8 / 76
8 やっと、あなたと
しおりを挟む
学園生活の初日はまずは各教室に集まって自己紹介や説明会、そして午後に入学式だ。
自己紹介では案の定、私の番では悪意のある視線しか感じなかった。ま、図々しくも平民が貴族の世界に入り込むのはいい気分はしないかもしれないわね。
そしてオリヴィアの番では意地の悪い令嬢たちからくすくすと笑い声が聞こえて、セルゲイの番では令嬢たちの目の色が変わった。彼はアレクサンドル連邦国でも令嬢たちから人気だったから、ここでもきっと彼に夢中になる女性は多いかもね。
オリヴィアをいじめていた令嬢の一人でリーダー格の伯爵令嬢はグレース・パッション。少しきつめの顔だけど目鼻立ちのはっきりした美人で、金色の縦ロールをゆさゆさと揺らしていた。
そして彼女の腰巾着の一人がジェシカ・ハーパー子爵令嬢。こちらは赤毛で背が高くて痩せっぽっちだ。
反対に、茶色い髪の背が低くてぽっちゃりした令嬢がもう一人の腰巾着のデイジー・ベル子爵令嬢。気の強いこの三人がこれからクラスを牛耳ることになりそうだ。
特待生の私のことは既に学園中の噂になっていて、休憩時間にセルゲイとオリヴィアと食堂に行った際も多くの生徒たちからじろじろと物珍しそうに見られたわ。それはもう珍獣のように。
ここでも教室と同じように好意的な目は全く向けられなかったわ。先が思いやられるけど、彼らに負けないように頑張らなきゃ。
そして、午後からの入学式。
大ホールで執り行われた式典には国王陛下も来賓された。
陛下は私の未来のお義父様になられる予定の方だったのね……と他人事のようにぼんやりと眺めていると、隣に座っているセルゲイから肘で突かれてはっと我に返った。
慌てて前を見ると、司会の先生が「在校生代表、挨拶」と読み上げているところだった。
すると、舞台の端から優雅な足取りで一人の令息が中央に向かって歩いて来た。その姿に私は目を見張った。
あれは、私に挽肉の包み焼きを買ってくださった貴族の方だわ!
驚きのあまり思わず立ち上がりそうになる。一度見たら忘れられないその容貌は壇上でも燦然と輝いていた。令嬢たちがざわめき、先生が注意していた。
彼はこの学園の生徒だったのね。今度、改めてあのときのお礼を言わなければ――、
「皆、入学おめでとう。私はこの学園の生徒会長のフレデリック・リーズだ」
その瞬間、私は目を見張って硬直した。
時が止まる。
息をするのも忘れてひらすら瞳で彼を追った。もう他にはなにも見えなかった。
そしてポロポロと自然と涙が溢れ出て、視界が濁って、堪らず俯いた。
やっと……やっとお会いできた。
ずっとお目にかかりたかったフレデリック様が今、目の前にいる。
遠いアレクサンドル連邦国からリーズ王国へ来て、魔法学園に入学して、私はこんなに彼の近くまで来られた。
でも……、
こんなに近くにいるのに、なんてこんなに遠いのだろう……。
平民である私は、恐れ多くも一国の王太子殿下に声を掛けることなんて決して許されない。
私たちの距離が縮まることは、ない。
涙は堰を切ったようにどんどん流れてくる。
アレクセイさんが言っていた「私が惨めな思いをする」という言葉の意味が胸に深く突き刺さった。
耐えられると思っていた。フレデリック様の姿を遠くから拝見できたら、それだけで満足してこの想いに踏ん切りがつくのだと思っていた。
でも、駄目……。
願いが叶ってやっと巡り合えたら、今度はもっと近くにいたいと思ってしまう。もっと彼のお側にいたいと思ってしまう。
もっと、もっと――……。
私はもう感情の制御ができなくて無様にも式典中ずっと泣き続け、その間もセルゲイが優しく背中を撫でてくれた。
自己紹介では案の定、私の番では悪意のある視線しか感じなかった。ま、図々しくも平民が貴族の世界に入り込むのはいい気分はしないかもしれないわね。
そしてオリヴィアの番では意地の悪い令嬢たちからくすくすと笑い声が聞こえて、セルゲイの番では令嬢たちの目の色が変わった。彼はアレクサンドル連邦国でも令嬢たちから人気だったから、ここでもきっと彼に夢中になる女性は多いかもね。
オリヴィアをいじめていた令嬢の一人でリーダー格の伯爵令嬢はグレース・パッション。少しきつめの顔だけど目鼻立ちのはっきりした美人で、金色の縦ロールをゆさゆさと揺らしていた。
そして彼女の腰巾着の一人がジェシカ・ハーパー子爵令嬢。こちらは赤毛で背が高くて痩せっぽっちだ。
反対に、茶色い髪の背が低くてぽっちゃりした令嬢がもう一人の腰巾着のデイジー・ベル子爵令嬢。気の強いこの三人がこれからクラスを牛耳ることになりそうだ。
特待生の私のことは既に学園中の噂になっていて、休憩時間にセルゲイとオリヴィアと食堂に行った際も多くの生徒たちからじろじろと物珍しそうに見られたわ。それはもう珍獣のように。
ここでも教室と同じように好意的な目は全く向けられなかったわ。先が思いやられるけど、彼らに負けないように頑張らなきゃ。
そして、午後からの入学式。
大ホールで執り行われた式典には国王陛下も来賓された。
陛下は私の未来のお義父様になられる予定の方だったのね……と他人事のようにぼんやりと眺めていると、隣に座っているセルゲイから肘で突かれてはっと我に返った。
慌てて前を見ると、司会の先生が「在校生代表、挨拶」と読み上げているところだった。
すると、舞台の端から優雅な足取りで一人の令息が中央に向かって歩いて来た。その姿に私は目を見張った。
あれは、私に挽肉の包み焼きを買ってくださった貴族の方だわ!
驚きのあまり思わず立ち上がりそうになる。一度見たら忘れられないその容貌は壇上でも燦然と輝いていた。令嬢たちがざわめき、先生が注意していた。
彼はこの学園の生徒だったのね。今度、改めてあのときのお礼を言わなければ――、
「皆、入学おめでとう。私はこの学園の生徒会長のフレデリック・リーズだ」
その瞬間、私は目を見張って硬直した。
時が止まる。
息をするのも忘れてひらすら瞳で彼を追った。もう他にはなにも見えなかった。
そしてポロポロと自然と涙が溢れ出て、視界が濁って、堪らず俯いた。
やっと……やっとお会いできた。
ずっとお目にかかりたかったフレデリック様が今、目の前にいる。
遠いアレクサンドル連邦国からリーズ王国へ来て、魔法学園に入学して、私はこんなに彼の近くまで来られた。
でも……、
こんなに近くにいるのに、なんてこんなに遠いのだろう……。
平民である私は、恐れ多くも一国の王太子殿下に声を掛けることなんて決して許されない。
私たちの距離が縮まることは、ない。
涙は堰を切ったようにどんどん流れてくる。
アレクセイさんが言っていた「私が惨めな思いをする」という言葉の意味が胸に深く突き刺さった。
耐えられると思っていた。フレデリック様の姿を遠くから拝見できたら、それだけで満足してこの想いに踏ん切りがつくのだと思っていた。
でも、駄目……。
願いが叶ってやっと巡り合えたら、今度はもっと近くにいたいと思ってしまう。もっと彼のお側にいたいと思ってしまう。
もっと、もっと――……。
私はもう感情の制御ができなくて無様にも式典中ずっと泣き続け、その間もセルゲイが優しく背中を撫でてくれた。
2
お気に入りに追加
1,289
あなたにおすすめの小説
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
真実の愛とやらの結末を見せてほしい~婚約破棄された私は、愚か者たちの行く末を観察する~
キョウキョウ
恋愛
私は、イステリッジ家のエルミリア。ある日、貴族の集まる公の場で婚約を破棄された。
真実の愛とやらが存在すると言い出して、その相手は私ではないと告げる王太子。冗談なんかではなく、本気の目で。
他にも婚約を破棄する理由があると言い出して、王太子が愛している男爵令嬢をいじめたという罪を私に着せようとしてきた。そんなこと、していないのに。冤罪である。
聞くに堪えないような侮辱を受けた私は、それを理由に実家であるイステリッジ公爵家と一緒に王家を見限ることにしました。
その後、何の関係もなくなった王太子から私の元に沢山の手紙が送られてきました。しつこく、何度も。でも私は、愚かな王子と関わり合いになりたくありません。でも、興味はあります。真実の愛とやらは、どんなものなのか。
今後は遠く離れた別の国から、彼らの様子と行く末を眺めて楽しもうと思います。
そちらがどれだけ困ろうが、知ったことではありません。運命のお相手だという女性と存分に仲良くして、真実の愛の結末を、ぜひ私に見せてほしい。
※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開は、ほぼ変わりません。加筆修正して、新たに連載します。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
アリシアの恋は終わったのです。
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる