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18 大会に向けて

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 リーズ王立魔法学園は初夏に各クラスの代表者による狩り大会を行う。
 闘技場に魔獣を放ち、一番多く獲物を仕留めた者の優勝だ。

 ここには国王陛下や高位貴族、更には魔法騎士団の団長たちが観戦に来る。彼らに認められた優秀な生徒は卒業後に働かないかと勧誘されることがままあるらしい。
 だから、どのクラスの生徒も代表者になるために躍起になるはずなのだが――……。

「はぁ~い! あたしはリナさんがこのクラスの代表に相応しいと思いまぁ~すっ!」

 グレースが高々と手を挙げて私を推薦した。

「わたしもそう思います!」

「私も~!」

「賛成!」

「他に相応しい子なんていないわぁっ!」

 すると、グレース派閥の令嬢たちも次々と賛同しだした。

「おぉっ! グレース君もついにリナ君のことを認めるようになったか!」と、アルフィー先生は顔を綻ばせる。

「もちろんですわ、先生! 平民なのに特待生で入学以来ずっと主席だなんて、リナさんは素晴らしいわぁっ!」

「そうか、そうか。では、うちのクラス代表はリナ君でいいだろうか? 多数決を取ろう」と、先生が問いかけるとクラスの殆どが挙手をした。
 先生は嬉しそうにして、

「ではリナ君で決まりだな! リナ君、頑張りたまえ!」

「はい、先生。皆さん、推薦ありがとうございます。代表として精一杯努めます」

「リナさぁ~ん、応援してるわぁ~!」と、グレースのわざとらしい声援が飛んだ。令嬢たちは一様に笑顔を向けているが、目が笑っていなかった。



「リナ、あれは絶対なにか企んでるぞ」と、セルゲイが胡散臭そうにグレースを見ながら呟いた。

「でしょうね」

 私は呆れた顔をして頷く。そんなの百も承知だわ。彼女が無条件で私を褒めるなんてあり得ない。

「いいのか?」

「狩りは得意よ。問題ないわ」

 私は子供の頃から皇族専用の狩り場でお父様とお兄様に連れられて、よく狩りをしていた。そのときに魔獣との戦い方をたくさん教わったわ。こうなったら、皇帝仕込みの狩りの腕前をお披露目してあげるわよ。

 その日から狩り大会に向けて早速特訓を始めた。
 優勝者は国王陛下が一つだけ願いを叶えてくださるそうだ。
 まぁ願いと言っても常識の範囲内でだけど、私は選ばれた人物しか見ることのできない王立図書館の古文書の閲覧をお願いしてみようと思う。もっと魔法を極めて、卒業後はそれを活かせるような仕事をしたい。

 目指すは優勝!




◆◆◆




 王都の街外れにひっそりと佇む魔道具屋がある。ここは、古い魔導書やなかなか手に入らない魔道具などを扱っている、知る人ぞ知る店だった。

 店の中から魔法学園の制服を着た令嬢たちがほくほく顔で外に出てきた。

「やったわね、グレース」

「えぇ! これであの生意気な平民に一泡吹かせることができるわ!」

「狩り大会が楽しみね」

 令嬢たちが楽しそうに話していた折も折、

「あら?」

 その店に入ろうとする別の令嬢と出くわした。

「フ、フローレンス様!」と、ジェシカとデイジーは慌ててカーテシーをする。やや遅れてグレースも静かに頭を下げた。

「ご機嫌よう。あなたたちもこちらのお店に?」と、フローレンスはニッコリと微笑んだ。

「は、はい! べ、勉強になるかと思って。ね、グレース?」

「えぇ」

「そう。それは素晴らしいわ。わたくしも後学のためにこちらにはよく通っているのよ」

「そうなのですね! さすがですわぁ!」

「ご優秀なのは理由があるのですね!」

「うふふ、ありがとう。なにか興味深いものを見つけたら教えてちょうだいね?」

「「はいっ!」」

 フローレンスはまるで舞踏会で踊るような優雅な足取りで店の中に入って行った。

「ちょっとグレース! 眉間に皺が寄っているわよ」

「そうよ。フローレンス様に失礼よ」

「ちゃんと挨拶はしたわよ」と、グレースはプイッと目をそらせて先に歩き始めた。二人は慌てて彼女を追いかける。

「なに怒ってるのよ」

「だって……」グレースはムッと口を尖らせた。「あの女が王太子殿下の次の婚約者になるかもしれないんでしょう? 殿下にはエカチェリーナ様がいらっしゃるのに、許せないわ」

 ジェシカとデイジーは困ったように顔を見合わせた。
 グレースは向かっ腹を立てながら早足で先を進む。

 気に食わない。
 特待生の平民も、平民を庇い立てする帝国人も、エカチェリーナ様から王太子の婚約者の座を奪おうとする侯爵令嬢も。
 
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