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37 侯爵令嬢のお茶会②
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ずんずん前を進むアメリア様を追いかけていると、
「ねぇ、グレース! あれって平民じゃない!」
「なんで高貴なお茶会に平民なんかがいるのかしら?」
「フォード侯爵家の格が落ちるわ!」
「なんて図々しい平民なの」
「きっと恥という概念がないのよ。王太子殿下にもずっと付き纏っているし」
「本当に卑しい平民ね」
グレース一味とその他の令嬢たちが口を揃えて私への悪口を言い始めた。皆、今日も元気そうでなによりだわ。
「ちょっと平民! なんでここにいるのよ!」と、グレース代表が私に声を掛ける。「ここはあんたが来るような場所じゃないのよ!」
「今日はシェフィールド公爵令嬢の付添人として来たのよ」
「付添人~~~?」と、グレースは眉をひそめた。他の令嬢たちも不快感を露わにしながらヒソヒソと文句を言っている。
「本当よ」
いつの間にかこっちに戻って来ていたアメリア様が出し抜けに割って入ってきた。グレースたちは「ご機嫌よう」と身位が上の小さなお姫様にカーテシーをする。
「リナ、あれを見せなさい」
「かしこまりました、アメリア様」
私は懐から公爵閣下に一筆書いてもらった書面を取り出す。しかも連名でフレデリック様の署名付きだ。
アメリア様はそれを受け取りグレースの眼前にビシリと突き付けて、
「ほら、これが証明書よ。あなたたち、これでもリナに難癖を付けるのならシェフィールドに抗議するものと同義とみなすわ」
「しっ……失礼いたしました!」と、グレースたちは慌てて頭を下げる。だが、その目は私のことを憎々しそうに睨み付けていた。
「ところで、エカチェリーナ様の情報はその後どうかしら?」
「それが……全く」と、グレースは残念そうに首を横に振る。
「そう。こっちもよ。引き続き捜査を頼むわね」
「もちろんですわ、公爵令嬢」
あ、グレースもまだエカチェリーナのことを探していたんだ……。
「平民さん? あんた、今日は空気のように存在を消して大人しくしてなさいよ」と、グレースが偉そうに私に言ってくる。
「はいはい、平民は景色と同じよ。――ところで、セルゲイ見なかった?」
「帝国人? あら、たしか会場の奥のほうで見た気がするわ」
「分かったわ、ありがとう。アメリア様、行きましょうか――あっ、消えた!」
彼女は既に奥へと向かっていた。私は急いであとを追う。
途中でオリヴィアを見かけた。彼女は数人の令嬢や令息たちと談笑しているところだった。だんだんと貴族社会にも馴染めているようで安心したわ。
聞けばミルズ男爵家はフォード侯爵家の派閥に入ったらしい。これできっと令嬢たちからの嫌がらせも少なくなるはず。いくらグレースでも間接的にフォード家には喧嘩を売らないでしょう。
「あ、セルゲイいた」
ついに公爵令息の麗しい顔が目に飛び込んできた。彼は背が高いから目立つわね。ずっと動き回っていたアメリア様もやっと立ち止まる。
人混みを掻き分けて更に前へ進むと、
「…………」
「…………」
セルゲイも令嬢たちに囲まれていた。
しかも、まだ正式な婚約者のいない彼にはフレデリック様以上にその人数が多くて、私たちの入り込む余地はこれっぽっちもなかった。アメリア様を見ると、ちょっと涙目になっていた。
「これじゃあ、全然近付けそうにありませんね。出直しましょうか」
「うん……」と、彼女はしょんぼりと答える。ライバルは多いですね、これから頑張りましょう……という気持ちで私は彼女の背中をトントンと優しく叩いた。
「そうだ、折角だからアメリア様と同年代の方々と交流を持たれてはいかがですか?」
「えっ!?」アメリア様は一瞬目を丸くしてから、そしてみるみる顔を曇らせた。「そんなこと、どうやって……」
彼女はその身分の高さからかフレデリック様などの年上の貴族とは面識があるが、同年代の貴族の子女たちとはほとんど関わりがないらしい。そこで、今日は同年代の友人を作らせてくれと公爵閣下から仰せつかっているのだ。
「簡単ですよ。挨拶をして話しかければ良いのです。では、早速参りましょうか!」と、私は尻込みする小さなお姫様の手を取って彼女と同年代くらいの子供たちが集まるテーブルへと向かったのだった。
「ねぇ、グレース! あれって平民じゃない!」
「なんで高貴なお茶会に平民なんかがいるのかしら?」
「フォード侯爵家の格が落ちるわ!」
「なんて図々しい平民なの」
「きっと恥という概念がないのよ。王太子殿下にもずっと付き纏っているし」
「本当に卑しい平民ね」
グレース一味とその他の令嬢たちが口を揃えて私への悪口を言い始めた。皆、今日も元気そうでなによりだわ。
「ちょっと平民! なんでここにいるのよ!」と、グレース代表が私に声を掛ける。「ここはあんたが来るような場所じゃないのよ!」
「今日はシェフィールド公爵令嬢の付添人として来たのよ」
「付添人~~~?」と、グレースは眉をひそめた。他の令嬢たちも不快感を露わにしながらヒソヒソと文句を言っている。
「本当よ」
いつの間にかこっちに戻って来ていたアメリア様が出し抜けに割って入ってきた。グレースたちは「ご機嫌よう」と身位が上の小さなお姫様にカーテシーをする。
「リナ、あれを見せなさい」
「かしこまりました、アメリア様」
私は懐から公爵閣下に一筆書いてもらった書面を取り出す。しかも連名でフレデリック様の署名付きだ。
アメリア様はそれを受け取りグレースの眼前にビシリと突き付けて、
「ほら、これが証明書よ。あなたたち、これでもリナに難癖を付けるのならシェフィールドに抗議するものと同義とみなすわ」
「しっ……失礼いたしました!」と、グレースたちは慌てて頭を下げる。だが、その目は私のことを憎々しそうに睨み付けていた。
「ところで、エカチェリーナ様の情報はその後どうかしら?」
「それが……全く」と、グレースは残念そうに首を横に振る。
「そう。こっちもよ。引き続き捜査を頼むわね」
「もちろんですわ、公爵令嬢」
あ、グレースもまだエカチェリーナのことを探していたんだ……。
「平民さん? あんた、今日は空気のように存在を消して大人しくしてなさいよ」と、グレースが偉そうに私に言ってくる。
「はいはい、平民は景色と同じよ。――ところで、セルゲイ見なかった?」
「帝国人? あら、たしか会場の奥のほうで見た気がするわ」
「分かったわ、ありがとう。アメリア様、行きましょうか――あっ、消えた!」
彼女は既に奥へと向かっていた。私は急いであとを追う。
途中でオリヴィアを見かけた。彼女は数人の令嬢や令息たちと談笑しているところだった。だんだんと貴族社会にも馴染めているようで安心したわ。
聞けばミルズ男爵家はフォード侯爵家の派閥に入ったらしい。これできっと令嬢たちからの嫌がらせも少なくなるはず。いくらグレースでも間接的にフォード家には喧嘩を売らないでしょう。
「あ、セルゲイいた」
ついに公爵令息の麗しい顔が目に飛び込んできた。彼は背が高いから目立つわね。ずっと動き回っていたアメリア様もやっと立ち止まる。
人混みを掻き分けて更に前へ進むと、
「…………」
「…………」
セルゲイも令嬢たちに囲まれていた。
しかも、まだ正式な婚約者のいない彼にはフレデリック様以上にその人数が多くて、私たちの入り込む余地はこれっぽっちもなかった。アメリア様を見ると、ちょっと涙目になっていた。
「これじゃあ、全然近付けそうにありませんね。出直しましょうか」
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「そうだ、折角だからアメリア様と同年代の方々と交流を持たれてはいかがですか?」
「えっ!?」アメリア様は一瞬目を丸くしてから、そしてみるみる顔を曇らせた。「そんなこと、どうやって……」
彼女はその身分の高さからかフレデリック様などの年上の貴族とは面識があるが、同年代の貴族の子女たちとはほとんど関わりがないらしい。そこで、今日は同年代の友人を作らせてくれと公爵閣下から仰せつかっているのだ。
「簡単ですよ。挨拶をして話しかければ良いのです。では、早速参りましょうか!」と、私は尻込みする小さなお姫様の手を取って彼女と同年代くらいの子供たちが集まるテーブルへと向かったのだった。
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