて……」
「リーズの魔法騎士団は実力主義だから平民でも問題ない。リナに不自由はさせないから安心しなって! もちろん、父上にはリナがエカチェリーナ皇女殿下だって言ってないから大ごとにはならないよ」
「だからっ、違うってば! ……っていうか、私も働くし」
私たちは相談をして、二人とも卒業してもリーズ国に留まることに決めた。
私は特待生なので、授業料は国家予算から出ている。だから、その恩返しも兼ねて国の機関で働くつもりだった。アレクセイさんからも許可をもらったしね。
セルゲイは、もともと家門に頼らず自分の実力を試したい……という理由からリーズに来たので、彼も最初から卒業後もリーズで暮らす予定だったらしい。
それは志が高くて立派だとは思うけど、私とこんなことになって、彼の人生まで狂わせてしまうんじゃないかって、ちょっと……罪悪感があるのだ。
だって、セルゲイは祖国のことをとても愛しているんですもの。
それに、家族も。
ストロガノフ家な物凄く家族仲が良いことで有名だった。恋愛結婚である公爵と公爵夫人はもちろんのこと、三兄弟も仲良しだ。
そんな家族の絆を、私が断ち切ってしまって本当に良いのだろうか。彼の幸せを奪うことになるのではないのだろうか。
……そんな風に、私の胸はチクリと傷んだのだ。
「ねぇ、セルゲイ。よく考えて?」
「これは熟考に熟考を重ねてからの決断だ」
「私はあなたを不幸にさせたくない」
「リナと一緒にいられるのなら、それは世界一幸せなことだけど」
「まっ……またそんなこと言って! 真面目に考えて!」
「だから、ちゃんと将来のことは考えてるって」
「平民になったら、もう家族とは会えなくなるかもしれないのよ? 身分が違いすぎるわ」
「それも承知の上だから。俺にはリナと、いずれ生まれる予定の子供たちがいる。それが俺の家族だ」
「ばっ……!」
かっと顔が赤くなって、絶句してしまう。
子供って……な、なにを言っているのかしら?
「ねぇ、だったらリナはあたしの家門に養子に入ったらいいんじゃない? そうしたら伯爵令嬢と公爵令息で釣り合いが取れると思うわ」出し抜けにグレースが瞳を輝かせながら割って入る。「リナとあたしは双子の姉妹よ! それで行きましょう!」
「いや、全然似てねぇだろ」
「似てるわっ! あたしたちは仲良し姉妹なの~!」と、グレースは私に抱き付く。全く、今日も鬱陶しいわね。
「なにが姉妹だよ。こんな手のかかる妹はリナには要らねぇよ」
「はあぁぁぁっ!?」
「グレース、気持ちはとっても嬉しいけど、仮に私の正体が露見したら、あなたの家族の命も狙われる可能性があるわ。そんな危険な状況に、あなたを巻き込めない」
「えぇ~っ! せっかくリナと双子になれると思ったのに~!」
「似てねぇっつーの。リナのほうが普通に可愛いだろ」
「ちょっ……セルゲイ!!」
「まぁっ!?」
そんなわけで、私とセルゲイの話し合いはずっと平行線でなにも進展しなかった。
このままだと彼が本当に平民になってしまうと悩んでいたとき、アレクサンドル連邦国からセルゲイに急な来客があったのだ。
「おい、セルゲイ! 一体どういうことだっ!?」
彼の兄であるストロガノフ家の次男――イーゴリ・ミハイロヴィチ・ストロガノフ公爵令息の電撃訪問である。
0
お気に入りに追加
1,290
あなたにおすすめの小説
釣った魚にはエサをやらない。そんな婚約者はもういらない。
ねむたん
恋愛
私はずっと、チャールズとの婚約生活が順調だと思っていた。彼が私に対して優しくしてくれるたびに、「私たちは本当に幸せなんだ」と信じたかった。
最初は、些細なことだった。たとえば、私が準備した食事を彼が「ちょっと味が薄い」と言ったり、電話をかけてもすぐに切られてしまうことが続いた。それが続くうちに、なんとなく違和感を感じ始めた。
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜
ぐう
恋愛
アンジェラ編
幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど…
彼が選んだのは噂の王女様だった。
初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか…
ミラ編
婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか…
ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。
小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。
気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにしませんか
岡暁舟
恋愛
公爵令嬢ナターシャの婚約者は自由奔放な公爵ボリスだった。頭はいいけど人格は破綻。でも、両親が決めた婚約だから仕方がなかった。
「ナターシャ!!!お前はいつも不細工だな!!!」
ボリスはナターシャに会うと、いつもそう言っていた。そして、男前なボリスには他にも婚約者がいるとの噂が広まっていき……。
本編終了しました。続きは「気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにします」となります。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる